第47話 笑いから生まれた誤解
リックがエドガーの元に走っていくのを見送る。
俺はアルバートさんを見て、冒険者二人を見る。
「大丈夫だ。ちゃんと守ってやる」
見ていたのが、不安がっていると思われたようだ。
アルバートさんが、リックが使っていた椅子に座り、安心させるように笑った。
「ありがとう。大丈夫だよ」
言いながら、アルバートさんの手元を見る。
太い指でアクセサリーを包んでいるが、やりにくそうだ。
それに、得意ではなさそうだった。
「アルバートさん、俺が包んでもいい?」
「ん? ああ、いいぞ。これが包装紙だ」
「ありがとう」
俺がアクセサリーを包んでいると、じっと見てくるアルバートさん。
「レオ、器用だな」
「そう? ありがとう」
まあ、手作業は得意だからな。
すると、冒険者の二人もやって来て、俺の手元を覗き込んだ。
「ほんとだ、上手ですね」
弓を背負った人が、感心したように穏やかに言った。
「は~、よくそんな細かいことできるな」
筋肉……、豪快な人が若干引きながら言う。
聞きながら包み終えて、貰った紐で結び封をする。
「できた。リックの分も一緒にまとめてくれる?」
「ああ、ほら」
俺とリックの分を、一つの袋にまとめてくれる。
「ありがとう」
それを受け取り、抱え込む。
ここでは、収納は使えない。
「お前、すげーな。良かったな」
「本当ですね。良かったですね、アルバートさん」
「大きなお世話だ」
その会話に首を傾げる。
「アルバートさんは、子供には怖がられて泣かれるんですよ」
「そりゃ、そうだ。なんたって、鋼鉄の熊だからな~」
バシッと大きな音を立て、頭をアルバートさんに叩かれて、前につんのめる筋肉。
「その名を呼ぶなと、言っているだろうが!」
鋼鉄の熊……。
「そうです。熊ではありません。アルバートさんは『不落の盾』という二つ名があるんですよ。熊なんて失礼です」
弓の人の頭にも、げんこつが落ちた。
不落の盾……。
やばい……。
「それも、呼ぶなと言っているだろうが」
鬼の形相で怒るアルバートさん。
「格好良いじゃねーか」
「そうですよ。アルバートさんの功績を称えて付いた二つ名ですよ。喜んでくださいよ」
「俺が! 嫌がっているんだ。同じこと言わせるなよ」
拳を上げて二人を睨む。
二人は後ずさり黙り込む。
「まったく、最近の奴らは変な名前をかってに、付けやがって」
「変じゃねーよ。格好良いのにな~」
「ああ?」
思いっきり睨まれ、肩を竦める筋肉。
「お前らのパーティ名も、どうにかできんのか?」
「どうしてです? 格好良いじゃないですか」
弓のお兄さんが不思議そうに言う。
「パーティ名?」
「ええ、僕ら三人、今一名いませんが、パーティ組んでいまして。パーティ名は、その名も『黒き翼の解放者』です。格好良いでしょ?」
目を輝かせ言う弓のお兄さんの後ろで、筋肉がうんうんと、頷く。
黒き、翼の解、放者……。
無理!
めっちゃ、中二病じゃん!!
「ふふ、あははは」
「え? なんで笑うの? 格好良いのに?」
「お前が陶酔して話すからだろう。自分たちのパーティ名を高らかと言うかよ」
「なんでだ? いいだろう。『黒き翼の解放者』はBランク冒険者で、名が知られているんだから」
筋肉が少し不服そうに言う。
無理、中二病炸裂やめて!
お腹痛い。
お腹を押さえて、笑いを堪えるためにうずくまる。
「あれ? どうかした? お腹痛いの?」
普通に心配してくれる、弓のお兄さん。
ごめん、今顔見るとパーティ名が……。
フルフルと首を振り答えるのがやっとだ。
「なんだ? どうした?」
筋肉がやってくる。
「ガイル、あなたは来なくていいです。子供には怖いんですから」
「なに言ってやがる。俺は子供達の憧れだろ! なんてったって『粉砕王のガイル様』だからな!」
「くっ」
やめろ!!
頼むから、我慢できなくなる。
更に力を入れてうずくまり、笑いを堪える。
「なんだ~? 坊主、大丈夫かよ?」
全然、大丈夫じゃない!
二人のせいで笑い死にしそう。
「ねえ、本当に大丈夫?」
俺に触れようと手を伸ばしたお兄さん。
次の瞬間、地面に倒れる。
足で押さえ付けられ、剣を向けられていた。
俺は、いつもの腕に守られるように、抱えられていた。
「な!」
筋肉が声を上げようとした瞬間、組み伏せられ首筋に剣がピタリと当てられる。
「お前も動くな」
エドガーの低い声とともに、風が吹く。
アルバートさんは、黙って両手を上げていた。
その周りには、風の刃が浮いている。
「レオ、大丈夫か? 何があった!?」
エドガーは、矢継ぎ早に聞いてくる。
俺は驚いて、笑いが引っ込んだ。
助かった。
「大丈夫か? レオ」
呆けている俺にリックも声を掛けてきた。
あ、誤解とかないと!
