第51話 約束
レオが落ち着いたので、話を聞く。
「僕、少しですが思い出したんです。意識を失ったあと、たくさんの光が流れる空間にいました」
「ふむ。魂の道かの、輪廻へ続く道じゃの」
——魂の道。
そんな所があるのか。
「そこで……」
レオが言葉を詰まらせる。
俺は何も言わず、背中を擦る。
レオは安心するかのように、息を吐いた。
「その場所で、願ってしまいました。僕を——可愛がって大切にしてくれた、ハワード、ロベルトたちを助けてと」
「別にいいだろ?」
何が問題なんだ?
「それが、僕の魔力が増幅して、大きく波紋となって広がりました」
俺とじいさんは、顔を見合わせレオの言葉を待つ。
「その波が一つの光りを、僕の目の前まで運んできたんです」
「そのようなことが?」
じいさんが訝しむ。
「そこから僕は無意識に、その光を両手で包んで胸に当てて、もう一度願いを伝えました」
レオは、その光景を思い出すように目を閉じる。
「その光は僕の願いに答えるように、——さらに眩しく光り輝いて僕が通ってきた道に向かい、僕が戻れなかった道を進んで消えていきました」
「……まさか、それが俺なのか?」
「はい、僕はその場所から、僕自身の体が動いたのを少しの間、見ることが出来ていたので、悠人さんの魂だと思います」
「そんな事があるのか?」
不思議なことがあるもんだな。
なんで俺だったんだ?
「いや、儂も初めて聞いたの」
「は?」
じいさんが初めて?
レオが暗い顔をする。
「レオ、そなたは願っただけじゃ」
「ですが……」
目に涙が滲む。
「俺は気にしてないぞ。まぁ、覚えてないしな」
言いながら、レオの背中を擦る。
「まったく覚えてないかの? 声を聞いたとか」
少し考えるも、まったく記憶にない。
「悪いな。覚えてない」
「それに、僕は元々魔力が人より少ないから、あんな大きな魔力にどうしてなったのかも分かりません」
俺とじいさんが、目を合わせる。
「レオ、それはおかしいぞ? お前の魔力は大きいはずだ」
「そうじゃの、悠人は別格じゃが、元の魔力が多くないと、もっと前にそなたは命を失くしているはずじゃ」
「他に原因があるのか?」
「うむ、調べたほうが良さそうじゃの」
レオが俯いて、膝の上で両手をぎゅっと握るのが見えた。
俺はその小さな両手を、自分の手のひらで覆う。
レオは涙を溜めた目で俺を仰ぎ見る。
「レオ、覚えてないから分からないが、その時の光は行くのを嫌がって抗っていたか?」
レオはきょとんとしてから、考え込む。
「いえ、特にそんな素振りはなく、流れに乗っていく感じでした」
「そうか。なら、俺は嫌がってなかったんだと思う。俺は嫌だったら全力で拒否して暴れるからな」
ニヤッと笑って見せる。
瞬きをするレオ。
俺はレオの両手に置いた手を、レオの頭にのせる。
「レオ、よく聞け」
レオの目を真っ直ぐ見て言う。
レオは瞳を揺らすも、ゆっくり頷いた。
「その光が俺だったとする。——もしも、今の記憶をもったまま、同じ状況で光となりレオの前に来たとしよう」
じっと俺の目を見て黙って聞くレオ。
「俺は、もう一度同じ道を行くことを選ぶ。俺の意思でな」
目を大きく開けて驚いた顔をして、その大きな瞳に涙が滲みこぼれ落ちた。
「どうして……」
「当然だ、もうレオも俺は守りたいと思っている。その理由だけじゃ、駄目か?」
レオは大きく被りを振る。
「……ダメじゃ、ないです」
「良かった。だから気にするな」
俺は思いっきりレオの頭を撫でる。
「わっ、ふふ、あははは。悠人さん、止めて髪がぐちゃぐちゃに」
「はは、レオの髪はすぐにもとに戻るから、大丈夫だ」
「ええ!?」
「ハハ、ほら」
そう言って、手ぐしで整えてやる。
「ほんとだ」
自分の髪が元通りになっているのを、手で確認するレオ。
「だろ? 経験済みだ」
「ふふ、そうなんですね。あっ」
レオの体が薄っすらと光り出す。
「そろそろ時間切れのようだの」
「はい。そうみたいです。悠人さん、お話できてよかったです」
「待ってくれ、俺からも一ついいか?じいさんからは聞いているが、レオに聞きたい」
レオは不思議そうに首を傾げる。
「レオの体は今の無理した状態だと、し……、亡くなる時に——体は残らない」
「はい。大丈夫です」
笑顔で即答するレオ。
「だが、まったく何も残らなんだぞ?」
「うむ。世界に溶け込むように消えてしまうの」
「本当にいいのか?」
「はい、そのために挨拶しました。それに、皆から僕の記憶が消えるわけではありません」
「それは、そうだが」
「それに、悠人さんが、僕の代わりに皆を助けてくれるのなら、記憶にも強く残ります」
俺はじいさんを見る。
じいさんは、静かに頷いた。
俺は静かに息を吐いた。
「分かった。ありがとう」
「悠人さん、ありがとう、は僕が言う言葉です。悠人さん、本当にありがとうございます」
レオは俺に頭を下げた。
そして、晴れやかな笑顔を見せた。
