第60話 固有スキル
俺はオスカーさんに連れられて、セドリックさんの作業場に来ていた。
エドガーとリックは一緒に来ていない。
危うく一人で連れてこられるところを、オスカーさんを指名して回避した。
オスカーさんは快く引き受けてくれた。
作業場は、綺麗に整えられていた。
昼食の時に見たお針子さんたちもいた。
ただ、布や糸、針が浮いているのはなんで!?
布がこっちに飛んできた。
「ぅえ!?」
変な声でちゃった。
「旦那様、レオ様が驚いていらっしゃいます」
「あら、ごめんなさ~い。来てくれていたのね」
セドリックさんが、こちらに気づき手を止めると、浮いていた布たちが机の上で停止した。
「驚かしてごめんなさいね。私の固有スキルなの」
「固有スキル?」
「固有スキルとは、個人にのみ発現するスキルです。魔法や剣術と様々あり、どんなスキルが有るのか分かっていません」
「これは、私だけのスキルなのよ。個人スキルは利用されないように話さないことが多いの」
「さようです。利用されかねませんし、最悪攫われたり、閉じ込められ飼い殺しとなった事例もあります」
「なるほど」
頷く俺を微笑ましく見るオスカーさん。
「私のはね、魔力を布や糸、針に通して、自由に操ることができるの。私にとっても適したスキルなの」
すごく嬉しそうに話すセドリックさん。
「布や糸に針……」
めちゃくちゃ便利だな。
犯人を無効化するのに使えるな……。
考え込んでいると、小さな笑い声が聞こえた。
「ふふ、もしやレオ様は違う使い道を、思いついたのですかな?」
俺の心読んだ?
オスカーさん恐るべし。
「え? ううん、すごいなって思っただけだよ」
「さようですか? そういう事にしておきましょう」
オスカーさん、かなり鋭いな。
ただの執事だろうか?
「おや、私に興味を持ってくださいましたか? 嬉しいですな」
思わず唖然とする。
「ホホ、自然に出る表情は、本当に可愛らしいですな」
「ちょっと! オスカーばっかりずるいわよ。私も抱っこしたいわ」
「何を仰っているのですか、仕事をしてください」
「え~、少しぐらいいいじゃない」
「一定時間で戻らなかった場合、お二人がこちらにこられますが?」
「え? ……過保護ね~。しょうがないわね。オスカー、レオくんを肌着だけにして服を脱がせてくれるかしら」
「承知しました」
オスカーは、俺をセドリック近くの作業台の前で降ろす。
「服を脱ぐんだね」
「さようです。お手伝い致しますね」
「うん」
オスカーの手伝いで、あっという間に肌着姿になる。
そこへ、お針子さんたちがやってくる。
「これを、オスカーが着せて、あなた達はレオくんに動いてもらってサイズを確認してちょうだい」
「お預かりします」
「オスカーも動きを阻害してないか見てちょうだい」
「承知しました」
言葉遣いはそのままだが、仕事モードに入ったセドリックさんはテキパキと指示を出す。
真剣な色を帯びた琥珀色の瞳は、普段の穏やかさから鋭くなっていた。
仕事モードのときは普通に格好良いな。
俺が着せられている服は、レオの瞳と同じ色のサファイアブルーだ。
「これ、俺の瞳と同じ色?」
「ん? ええ、そうよ。エドガーから聞いていたからね。レオくんの瞳の色にピッタリで良かったわ」
落ち着いた色で形もシンプルだ。
ブラウスとジャケットは立ち襟だ。
ベストの色は少し濃く違う布だが、それが洒落ている。
「レオ様、右手を曲げてみてください」
「うん」
動作確認が始まった。手から足へ、全体の動きまで確認をした。
ここまで見るのか。
「レオくん、ちょっと肩と腕触るわよ」
肩に手を置き、俺の腕を動かす。
「ちょっと、ここに印を付けて、もう少し緩いほうがいいわ。少し動きを阻害しているわ」
セドリックの一言でお針子さんが動く。
「ズボンの丈は、もう少し長くしましょう」
サクサクと進んで行く。
最後にベストの丈も気になったようだ。
「これでいいわね。オスカー、動きで気になる所はあるかしら」
「問題ございません」
「なら、私達は仕上げに入るわね」
「承知しました」
「レオくん、クラリスがお茶の用意をしていると思うから、ゆっくりして行ってね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ふふ、礼儀正しいわね~。任せなさい、レオくんを見違える姿にしてあげる」
そう言ってウィンクして笑うセドリックさん。
「オスカー、レオくんをお願いね」
「はい。お任せを。旦那様も顔をお出しください。時間見てメイドを寄こしますので」
「そう? そうね、分かったわ。じゃ、レオくん、また後でね」
「では、レオ様参りましょう」
そう言って俺を抱っこするオスカーさん。
オスカーさんの抱っこは一番楽かもしれない。
「うん」
チラッとセドリックさんを見ると、もう集中していてこちらに意識が向いてない。
オスカーさんが部屋をそっと後にする。
「旦那様は、仕事に集中されると格好良いでしょう?」
いたずらのように笑って言うオスカーさん。
「ふふ、そうですね。格好良かったです」
オスカーさんに連れられて、客間に入る。
すると、苦笑いしているエドガーとリック、半泣きのクラリスさん。
え? 何事かな?
