第52話 お迎え
「ん~」
「レオ、起きたか?」
「ぅ~ん」
「もうすぐ、王都に着くからな」
「う~ん。ぅん? えっ? 王都?」
「ああ、よく寝ていたな」
朗らかに笑うリック。
おかしい、なんでもう王都に着くんだ?
道中の景色は?
魔物との遭遇はどこ行った?
「レオ? 大丈夫か?」
リックが心配そうに聞いてきた。
「あ、うん。大丈夫」
ちょっと、いやかなり残念だな。
見たかった。
「エドガー、俺が先に行って手続きをしてくる。レオとゆっくり来い」
「ああ、頼む」
二人は馬を止め、エドガーは馬を降りて俺をリックから受け取る。
「じゃ、先に行く」
リックはそう言って、城壁の方へ向かっていった。
「エドガー、あれ城壁だよね?」
「ああ、王都を囲っている城壁だ。リックが向かったのは南門だな」
「列、結構並んでいるけど、皆入れるの?」
「はは、大丈夫だぞ。夕方近くになっても列が長ければ、審査の人員が増えるからな」
「そうなんだ」
しかし、城壁デカいな。
どうやって作るんだ?
「あ、魔法か」
「ん?」
「城壁どうやって作ったんだろうなって」
「ああ、俺も詳しくは知らないが魔法なのは確かだな」
「へぇ~。俺達も並ばないと、行こう」
「並ぶ必要はないぞ? そのためにリックが先に行ったからな」
「そうなんだ」
「さあ、移動しよう。腹減ったなら、なにか摘んでもいいぞ?」
「エドガーやリックも食べてないでしょ?」
「ん? ああ、俺達は走りながら、黒パンや干し肉を食べているから大丈夫だ。夕飯まで時間があるから、食べておくといい」
「ん、ありがとう」
俺は収納からサンドイッチを出して、食べる。
「エドガー、ん」
エドガーの口元にサンドイッチを持っていく。
「いいのか?」
「うん、食べさせてあげる。美味しいよ」
破顔したエドガー。
まぶしい!
髭があってこれだと、素顔だとどうなんだろうな。
「もらうよ、ありがとう」
「うん」
「美味いな、鶏肉か?」
「そうだって聞いているよ」
「レオは食べてないのか?」
「まだ食べてないね、これは卵サンドだよ。食べる? 食べかけだけど」
「ああ、いいか?」
「いいよ。はい、あ~ん」
「はは、あ~ん」
美味しそうに食べるエドガー。
それを見ながら、飲み物が飲みたいと思った。
「エドガー、飲み物ってどうすればいい?」
「あ~、ここでは紅茶は飲めないな。通常は革袋に入った水か酒だな」
「革袋か。あ、これかな?」
「まて、レオ。俺の革袋の水を飲むといい。これはまだ口つけてないから」
「いいの?」
「ああ、新しいのは出さないほうが良さそうだ」
俺に、革袋を渡しながら、門の方に視線を向けているエドガー。
革袋を受け取り、水を飲む。
「どうしたの?」
「何かあったみたいだ、リックがこっちに来る」
「え? ここから見えるの?」
「ああ、魔法で視力を強化しているんだ」
「へぇ~」
便利そうな魔法だな。
どうやるんだ?
「はは、時間がある時に教えてやるよ」
「本当? 約束だからね?」
「ああ」
そう言って俺の頭を撫でるエドガー。
「ごちそうさま、ありがとう」
「もういいのか?」
「うん」
「レオ、俺達も行こう。少し馬に乗るが、いいか?」
「ふふ、いいよ」
この短い距離なら問題ない。
エドガーは俺を抱えたまま馬にまたがった。
「え?」
「ん? ああ、風魔法の補助だ」
「なるほど」
エドガーは器用だな。
細かい魔法は苦手なんじゃないのかな?
「こっちが馬に乗ったから、リックは待っているようだ。行くぞ」
「うん」
あっという間に、リックが待っているところに着いた。
「リック、何があった?」
「迎えが来ている」
「は?」
「え?」
俺とエドガーの声が重なった。
「迎えって公爵からか?」
「ああ」
「それは命令か?」
「いや、違う。レオに早く会いたいからと、公爵の希望だそうだ」
俺を見ながら話すリック。
「それは、レオの意思が尊重されると言うことだな?」
お迎え、なんで?
早くは会いたいけど、1日ぐらい王都の観光したい!
