第53話 翼亭
王都に無事入ることができた。
でも、今度は宿泊場所で揉めていた。
今日から泊まる宿屋の件で、フェリクスさんとリックが話し合っていた。
「こちらの指定の宿に宿泊して欲しい。安全を考慮している。分かるだろ?」
「お前の立場も分かるが、こちらとしては無理だ」
「リック、お前が断るなよ~」
「俺なら、いいのか?」
エドガーが参戦する。
「いいわけないだろ!?」
「頼むよ、俺の顔を立てると思って、な?」
エドガーとリックが顔を見合わせ、悪い顔をする。
その二人の顔を見て、顔を引き攣らせるフェリクス。
「悪いな、フェリクス。もう宿を取ってあるんだ」
「は? 今着いたばかりだろ?」
「連絡が取れるんだよ。俺はな」
「は? 連絡が取れる? そんな宿……まさか?」
「ふふ、そのまさかよ」
「イ、イザベラさん!?」
「そんなに驚くのかい? 酷いじゃないか、フェリクス」
セクシーなお姉さんが急に現れてた。
モデルのような長身でスタイルがいい。
「そんなに怯えないでよ」
フェリクスの肩に手を置き、もう片方の手の指で、フェリクスの顎クイである。
色気が半端ないな……。
「イザベラ、あまりからかうな。フェリクスは、お前の様な奴には免疫がないんだ」
「失礼しちゃうわね。せっかく迎えに来てあげたのに、ねぇリック。エドガー、酷いと思わない?」
「そう言われても、そのとおりだし」
「リックまで」
「早く離れてやれ」
「え~、面白いのに」
「アークに言いつけるぞ」
「ふふ、そんな狭量じゃないわ」
エドガー、リックは美人さんのイザベラさんとは知った仲のようだ。
だが、フェリクスさんは、本当に免疫がないようで、顔が真っ赤だ。
「フェリクス、俺が取った宿は、こいつのところ翼亭だ」
「そういうことなの。あなたが心配することは一つもないわよ」
フェリクスから離れず、顎を指でくすぐるイザベラさん。
完全に遊んでいるな~。
「翼亭がダメなら、ここでイザベラと交渉しろ」
目を白黒させて動揺するフェリクス。
「ふふ、良い子のフェリクスは、そんな交渉しないわよね?」
「は、はい!」
「いい子、公爵には私から手紙を書いてきたから、これを渡してね」
そう言って、ウィンクしてフェリクスから離れ、手紙を腰につけていた鞄から取り出して、フェリクスの手に握らせた。
なるほど、ここまで読んでイザベラさんをエドガーは召喚したのね。
「なるほど」
つぶやいて頷いていると、イザベラさんが俺に目を止めた。
「その子がエドガーの秘蔵っ子ね。私は、」
「近づくな」
「え、酷い。ここまで迎えに来させておいて」
「宿に入ってから、アークと一緒に紹介する」
唇を尖らせるイザベラさん。
美人はどんな顔も絵になるな。
イザベラさんはエメラルドグリーンの瞳に、緩くウェーブがかかった長い黒髪を、ポニーテールにしていた。
「イザベラ、宿で頼む」
リックが割って入る。
「リックちゃんが言うなら、しょうがないわね。分かったわ」
リックちゃん。
「ふふ」
思わず笑いが漏れてしまう。
「イザベラ、俺は副騎士団長なんだ」
「あら、ごめんね。ついクセで」
軽くウィンクして、小さな舌をぺろっと出すイザベラさん。
「は~、次からは間違えないでくださいね」
頭を掻きながら言うリック。
「は~い、じゃ行きましょう」
「ああ、そうだな」
「俺はフェリクスを正気に戻してから行く」
「ああ、しかし毎度だな」
「だな、いい加減免疫ができていいと思うが、こればかりわな。じゃ、後でな」
リックは軽く手を上げて、フェリクスさんを引っ張って行った。
なんかフェリクスさんて、憎めないな。
リックを見送り、イザベラさんが歩き出した。
それに少し離れて後を付いて行くエドガー。
南門から真っ直ぐ大通りを歩いていく中で、エドガーが離れた理由が分かった。
イザベラさん顔が広いし、目立つ!
美人で長身だから、だけでなく存在感が半端ない。
この人、まったく隙がないことに気づいた。
あの雰囲気に飲まれて気づかなかった。
恐るべし、色気。
「イザベラさん! 珍しいですね、こんな時間に」
「ああ、ちょいと野暮用でね。あんた達は今からギルドかい?」
「はい! 依頼完了の報告に行きます」
「そうかい、頑張っているみたいだね。だが」
「「初心を忘れずに!」」
ふっと、優しい笑みを見せるイザベラさん。
「ああ、その通りだ。しっかりやりなよ」
「はい」
「ありがとうございます」
女の子3人のパーティだ。
一言も喋らなかった子は、最後にペコリと頭を下げて、先の二人に続いて去っていった。
「あの子達、冒険者なの?」
「ああ、そうだな」
「イザベラさんって、宿屋の人なんだよね?」
「ああ、今はな。後でちゃんと紹介するからな」
「分かった」
どうやら宿に着くまでは教えてくれないようだ。
それからも、数組の冒険者たちに声を掛けられ、笑顔で答えるイザベラさん。
十中八九、元冒険者だろうな。
後輩の面倒見が良いのだろう、とても慕われていた。
「あれが冒険者ギルドだ」
エドガーが教えてくれる。
大通りの市場の混雑を抜けて、大きい建物が目立つ。
そのひとつが冒険者ギルドのようだ。
「大きいね」
木造だが、3階建ての建物だ。
「まあな、3階は初心者用の宿泊施設になっているんだ」
「へぇ~、そうなんだ」
見学したいが、ぐっと我慢する。
その後は、商業ギルドもあった。
南門が玄関口のようだ。
噴水の広場に着く、そこから王城が見えた。
「大きいお城だね」
「ああ、見るの初めてだよな」
「うん」
目を見張っていると、笑われる。
「はは、これより帝国の城の方がデカいぞ」
「そうなの? エドガー帝国に行ったことあるの?」
「ああ、一度だけな。着いたぞ、翼亭だ」
噴水広場から左に入って、最初の路地を過ぎたところに翼亭はあった。
入口の扉は、今は開けられていた。
一階が食堂にもなっているようで、賑わっていた。
扉の上には木の看板があり、翼と剣の絵と一緒に翼亭と書かれていた。
かなり立地がいいな。
この場所で宿をやるって、相当なんじゃないか?
