第66話 普通とは?
固まったローウェンさんを眺める。
長いな……。
もしかして信教深いのか?
「……」
公爵と目が合う。
「……」
はじめはニヤニヤ見ていた公爵も言葉をなくした。
じいさんも、痺れを切らしたようだ。
ローウェンの前を言ったり来たりして遊んでいる。
ん~。
自分で着替えよう。
少し寒くなってきた。
服が置かれている所へ行き毛布を取る。
毛布を取った瞬間、身震いする。
寒。
「くしゅん!」
シャツを取ろうとしたら、先に手にしたローウェンが立っていた。
「大変失礼いたしました。まず、服に着替えましょう。お手伝いいたします」
「う、うん。ありがとう」
なんか、早口になっていて、鬼気迫るものを感じるのは気のせいかな。
あっという間に着替えが済みました。
ローウェンさんは信教深いようです。
俺の着替えが済んだ後、じいさんの前に跪き祈りを捧げました。
本当にじいさんは神様なんだな。
「……」
眺めていると、お祈りが終わったようです。
じいさんは、柔らかな光で周囲を一瞬照らして俺の肩に乗った。
今、ここで乗るんだ。
ローウェンさんの視線が俺とじいさんを行ったり来たりしている。
公爵様は、そんなローウェンさんが珍しいのか肩を震わせて笑いを堪えていた。
「んん」
俺が声を漏らすと、こちらを向き申し訳なさそうな顔をした。
「ローウェン、レオ様が困っている」
公爵が声を掛けると、ローウェンさんはぴくっとして目を一度閉じた。
目を開けた時は冷静な執事に戻っていた。
「レオ様、失礼いたしました」
「大丈夫です」
「私に敬語などは……」
「今まで通りでお願いします」
思わず遮ってしまった。
じいさんに視線を移すローウェン。
「じいさんからも、ちゃんと言ってくれ」
「それも、そうじゃの」
「ディートにローウェンというのか?レオの望む通りにするようにの」
二人はじいさんに深く礼をする。
「じいさん、俺の希望とズレを感じるんだが?」
「これが一番良いと思うぞ?」
そうなのか?
そうだろうか?
二人からの視線が痛い。
もういい、面倒だ。
「はぁ、わかった。公爵様、ローウェンさん、態度は今まで通りでお願いします。俺に敬語を使わないでくださいね」
「「承知いたしました」」
「はい。ダメ」
困った顔をする二人。
「はい、今からはこの部屋に入る前のように話してください」
「しかし、レオ様、あなたは愛し子です」
「ああ、それは便宜上ですから気にしないでください」
「便宜上……」
「それに、じいさんも言いましたよね?俺の希望通りにと……、なぁ、じいさん」
「そのとおりじゃの。そこまで気負う必要はないぞ?悠人は気にしないからの」
「そう言うこと……、じいさん?」
「なんじゃ?」
「ちょっと確認がある」
俺は二人に許可を取らずに遮音した。
「俺を悠人と呼んでいるぞ」
「ん?そなたは悠人であろう?」
「っ、そうだが、ここではレオだろ?」
「おぉ、そうであったの、すまぬのぉ」
「気を付けてくれよ」
「そなた以外の者がいた場合は気をつけるの」
「ああ、頼む」
「うむ」
じいさんに注意したあと、遮音を解除する。
公爵様とローウェンも話していたようだ。
「すみません、お待たせしました」
「問題ない。大枠は話しました。詳細は今夜に話します」
「おぉ、ディート助かるのじゃ」
「恐れ入ります」
じいさんとの会話の後、公爵様は戸惑った表情をしたが、髪をかき上げ咳払いをした。
「レオ、昼食後にエドガーとリックは外して、話す場を作る。その時に込み入ったことは話そう」
普通に話し掛けてきてくれました。
良かった。
公爵様に敬語とか使われると庶民の心臓には悪いからな。
「はい。分かりました」
しかし、時短のためとは言え、本当に愛し子を受け入れて良かったのか?
上手く乗せられたか?
「レオや、また会いに来るでの」
(じいさん、もう少しちゃんと話せないか?)
俺は小声でじいさんに話しかける。
(そうじゃのぉ、そなたが一人の時に会いに来るとしよう)
(頼む)
(だが、今日は無理じゃ)
「うん。分かった」
俺は何気なく普通に答えた。
「ではの」
そう言ってじいさんは消えて静かになった。
じいさん、最近テンション上がってないか?
