第48話 残された二人
ディオン、ガイルに続き、店の奥に戻ろうとしたアルバートだが、一歩も動かずずっと三人が去った方角を見ているルークを見咎めた。
「ルーク」
咎めるように呼ぶ。
「しませんよ」
苦笑いするルーク。
そこから真面目な顔に切り替わる。
「アルバートさん、本当に、大丈夫ですか?」
「問題ない」
「しかし、依頼人はヴァルディア公爵ですよ」
ぎょっとしてアルバートはルークに詰め寄り、小声で話す。
「迂闊に帝国の公爵の名を言うな。どこで誰が聞いているか分からん」
「す、すみません」
アルバートに凄まれルークも萎縮する。
「お前、まだ俺に萎縮するか。まだまだだな」
「簡単に言わないでください」
「ハハ、だがな。俺に勝てなきゃ、あの二人のどちらと戦っても勝負にならんぞ」
息を飲むルーク。
「そんなにですか?」
「お前だと、まだ実力差も分からんかもな」
「精進します。それで?」
「なんだ?」
「誤魔化されませんよ」
「お前は、頭が回るな。なんでリーダーをしないんだ?」
「面倒くさいからです」
表情変えずに言い切るルークに、苦笑いするアルバート。
「そうかよ。はぁ、わかった。本当に、なんの問題もない」
「なぜです? アルバートさんに、これ以上迷惑は掛けられません」
「落ち着け、こっちにも頭使え。『ご依頼の子供は、アルヴェリア王国のアルシオン公爵家が保護しています。一介の冒険者では話ができません。そちらから、申し出をお願いします』みたいな感じで、報告書と手紙を送れば済む」
「そんなもんですか?」
「確かに国力は帝国より弱いが、アルシオン公爵家は王家の血筋だ。あちらの公爵より格式が上になる」
「なるほど」
「ルーク、そのへんは、お前が頭に入れろ。あの二人はダメだ」
嫌そうな顔をするルーク。
「リーダーやらないなら、そのぐらいカバーしろ。次になにかあっても、俺は助けんぞ」
「……分かりました」
しぶしぶ頷く。
「ほら、行くぞ」
「はい」
ルークはもう一度、三人の去った方角を見てアルバートに続いた。
****************
市場から離れ、人混みを抜ける。
「エドガー、リック、ごめんなさい」
「気にするな。で、なんで笑ったんだ?」
「えっと、怒らないでね?」
頷く二人。
「あの人達の、二つ名? とパーティ名が……」
思い出すと笑えてくる。
ぐっと我慢する。
「面白くて、つい」
「……」
「……」
二人とも、黙っちゃった。
なんで?
こっちだと、あれが普通なの?
中二病が!?
「えっと……?」
「レオは二つ名が嫌いなのか?」
「ん~? 嫌いではないけど、面白いよね」
「格好良いとは思わないのか?」
「特に思わないかな」
「欲しいとは思わないか?」
「え? 絶対嫌だ」
「そうか」
「……」
なんだろう?
《 ぐぅ~ 》
「あっ」
お腹を押さえる。
「お腹すいた。二人は何か食べているの?」
「いや、食ってない」
「だな」
「なら、もう町出ない? 収納に入っているから、外でゆっくり食べよ。なんか、疲れちゃった」
俺の言葉を聞き、頷き合った。
「わかった、そうしよう」
「ああ」
二人は、そう言うとあっという間に門までたどり着く。
そこに黒い人、ルークさんが走って来た。
「待ってくれ」
リックもエドガーも怪訝そうにしながら立ち止まる。
「これ、さっき並んでいた店から、助けてもらったお礼にと預かってきた」
袋を差し出す。
リックが受け取り、中を確認する。
「ああ、あの露店の物だな。美味そうだ」
そう言って、俺とエドガーにも見せてくれる。
「美味しそう」
「そうだな」
エドガーも頷く。
「ありがとう。店主にも伝えてくれるか?」
「ああ」
「でも、なんでお前が?」
「一番足が早いから」
簡潔で分かりやすい答えが返ってきた。
「なるほど」
頷くリック。
「悪かったな、助かった。良かったな、レオ」
エドガーも警戒心を解いた。
「うん。ルークさん、ありがとう」
俺はフードを少し持ち上げて、顔を見せて礼を言う。
目を見開いて、頷く。
「なるほど、大変だな。気を付けて」
納得顔で頷きながら言うルーク。
「まぁな」
エドガーが軽く笑いながら答え、じっとルークを見る。
「お前、ルークだったか、重心が少し右にブレる。そこを直せ」
そう言って、歩き出すエドガー。
固まるルーク。
「確かに、ほんの少しだが直すといい。エドガーは筋の良いやつにしか言わない。頑張れよ」
ルークの肩を叩いて、エドガーの横に並ぶリック。
「余計なことを」
「照れるな」
珍しく、エドガーが照れている。
「ありがとうございます!」
後ろから大きい声がして、振り返るとルークさんが腰を折り、頭を下げて顔を上げた。
エドガーとリックはふっと笑い、軽く片手を上げて答える。
なんか二人とも格好良いじゃん。
「精進します! 今より強くなったらお手合わせお願いします! 白銀の大剣、疾風の剣! お会いできて光栄でした」
再度軽く頭を下げ、颯爽と去っていったルークさん。
え?