イザベラさんが、チラッとこちらを見て視線で方向を指した。
「裏口から入れだとさ、まぁ、この時間だから仕方ないな」
ちょうど仕事を終え帰ってくる時間のようだ。
入口を通り過ぎ、大通りから右の脇道に入る。
次の路地で右へ曲がると、イザベラさんが扉を開けて待っていてくれた。
「すまん」
「ありがとうございます」
「ようこそ、翼亭へ」
中に入ると、温かいオレンジの光が入口を照らしていた。
普通に玄関のようだ。
キョロキョロしていると、イザベラさんが笑った。
「こっちは、私ら夫婦の家の玄関なんだ。宿と繋がっているが、入口は別にしているんだよ」
「悪いな、こっちから入らせてもらって」
「かまわないさ。まず、旦那を紹介させてもらおうかね」
「ああ、そうしてくれ」
玄関から廊下を進み、ドアを開けると、広いリビングだった。
そこのソファーに座っていた男性が立ち上がる。
「おかえり、イザベラ」
「ただいま、アーク」
軽い包容と頬にキスをする二人。
外国の習慣と同じなのか、日本人の俺には見慣れない光景だな。
「よう、エドガー久しぶりだな。また、似合わない変装しているな」
「うるせーよ。久しぶりだ、今回は世話になる」
お互い軽く包容、俺がいるからね。
その後、ガッチリと握手を交わす。
旦那さんとのほうが、仲が良いみたいだ。
エドガーより背が高い、リックと同じぐらいかな?
体格は二人よりガッチリしている。
「この子か」
「ああ、レオ。アークだ。元Sランク冒険者で、今はこの翼亭の主人だ。で、迎えに来てくれたイザベラで、アークの妻。イザベラも元Sランク冒険者だ」
Sランク冒険者、隙がないはずだ。
唖然としていると、エドガーに頭を突かれる。
「あ、はじめまして、レオです」
そう言って外套のフードを取る。
二人の目が大きく見開かれる。
「これは、大変だな。ここでは、安心してゆっくり休めるからな」
アークさんはそう言って、オリーブグリーンの瞳を優しく細めて、俺の頭をそっと撫でる。
焦げ茶の短髪で迫力あるが、穏やかな人柄のようだ。
それより、気になるのはイザベラさん。
俺を見てから、無言で固まっている。
「エドガー?」
心配でエドガーを見ると、達観した目をしていた。
アークさんを見ると苦笑いをしている。
なんか、嫌な予感。
「ん~~~か、可愛い~~~~!!」
俺をエドガーから奪い去り、ギューと抱きしめてくるイザベラさん。
ちょ、胸が、苦しい!
更に力が強まる。
窒息する!!
「ん~!う~~~」
ジタバタすると、アークさんがイザベラさんを後ろから拘束。
その隙に、エドガーが俺を取り戻す。
「し、死ぬかと思った」
「悪いな、イザベラは可愛いものが好きなんだ。で、これを止められるのはアークしかいない」
なるほど、だから紹介はアークさんと一緒にするって、言ったんだ。
こうなると分かってたのね。
「大丈夫か、レオ」
アークさんが、イザベラさんを押さえながら声を掛けてくれる。
「はい、なんとか」
「悪いな。普段は面倒見のが良くて、優しくて、頼りになるんだが……。これだけは、どうしても直らないんだ」
なんだろう、惚気を聞かされたのかな?
そんな、アークさんの言葉など耳に入ってないイザベラさん。
「もう少し~、いいじゃな~~い。減るもんじゃないし。ね? レオ? もう1回、お姉さんに、ぎゅー、されたいでしょ?」
ウィンクしてくるイザベラさん。
「遠慮します」
つい、即答してしまう。
きょとんとするイザベラさんと、アークさん。
なんで、アークさんまで?
「?」
二人の反応がわからず首を傾げて、エドガーを見上げる。
俺のその視線を受けて、苦笑いのエドガー。
「レオが、イザベラのウィンクを受けても、顔色変えずに即答したからだ」
「え? なにそれ? 普通だよね?」
「「普通じゃない!!」」
ハモる夫婦。
仲良いね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
王都での宿が決まりました。
これからも楽しんでいただけると嬉しです。
次回 7/31 (土) 20時~22時に更新します。
よろしくお願いします。




