第50話 再会
朝食兼、少し早い昼食をゆっくり食べた。
その後、俺たちは馬を疾走させていた。
「レオが寝てくれて、助かったな」
「ああ、そうだな」
不服そうに返事をするのはエドガー。
レオが俺と馬に乗ると言って聞かなかった。
「いいかげん、諦めろ。あれだけ怖がらせたお前が悪い」
「そうだが……」
困ったやつだ。
「ギクシャクしていたのが、元に戻ったんだ。良しとしろ」
「分かっている」
「そんな事より、密偵がアルバートに使われていただろう」
俺は気になることを伝えた。
「ああ、見つかっていたな」
頷き答えるエドガー。
「俺たちに付いていたのは、分かったはずだ。なら、それ以外の情報だろう」
俺は推測を話す。
「ああ、レオを観察していたしな。アルバートも、あの二人も」
エドガーも気付いていたか。
レオのことだしな。
「そうだ、だが悪意はなかった。それに、ルークは、まったくレオに関心がなかった」
「ああ、どちらかというと」
俺に並走し視線を寄こした。
「俺たちだな、ハハハ」
エドガーが愉快そうに笑う。
「ああ、強者が好きなんだろう」
ルークは冷静に見えるが、戦闘狂だろうな。
俺たちを見る目が、戦いたい一色だった。
「フッ」
思わず笑いが漏れる。
「久しぶりに、面白そうなやつだったな」
「お前には、珍しかったな。教えてやるなんて」
「ん~、そうか? もったいないだろ?」
そうじゃない、教えてくれと来た者は断って、筋が良い奴にはアドバイスを送るところだよ。
騎士団に貴族からクレームが来ているんだが、本人は気にしてないな。
「まぁ、いい。話を戻すぞ。アルバートは密偵が持っていた、飛書魔法を使っている」
「は? 報告を受けたのか?」
「いや、べつの奴だ、懇意にしている奴がいたから、知ることが出来た」
「そうか、なら用心して早く向かったほうがいいな」
「ああ、同感だ」
「飛書魔法か、十中八九」
「レオだろう」
「だな、急ごう」
俺達は逸る気持ちを押さえながら、王都に向かった。
****************
ずっと馬を走らせ、まもなく日が暮れる。
レオは疲れていたのか、起きる気配がない。
気になるのが、子供なのに体温が低い。
まるで、少しでも命の時間を伸ばすように、体力を温存して静かに眠っているように見える。
「エドガー、この先に野営ができる場所があったと思うが、覚えているか?」
「ああ、あそこの2つの岩を越したらすぐだ」
「分かった、そこで一晩過ごそう」
「そうだな。レオは起きそうか?」
「いや、そんな気配はないな。だが、夕食を取らせたほうがいい」
レオをじっと見ながら頷くエドガー。
「リック、スピード落とせ、俺が先に行って見てくる」
「ああ、頼む」
エドガーはスピードを上げ、先に場所の確認へ行った。
この辺は、魔物が来ること少ないはずだが、念のためだ。
俺はスピードを徐々に落として、周りの気配を確認する。
「問題なさそうだな」
エドガーが言っていた目印の2つの岩を通り過ぎると、エドガーが馬を降りているのが見えた。
こちらに気づいたエドガーが軽く手を上げ答える。
問題ないようだ。
エドガーの側で馬を止め、レオをエドガーに渡す。
俺も馬を繋げエドガーが準備した、焚き火の所へ行き座って一息つく。
「レオは、まだ寝ているな」
「ああ、ぐっすりだ」
「まぁ、疲れるよな」
伯爵家から出発して、馬のスピードを怖がり、感情に任せて魔法を発動。
寝て、起きたら誘拐だからな。
頭で反芻する。
「そうだな……」
焚き火を見ながら返答するエドガー。
何を考えているのやら。
「おい、あまり考えすぎるな。やっと普通に話せるようになったんだろ?」
「ぐっ」
言葉を詰まらせるエドガー。
「はは、レオは気にしてなかっただろう? それより協力しろと、言われたんじゃないか?」
目を白黒させるエドガー。
「お前がそんな表情をするようになるとはな」
睨まれる。
「いい意味でだよ」
レオに会ってから本当に色んな顔を見せるからな。
隠されると面白くないから黙っておこう。
「結構、距離稼げたな」
「ああ、これなら公爵邸にいく前に、1日は王都観光できるだろう。お前もエリーに会ってこい」
「時間があったらな、まずはレオの事が優先だろう。それに、こっちの行動はバレてるぞ」
「1日ぐらい問題ない。レオの身なりも整えないと」
「確かにな。エリーに頼むか?」
「いや。適任がいるだろ?」
「適任? 誰……まさか」
「ああ、そのまさかだよ。あいつなら、レオを気に入るだろうし、箝口令引くまでもなく黙っていてくれるさ」
「まぁ、そうかもな。だが、レオに刺激が強すぎるんじゃないか?」
「問題ないだろ、すぐ慣れるさ」
だと、いいがな。
思わず遠い目になる。
****************
俺はリックの馬に乗っていたはずだが、ここはどこだ?
