第70話 再会
二人の笑いが落ち着いた頃に、ノックの音が響く。
ローウェンさんがドアを開け確認する。
「旦那様、神殿の方がいらっしゃいました」
「分かった。レオは……今日は帰ったほうがいいだろうな」
「ええ。そのほうが良いかと」
「レオ、そなた自身についての詳しいことは我が家に来てから話そう」
「よろしいのでしょうか?お時間が……」
「いえ、それで構いません」
「しかし……」
「その代わり伯爵家の件、進展の報告をお願いしますね」
にっこり笑う。
ローウェンさんは瞬き、ふっと笑った。
「承知いたしました。私が直々に指揮を取りましょう。お任せください」
「ローウェン、仕事が……」
「良い機会です。ご自身で行ってください」
公爵様が引きつた顔をする。
ハハハ、公爵様、ローウェンさんを頼りっぱなしだったようだね。
思わず口が緩む。
「レオ?」
公爵様が目ざとく俺を見て名前を呼ぶ。
俺は即真面目な顔をする。
「はい。どうされました?」
胡乱な目で俺を見ていたが、前髪をかき上げつつ、大きくため息を付く。
「はぁ、分かった。エドガーとリックを……」
公爵様も気づいたようだ。
二人はもうすぐここに来る。
「あいつら、勝手に来るとは……、ローウェン」
「はい、旦那様。レオ様、少々お待ちください」
ローウェンさんは笑みを深め部屋を後にした。
……二人とも頑張れ。
少し待っているとローウェンさんが二人を伴って戻ってきた。
二人共、遠い目をしているね。
現実逃避しているのかな?
「お前ら、勝手に戻ってくるな。まったく三日後からみっちりしごかれろ」
「「はっ」」
ぴしっと敬礼する二人。
あれ?
団長さん遠出しているって言っていたよね?
誰が二人をしごくんだろう?
「クク、不思議そうだな、レオ。騎士団長が不在で副団長のリックも任務中だったのでな。今はローウェンが騎士団の指揮権を持っている」
「え!?」
驚いてローウェンさんを見る。
ローウェンさんはふっと笑う。
「僭越ながら、拝命しております」
「各隊長は団長たちが不在だと怠けるからな。ローウェンの存在で締めているんだ」
「ローウェンさん、強いんですね」
「それほどでも」
きっと、それほどなんだろうね。
後ろで微動だにしない二人の態度で分かるよ。
エドガーとリックの顔が若干引き攣っています。
「では、ローウェン行こう」
公爵の言葉に頷く。
そして机の上に置いてあった箱を持つローウェンさん。
「はい。お二人とも私が合図を出すまではここで待機をお願いします」
「はい」
リックが返事をする。
「神殿の者が来ています。絶対にむやみに出歩かないように」
「はい。承知しました」
「レオ、三日後にな」
公爵様はそう言って、俺の頭を撫でて部屋を出て行く。
「レオ様、失礼いたします。3日後お持ちしております」
「はい。公爵様、ローウェンさん、ありがとうございます」
公爵様は軽く手を振って、ローウェンさんは軽く会釈して出ていった。
部屋の扉が締まり、二人の足音が遠ざかり聞こえなくなる。
「は~。まさか、ローウェンさんが騎士団の指揮官とはな」
エドガーは、ソファーにドサッと座り溜め息をついた。
リックもソファーに身を沈めて緊張を解いた。
「ふふ、よほどローウェンさんに絞られたことがあるんだね」
「まぁな~」
「ああ、思い出したくない」
二人して、また遠い目になった。
話題を変えよう。
「神殿の人が来たから二人ともこっちに来たの?」
「ああ、呪いの石を渡すんだろ?」
「たぶん。ローウェンさんが持っていった箱に呪いの石を入れたから」
「だろうな、念のためレオは会わないほうがいい」
「どうして? 悪い人でもいるの?」
「いや、神官は呪いに耐性を持っているんだ。中には呪いに強い者もいる」
「レオが呪いに掛かっていることがバレたらまずいだろ?」
あっ、なるほど。
ポンと手を叩く。
「気付くのおせーよ」
頭をグリグリするエドガー。
そんなエドガーをじっと見る。
「どうした?」
じっと見る俺を怪訝そうに見るエドガー。
「言葉遣いが、ビジュアルに合わない」
「ビジュ?」
「容姿」
「ブハ! ハハハ! レオにも言われてやがる」
「うるせー」
頭に乗っていたエドガーの手に力が入る。
「なんか文句があるのか?レオ」
