第61話 記憶の違和感
俺達は、あの後店を出た。
双月に寄る予定だったが、オスカーさんが手配してくれて、帰り際にケーキを渡された。
しかも会計済みだったようだ。
できる執事は格好良いよね。
そのまま、俺達は翼亭に帰り、イザベラさんにケーキの土産を渡した。
俺とエドガーは先に部屋に戻り、リックは飲み物を受け取ってから戻ってくる。
「なんか、濃い一日だったね」
「疲れたか?」
「ん~、少しは? でも楽しかったよ。なんか、久しぶりに色んな人に出会ったなって」
ピタッとエドガーが止まる。
「エドガー?」
「あ、いや悪い」
ジト目で見る。
「エドガー、また俺が? とか思ってない?」
目をそらすエドガー。
「あのね。それ考えるだけ時間の無駄だからね。俺が違うって言ったでしょ?」
「そうだな。悪…イタタ、ちょ、痛いって」
おもいっきり髭を引っ張ってやる。
「謝るのも禁止! まったく、世話が焼けるなぁ」
「こら、引っ張りすぎだ。言っていることと、やっていることが合ってないぞ」
「そう? 可愛がっているのに」
「どこがだ」
髭をさすりながら文句を言うエドガー。
「だって、今夜、髭そるんでしょ? 名残惜しんでいるの」
「それなら、なでればいいだろ?」
あ、気付いちゃった。
「それも、そうだね」
「お前、分かってやっているな、レオ」
ほっぺを、おもいっきり引っ張られる。
「いひゃい」
そこで、部屋の扉が開きリックが入ってくる。
目が合うと、呆れた顔をされた。
「お前ら飽きないな」
溜め息をつきながら言う。
「ほら、飲み物と、皿にフォーク持ってきたぞ」
テーブルに飲み物、皿とフォークを置いていく。
「エドガー、遊んでないでケーキをだしてくれないか。俺は疲れたからケーキを早く食べたい」
「珍しいな。お前が甘いものを食べたいなんて」
「お前が原因だろ? オスカーさんに、もう少し礼儀正しくしろよ」
きょとんとするエドガー。
「今更だろ?リック、その融通が効かないところ、治したほうがいいぞ」
「いや、普通のことだろ?」
リックは真面目だからな。
「騎士団長の世話係なんだから、もう少しゆるくしないとハゲるぞ」
「余計なお世話だ! お前も世話しろよ!」
公爵家の騎士団長、曲者っぽいな。
会いたくないな、面倒くさそう。
「あ、騎士団長は、今王都にいないから会わずに済むぞ」
エドガーが、俺の頬を突きながら言う。
顔に出ていた!?
思わず顔を両手で触る。
「くく、本当にそういうところは子供っぽいな」
リックに笑われる。
「だな」
「エドガー、早くケーキだしてよ」
ちょっと、むくれながら言ってしまった。
二人に笑われる。
子供っぽくなっているな。
「ほら、レオ」
俺の前に置かれた皿にケーキをのせてくれる。
リックと自分の分も皿にのせる。
「美味そうだな」
「ああ」
「うん、美味しそう」
三人の目がケーキに釘付けになる。
「食べるか」
「うん、いただきます」
一斉にケーキを一口、口に含む。
「ん~」
「美味い!」
「……」
リックが無言だ。
口にあわなかったのかな?
「これは、凄いな。チョコレートは甘さと苦みのバランスがいい。ベリーの酸味がちょうどよく加わり、濃厚なチョコクリームのアクセントになっている。この酸味のおかげで甘みが口に残らず重くならない。素晴らしいな」
目がキラキラしてる。
リックって、評論家っぽくなるのね。
美味しく感じたときだけなのかな?
チラッとエドガーを見る。
苦笑いして、肩をすくめる。
後で聞こう。
ちょっと、リックが可愛く見えた。
「本当に美味しいね。ケーキなんて久しぶりに食べたよ」
レオの記憶はないから、俺自身の記憶だがな。
いつだったか……。
あれは確か部長に呼ばれ、部屋に入ったらクラッカーで迎えられたんだよな。
33にもなって誕生……。
――いや、まて33ってなんだ?
俺は確か……。
「レオ、どうした?」
考え込んでいたら、エドガーが心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫か?」
「口に合わないなら俺が…」
「食べるよ!」
「はは、冗談だ」
リックが微笑ましそうに笑う。
「ちょっと考えたんだよ。前に食べたのはいつだったかなって、思い出せないけどね」
「……」
「……」
二人が黙り込む。
「今さらでしょ? 思い出そうとしたのは味だよ。双月のケーキ美味しいから、他の店のケーキ食べられなくなりそうだなって」
「ああ、確かに。間違いないな」
リックが頷く。
「俺も今までで一番美味いと思う。今まで食べたのは、美味いが甘すぎるんだよな」
なるほど、普通は甘みが強いのか。
「なら、双月一択かな。俺もこれより甘みが多いのはちょっと苦手かも」
「甘みが苦手なんて、子供らしくないな~」
笑いながら、頭をグリグリされる。
「ちょ、食べられない」
「お前ら、本当に飽きないな。まぁ仲がいいのは良いけど」
紅茶を飲みながら、呆れた顔をされた。
「羨ましいか」
エドガーがリックに言う。
チラッと見て、ふっと笑う。
「良かったな」
「……」
エドガー黙り込み、そっぽを向いた。
リック圧勝。
穏やかな時間が過ぎ、夕食の時間となった。
しかし、三人ともお腹が空いていないので、軽食にして部屋で食べた。
軽食とは思えないサンドイッチだったけどな。
エドガーとリックは、明日の早朝にそれぞれ家に戻り身支度をするそうだ。
だから、先にお風呂を済ませ、準備している。
俺は一人ゆっくりお風呂に浸かっていた。
「ふぅ~~、やっぱ、風呂は気持ちいいな」
浴槽の縁に首を乗せ、力を抜く。
ぼ~っと天井を見る。
お腹の黒ずみの変化はなかった。
「3週間あればいいな。美味しいものを食べよう」
今のうちに、好きなものを食べておこう。
「ケーキ美味かったな。また食べたい」
……そういえば、記憶にある誕生日の年齢は33歳だ。
それまで、俺は28歳だと思っていた。
「俺は何歳で死んだんだ?」
記憶が曖昧だ。
思い出した記憶以上のことは浮かばなかった。
「じいさんに聞いてみるか……」
ちょっと身構えてみるが、じいさんは現れなかった。
「俺も朝早いし、出て寝るか」
風呂から出ると、エドガーとリックもゆっくりしていた。
明日、公爵家から迎えの馬車が来るそうだ。
「え? 目立つじゃん」
「いいんだよ。抑止力になる」
「そうだな」
抑止力って、翼亭にいるだけでも十分じゃないの?