「おや、まぁ」
オスカーさんが、呆れた声を出した。
「レオ様、お待ちしておりました。今、お茶をお淹れしますね」
リネットさんが、優しく迎えてくれる。
「奥様、違います。それでは茶葉が多いです。さぁ、もう一度」
おや?
クラリスさん、お茶の淹れ方の指導されている?
首を傾げる。
オスカーさんは、エドガーの所へ行き、俺をエドガーに渡す。
いや、下に降ろしてくれていいんだが。
エドガーが俺の定位置と認識されているようだ。
「リネットさん、ダメですか?」
「残念ながら、一つも身についていなかったようです」
溜め息をつきながら言う。
「それは、また……」
呆れた顔をして、クラリスさんを見た。
クラリスさんは、涙目になりながらお茶の準備を……できるのかな?
俺が来てから、何回淹れ直ししているんだろうか?
「リネットさん、申し訳ありません。これ以上、レオ様をお待たせすることは出来ません」
はっとした顔でこちらを伺うリネットさん。
「レオ様、申し訳ございません」
「大丈夫ですよ。でも、そろそろのどが渇いたかな。オスカーさん、ここに居る全員分のお茶を淹れてくれますか? クラリスさんやリネットさんも一緒に休憩しましょう。ね?」
ニコリと笑う。
「レオく~ん」
涙目で俺を見て拝むクラリスさん。
拝まないでください。
でも、辛いんだね。
「リネットさん、詰め込んでも無理じゃないかな?美味しいお茶とケーキで、 元気になれば上手くいくかもしれませんよ」
リネットさんは、一瞬驚いた顔をする。
その後、すごく優しい笑顔を見せた。
「レオ様には敵いませんね。お言葉に甘えて、奥様休憩に致しましょう」
「やった~」
両手を上げて喜ぶクラリスさん。
いや、それは悪手かと思うな。
後ろで、リネットさんの顔がひきつっていますよ。
「奥様」
「は、はい!」
「ふふ」
思わず笑ってしまう。
「えへへ、カッコ悪いところばかりレオくんには見られちゃっているね」
クラリスさんは、笑いながら俺たちの前の席に座った。
そこから、オスカーさんの淹れたお茶と、手土産のケーキを食べた。
すごく美味しかった。
チョコレートケーキが楽しみだ。
和やかな時間が過ぎた。
セドリックさんは、来られないと伝言があった。
服は明日の朝一で宿に届けてくれるそうだ。
「そうか、セドリックによろしく頼むと伝えてくれるか、オスカーさん」
「伝言承りました。それと、エドガー様、リック様。私が申し上げるのもなんですが、お二方も公爵家へ行かれるのでしたら、身なりを整えたほうがよろしいかと」
「分かっているよ」
「はい、そのつもりです」
エドガーは面倒くさそうに、リックは真面目に答えた。
「髭そるの?」
「ああ。うん? 嬉しそうだな」
「うん、二人の素顔楽しみ」
「そうか」
そう言ってエドガーは俺の頭を撫でた。
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次回 8/26 (水) 20時更新です。
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