第56話 双月
俺たちは翼亭を出た。
「こっちだ」
エドガーが歩き出す。
「エドガー、先に手土産を買いに行くぞ」
「あっ、分かっているよ」
忘れていたね、エドガー。
思わずリックと視線が合って二人で苦笑い。
「どこ行くの?」
「ああ、イザベラの紹介で、『双月』という菓子店だ」
「イザベラの紹介なら、間違いないな」
エドガーのテンションが上がった気がする。
甘い物が好きなのかな?
「ああ、人気店らしいぞ」
「お店、もう開いているの? まだ、早い時間な気もするけど」
「あ~」
リックが言いづらそうにする。
エドガーと視線を交わし、首を傾げる。
「どうしたの?」
「叩き起こして、準備させたらしい」
「え!?」
「は?」
「朝食の後にイザベラさんに聞きに行った……。その後、イザベラさんが店に行ったらしくてな」
何とも複雑そうな顔をするリック。
「お店に、お詫びの品がいるんじゃない?」
「ん? ああ、それなら、アークさんからもらっている」
さすがアークさん!
準備万端だね!
「よくあることなんだねぇ」
うんうんと頷きながら納得する。
リックから苦笑いが返される。
「イザベラの知り合いなんだな」
「ああ、元冒険者で信用もできるから、安全だとお墨付きだ」
「なるほどな」
チラッと俺を見るエドガー。
「何?」
「レオ、すごく気に入られたな」
呆れ顔で言わないでよ、エドガー。
「まぁ、そういうわけで、俺たちのために店を開けてくれているんだ」
「なんか、申し訳ないね」
「ああ、だが俺たちでは止められないからな」
「そうだな」
二人して遠い目をして頷き合う。
何度か同じことしているようだ。
「アークさん、凄いね」
俺は感心して呟く。
「ああ、できた人だよ」
「なんで、イザベラなんだ?」
エドガーが今更な疑問を言う。
「ほっとけないんじゃない?」
「そうか? イザベラ強いぞ?」
「いや、そこじゃなくて……。目を離すと何するか分からなくて、ハラハラしてほっとけないんじゃないかな?」
面倒見もいいんだろな。
でも、アークさんはイザベラさんが、可愛くて仕方がないって目で見ているよな。
いい夫婦だな。
「あ、あの店だ」
リックの視線を追うと、可愛らしいお店が見えた。
壁は全て白で、窓枠や扉は水色だ。扉横の壁上に金具で作られた装飾が突き出ていた。
金具には二つの月を模した装飾があり、そこにぶら下がる木の看板には「双月」と書かれていた。
「洒落ているな」
店を見てエドガーが感想をこぼした。
「そうだな。女性が好む店だな」
「日持ちするものがあったら、エリーに買ってやったらどうだ」
「余計なお世話だ。しかし開店前で良かった」
「そうだな」
二人揃って安堵した様子だ。
「どうして?」
「この格好の俺等が入りやすいと思うか?」
改めて二人の服装を見て、お店を見る。
なるほど。
「確かに、女性がたくさんいる店に入るのはちょっと微妙だね」
「だろ?」
肩をすくめるエドガー。
「入るか」
「そうだな」
人がいなくても、入るのに勇気がいるようだ。
扉を開けるリック。
《 チリリン 》
扉の内側に付けられたベルが鳴った。
「はーい。いらっしゃいませ」
若い女性の可愛らしい声がした。
奥から現れた女性は、ピンクのツインテールの16歳ぐらいの少女だった。
「おはようございます! リックさんとエドガーさんに、レオくんですかね」
「ああ、今日はすまない」
「ふふ。大丈夫ですよ~、いつものことなので!」
やっぱり。
三人の心の声が一致した。
「こちらの席に座って待っていてもらえますか、今できている商品の見本を持って来ますね」
ハキハキと元気よく笑顔で案内する少女。
迷惑そうではなく、嬉しそうにむかえてくれる。
大きな紫色の目はキラキラしている。
「ステラ」
「は~い」
奥から、別の女性の声がして、目の前の少女が奥を振り返り返事をした。
ステラという名前らしい。
「少し、失礼しますね」
ぺこりと頭を下げて奥に入って行った。
「明るい人だね」
「ああ、迷惑そうにされなくて良かった」
「しかし、可愛らしい店だな」
「そうだね」
色は白と水色で統一され、差し色でピンクが少し入っていた。
カーテンやテーブルクロスには、フリルやレースが付いている。
「ここは、男性だけで来るのは難しいね」
「ちょっと来づらいな」
リックは同意する。
「そうか? 買いに来るだけなら問題ないだろう」
「そうですよ。男性お一人で、買いに来てくれるお客様いらっしゃいますよ」
びっくりした~。
不覚にも驚いてしまい、エドガーにクスリと笑われる。
「あ、脅かしてごめんね」
「大丈夫です」
「ありがとう。こちらどうぞ」
そう言って、テーブルに飲み物を置くステラさん。
「これは?」
「サービスです。アップルジュースです。美味しいですよ」
「じゃ、遠慮なく」
そう言って、早速口にするエドガー。
「お、美味いな」
「ありがとうございます」
「ほら、レオも飲んでみろ」
「うん」
俺はフードを取り、コップを手にする。
「なるほど……」
俺を見たステラさんがポツリとこぼした。
思わず見ると、パチリと視線が合う。
なんだろうと首を傾げると、口を手のひらで塞ぐステラさん。
