第58話 レオ連盟
俺たちは、案内された部屋でオスカーさんの入れた紅茶を飲んでいた。
スッと、オスカーさんが部屋の扉を見た。
俺が見ているのに気づいたオスカーさん。
「まもなく、旦那様がいらっしゃいますよ」
笑顔で教えてくれる。
あ、足音が聞こえてきた。
オスカーさんの、こめかみに青筋が!
数秒後、ノック無しに扉が勢いよく開いた。
「レオくん、お待たせ~♡」
「旦那様」
「ひっ! や、やだ、オスカー居たのね」
「当然です。私がレオ様の採寸を行うのですから」
「オスカー、無理しなくていいのよ。忙しい…」
「お気遣いは無用です」
オスカーさんは、セドリックさんの言葉を途中でバッサリ切る。
そして、セドリックさんが抱えていた荷物を、素早く引き取る。
部屋の壁際に備えられた大きな机の上に置いた。
作業台だったのか。
「少々お待ちください。衝立をご用意いたします」
エドガーとリックは視線を交わして、俺を見た。
俺は二人の意図を読んで、頷いた。
「オスカー、衝立は不要だ」
「え!?」
喜びの疑問のセドリックさん。
「しかし……」
セドリックさんを見ながら戸惑うオスカーさん。
「セドリック、落ち着け」
エドガーが一喝する。
「オスカーも聞いて欲しい」
そのまま、真剣な眼差しでオスカーへ訴える。
二人が怪訝そうにしながら、黙った。
「俺が話そう」
リックが説明役を買って出た。
そこから、簡単に経緯と俺の体にある傷のことを説明した。
傷跡を残している理由も話した。
エドガーとリックは、この二人を信用しているんだな。
「だから、二人にも見て欲しい。できれば力を貸して欲しい」
リックが話を締めくくる。
そう、エドガーとリックは俺のことを伝えることで、もし公爵が俺の意に沿わないことをした場合の助力を頼んだ。
部屋が静まる。
じっと、セドリックさんとオスカーさんの返事を待つ、エドガーとリック。
「改まって言うことか? なぁ?」
「さようですね」
セドリックさんが普通に話した!
俺が驚いていると、オスカーさんが微笑ましそうに見ていた。
「ふふ、レオ様は何か違うことを思っているようですね」
バレた!
オスカーさん、鋭い。
エドガーとリックが呆れた顔で見ていた。
「そ、そんなことないよ?」
笑ってごまかす。
「いいのか?」
エドガーが改めて二人に問う。
「当然よ~。ねぇ」
「はい。――それに、その様な愚かな方ではないかと」
オスカーさんは意味ありげに言う。
「念のためだ」
「そうだな」
エドガーとリックは頷き合う。
「助かる」
セドリックさんとオスカーさんは、目をぱちくりさせお互い顔を見合う。
「お前から、礼を言われるとはな」
驚いたのか、普通に戻るセドリックさん。
「さようですね」
オスカーさんも驚いているようだ。
エドガー、これまでどんなだったの?
「ほっとけ」
二人に一言返し、エドガーは照れなのかそっぽを向く。
「ありがとうございます」
リックが改めてお礼を言う。
二人は笑って頷いた。
「じゃぁ、始めてくれるか」
エドガーが声を掛けた。
「承知しました。レオ様こちらへ」
オスカーさんは、俺を作業台近くへ呼んだ。
「セドリック、明日公爵と会うことになった。一着見繕ってくれ」
「まったく、急ね~。いいわよ。まかせなさい」
「悪いな」
「……ふふ、いいわよ」
エドガー、リック、セドリックさんで服装のデザインを決めているようだ。
フリルは無しにしてもらうように、後で頼もう。
俺は外套だけ脱いで、今は服を着たまま寸法を計っている。
「はい、よろしいですよ。では、服を脱いで採寸をいたしましょう」
「うん」
オスカーの声を聞いて、皆の視線が集まった。
さすがに恥ずかしいんだが……。
仕方ないか。
オスカーに手伝ってもらいながら、服を脱いでいく。
今日の包帯は足だけだ。
風呂で気づいた、お腹の黒ずみは俺にしか見えないようだ。
朝、包帯を変えているとき、エドガーとリックは気づかなかった。
俺が服を脱ぎ、傷が露わになるとオスカーの顔が僅かに歪んだが、すぐ元に戻った。
《 ガシャン 》
陶器の割れる音に振り返ると、セドリックのカップが床に落ちて割れていた。
「やだ~、ごめんなさい。手が滑っちゃった。すぐ片付けるわね」
セドリックは自分で片付けはじめた。
俺からは後ろ姿で様子がうかがえないが、エドガーとリックが苦笑いになっていた。
片付けている手が震えて、顔が般若になっていたのを二人は見ていた。
「はい、終わりましたよ」
「ありがとう」
「レオ様、こちらをお召しになってください」
新品の綺麗な服を手渡された。
「え? でも」
「大丈夫ですよ。サイズは問題ないかと」
どうしようかと迷っていると、エドガーから声がかかる。
「レオ、それを着させてもらえ」
エドガーを見ると、笑顔で頷いた。
「わかった。ありがとう」
オスカーから受け取り、真新しい服に着替える。
シンプルな白シャツに紺色のズボンとおそろいのベストだ。
「ああ、似合うな」
「そうだな」
エドガーとリックから褒められる。
「そう? ありがとう」
「うんうん。シンプルな服も似合うわね~。レオ君は何でも似合いそうで、アイデアが溢れちゃう♡」
「セドリックさん、フリルやリボンはなしでお願いします」
俺は忘れないうちに伝えた。
「ええ~、どうして? 絶対、すっごく似合うわよ~」
「俺が嫌いだからですね」
そう言うと、悲壮な表情を見せるセドリックさん。
思わずオスカーさんを見上げる。
「大丈夫ですよ。お客様の希望に応えるのが、この店の信条ですから」
「よかった。安心して任せられます」
お互いニッコリ笑い合い、セドリックさんを見る。
そこには、大きな体をプルプル震わせ、涙目になったセドリックさん。
「もう、分かったわよ。いじわるね」
そんなに?
