第55話 予定変更
宿で夕食を食べた後、エドガーと先に部屋に行って気付いたら朝だった。
「……よくないな」
そう、疲れやすく睡眠時間が増えている。
自分では疲れを感じない。
余計に悪い。
「まいったな」
魔力の消費が激しいからだろう。
俺はベッドから起き上がる。
「起こさないようにしないと」
両隣のベッドの二人は、まだ眠っている。
今回はベッドが3つあり、久しぶりにゆったりと眠れた。
エドガーは残念がっていたけどね。
「昨日、風呂に入ってないな。せっかく部屋にあるのに」
この部屋も、お風呂付きだ。
「……入るか」
窓の外はまだ薄暗い。
二人に睡眠魔法を軽く掛ける。
風呂場に行き、遮音、結界魔法をかける。
ただし、外の音は聞こえるようにしておく。
「猫足。西洋風のバスタブなんだな」
俺は蛇口をひねり、湯を貯める。
水とお湯の2つの蛇口で調整だった。
「シャワーもある、普通のホテル並みだな」
昨日の夜にイザベラさんに渡された石鹸で、髪と体を洗う。
終わるころには、バスタブにお湯も溜まっていた。
ゆっくりと、バスタブに浸かる。
「はぁ~~~。気持ちいい」
足も伸ばして、ゆったりと満喫する。
「……本当に時間、なさそうだな」
じいさんを疑っているわけではなく、実感した。
「しまったな。面白くて、ついフェリクスさんをからかってしまった」
あの人は、からかいがいがあるよな。
イザベラさんが面白がるはずだ。
「悠長に5日間も、王都観光している場合じゃないな。さっさと終わらせて、時間があれば観光にしたほうが良さそうだ」
観光を喜んでいたエドガーには悪いけど。
俺も観光一緒に行きたいけどな。
「こればかりは、仕方ないな」
さて、どう言ったものかな。
正直に話すか?
「いや、行動が限定されかねない。却下」
ん~。
面倒だ。
「さっさと終わらせたいんだが」
湯船に首まで浸かる。
手を伸ばすと、傷が目に入る。
改めてレオの体を見る。
「酷い痕ばかりだな」
この傷には、何度見ても慣れない。
「腹は、ちょっと黒ずんできているか?」
これ、エドガーには見せたくないな。
心配するだろうし、気に病むだろうな。
「あ~、こういうの苦手なんだよ。だから、一人で行動していたのに」
レオになってからは、人と関わるばかりだ。
子供でこの体では助けがいるから、仕方ないが。
「でも、楽しいな」
ん、宿も朝の準備を始めたようだ。
俺達の部屋は3階だが、音は拾っていた。
「よし、さっさと終わらせる。これが理由でいいだろ」
俺は、体をおもいっきり伸ばす。
バスルームの窓から光が差す。
「朝日か。見るのは3度目だな」
伯爵家の別館、ガルドの宿に翼亭か……。
「3度目の正直で平和な日でありますように」
別館では辺境伯の来訪に、ガルドでは誘拐だったからな。
「なんか俺、呪われてない?」
大丈夫か?
……これも、腹の呪いのせいか?
「考えても分からんな。まぁ、いいや。今日は服屋に行くって言っていたな」
子供でも公爵邸に行くために、服を整えなきゃダメらしい。
採寸するの大丈夫かと思ったが、エドガーやリックの知り合いの店らしい。
「ヒラヒラがついてなければ、何でもいいや」
そろそろ出るかな。
「公爵と明日には一度会いたいな。無理だろうか?」
まぁ、聞いてみよう。
向こうは俺に会いたいみたいだしな。
「……なんでだ? こんな子供に」
首をひねりながら、バスタブから出て服を新しいのに着替える。
ロベルトが準備してくれていた服だ。
しかし、イザベラさんは気が利くのか、準備がいい。
俺の背が低いから、必要なところには踏み台が置いてあった。
「準備良すぎ、助かるけど」
それから俺は魔法を全て解除して、二人が起きて準備が出来るのを待つ。
「待たせた」
言いつつ、俺を抱き上げるエドガー。
「ううん。こっちこそ、急がせてごめんね」
「問題ない。じゃ、行こう」
リックはそう言って先に部屋を出て、それについて行く。
1階の食堂は、まだ朝早いが結構賑わっていた。
食堂に入ると視線が気になるが、ここはスルーで問題なさそうだ。
「ああ、レオおはよう。こっちに席が空いているよ」
「イザベラさん、おはようございます」
「おはよう、レオ」
俺の頭を撫でる、イザベラさん。
「おい。俺等もいるんだが?」
「分かっているわよ。二人ともおはよう」
綺麗な笑顔で挨拶するイザベラさん。
「まったく、おはよう」
「はは、イザベラさんらしいですね。おはようございます」
イザベラさんは、何か言いたげな様子でこちらを見る。
分からず、首を傾げる。
「ああ、もう。可愛く首を傾げないで! あんた達三人だけよ。私の笑顔に無反応な男は!」
「イザベラ、朝から大声を出すな。心配しなくても、お前は、いい女だ」
「アークさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。はは、イザベラが拗ねるわけだ」
もう一度首を傾げる。
「分からないか? この後、イザベラが対応する客の反応を見てみな」
「分かりました」
「くく。お前ら二人が気に入る訳だ」
エドガーとリックは、二人して肩をすぼめる。
「朝の飲み物は温かいのでいいか?」
「はい」
「ああ、俺達もそれでいい」
リックは頷いていた。
「すぐ用意する。待っていてくれ、ほらイザベラ行くぞ」
「はーい。三人とも、ゆっくり食べて」
もう、機嫌は直ったようで、軽やかな足取りで席を離れていくイザベラさん。
「アークさん、凄いね」
「はは、イザベラはアークに、ゾッコンだからな」
「そうなんだ」
「これも、この宿の名物みたいなもんだ」
エドガーもリックも笑顔だ。
二人とも、これまでの朝とは違って、リラックスしているように見える。
それだけ、この宿——あの二人を信用しているんだろうな。
その後、運ばれてきた食事を食べながら、今日の予定を話す。
「朝食を食べたら、セドリックの店に行く。時間を開けてもらっている」
「よく、空いていたな」
「そうか? いつも空いているぞ」
エドガーのその言葉に、顔を引き攣らせるリック。
「お前な、認識を改めろ。セドリックの店は、王都でも予約が取れない人気店なんだぞ」
「いや、店じゃなくて、セドリックに頼んだぞ」
「一緒だろうが! まったく、手土産でも買って行こう。夫婦で甘い物が好きだから、ケーキか、焼き菓子の詰め合わせだな」
「確かに、世話になるから持っていくか」
そんなエドガーに、リックは溜め息を付く。
リックは苦労性かな。
「美味しいケーキ、俺も食べたいな」
「そうか、どこのケーキ屋が美味いか、後でイザベラさんに聞いておこう」
リックは嬉しそうに笑った。
「レオ、美味い焼き菓子やパン屋もあるからな。帰りにでも見に行こう」
「うん、楽しみにしているね。でね、昨日は悪ふざけで、フェリクスさんをやり込めて、王都観光5日間になったけど、明日、公爵に会えないかな?」
「やり込めってって、レオ……」
絶句するリック。
「どうして? せっかく、観光がゆっくりできるのに」
エドガーは気にしてないようだ。
「面倒なこと、早く終わらせて、その後で楽しみたいなって思って、ダメかな?」
上目遣いで、エドガーとリックを見る。
「すぐに、公爵に予定を開けさせな!」
聞こえた声はイザベラさん。
いつから、そこに居たのかな?
「レオのお願いだから、全てにおいて優先だろ?」
興奮してまくしたてるイザベラさん。
美人だけど、なんか残念に見えるのは俺だけだろうか?
「イザベラ、落ち着け。悪いな」
「いえ、大丈夫です」
リックが苦笑い気味に答える。
「もし、難しそうなら俺からも一報を入れるが、どうする?」
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「そうか、何かあれば言ってくれ」
「はい。その時は、お願いします」
またもや、スマートにイザベラさんを回収していくアークさん。
夫婦漫才にならないのは、アークさんのおかげかな。
「リック、明日、会えそうかな?」
「ああ、問題ないと思うぞ。公爵様はレオに会いたいようだからな」
その理由が知りたいが、ここは飲み込む。
「じゃ、お願い」
「分かった」
「エドガーも協力してね。終わったら王都観光に付き合ってね」
「おう、任せろ」
食事を済ませ、宿を出る頃に公爵様より返事が届いた。
「早いな」
リックが笑いながら言う。
「ちょっと行ってくる」
「頼む」
リックが部屋を出ていった。
「俺達はいいの?」
「ああ、リックに任せておいて問題ない。公爵家からの使いが手紙を持ってきたんだろう。リックが返事をしたほうが早い」
「そうなんだ」
「リックが戻ったら、出かけるぞ」
「わかった」
その後、リックが戻ってきて予定を聞いた。
公爵様とは、明日の昼過ぎに会って、夕食をご一緒することになった。
「え~、夕食? 俺、マナーとか大丈夫かな?」
「レオの事情は知っているから、問題ない。公爵様から伝言で、気楽に来いと書いてあった」
「気楽って言われても……」
「はは、気負う必要はないぞ。公爵は分かる人だからな」
気軽に言うエドガー、しかも様付けてない。
「エドガー、公爵様、な」
「はいはい」
「はい、は一回!」
「はーい」
「伸ばすな、お前は! レオ、こいつの真似だけはするな。いいな?」
「う、うん。分かった」
最近、リックは苦労性になってないかな?
俺のせいかな?
リックなら大丈夫だよね?
いつもお読み頂きありがとうございます。
翼亭いかがですか?魅力ある宿になっていると嬉しいです。
次回 8/8 (土) 夜8時に更新します。
ゾロ目ですね(笑)
よろしくお願いします。