「僕の元に来てくれた光が、悠人さんで良かったです。無理なお願いまで聞いてくれて、本当にありがとうございます」
ああ、別れが近づいているのか。
胸の奥が締め付けられる。
でも、レオの笑顔は本物だ。
「ああ、任せろ。必ず助ける。今後のことも、道を作るから心配はいらない」
「はい! ありがとうございます。悠人さん、大好きです」
そう言って、俺に抱きついた。
そして、耳元で囁いた。
「生きることを、選んでくださいね」
「え?」
レオは俺から体を離し、笑顔で光となって消えていった。
「レオ?」
俺の問いかけは、レオには届かなかった。
レオがいた場所を眺めていると、遠慮がちに声が掛けられた。
「あ~、悠人。レオは神域に戻っただけじゃ。まだ実態を長く維持は出来ぬからの」
「あ、ああ」
それは、聞いているから覚えている。
だが……。
「悠人、儂も神域に戻らねばならん、レオの様子を見ないといかないからの」
「ああ、わかった」
「近いうちに、また会いに行くからの」
「ああ」
上の空で返事をしていたら、頭に衝撃が走った。
「イッテ!」
「お主、話を聞いておるのか?」
じいさんを見ると、手に背丈に近い杖を持っていた。
「杖持っているのかよ!」
俺は頭を擦りながら指さした。
「ん? 持っておるぞ、ただ普段は、邪魔だからの、しまっておる」
「そうかよ」
「何を考えていたか知らぬが、伝える事がある」
「ん? 何かあるのか?」
「悠人、その呪いの痛みはかなりのものじゃ」
「まぁ、そうだな」
嫌な痛みを思い出す。
「これを」
じいさんは、一冊の薄い本を俺に渡す。
「これは?」
「痛覚遮断の魔法じゃ」
「は? そんな魔法があるのか?」
「あった、のじゃ」
「あった?」
「ああ、だが儂が、この世界から抹消した魔法じゃ」
「抹消……」
一瞬黙り込むも、すぐに答えに辿り着いた。
「——そうか、痛覚がなければ戦い続けられるからな。人間兵器か?」
「そうじゃ、いくつもの国が身分の低い者に、その魔法を使っての。ひどい有様じゃった」
「いいのか?」
「そなただから渡すのじゃ。それに、その本は悠人にしか見えぬからの」
「え? そうなのか?」
「ああ、読む時は気をつけるのじゃぞ? 変な人に見られるからの」
……面白がって、やってないよな?
「何じゃ? 良いか覚えても、誰にも教えるでないぞ」
「ああ、分かった。約束する」
「そなたも、時間のようじゃの」
「え?」
「おお、そうじゃ。公爵には伝えたからの。話が早いはずじゃ。儂は神だからの。すごいのじゃ」
「は?」
「では、またの」
「ちょ!」
じいさんは消えて、景色が歪んだ。
****************
「レオ、レオ起きろ。もう日が暮れる」
ん~。
「起きないのか?」
「ああ」
「飯だって言ったら、起きるんじゃないか?」
む、誰だ?
失礼な。
でも、確かに腹減ったな。
「レオ、腹減ったから、食事を出してくれないか?」
そうだった。
俺の収納に入っているんだった!
「ん~~。ふぁ~。ん、おはよう……」
「やっと、起きたな」
「ああ、レオ、腹減った」
目を開けて、辺りを見ると日は沈みかけていて、焚き火が周りを照らしているだけだった。
「ごめん。もっと早く起こしても、良かったのに」
「起こしたけどな、ピクリともしなかったのは、レオだぞ」
「あ~、ごめん。疲れていたのかな」
じいさんに、呼び出されていたからな。
「ご飯の準備するね。今日はここで野営するの?」
「ああ、そうだ。不便だが、我慢してくれ」
リックが申し訳なさそうに言う。
「え? 全然いいよ。楽しそう。一度やってみたかったんだ」
そう言いながら、テーブルと椅子をセットして、机の上に食事を乗せていく。
「こんな感じでいいかな?」
スープにパン、サラダに唐揚げだ。
「ああ、十分だ」
「レオがいると、野営の食事も豪勢でいいな」
「いつもは何を食べるの?」
「狩った肉か、干し肉と酒だな。あとは日持ちする硬いパンだ」
「なるほど」
それは、美味しそうじゃない。
「それが普通だぞ」
エドガーが頬を突いてくる。
不服そうな顔をしていたみたいだ。
「はーい。でも、今日は美味しいご飯食べよう」
「ああ、そうだな」
リックはもうお酒を飲んでいた。
「野営で唐揚げが食べられるとはな、美味い」
エドガーは美味しそうに唐揚げを頬張っていた。
俺はスープを飲みながら、何か大事なことを忘れている気がして首をひねる。
「思い出せないな」
「どうした?」
エドガーが聞いてくる。
まあ、いいか。
「ううん、何でもない。唐揚げ足りなかったら言ってね。まだあるから」
「本当か? 頼む」
「え? もう?」
「レオ、この酒はまだあるか?」
リックはお酒ね。
「はいはい。これね」
まぁ、二人とも嬉しそうだからいいか。
いつも読んでいただきありがとうございます。
楽しんでもらえていたら嬉しいです。
次回 7/25 (土) 20時~22時に更新します。
よろしくお願いします。




