第65話 神の愛し子……
狭い部屋の空気は固まった。
は……?
なんで公爵様が俺に跪く!?
——待て、ちょっと待て!
「……あ!!」
思い出した!
「じいさん!!」
あのじじぃ~~~。
言っていた。
『公爵には伝えたからの。話が早いはずじゃ。儂は神だからの。すごいのじゃ』
忘れていた!!
「あ~、何か忘れていると思ったら! これかよ!」
「……レオ様?」
「あ!?」
思わず不機嫌に答えてしまった。
公爵様と目が合う。
「……」
「……」
しまった!
どう、言い訳を……。
「不機嫌なレオ様も可愛いですね」
「……」
俺は公爵様を殴りたくなった。
尊いものを愛でるような目で見るな!
「じいさ……、んん。公爵様、何を誰に聞かれたのでしょうか」
「レオ様、私に様は不要です」
「他の方が居る前で呼ばないように、変わらず呼ばせていただきます」
「さようですか……」
イケオジ、しょんぼりしないで!
それも絵になるって、どういうことだよ!?
ダメだ。
落ち着こう。
深呼吸だ。
吸って吐いてをゆっくり繰り返す。
「それで、何と?」
「はい。ライガード神様より直接……」
公爵様が話している途中で、俺と公爵様の間の空間にポンっと光の玉が現れる。
「悠人、調子はどうかの? ん? ディートか、ほほ、上手く話が進んだかの」
「……」
「ん? 悠人? どうかしたのか?」
俺はにっこり笑って近づいた。
「じいさん」
「ほほ、礼には及ばんよ」
間髪入れずに、両手でじいさんをガッチリ掴む。
「な、なんじゃ?」
「なんじゃ? じゃない! 何をどう言えば、公爵様が俺に跪く状況になるんだ!」
「ん? 儂の愛し子と言っただけじゃと思うが? どうだったかのぉ? ディートや」
「はい。愛し子で加護を与えておられると」
「おお! そうじゃった。加護を与えておるの」
忘れる加護ってなんだよ!!
ちょ~っと、二人でお話し合いが必要だな。
「公爵様、申し訳ないけど遮音使わせていただきます」
「どうぞ、お構いなく」
「それと、姿勢楽にして待っていてください。すぐ終わらせます」
俺は公爵様に軽く頭を下げて、俺と神様だけを結界で囲み、外に音が聞こえないように遮音魔法を使った。
「じいさん、忘れる加護ってなんだよ。それに、愛し子って? 話がおかしくなるだろう?」
「じゃがの~、儂の魔力でそなたの呪いを防いでおるからの」
「それは、そうだが。関係ないだろう?」
「関係あるの。儂は神じゃ、本来、人とは直接関わってはならぬ。だから、そなたを愛し子としたのじゃ」
「……」
一利ある。
あるが……。
「悠人の呪いを、儂の力で押さえていても、愛し子様だからと人々は納得するのじゃ」
「それだけで納得するか?」
「そなたの、レオの身体は消えゆくのじゃ。哀れに思い加護を与えたと思うだろう」
「それは……」
「それに、その呪い。本来なら人が作れるものではないのじゃよ」
「……」
「悠人、こればかりは受け入れて欲しい。それに、愛し子なら誰にも邪魔をされずに済むぞ」
それは……、ありがたい。
時間がないからな。
「愛し子なら、融通が効くか?」
「当然じゃ、誰よりも優先される。どの国の王であろうと、愛し子には叶わぬ」
「なら、手続きの時間は最短で出来そうだな」
「そうじゃの。そのためには、悠人、いやレオが愛し子であることを皆に知って貰う必要があるの」
「皆って?」
「王都の民……」
「却下。必要ない」
「やっぱりの、そうだと思っとった」
「最低限の必要なところだけでいい……」
どこだ?
