第63話 見透かす瞳
窓のカーテンを少し開けて外を見る。
門から玄関の間には噴水がある。
広い……。
チラッと見えた屋敷も当然デカい。
維持するのも大変だろうに。
「広いね~」
「公爵家だからな」
その一言で説明がつくのか。
階級世界すごいな。
噴水を左に迂回して、馬車は止まった。
「着いたぞ。さぁ、降りよう。……大丈夫か?」
俺が広さに圧倒されていたのを、公爵家に圧倒されていると思ったようだ。
「まったく問題ないよ。広さには驚いたけどね」
あんぐり口を開け、笑いだすエドガー。
「ハハハ、広さだけか」
笑いが治まらないエドガー。
しびれを切らしたように、ドアをノックされた。
エドガーが出られないので俺が窓を開ける。
「レオ? エドガーはどうした?」
「笑いが止まってないんだよ」
俺はちょっとふてくされた感じで答える。
「おい、エドガー。しっかりしろ、公爵様が直々に出迎えている」
「は!?」
ん?
公爵様が出迎えにきているの?
何で!?
今の俺は虐待にあっていた、伯爵の義理の息子だ。
多少は情報持っていても……まて、この二人のせいかな?
俺はエドガーとリックの顔を順に見た。
「レオ、言っておくが俺たちは関係ないからな」
リックに釘を刺された。
「俺たちにも分からん」
「本当に?」
「当然だ」
答えたのはエドガーで、リックは頷く。
まぁ、話せば分かることだな。
さて、いよいよご対面だな。
「俺は戻る」
「ああ、悪かったな。レオ、行くか」
「うん、行こう」
外から扉が開かれる。
開けたのはフェリクスさんだ。
エドガーが先に降りる。
俺はエドガーの手を借りて、馬車を降りた。
玄関を見ると、中央に姿勢よく笑顔でこちらを見ているのが公爵様だろう。
公爵様の手前両側には騎士がいた。
自分の家だよね。
厳重だな。
公爵様はイケオジだった。
スラっとしているが、鍛えられているのが分かる。
ブロンズの長髪を後ろで一つにリボンで留めている。
男でもリボンが似合うのか……。
印象的なのは透きとおったシルバーの瞳だ。
これは交渉、一筋縄では行かないか?
柔和だが、こちらを見透かすような人のようだ。
隙がなさそうだ。
気を引き締めていこう。
俺はエドガーに促され、玄関へ続く数段の階段をゆっくり登る。
エドガーが心配そうにこちらを見てくる。
「大丈夫」
小声でエドガーに伝える。
エドガーは小さく頷く。
俺の後ろにはリックが続いた。
俺の護衛だね。
心配しすぎだよ。
公爵様の目の前に到着する。
視線は俺を見定めるように見下ろしていた。
スッとその視線を遮ったのは、リックだ。
リックは姿勢を正し、右手を胸に当て一礼する。
「ただいま戻りました」
俺の横にいたエドガーも一緒に、姿勢を正し右手を胸に当て一礼をした。
二人とも、こうしてみると立派な騎士なんだよね。
ほ~っと見ていると、公爵様が咳払いをした。
「ご苦労だった。報告は後ほど聞こう」
そう言って、チラッと俺を見た。
リックは、その視線の意味を察し、俺の背中をそっと押して公爵様の前に誘導した。
俺はスッと姿勢を正し公爵を見て微笑み、右手を胸に当て軽く礼をする。
息を飲む音と、ほぅっと息を吐く音が聞こえた。
気のせいだろう。
「初めてお目にかかります。レオ・バルダンと申します。この度は面会の機会をいただき誠にありがとうございます」
「ほう、まだ小さいのにしっかりした挨拶ができるんだな」
喧嘩売られたか?
二人から俺の年齢を聞いているはずだが。
ここはスルーしよう。
こういうタイプは喧嘩を買ったら手のひらで転がされるだけだ。
予想している反応をしない。
これが一番だ。
「恐れ入ります」
サクッと返す。
公爵様の片眉が、ぴくっと動いた。
見逃さないよ。
にっこり笑って笑みを深める。
そんな俺を見て公爵様は、面白いものを見つけたという好奇心丸出しの視線を寄こした。
あれ、逆に変なスイッチ押したか?
思わず首を傾げてしまった。
「ククク、なるほどな。お前ら二人が気に入る筈だ」
そう言ってリックとエドガーを見る。
リックはスッと軽く礼をする。
エドガーはそっぽを向き、今にも舌打ちしそうな感じだ。
そんな態度で大丈夫なのか?