「文句はないよ。エドガーはエドガーだからね」
「そうか」
まだ釈然としないようだが、頭から手をどけてくれました。
チラッとリックを見る。
「こいつ、エドガーはこの容姿で苦労しているんだよ」
「わざと口を悪くしていたのが、板についた?」
「ブッ、ククク。まぁ、そんな感じだ」
「お前らなぁ……」
文句の途中でエドガーが止まった。
「リック」
「ああ、出発しよう」
「裏口か」
「ああ。そのようだ」
「レオ、外套を羽織ってフードも被ってくれ」
「分かった」
準備できた俺をエドガーが抱える。
「レオ、いいと言うまで声も出さないように」
頷く。
素早く移動する二人。
屋敷では誰にも会うことなく外に出ることができた。
裏口から出たのだろう。
木々が多く人目がない。
「そっちに行くのは、おすすめしないよ」
突然横から話しかけられる。
瞬間、リックが前に出て、エドガーはリックの影に入るよう交代する。
「は? ノエル?」
「久しぶりだね、リック。元気そうでなにより」
「あ? ノエルだ? なんでお前がここに居るんだよ?」
「公爵家から呼ばれたって聞いたから、付いてきたんだよ」
「付いてきたって……」
リックは呆れている。
二人の知り合いのようだ。
「まぁ、積もる話はまた今度ね」
「他の騎士にも伝えて、あ、迎えが来たよ」
こちらに走ってくる足音がした。
「副団長。あ、ノエル神官、先程は知らせていただき、ありがとうございます」
「気にしないでいいよ」
「ノエル神官の言う通り、裏門の馬車の近くに神殿の者が潜んでいます」
「本当か?」
「はい。今は、騎士に見張らせています。騎士団の演習場の入口に馬車を用意しましたので、こちらへ」
「わかった。ノエル感謝する」
「どういたしまして」
「お前、大丈夫なのか?」
「……エドガーに心配されるとはね」
「お前は嫌いだが、だからって危ない目に遭っていいとは思ってない」
「ふふ、エドガーらしいね。そんなヘマ、私がすると思うか?」
「……チッ」
「お前ら相変わらずだな」
「私は別に嫌ってないけどね」
「俺は嫌いだ」
「だよね~、知っている。ほら、早く行ったほうがいいよ」
「悪い、助かった」
「どういたしまして、今度、酒でも奢って」
「ああ、またな。行こう」
リックが先に歩いて行く。
エドガーが続こうと足を踏み出すと、すぐ横で声がした。
「エドガー、私は今本神殿にいるからね」
ピクッとエドガーの腕が一瞬動く。
「あ?」
「リックと一緒にお酒よろしく」
不機嫌に答えるエドガーとは対照的に楽しそうな声だ。
チラッと見えたのは、アッシュブロンドの長い髪。
「リックに伝えといてやる」
「よろしく~」
エドガーはリックを追って走り出す。
ノエルという人は、その後は追ってこなかった。
「こちらです」
迎えに来てくれた騎士の声がした。
「ああ。エドガー、先に乗ってくれ」
「分かった」
エドガーと俺は先に馬車に乗り込んだ。
リックは騎士と話しているようだ。
「待たせた」
リックが乗り込んで座ると同時に馬車が出発した。
「ノエルのおかげで助かったな」
「知り合いなの?」
「ああ、騎士学校で同期だ」
「え? 騎士学校卒業したのに神官なの?」
「あ~、色々あってな、半年で騎士を辞めたんだ」
「ふん、気まぐれなだけだろ。いい加減なんだよ、あいつは」
「お前、ノエルとほとんど話さないだろうが?」
「見てれば分かる」
「そうかよ。まったく、こいつとノエルは犬猿の仲なんだ」
「そうなんだ」
「でも、今回は感謝しろよ」
「わかってる」
ふてくされた声で返事をするエドガー。
よほどノエルさんが嫌いのようだ。
話を変えよう。
「ねぇ、帰りに双月寄れないかな?」
「あ~、悪い。それは無理だ」
「ケーキなら、後で買ってきてやる」
「ううん。ルナさんに会ってお話をしたかっただけ」
「それなら、明日でもいいか?」
リックが聞いてくる。
珍しいな。
「今日は、このまま翼亭にいたほうがいい」
エドガーも、そう言って俺の頭をなでる。
「念のため、そのほうがいいだろう」
「分かった。そうするよ」
その後は何もなく無事、翼亭に到着した。
帰った時はイザベラさんは外出中で、着替えて夕飯のとき会ったらがっかりされた。
一張羅の俺をもっと見たかったようだ。