「白銀の大剣……? 疾風の剣?」
言いながら二人を見ると、気まずそうに視線を逸らす。
ああ、なるほど、だからさっき変だったんだな。
「二人とも、二つ名があったんだね」
「ああ」
「まあな」
「ふふ、格好良いじゃん」
ピタッと固まる二人。
「嫌いじゃないのか?」
エドガーが聞き、リックも視線を寄越した。
「嫌いってわけじゃないよ。面白いけど、自分はいらないけど。でも、二人には合っていると思うよ?」
「そうか」
エドガーは言いながら、ホッとした表情をした。
リックは苦笑い気味だ。
「二人は名乗らないんだね、二つ名」
「当然だ、自分で言うもんじゃないな」
「ああ、そうだな」
「そうなんだ」
怪訝そうな顔をしていたのか、エドガーが聞いてくる。
「どうした?」
さっきのパーティの筋肉のすごい人が、自分で『粉砕王のガイル様』って言っていた……から、ふふふ」
思い出し笑いをする。
「なるほどな。言いそうだな」
「ああ」
二人して苦笑いをした。
「じゃ、これ持って町を出よう。少し行くと開けた場所があった筈だ。そこで食べよう」
「ああ、そうしよう」
門に預けられていた馬を回収して外に出る。
「エドガー、俺が先に行って場所を確認して来る。お前はレオとゆっくり来い。走るなよ?」
「え? いや、俺が……」
「うん、分かった。走らないなら大丈夫」
被せ気味に、俺がリックに返答をする。
エドガーが不安そうな顔で俺を見る。
「大丈夫だよ? でも、馬を走らせないでね?」
「わ、分かった」
嬉しそうな、困ったような顔でエドガーは返事をした。
「じゃ、行ってくる。ゆっくり来い」
「ああ」
返事を聞き、リックは颯爽と馬にまたがり、歩き出し振り返った。
「お前ら、いい加減に微妙な空気なんとかしろ。俺は器用じゃないから、上手く間に入って仲介はできない。レオ、こいつは不器用なんだ。頼む」
え? 俺なの?
「う、うん」
「リック! お前は余計なことを言うな」
「あのな、完璧に隠せないお前が悪い。ぎこちなさが出すぎて、『何かあります』がダダ漏れで、レオに心配を掛けている」
「え?」
驚いて俺の顔を見るエドガー。
え?
気付いてなかったの?
あれで?
俺は黙って頷いた。
「~~~」
エドガーは、声にならない声を上げ、髪をかきむしる。
「そういう事だ、じゃ、後でな」
リックは、言うだけ言って去っていった。
あれだな、言い逃げだ。
心配だけど、自分ではどうにも出来ないから、俺に丸投げしたよ。
「……」
「……」
とても微妙な空気です。
リックが俺の扱いに慣れた気がする。
俺、子供だぞ?
エドガーを見ると、視線を逸らしていました。
「……」
こっちのが、子供に見えてきた。
まぁ、前世からしたら、俺のが年上だからな……。
仕方ない。俺が聞いてやろう。
「とりあえず、出発しよう?」
「あ、ああ。そうだな」
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次回 7/15 (水) 20時~22時の間で更新します。
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