第54話 最強の味方
イザベラさんは、少しショックを受けて拗ねていた。
俺がイザベラさんの、お色気が効かないから……。
そうは言われても、色気に惑わされるようじゃ、刑事は務まりません。
「機嫌、直ったかな?」
「どうだろうな? くくっ」
「そんなに可笑しい?」
「そりゃな」
また、肩を震わせ笑いを堪えるエドガー。
「ま、初めてイザベラに会ったレオじゃ、分からないだろうがな」
機嫌良さそうに、エールを飲むエドガー。
俺達二人は、翼亭の食堂の隅でリックを待っている。
食堂は賑わっていて、アークさんとイザベラさんは仕事に戻っている。
「この宿、人気なんだね」
「ああ、まぁ元Sランク「蒼天の翼」のリーダーとパーティメンバーで、恋人のイザベラと結婚してはじめた宿だからな。冒険者も贔屓にするし、商人達は安全だから利用する」
蒼天の翼……、大丈夫この名前なら笑わずにすむ。
「元Sランクが営んでいる宿で、悪さをする馬鹿な連中はいないからな」
「あ、リック。おかえり」
「待たせたな」
「お疲れさん、フェリクスは正気に戻ったか?」
「ああ、頭を抱えていたよ」
「なんで、頭を抱えるのさ、わざわざ手紙を書いてやったのに」
リックもイザベラさんも気配消して来るのは止めようね。
驚くから。
俺もまだまだだな。
「そんな簡単に済まないんだよ」
「本当に、お貴族様は面倒だねぇ。ほら、リック、エールだよ」
リックが席に着くと、エールを机に置くイザベラさん。
「ああ、いただくよ。ありがとう」
「どういたしまして。リックも着いたことだし、食事を持ってこようかね」
「ああ、頼む。レオ、ここの飯は美味いぞ。イザベラ、今日は、あのシチューあるか?」
エドガーが嬉しそうに話す。
「もちろん。三人分取ってあるよ」
「よし、久しぶりに食えるぞ」
「ふふ、そんなに喜んでもらえると嬉しいね。シチュー以外は適当に持ってくればいいかい?」
「ああ、それでいい」
「あいよ。すぐ持ってくるよ」
そう言って、イザベラさんは俺達の席を離れた。
ああ、視線はイザベラさんを見ていたのか。
「そんなにシチュー美味しいの?」
「美味いぞ」
嬉しそうに言うエドガー。
「まぁ、美味いのは確かだ。本来はめったに食べられないけどな。この翼亭は例外だな」
「どういうこと?」
「食材が、ワイバーンなんだよ」
リックが答える。
「ワイバーン……」
ワイバーンって、確か……。
知識から引っ張り出す。
「りゅう……ドラゴン!?」
「ふふ、レオも男の子だね。ドラゴン好きなのかい?」
また、イザベラさん。
気配消すのが当たり前なのかもな。
「特に。ただ、驚いただけです」
「……」
無言になるイザベラさん。
机にシチューを置きながら、チラリと俺を見てリックに視線を移す。
「レオですからね」
「そうかい……」
なんだろうか?
興味はあるけど、それよりも優先すること色々あるしな。
「ほら、レオ食べてみろ、美味いぞ」
エドガーに急かされて、食べようとするもフードが邪魔だ。
視線でフード取っていいかエドガーとリックを見る。
すると二人は視線を交わし、イザベラさんを見る。
「ああ」
イザベラさんは周囲を見渡し、微笑んで頷いた。
「いいぞ」
エドガーから許可が出た。
俺がフードを取ると、一瞬静まった気がした。
もう、気にしない。
「いただきます」
そう言って、スープを一口飲む。
「ん。美味しい」
ワイバーンと聞いていたから、パンチのある味かと思っていたら、優しい味だった。
お肉と野菜も食べてみる。
「柔らかい」
自然と顔がほころぶ。
「アーク」
リックがアークさんを呼んだ。
首を傾げながら咀嚼する。
「どうした?」
アークさんが来て、イザベラさんに視線を移す。
一緒にイザベラさんを見ると、下を向き小さく震えていた。
「なるほどな。連れて行くから安心して、ゆっくり食べてくれ。レオ、美味いか?」
「うん。すごく美味しい!」
「そうか、良かった。お変わり欲しかったら声かけてくれ」
優しく笑って俺の頭を撫でて、イザベラさんを確保して席を離れた。
周りを見ても、誰も気にしていない。
これが日常のようだ。
「エドガー、このスープすごく美味しいね」
「だろ、ゆっくり食べろ」
「うん」
三人でスープを味わっていると、パンにサラダ、焼き魚などが追加された。
どれも美味しく頂きました。
****************
レオとエドガーを先に部屋に行かせた。
俺の目の前には、Sランク夫婦が腕を組み陣取っている。
最近、損な役回りが多くないか。
溜め息が出そうになるのを、ぐっと堪える。