ガルドの街もほとんど見られなかったからな。
「ああ、そうだ。だが……」
リックが話している途中でエドガーが剣を抜き放った。
その剣先には——両手を上げ、顔を引き攣らせる騎士が一人立っていた。
「ちょ、エドガー、酷くない?」
「下がれ」
「俺、これでも第二騎士団の隊長だよ~」
軽いなこの人。
でも、隊長なんだ。
俺の外套が風ではためく。
「ちょ、待て待て」
焦りだす隊長さん。
「フェリクス」
そこにリックの低い声が聞こえた。
なんか、冷たい風が下から吹いた。
「ちょ、リックまで!足が凍る凍る」
そう言って、後ろに下がったフェリクスさん。
「は~、まいったな」
まいった顔ではないね。
ニヤけてるよ。
「今から公爵邸へ行くよな?」
「「行かない」」
エドガーとリックの声がハモる。
「お前らいつの間に、そんなに仲良しになったの?」
「「……」」
無言でフェリクスを睨む二人。
おかしそうに笑うフェリクスさん。
「二人じゃなくて、そこのレオ様に聞いているんだよ?」
ニヤリと笑う。
エドガーとリックから剣呑な気が強くなる。
「ちょっと、俺は公爵の命令でここに来ているんだけど?」
そう言いつつも、後ろに下がる。
まぁ、足元に氷が張っているもんね。
俺はエドガーとリックに視線を送る。
二人が頷く。
好きにして良いみたいだ。
「えっと、フェ?」
名前の途中で、わざと切って首を傾げる。
「かわいい声だね、レオ様。俺はフェリクスだよ。このまま公爵邸に来てくれるよね?」
「嫌です。明後日、2日後に行きます」
ぎょっと、目を見開くフェリクスさん。
「いやいや、公爵様は今日会いたいと言っているんだよ?」
「そうですか、では3日後に会いましょう」
「は? なんで伸びるの?」
そう言いながらエドガーとリックに視線を向けるも、二人はスルーだ。
「仕方ない、今日は疲れているからと伝えてあげるよ。明日、公爵邸に来てくれるってことでいいね?」
「では、5日後にしましょう」
「ちょ! なんで日数が増えるの? エドガー?」
「さあな」
エドガーはサラッと返す。
「レオ様? なら、最初の希望の2日後でいいよね?」
俺は手でフードを少しずらし、フェリクスを見る。
フェリクスは息を飲むも、俺の次の言葉で慌てる。
「そうですね。なら1週間後でお願いします。エドガー、リック、ゆっくりできるね」
ニッコリ笑顔で答える。
二人は笑いを堪えているようだ。
「ちょ、リック!?」
「お前がレオに聞くと言ったんだぞ」
「それは、そうだけど! 可愛い顔していい性格しているよね! レオ様?」
「ふふ、そんなこと言っていいの? まだ、日数伸ばして欲しいみたいだね?」
「違うよ!? 違うからね? 短くして!お願いします!」
頭をペコペコ下げるフェリクスさん。
エドガーは無表情。
リックは無表情をしつつ、肩が震えています。
このぐらいかな?
俺はエドガーに耳打ちする。
「どのぐらいがいいのかな?」
「レオの服も整えたいしな、3日開けて4日後でどうだ?」
「今日を入れると5日後だね」
「ああ」
「ちょっと、聞こえているよ? 5日後なの? 酷くない?」
「あ、10日後のが良いですか?」
フェリクスさんの目を見て、ニッコリ微笑みながら言い切る。
愕然として、肩を落とす。
ちょっとかわいそうかな?
肩を震わすフェリクスさん。
えっ? 泣いて……。
「ク、アハハ、アハハハ!! いいね! レオ様!? 二人が気に入るわけだ」
「ふん」
エドガーがそっぽを向く。
「ハハ、いいよ。レオ様、5日後だね」
「お願いします」
「ふふ。ねぇ、レオ様。うわっ! ちょ! 剣先、おでこに刺さったから! 聞いているエドガー!?」
話している途中でフェリクスさんが距離を詰めようとした。
それに素早く反応したエドガーの剣の切っ先が、フェリクスさんのおでこに少し刺さったようだ。
「あ、血が」
「酷いと思うよね? レオ様?」
俺は首を傾げる。
「なんで首を傾げるの?」
「リック、治癒してよ」
「自分で出来るだろうが」
「三人とも冷たいな。俺は命令で来ているだけだよ?」
そうかもしれないけど。
「面白がっている時点でダメでしょ?」
俺が言い切る。
ポカンとするフェリクスさん。
「へぇ、本当に面白いね。レオ様」
目がキラキラしてる。
え?
なんかスイッチ押した?
面倒そうなんだが。
「おい、フェリクス。レオに必要以上に近づくな」
そう言ったエドガーを面白そうに見る。
「分かったよ、必要以上には近づかないよ」
「いや、一切近づくな!!」
そこからエドガーとフェリクスさんの言い合いが始まった。
俺がリックに助けを求めて視線を投げる。
「お前ら、いい加減にしないとレオに嫌われるぞ」
ピタッと言い合いが止まる。
エドガーが不安そうに俺を見た。
「俺がエドガーを嫌うことはないよ。安心して」
「俺は?」
そう言うフェリクスさんには、無言でニッコリ笑っておいた。
「酷い!」
そう言ってうなだれるフェリクスさんを、リックが引っ張って行く。
俺とエドガーはその後を着いていき、無事王都に入ることができた。
リックがフェリクスさんと話して帰るとき、俺に手を振ってきた。
振り返そうとした手をエドガーが握り止める。
「酷い!」
そう言って、またリックに引っ張られて行ったフェリクスさん。
「エドガー、意外と仲良いでしょ」
「仲良くない!」
いつもお読みいただきありがとうございます。
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次回 7/29 (水) 20時~22時に更新します。
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