「エドガーは態度に気を付けたほうがいいな。私は気にしないが一歩間違えれば、矛先は弱い者——レオに向くぞ」
公爵様は真っ当な事を言った。
「弱い者……」
ボソッとエドガーが小声でこぼす。
軽く睨むと口を閉じた。
「ふっ」
この声はと振り向くと、リックが笑いを堪えて顔を背けていた。
思わずジト目になる。
「クク、これは面白い」
公爵様は面白がっているようだ。
そのまま、ジト目で見てしまった。
「旦那様、お戯れはその辺にしてください。被害者が拡大します」
公爵様の後ろにいた執事が声をかけた。
被害者?
なんの?
思わず首を傾げ周りを見る。
特に変化はないな。
「ふふ、ここにいる者たちは耐性があるものだけです。ご安心ください」
俺の様子を見ていたのか、俺に話しかけてきた。
いや、別に心配はしてない。
「いえ、気になっただけなので……」
執事を見て言葉をなくした。
「え!?ロベルト?」
「おや、やはり似ていますかな?」
「あ、申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。隠しておりませんので」
え? 隠してないの?
チラッとエドガーとリックを見る。
二人ともバツが悪そうにしていた。
あ、言わなかったんじゃなくて、忘れていたのか。
なら、仕方ないな.
「私達は双子なんですよ。ロベルトは弟です」
「そうなんですね。失礼いたしました」
「どうぞ、お気になさらず」
「私の自己紹介は後ほど、旦那様が拗ねてしまいますので、お部屋にご案内いたします」
「拗ねてはいない」
すかさず公爵様からツッコミが入った。
いい雰囲気だな。
「さようですか、ではお部屋にご案内いたしますね」
「リック、エドガーお前たちも一緒に来い」
「「はい」」
二人の良い返事が重なった。
応接室に移動する。
メイドさんが部屋にカートを置いて退出する。
部屋にはエドガー、リック、公爵様と執事さんが残った。
テーブルを挟んだ正面には公爵。俺の隣にはエドガー、公爵の後ろには執事さん、俺達の後ろにはリックが立っている。
護衛の立ち位置だよ。
「リック、座りなさい」
目が泳ぐリック。
「一度しか言わないよ?」
躊躇するリック。
思わず俺の横の空席をぽんぽん叩いた。
リックは苦笑いして、俺の横に座った。
なんか、三者面談に近いな。
「まずは、一息つこう。ローウェンが淹れたお茶は格別だよ」
執事さんがカートに準備された茶葉を使い、紅茶を淹れてくれた。
部屋に紅茶のいい香りが漂う。
「さぁ、遠慮せずに飲みなさい」
「ありがとうございます」
俺はソファーから少し身を乗り出して、右手をカップに添え、左手でソーサーを持ち上げて姿勢を正す。
そのままカップを持ち上げ、紅茶を一口飲んだ。
思わず目を見開く。
「美味しい……です」
「クク、そういうところは子供らしいんだな。所作は文句なしだ」
「恐れ入ります」
「二人は飲まないのか?」
顔を見合わせるエドガーとリック。
どうしたんだ?
「普段通りでいいぞ」
「じゃ、遠慮なく」
エドガーはマナー関係なしに、リラックスして紅茶を飲んだ。
そして、カップを持ちながら左手でお菓子を摘んだ。
「ほら、あ~ん」
思わず固まる。
「ククク、エドガーさすがに人が悪いぞ、レオが固まっているじゃないか」
「普段通りですけど」
真顔で言うな!
思わず睨む。
「ん? これは嫌なのか? どれがいい? お、これチョコレートかかっているぞ。ほら」
怒りたいのを、ぐっと我慢する。
「エドガー、小皿に乗せて、それを渡してくれる?」
「リック、二人はいつもこうなのか?」
「ええ、そうです」
こっちも、真顔で答えないで!
俺のイメージが崩れる。
エドガーが差し出した小皿から、チョコクッキーを取って食べる。
「ん~~~」
あまりにも美味しくて思わず声が出てしまった。
「ク、ハハハ。本当にそういうところは子供らしくて可愛いんだね」
微笑ましそうに笑う。
目が笑ってないですよ。
そんな目は子供に向けてはいけません。
「ご報告通りでしたか? でも、子供らしい私との会話をお望みではないですよね?」
にっこり笑って切り込んでやった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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次回 9/5 (土) 20時更新です。