「それで? どういうことよ。レオの体、呪われているでしょ」
これは想定外だった、流石と言うべきか。
俺は周りを確認する。
「その前に、結界と遮音魔法を使っていいか」
夫婦は黙って頷く。
俺は魔法をかけ、念のため遮断の魔道具も机に置いた。
二人は目を見張ったが、何も言わなかった。
「これは公爵家の、極秘の任務にも関わってくることだ。話を聞くなら、先に魔法契約をしてもらう。それでも聞きたいか?」
「ああ」
「当然でしょ」
即答だった。
俺は秘密保持の魔法契約書を、二人に書いてもらい使用した。
これは公爵家の極秘のため、契約を破ったら命に関わるんだが。
まったく、躊躇がないのには舌を巻く。
「お二人がここまでされるとは、思いませんでした」
「だって、あんなに可愛いレオのことなのよ」
「あの子は変わっているが、とても真っ直ぐで良い子だ」
イザベラは置いとくとして、アークの人を見る目は侮れない。
「俺達二人は公爵の命令で、バルダン伯爵家に潜入していた」
俺はレオの事を話すのに、必要なことだけを選びながら、二人にゆっくりと話していった。
二人は、何も言わず聞いていた。
だが、途中でイザベラがキレた。
「な!? その、クソガキどこにいるのよ!? 今すぐ消し炭にしてやる!」
そう言って、部屋を出ようとした.
それをアークが止め、なだめるのに20分。
その間、俺は飲み物で喉を潤した。
イザベラが落ち着くのを待って、最後まで話し終える。
「二人には協力して欲しいことと、頼みがある」
イザベラは怒りを押さえていて、話が出来ない。
そんなイザベラを、横目で見ながらアークが答える。
「なんだ。俺達が出来ることは協力しよう」
「助かる。レオはあの通りの容姿で目立つ、ガルダの町でも誘拐……」
《 ガタン!! 》
椅子が倒れイザベルが仁王立ちになっていた。
俺はアークに任せ、失言を心の中でアークに謝罪した。
「あ~、王都でのレオの安全確保に力を貸して欲しい。公爵がどう動くか分からない」
「そのぐらい、容易い」
「ふふ、私のレオに何かしようものなら、お仕置きだけじゃすませないわ」
アークは頼もしいが、イザベラは目が座っている。
アークにしっかり手綱を握ってもらわないと。
視線をアークに移すと、苦笑いで頷かれた。
「助かる。それと、エドガーにはレオの体や体調のことは、何も言わないで欲しい」
夫婦はお互い顔を見合わせ、視線で理由を聞いてくる。
「エドガーは、地下にいたレオの様子を見に行かなかった事を、ずっと後悔して引きずっている。それで、レオへの態度も不自然になっていたんだ。それが、一昨日やっと普通に戻ったところなんだよ」
「あの、エドガーが、か?」
アークが目を見開き驚きの表情で聞いてくる。
「ああ、俺も最初は驚いたが、本当に大切に思っているようだ」
「そうか、わかった」
アークは即答してくれる。
イザベラはニヤニヤしていた。
「イザベラ、冷やかすのもなしで頼む」
「え~、そのぐらい、いいじゃない」
人をからかうのが好きだからな、この人。
「まぁ、好きにしてください。ただ、レオには無条件で嫌われると思いますよ」
「え!?」
「レオ自身もエドガーが大好きなので」
言い切って大丈夫だろう。
本人は認めないかもだが、周りから見れば一目瞭然だしな。
「分かったわよ」
少し拗ねながら唇を尖らせて、言わないで欲しい。
いい大人なのに、似合うから……。
それを分かってやっているから、たちが悪い。
「では、情報は随時伝えますので、レオの件よろしくお願いします」
「ああ、方法はこちらに任せてもらえるか」
「ええ、ただし報告はしてください。勘違いすると困るのがいるので」
「ああ、エドガーか。分かった」
「ありがとうございます」
「しかし、リック。お前、二人の保護者のようだな」
「本当ね。ふふふ」
二人に笑われた。
大変なんだが……。
俺も休むとしよう。
「では、俺も休ませてもらいます」
「ええ、ゆっくり休んでね」
「明日の朝食も食堂で食べればいい」
レオの顔見せか。
「分かりました、そうします。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい、明日ね」
いつもお読み頂きありがとうございます。
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次回 8/5 (水) 20時~22時更新します。
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