まぁ、おバカはいるか…、おバカは権力には弱いよな。
「ふわぁ~」
あくびが出た。
「今日は色々とあったからな、疲れただろう」
そう言って、俺の頭を優しく撫でるエドガー。
「うん、そうだね。もう、眠ろうかな」
「それがいい。俺らも寝るか」
「ああ、気疲れしたからな、休もう」
リックは、調整役だからね。
お疲れ様です。
「レオ、俺たちは朝早いから起こさずに出て行くから、ゆっくり休め」
「うん、分かった」
「明日、朝にオスカーが仕立てた服を持ってきてくれて、着替えも手伝ってくれるからな」
リックが教えてくれる。
「オスカーさんなら安心だね」
「セドリックも付いてくると思うぞ~」
あり得る。
いや、来るな。
「来そうだね」
思わず笑った。
その後は、少しセドリックさんの実家のことを聞いていた。
だけど、いつの間にか眠っていたようだ。
日が昇る前の早朝、エドガーとリックがそっと部屋を出ていくのに気づいた。
俺は安心のため、オスカーさんだけが部屋に入れるように結界を張って、眠りについた。
ざわざわと声がする。
騒がしいな。
「ちょっと~、なんで私は入れないのよ~」
「セドリックは当然として、どうして私も入れないんだい?」
「なぜでしょうね。では、私がレオ様を起こして、身支度をお手伝いいたしましょう」
あ~。
やっぱり、セドリックさん来ているね。
もう一人はイザベラさんね。
良かった。
オスカーさんだけ部屋に入れるようにしておいて正解だったな。
「さぁ、お二人とも静かにしてください。まだ、早いですからね」
オスカーさんが二人を嗜める。
「入れないなら、しょうがないわね。私は仕事に戻るわね。セドリックも諦めな」
「はぁ、そうね。イザベラ、朝食お願いできる?」
「ああ、美味いもの食べさせてやるよ」
「いいわね。オスカー、レオをお願いね。私は下で待っているわ」
「旦那様、帰らなくてよろしいのですか?」
「なに言っているのよ。仕事で来ているのよ。最終チェックがあるんだからね」
「さようですか?」
「ちゃんと、仕事道具も持って来ているでしょう?」
手に持っている鞄を掲げる。
「さようですね。承知いたしました。着替え終わりましたら、お呼びいたします」
「お願いね」
「オスカー、朝食を部屋に持って行かせるから、着替える前にレオと一緒に食べとくれ」
「ありがとうございます」
二人がドアから離れて行った。
オスカーさんが部屋に入りドアを閉める。
荷物を置く音がした。
俺に近づいてくる足音が、ベッドの横で止まる。
「レオ様、もう起きてもよろしいですよ」
「……」
起きていたの、バレてた。
「おはよう。オスカーさん」
「おはようございます。レオ様」
やっぱり、ただの執事ではなさそうだ。
起きて身支度をした。
その後は、オスカーさんと優雅な朝食時間。
「レオ様、こちらになります」
オスカーさんが箱を開けて見せてくれた服。
思わず息を飲んだ。
昨日見たのはレオの瞳と同じサファイア色の服だ。
今、目の前にある上着は、袖と立ち襟部分から縁が、金と銀の刺繍で飾られていた。
派手さはなく品よくまとめられていた。
そっと手を伸ばす。
「綺麗ですね。でも昨日は刺繍なかったのに」
「それが、セドリック様の固有スキルですよ」
「これ、魔法なの?」
「さようです。セドリック様は複数の針で刺繍を同時に行うことが出来るのです」
「……すごいですね」
「ええ、とても素晴らしいです。セドリック様は、ああ見えて魔力操作がとてもお上手です」
刺繍をまじまじ観察する。
この刺繍を複数同時にか。
「感想は、セドリック様に直接おっしゃってください」
「うん、そうするよ」
オスカーさんに手伝ってもらい、着替えた。
窮屈かと思っていたけど、とても着心地がよく動きやすかった。
「とても良くお似合いです」
「ありがとう」
浴室の鏡で見てみた。
つくづく、レオは美少年だ。
王子と言っても過言ではないだろう。
瞳と同じサファイアブルーの服がよく似合う。
そして、金色の刺繍がレオの金髪とお揃いで、とてもまとまっていた。
「……」
これ、下に降りて行って大丈夫かな?
エドガーいないから防波堤がない。
オスカーさんに直接お礼を、と言われたばかりだしな。
抱きつかれない?
セドリックさん、力強そうなんだよね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
次回 8/29 (土) 20時更新です。