思わず笑ってしまう。
「ふふ、いじわるではないですよ。俺の希望です」
「は~い。分かりました」
肩をすぼめるセドリックさん。
「それで、レオにそんな傷を付けたのは、どこのどいつかしら?」
「ん?」
普通の会話に混ざって何か……。
「私も気になりますな」
綺麗な笑顔でセドリックさんに乗ったオスカーさん。
「え? え?」
思わず、エドガーとリックの顔を見る。
呆れた顔をしながらエドガーが嗜める。
「おい、二人とも冗談はその辺にしとけ」
「ああ、レオが困っている」
ピタッと、固まる二人。
「失礼致しました」
オスカーさんは、すぐ立ち直った。
「ねぇ、エドガー、リック。このことクラリスにも伝えてもいいわよね?」
「ああ。もちろんだ」
エドガーが即答した。
「分かったわ。なら、早速伝えないとね」
「もうすぐ来るだろ?」
「ダメよ~。こういう事は早く伝えないと! クラリスに怒られちゃうわ」
「そうですな。さ、レオ様、お疲れでしょう。おかけになってください」
俺はオスカーに言われ、椅子に座る。
「クラリスに伝えて、その後にレオ君の服作りに入るわ。明日の勝負服、作ってくるからね♡」
「え? 既製品を手直しするだけで、いいですよ?」
「何を言っているのよ? レオ君に既製品なんて着せられるわけないでしょ~。もったいない」
何がもったいないのか。
「エドガー、リック、レオ君の服を速攻で作ってくるわね。お昼は一緒に食べましょうね♡」
「ああ、頼んだ」
「昼食を楽しみにしているよ」
「ええ。オスカー行くわよ~」
「承知しました。皆様、メイドがお茶をご用意いたしますので、少々お待ちください」
「じゃ。また後でね♡」
ウィンクして部屋を出ていった、セドリックさん。
オスカーさんも、その後に続いて出ていった。
「エドガー、リック。大丈夫かな?」
二人が出ていったドアを見つめた。
「ん~、あんなもんだろう」
「そうだな。予想通りだ」
そうなんだ。
かなり怒りを押さえていたように見えた。
初めて会った俺のために怒りを見せてくれた二人。
少しむず痒かった。
****************
部屋を出て、旦那様の後を歩いて行く。
かなりご立腹の様子だが、致し方ない。
私も久しぶりに、腹の底から怒りが湧いた。
「オスカー、こちらでも伯爵の様子を調べて報告を」
「はい、承知致しました」
「あんな、あんな傷、信じられない」
「そうですな。気になったのは、レオ様が傷にあまりにも無頓着なことです」
「それよ。妙に落ち着いて、泣いて縋って助けを求めてくれていいのに」
「そうですな。ですが、その様な子供なら、あの二人は庇護しなかったでしょうね」
「そうだけど、あ~、もう! モヤモヤするわ!」
「オスカー、クラリスに伝えて。連携取るわよ!」
「私が、でしょうか?」
「こんなイライラした状態で伝えられないわよ。それに、作業の前に伝えてくるわ」
「皆様に、お伝えに?」
「当然よ。文句ある?」
「いいえ、承知しました。奥様には私から、お伝えいたしましょう」
「ええ、お願いね。クラリスが暴走しないように、頼んだわよ」
「お任せを、心得ています」
簡単に言ったが、奥様の怒りを鎮めるのは骨が折れそうだ。
さて、この老いぼれもお手伝いをいたしましょうか。
いつもお読みいただきありがとうございます。
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次回 8/19 (水) 20時更新です。
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