第57話 最高傑作
店を出て、意外と早く服屋に着いた。
すごく洗練されている。
店の入口は、シックな深緑の大きな2つの扉。
壁はレンガで焦げ茶と所々に赤茶が絶妙なバランスで配置されていた。
商品が展示されているショウウィンドウは大きく、窓も深緑の枠で、ところどころ赤いバラが配置されている。
こだわりが随所に感じられる。
「素敵なお店だね」
「そうか?」
「貴族も訪れる人気店だからな」
大きな扉の上には、看板が掲げられている。
扉と同じ色の木片、縁には赤いバラがあしらわれていた。
中央に『Secret Rose Shop』と書かれていた。
「シークレット・ローズ・ショップ」
名前もおしゃれだね。
「ああ。なかなかだろ? さぁ、入るぞ」
店に入ると、ふわっと、自然なバラの香りが鼻をくすぐる。
「いらっしゃいませ」
出迎えたのは小柄な美しい女性。
艶やかな蜂蜜色のロングウェーブの髪をおろし、こちらを見つめる瞳は赤いルビー色だ。
「お待ちしておりました。お久しぶりですね、エドガーさん、リックさん」
可愛らしい容姿で、声は上品で穏やかだ。
店の雰囲気にあっているな。
「おう、久しぶりだな、セドリックは?」
「もうすぐ参りますよ」
優しく微笑む女性。
すると、奥から男性が現れる。
リックと同じぐらいの背で、二人よりガッチリしていて、服の上からも鍛えられた体だと分かる。
ニコリと笑い、手を振る男性。
優しそうな琥珀色の瞳で穏やかな雰囲気の人だ。
長い髪は茶髪で、後ろで一つに結んでいた。
「久しぶりね~。エドガーちゃん、リックちゃん」
低い声で可愛らしい言葉が聞こえた。
軽い足取りで歩いているのに、もう目の前に来ていた。
速いな!
「んふふ。この子ね~。エドガーちゃんの秘蔵っ子は♡ 早くお顔を見せて~♡」
「セド、近い。もう少し待ちな。怖がらせるぞ」
美しい小柄の女性の口から、先程とは違う口調の言葉が聞こえてきた。
さっきと、だいぶ雰囲気が違うね?
うん……。
そんな感じなのかな?
前世で世話になった情報屋を思い出し、苦笑いになる。
「近い、少し離れろ」
エドガーも手でしっしと払う。
「ケチね。しょうがないわねぇ~。これでいいでしょう?」
「たっく、初対面なんだから、ちっとは加減しろよ」
「え~? 加減も何もないわよ~」
エドガーとセドリックさんがぽんぽん会話している。
リックが、小声で聞いてくる。
「レオ、大丈夫か? 苦手なら店を変えるぞ?」
リックが心配そうに聞いてきた。
「ふふ、ううん。大丈夫だよ。ありがとう」
リックと話しているうちに、エドガーたちの掛け合いも終わったようだ。
「レオ、顔見せていいぞ」
エドガーは俺が怖がるとは思ってないようだ。
俺はフードを取り名前を名乗った。
「うん。はじめまして、レオです」
案の定、セドリックさんと女性が固まった。
もう慣れたな。
女性は両手で口を押さえ目を大きく開けていた。
セドリックさんは固まり、俺を凝視していた。
再起動したのは女性で、はっとした顔をした。
「エドガー、下がれ」
その声に、咄嗟に下がったエドガー。
エドガーが立っていた場所に、セドリックさんが目をギラギラさせて立っていた。
悪寒が全身に走る。
「逃さないわよ~。うふふ、私と奥でお着替えしましょ~」
手をワキワキする、セドリックさん。
ちょ、さすがに怖いって!
「クラリス!」
エドガーが叫ぶ。
「まかせな、セドリック!」
そう言って、ドレスの裾をたくし上げる。
ちょ!
淑女がダメでしょう!
見えたのはペチコート。
その表に付けられた様々な物体。
「え……、テディベア?」
そこには、カラフルなテディベアが付いていた。
その、テディベアを3体、素早く取り出す、クラリスさん。
「セドリック! これ、どうなってもいいのかい?」
クラリスさんは、真っ白なテディベアの1体を掲げる。
それを見たセドリックさんは、目を見開き震える。
「ミルクちゃん!!」
え?
何?
エドガーとリックも固まっている。
「ク、クラリス。どうして、ミルクちゃんを?」
声が震えているセドリックさん。
両手が彷徨って、めっちゃ動揺してるな。
何かあるのか?
「名前まで付けていたのかい。ふ~ん、ミルクちゃんね。じゃ、こっちは?」
クラリスさんは、焦げ茶とピンクのテディベアの腕を、無造作に片手で摘み掲げた。
「いや~! ココアちゃん、ローズちゃん! その子たちは、丹精込めて作った最高傑作なのよ~。どうして知っているのよ!?」
「私に隠し事ができると思っていたのかい?」
「あっ、ち、違うのよ。完成したら見せようと思っていたのよ。ね、ね、謝るわ、ごめんなさい」
「ふ~ん」
クラリスさんは、面白くなさそうに、テディベアをプラプラさせる。
セドリックさんは両頬を押さえて涙目だ。
エドガーとリックは、ポカーンとして口を開けている。
「返してほしいかい?」
高速で頷くセドリックさん。
「いいよ。ただし、レオに必要以上に触るな、近づくな」
「ええ~、採寸出来ないじゃない」
「採寸は私がやる」
「クラリス、まともに採寸出来ないじゃない!」
「ああ?」
白のテディベアをもった片手を高く上げ、振りかぶっておもいっきり投げた。
「きゃ~~~~」
悲鳴と同時に走り出し、見事にキャッチするセドリックさん。
身体能力高いな……、使う場所が残念だけど。
エドガーは片手をおでこにあてて、リックは眉間をもんでいた。
二人とも初見のようだな。
「ク、クラリス、なんて酷いことするのよ!」
「酷いも何も、汚れるが壊れないだろうが」
焦げ茶とピンクをグルグル回しながら話すクラリスさん。
これ、いつまで続くのかな?