「公爵様、俺は先に戻りますね」
「私達も戻ろう。少し仕事を片付けないといけなくてね」
「ローウェン、レオを頼む」
「承知いたしました」
俺たち三人は、エドガーが待つ部屋に戻った。
「待たせたな。しかし、エドガーは、かなり過保護だな」
「いつものことです」
「リック、お前はどっちの味方だよ!?」
「レオだが」
すごく真面目に答えたね、リック。
「……そうかよ」
エドガーは文句も言えず、不貞腐れたように返事をした。
なにをしているんだか。
「お二人とも、レオ様が少々お疲れのようです。旦那様も今から執務となりますので別室でお昼までお待ちいただけますでしょうか」
「分かった。レオ、大丈夫か?」
「うん、問題ないよ」
休憩もいいけど、証拠の品を先にわたしたいな。
「公爵様」
「どうした?」
「伯爵の悪事の証拠の品を先にお渡ししたいのですが」
「それは構わないが……、どこにあるんだ?」
あれ?
俺の収納のこと話してないのか?
思わずエドガーとリックを見る。
顔を横に振る二人。
おや?
「私が持っています」
「レオが?」
「公爵様、報告書に記載しましたが、レオは収納が使用できます」
「ああ、覚えているが……。——まさか、全て持っているのか?」
「さようです」
リックが説明してくれたが、様子がおかしい。
思わず首を傾げる。
「レオ、収納は便利だが普通は個人の荷物ぐらいしか入らないんだ」
「え!?」
「すまん、レオが大量の荷物を普通に収納するから忘れていた」
リックが謝ってきた。
結構、大きな違いだな。
魔力が関係しているんだろうか?
「そこまでとはな……。このことは誰が知っている?」
「私達二人と、伯爵家の執事ロベルトです」
「ロベルトなら問題ないな。分かっているとは思うが二人も口外しないように」
「承知しております」
リックは答え、エドガーは頷いた。
「レオ、今から出してもらえるか?」
「はい、もちろんです」
「ローウェン、私の執務室の隣の書斎でいいだろう。そこへ案内を」
「公爵様、書類だけではなく証拠品もあります。書斎には入り切らないかと」
リックが量の多さを伝える。
「ローウェン、どこか場所を確保できるか?」
「置くだけなら良いのですが、収納の事を考えますと今すぐにご用意は出来かねます」
大事になっている。
「公爵様、書類関係だけ先にお渡しします。それであれば、書斎で問題ないかと思います」
「確かに、書類だけなら大丈夫かと思います」
リックも同意した。
「……レオ、その他の証拠を収納したままで大丈夫なのか?」
公爵様が、怪訝そうに聞いてくる。
「特に問題ないですよ?入れておくだけなので」
「——エドガー様、リック様。レオ様にお伝えしていないのですか?」
ローウェンさんの、一段低くなった冷たい声が落ちた。
「い、いや。慌ただしくて、それどころではなかったんだ」
エドガーが慌てて言う。
「ローウェンさん、二人には本当に込み入った話をする時間はなかったです。私も知識不足で申し訳ありません」
「レオ様が謝罪する必要はございません」
「ありがとうございます。それで、何か問題でも?」
「本来はレオ様に問題が起こることなのですが……。特に気にならないご様子ですね」
「そうだな。レオ、本来は収納に物をしまっておくだけで魔力を消費する。それは入っている量が多ければ、魔力の消費も大きいんだ」
公爵様が説明してくれる。
「そうなんですか」
特に気にならないし、じいさんも何も言わなかったからな。
そんなに魔力は消費してないんだろうな。
「ハハ、レオの魔力は桁違いのようだな。助かるが、これも他言無用だ」
「さようですな」
公爵は面白そうに笑った。
ローウェンさんは、ちょっと苦笑い気味だった。
「なら、皆で一緒に移動しよう」
「そうですな、参りましょう」
その後、皆で書斎に行った。
なぜか、仕事があると言っていた公爵様までやって来た。
どのぐらいの量が入っているのか確認したいようだ。
公爵様の書斎は、結構広かった。
大きな机や、書棚にソファー、隅にも机が置かれていた。
広さに驚いていると、公爵に呼ばれた。
「レオ、こちらの机に出してくれるか」
「分かりました」
その後、公爵とローウェンは書類の多さに驚愕して固まった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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更新の曜日は変更なく、水曜日と土曜日となります。
次回 9/16 (水) です。
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