「ステラ」
そんなステラさんを呼ぶ、落ち着いた声の少女が奥から現れた。
その少女は水色の髪をルーズにお団子にまとめていた。
瞳はステラと同じ紫だ。
「双子?」
そう言って首を傾げたら、水色の髪の少女は一瞬目を大きく開き、ステラを見る。
二人は視線を交わし頷き合う。
「あ~、二人ともレオが気にしている。何かあるのか?」
水色の髪の少女は緩く首を振り、ステラが慌てて頭を下げる。
「ごめんなさい。何でもないの」
「何でもない、って感じじゃなかったぞ?」
エドガーが突っ込む。
「えっと、納得しただけです」
「納得?」
今度はリックが聞く。
少女たちは視線を交わし、水色の髪の少女が頷く。
「その、イザベラさんの暴走の理由……、レオくんですよね?」
パチっと瞬きして、エドガーとリックが視線を交わし苦笑い。
「ああ、その通りだ。よく知っているな」
「まぁ、私たちもイザベラさんとは、それなりに付き合いが長いので」
「なるほどな」
リックが納得して頷く。
「あの、こちらを」
水色の髪の少女が、テーブルの上に持っていたトレイを置く。
そこには、数種類のケーキが乗っていた。
「美味しそう」
思わず声を上げる。
「ルナが作るケーキは絶品だよ」
ステラがニコニコ笑いながら言う。
「ルナ?」
「あ、紹介が遅れました。私がステラで、こちらが双子の姉のルナです」
「ルナです。こちらが、準備出来たケーキです。どちらをご要望ですか?」
「どれも、美味しそうだな」
エドガーも興味深そうに見る。
「レオはどれがいい?」
俺は一つのケーキを見ていた。
「これ、チョコレート?」
ルナが瞬きをする。
「ええ、そうよ。よく知っているわね」
嬉しそうに、ふわっと、笑う。
ああ、黙っているとクールだが、笑うと可愛いんだな。
さすが双子、笑顔がよく似ている。
「レオ、チョコ好きなのか?」
「うん」
「じゃ、チョコのケーキはこの2種類か?」
「今、準備出来ているのは、この2種類になります」
考え込む、エドガー。
「リックはどれが食べたい?」
「いや、手土産買うんだぞ?」
呆れた声で返すリック。
「それとは別だ。宿に帰ってから食べよう。レオも食べたいだろ?」
「うん!」
チョコに目のない俺は満面の笑みで答えた。
女性二人が身悶えたことには気づかなかった。
「チョコのケーキは全部一つずつと、一番甘みが押さえてあるチョコのケーキを2つにしてくれ」
「3つで頼む」
「ふふ、分かりました。取っておきますね」
ステラが答える。
「あいつら二人とも甘いもの好きだし……、ここにあるケーキを一つずつ入れてもらえるか」
「承知しました」
ルナが丁寧に答える。
「それと、イザベラとアークにも適当に包んでくれ、好み知っているだろ? あと個数も任せる」
「いいんですか? あの二人も、甘い物好きで、結構な量食べますけど?」
「は? そうなのか? 知っていたか、リック?」
「いや、それは知らなかったな」
「う~ん。個数は10が上限で」
考えながら、エドガーは個数制限を付けた。
「ふふ。分かりました。ルナ、大量注文だよ。頑張って!」
「問題ない。早速作りはじめる。ステラは今持ち帰る分を包んで渡して」
「分かった」
ルナは奥に戻り、ステラはテキパキとケーキを箱に詰め用意してくれた。
「お待たせしました。取りに来られるのは、お昼を過ぎますか?」
「ああ、昼を食べてから来る」
「分かりました。お待ちしていますね」
「頼んだ」
「悪い、ステラ。アークさんから、これを渡すように預かってきた」
袋をステラに渡すリック。
ステラは素直に受け取り、中身を見て満面の笑みになる。
「アークさんに、ありがとうございますって伝えていただけますか」
「分かった。ステラ、今更だが、もう少し用心したほうがいい。イザベラの紹介で来たが、俺たちは男だ。元冒険者で強いみたいだが、気を付けるように」
ステラは目をパチパチさせる。
まつげ長いなと思う。
するとステラはニッコリ笑う。
「ありがとうございます。お二人だからですよ」
「「?」」
エドガーとリックは顔を見合わせる。
「イザベラさんとアークさんから、二人のお噂は色々と伺っています」
無言になるリック。
「何を聞かされたか知らないが、どれだけ信用できる相手から聞いていても、今の対応は感心しないな。しっかり自分で相手を見極めろよ」
エドガーはそう言って、手を振り出口に向かう。
「そういう事だ。俺たちは数年ぶりに会っているからな、ルナにも伝えておけよ」
リックも付け足して、エドガーの後に続いた。
「ありがとうございました!」
慌てて、お礼を言うステラ。
「ジュースごちそうさま」
俺が声をかけると、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、またね」
「うん」
俺はステラに手を振る。
しかし、この二人格好良すぎない?
いつもお読みいただきありがとうございます。
新しい双子のステラとルナは、いかがでしたか?
楽しんでもらえてたら嬉しいです。
次回は伸びてしまっている服屋が舞台です。
更新 8/12 (水) 20時に更新します。
よろしくお願いします。