「奥様、旦那様、失礼します」
そこに、落ち着いた声が響いた。
その瞬間、ピタッとクラリスさんとセドリックさんが止まる。
「あ、あら、オスカーいたの」
お?
言葉遣いが戻った?
「皆様がご来店された時より、おりましたが?」
「あ、あら、そう。わ、私は、せっかくケーキをいただいたから、お茶の用意をしてくるわね。後をお願いね、オスカー」
「承知致しました。奥様、先程のことはリネットに伝えておきます」
「え!? そ、それは……もうしないから、考え直してくれない? オスカー」
上目遣いにオスカーを見て、お願いするクラリスさん。
ここの、頂点はこの執事のオスカーさんなのかな?
頭が上がらないようだな。
「そうしたいのは山々ですが、お客様の前でスカートの裾をたくし上げるなど、淑女教育をもう一度なさいますかな?」
ブンブン首を振り、後ずさるクラリスさん。
「いいえ、わ、分かったわ。報告を許します」
「恐れ入ります」
スッと頭を下げるオスカーさん。
「エドガーさん、リックさん、レオくん、美味しいお茶をご用意しますね。また、後で会いましょう」
そう言って、そそくさと、その場を後にして奥に引っ込んだクラリスさん。
焦げ茶とピンクのテディベアを持ったままで退出した。
「ココアちゃん、ローズちゃん」
手を伸ばして、後を追おうとするセドリックさん。
その前に、サッと体を滑り込ませ、ニッコリと笑うオスカーさん。
「旦那様、お客様をお待たせしています」
笑顔の圧が凄い。
「あ、ああ。すまない」
視線はクラリスさんが消えた方向を向いている。
咳払いをするオスカーさん。
ビックっと体を震わすセドリックさん。
「お部屋をご用意しておりますので、ご案内致します。旦那様、採寸は私が行いますので、ご安心ください」
「ええ~、私の楽しみが減るじゃない~」
「残りのテディベア、どうなるでしょうね?」
笑顔で固まり、顔を引き攣らせるセドリックさん。
「しょ、しょうがないわね。オスカーに任せるわ。じゃ、私は必要なものを取ってくるから、先に三人を部屋まで案内をお願いね」
「承知致しました。皆様、お見苦しいところをお見せ致しました。ご案内します」
「すぐ行くわ、待っててね」
ウィンクしてスキップで、奥へ入って行くセドリックさん。
濃いキャラだなぁ。
「どうぞ、こちらです」
姿勢よく、少し前を歩くオスカーさん。
ぴしっと黒の執事服をまとい、シルバーグレーの短髪をきっちり後ろへ撫でつけオールバックだ。
壮年で目尻に皺もあるが、切れ長のグレーの瞳からは、優しさと隙のなさが窺える。
格好良い執事だな。
そう思って見ていると、視線が合いニッコリと笑われた。
「レオ様は不思議ですね」
俺は意味がわからず首を傾げる。
「ホホ、可愛らしいのに、あの二人のあの場面を見て泣くこともなく、驚かれた様子もありませんでした」
あれで、泣かないだろう?
不思議に思い、瞬きをする。
「ご自覚がないようですね。エドガー様とリック様は驚いて固まっていらっしゃいましたが、その様子を観察しているように見受けられましたよ」
ぎょっとして、目を見開く。
「ホホホ、その様な表情をされるとは、子供らしさもあるのですね」
そう言って、前を向き先導していくオスカーさん。
俺はエドガーとリックを交互に見る。
二人とも苦笑いだ。
「あ~、オスカーはセドリックの実家の執事だ。セドリックが結婚してこの店を開いたと同時に、実家の執事を辞めてここに来たんだ」
エドガーが苦笑い気味に言う。
「すごく優秀な方で、セドリックやクラリスも頭が上がらないんだ。少しは変わったかと思ったが、そのままだったな」
リックも苦笑いで話した。
「まぁ、俺らも世話になっているしな」
「そうだな」
「そうなの?」
「ああ、セドリックの実家に、俺は騎士学校時代に長期滞在させてもらったしな」
ああ、実家に帰りたくないからね。
「俺も一緒に世話になったんだよ」
二人は思い出して懐かしい顔をした。
良い思い出のようだな。
「時間があるとき、教えてよ」
俺がそう言うと、二人は顔を見合わせ笑った。
「ああ、いいぞ」
「もちろんだ」
「ホホ、私の悪口は禁止ですよ?」
「言わねぇよ」
オスカーさんの片眉がピクリとあがる。
「エドガー様は、まだ口が悪いですね」
「使い分けているんだよ。いいだろ? ここには、オスカーさんと俺らだけなんだから」
「ホホ、さようですか。信じましょう。さあ、こちらです」
部屋のドアを開けて、俺達を促す。
そこは深緑を基調とした、落ち着いた空間となっていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
王都に来て、続々と新キャラが登場しています。
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次回 8/15 (土) 20時更新です。
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