「悠人、こっちじゃ」
「じいさん?」
声が聞こえて振り向くと、そこは懐かしい家の居間。
「は?」
驚きに固まる。
「む、ここは感情が揺れるようじゃの、こちらが良いかの?」
そんな声がしたら、目の前の景色が一変する。
満開の桜がそこにあった。
目が奪われる。
「悠人は、この花が好きなのじゃな」
「綺麗だね」
じいさんの声以外に聞こえた高い少年の声に、そちらを見ると見慣れた姿がそこにあった。
「……レオ?」
美しい少年は、少しはにかみながら笑う。
「うん、悠人さん。やっと会えましたね」
「……」
「ほれ、呆けていないで、こちらに座るといいの」
じいさんの声で我に返り、そちらを向くと神様がいた。
真っ白の服に、真っ白な長い髪、杖……はないな。
「神様だ」
「……ちょっと、失礼じゃの。わし、ずっと神様だの」
「え、あ、いや。いつも光の玉だから……」
「ふふふ、悠人さんも慌てるんですね」
レオが柔らかく笑う。
そうか、こんな表情で笑うのか、可愛いな。
思わず頭を撫でる。
「お? 俺の体に戻っている!?」
「うむ。レオがいるからの。しかし、悠人。その姿なんとかならんのか?」
「ん? 俺の姿がどうかしたか?」
姿を見える範囲で確認する。
いつものスーツに革靴だ。
特に気になるところはないが。
「格好ではないの。ほれ」
じいさんが渡してきたのは手鏡だ。
「鏡?」
見ろとジェスチャーされ、自分を見る。
久しぶりの俺自身の顔だ。
ふむ、やっぱりエドガーやリックより、俺のほうが年上だな。
「悠人……」
「ふふふ……」
「なんだ? 二人して」
「そなた、容姿に無頓着すぎんかの?」
「ああ、髭か。刑事やっていると、年上に見られたほうが、都合がいいんだ」
鏡を見ながら、髭を擦る。
素顔だと舐められるからな。
「ここでは必要ないの」
「ん? ああ、まぁな」
言ったとたん、光に包まれる。
鏡を見ると、綺麗さっぱり髭がなくなり、髪までさっぱり整えられていた。
「便利な魔法だな」
「……」
「……」
二人の視線が突き刺さる。
「なんだ?」
髭がなくなり、スースーする顎をさすりながら聞く。
「悠人さん、綺麗系ですね」
綺麗系……。
「レオ、綺麗というよりハンサムだの」
「ハンサム」
「綺麗は女性に使うのじゃ」
「そうなんですね。分かりました」
なんの教育だよ。
「ほれ、座って、お茶でも飲みながら話そう」
「はい」
桜の側にテーブルと椅子が用意され、お茶菓子が置いてあった。
レオが椅子を引いてくれる。
「ありがとう」
隣に座ろうとするが、レオには椅子が大きいように見える。
「レオ、こっちに来い」
俺は手を伸ばしてレオを引き寄せ、膝に乗せた。
「このほうが飲みやすいだろう」
「あ、ありがとうございます」
「気にするな、飲み物はこれか? 砂糖は?」
「2つで」
「ん、ほら。熱いから気を付けて飲めよ」
「ほほ、いつもとは逆じゃの」
俺とエドガーのことを揶揄ってくるじいさん。
「ほっとけ、で? 要件は? レオが話せるようになったから、呼んだだけか?」
違うだろ?
という意味を含めて視線を送る。
「そなたは、可愛くないのう」
「28で、可愛いもないだろうが、それで?」
レオが取りやすいように、菓子の皿を近くに置きながら聞く。
「そなたの呪い、予想よりまずい状態じゃ」
「そうか、どのぐらい持ちそうだ?」
予想の範囲内だ。
3週間は欲しいところだが。
「そなた、達観し過ぎではないか?」
「慌てたら伸びるのか?」
「……伸びないの。1ヶ月は無理そうじゃ、3週間かの。動けるのは2週間ぐらいになるだろう」
「2週間、魔法を使ったら?」
「動けるが、3週間持たないの」
「わかった。なんとかなるだろう」
王都に着いて、公爵に会って、それから……予定を考えていると、小さい声がした。
「ごめんなさい。悠人さん」
「ん? 大丈夫だ、ちゃんと皆を守ってやるから」
「そうじゃ、ありません。僕が、僕のせいで悠人さんは……」
青い瞳に涙をためて、訴えるレオを可愛いなと思ってしまった。
俺は悪くないよな?
エドガーも構うはずだと、余計な事を思う。
「レオ、落ちついて。ちゃんと聞くから、レオのせいだとは思わない。だから安心して話せばいい」
背中を擦ってやり、落ち着くのを待った。
いつも読んで頂きありがとうございます。
第50話まで書き進めることが出来たのは、
読んでくださる皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
次回 7/22 (水) 20時~22時に更新します。
よろしくお願いします。