——国王か……。
「国王だけで良いんじゃないか?」
「儂にはよく分からぬ。最適な相談相手がおるじゃろうて」
じいさんは、ふよっと動いて、俺の視界に公爵様を入れた。
「なるほど」
確かに最適だな。
「じいさん、公爵様には愛し子と加護以外にも何か伝えたか?」
「ん? 公爵には全て話しておる」
「全て……?」
「そうじゃ」
「全てとは?」
「そなたの呪いのことじゃ」
「話したのか!?」
「そなたは、ギリギリまで話さない可能性があるからの。儂が先に話しておいた」
「……」
読まれている……。
「寿命のことは?」
「もちろん話しておる」
「そなたは、我慢しすぎる。それに、自分を蔑ろにする癖があるようだからの」
「だが、それだとギリギリまで動けなくなるだろう?」
「——いま、話したばかりじゃぞ?」
「必要な事が終わればいいが……」
「それに、一人協力者がいれば、隠したい相手に隠すのにも協力してもらえるぞ?」
「それは……」
「そなたのことじゃ、誰にも伝える気はなかったのだろう?」
「……」
「悠人よ。もし、エドガーが…」
「分かっている! ……っ、すまない」
「いや、よい。そうじゃの、そなたは理解しているのじゃな」
「ここは、儂を立ててくれるかの?」
俺は静かに頷いた。
「それと、もう一人、ローウェンにも伝えたほうが良いと思うぞ。ディートは忙しい立場じゃからの」
確かにそうだ。
公爵様よりも、上手く動いてくれそうではある。
「それに……」
じいさんは俺の前にとどまり、じっと観察しているようだ。
「うむ、そなたは公爵邸で世話になったほうが良いであろう」
「そんなに早く動けなくなるのか?」
「いや、まだ大丈夫だ。ただ、温存するためにも、あまり動かないほうが良い」
「そうか……」
温存か、そこまで頭になかったな。
残念だが、仕方ないな。
「わかった」
「うむ、そうじゃの。一度帰って王都で世話になった者たちへ、挨拶する時間はあるから安心するといいの」
「どのぐらいの日数?」
「2~3日……、3日じゃの。その後は公爵邸で世話になるとよいの」
「3日か、この身体の寿命を考えれば、あるほうか」
俺は自分に言い聞かせるように言葉を発した。
「わかった。そうするよ」
「うむ。悠人、そなたばかり負担を掛けて済まない」
「気にしてない。他に何か注意することはあるか?」
「今、思いつくことはないの」
「そうか、なら結界を解除して公爵と話そう。また何かあったら教えてくれ」
「うむ。そうしよう」
結界と遮音を解除し公爵と話をしようとしたら、部屋の外が騒がしい。
何事かと公爵に視線を向けると、肩をすぼめられた。
「エドガーが遅いと喚き出しているんだ」
「あ~」
確かに傷を見せてから、じいさんと話していたから時間は経っている。
「俺が一言伝えます」
公爵が苦笑いする。
「そうして、いただけると助かります」
「分かりました。公爵様、俺に敬語は禁止ですよ。この部屋に入る前の対応に戻してくださいね。そうしないと口を利きませんよ」
公爵は困った顔をして、前髪をかき上げた。
「承知しました。この部屋を出るまでは、お許しください」
「分かりました。では、ちょっとだけドアを開けますね」
俺は、ドアを開け顔だけを出した。
「エドガー、うるさいよ。もう少ししたら終わるから、静かに待っていて。あ、あとセドリックさんに、また服をお願いしたいから、明日か明後日で時間取れないか聞いておいてくれる?」
「わ、分かった。セドリックって、服たらなかったか?」
「ううん、公爵邸で過ごす時に着る服が欲しいから、お願いしたいんだ」
「公爵邸?」
「うん、3日後からは、ここでお世話になろうと思う。そのほうが色々と都合が良いからね」
「そうか、わかった。セドリックには確認しておく。ゆっくり、話してこい」
「うん。ありがとう」
そう言って、頭をひっこめた。
「これで大丈夫だと思います」
公爵は肩を震わせる。
「エドガーの扱いが上手いですね、レオ様」
笑いを堪えているようで、少し声が震えている。
「それなりの時間を過ごしたので」
「クク、ありがとうございます。あいつの、表情が豊かになったのはレオ様のおかげです」
「特に、何もしていないので、気にしないでください」
その俺の返答を聞いて、公爵は今までで一番優しい笑顔を見せた。
そして、公爵に俺が愛し子で、加護を受けている事を伝える最低限の人物を確認する。
やはり、国王と王妃に宰相。あとは王国魔法師団と王国騎士団、近衛騎士団のそれぞれの団長と副団長で、合計9名となった。
それで、俺自身の寿命についてと、愛し子と加護の事をローウェンに伝えることについて確認した。
「ローウェンに話していただけるのは助かります。書類の申請や精査はローウェンのほうが詳しいですし、レオ様の補佐が常に出来る環境になりますので」
「ディート、そなたから伝えてくれるかの?」
「それは構いません。ですが、可能でしたらライガード神様、少しだけでもお姿をローウェンに見せていただくことはできないでしょうか?」
「ふむ。かまわんよ」
「なら、今呼びましょう。俺が服を着る手伝いで、こちらに来てもらえば自然だと思うから」
「そうですね。早速呼びます。お待ちください」
公爵は部屋のドアを開け、ローウェンさんを呼んだ。
「ローウェン、レオの着替えを手伝ってくれ。それと、少し確認したいことがある」
「承知しました」
ローウェンさんは、すぐこちらの部屋に入ってきた。
そして、俺の横に浮かぶ光を見た瞬間、驚愕の表情をした。
その後、ライガード神と分かると、固まった。
かなり貴重な場面に遭遇できたな。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
次回 9/12 (土) 20時更新です。
よろしくお願いします。