「何でもない、何もされてないから、三人を放してあげて」
俺は、エドガーとリックに訴える。
だが、二人は厳しい目を三人に向け、俺の腹を見た。
「違う違う!本当に誤解だから!!」
そこに、やたらと落ち着いた声が響いた。
「この二人、また何かしたのか?」
上から下まで黒で統一されている。
黒髪だ! 格好良いな。
そうじゃなくて!
「違います。何もしていません」
頼むから、誤解されるような事は、言わないでくれ。
「お前は?」
エドガーの低い声が、黒いお兄さんに掛けられる。
「俺はルーク、こいつらのパーティメンバーだ」
「パーティ?」
「ああ、Bランクの『黒き翼の解放者』だ。そこそこ、名は知れていると思うが」
黒のお兄さん、ルークさんは淡々と言う。
エドガーはリックを見る。
リックは首を振る。
「そいつらのことは、俺が保証する。離してやってくれないか」
アルバートさんが、風の刃を向けられたまま声を掛けてきた。
それを見たルークさんが、目を見開く。
「アルバートさん!」
そう言いつつ、ルークは腰の剣に手を掛けようとする。
「まて! ルーク動くな」
アルバートさんが止める。
一触即発の寸前だ。
その場に緊張が走る。
周りの人達も何事かと集まりはじめた。
「通してください」
そこに聞き覚えのある声が響く。
「アルバートさん、何事ですか? いったい……」
そこまで言って、リックとエドガーに気づき、姿勢をただし敬礼する。
「エルドラン様、失礼しました。何があったのでしょうか?」
不安そうに聞いてくる。
「ラウリーか、知り合いか?」
リックはアルバートさんに視線をやり、ラウリーに聞く。
あ、さっきのグレン様の騎士の人か。
「あ、はい。それなりに。その方は元冒険者、Aランクのアルバート殿です。数々の功績を残され、授与されています。お二人もご存知かと」
リックとエドガーは顔を見合わせ、二人とも首をひねる。
「あ~、」
言いにくそうに、チラッとアルバートさんを見るラウリー。
「申し訳ありません、アルバート殿。不落の盾の二つ名の方です」
「ブッ」
俺は慌てて、両手で口を塞ぐ。
忘れていたのに、思い出したじゃん。
エドガーが怪訝そうに見たが、説明はできない。
「不落の盾、ああ、あの。あなたが、そうですか」
リックは分かった様で、肩の力を抜いた。
「エドガー、大丈夫だ」
エドガーはリックに言われ、魔法を解いた。
風魔法使えるんだ、エドガー。
「お前ら、何もするなよ」
解放された、アルバートさんは、足蹴にされている二人に言った。
二人は無言で頷く。
「リック、エドガー、本当に誤解だから、離してあげて」
俺の声に二人は視線を合わせ、アルバートさんと、二人を見下ろす。
「分かった。大人しくしていろ、変な動きをすれば、腕を切り落とす。いいな」
リックが凄みのある声で言う。
魔力もれている……わざとか。
顔色を悪くして、黙って頷いた二人。
それを見て、リックとエドガーは二人を解放する。
「アルバート殿、先程は失礼した」
「問題ない、レオのために動いたんだろう。当然の行動だ。あと、殿はいらん」
「感謝する。ラウリー、少しいいか」
黙って、成り行きを見ていたラウリーは姿勢をただし、リックに付いて少し場所を離れた。
「エドガー、ちょっと降ろして」
「だが」
渋るエドガー。
「本当に、ただの誤解だから」
ちょいちょいと、エドガーに手で合図する。
俺に耳を近づけるエドガー。
「後でちゃんと説明をするけど、笑いを堪えていただけなんだ。本当にごめん」
「は?」
「説明は、後で。降ろして、謝りに行く」
呆気にとられながらも、エドガーは俺を降ろしてくれた。
二人の所に行って、謝る。
苦笑いしながら、気にするなと笑ってくれた。
何でもないなら良かった、とまで言ってくれたよ。
優しい人達で良かった。
「アルバートさん、ごめんなさい」
「気にしてない。何でもないんだな?」
俺のお腹に視線を向けるアルバートさん。
「うん、大丈夫。ありがとう」
「ほら、大事なものだろ、落としていたぞ」
プレゼントの入った袋を渡してくれる。
「あ、ありがとう」
「レオ、行くぞ」
エドガーが呼びに来た。
「うん」
「アルバート、さっきは悪かった」
エドガーが謝る。
「はは、気にするな。レオを守るのは大変そうだな。気を付けて行け」
「ああ、失礼する」
そう言って、俺を抱えあげてリックの所へ向かう。
俺はアルバートさんたちに手を振った。
「ありがとう」
「気を付けてな」
アルバートさんやラウリーさん、ルークさんと後の二人も手を振ってくれた。
あの二人の名前、聞いてないな。
ま、いいか。
****************
レオ達が離れて行くのを見届け、息を吐くアルバート。
「大事にならずに済んで良かった」
「なんですか、あの二人?」
腕をさすりながら、ディオンは言う。
「お前ら、この件はここまでだ。俺から報告しておく」
「は? なんでだ? 怪しいだろ、あの二人」
ガイルは不服そうに言って、三人が去った方角を見つめる。
「お前らでは到底かなわん。それに、あの姿は変装だ」
「誰ですか? 二人とも、すごく強い」
寡黙なルークが珍しく興味を示した。
「あの二人は、アルシオン公爵家の騎士だ。ガイルを押さえた方が、副団長のリック・エルドラン。ディオンを押さえたのは、第一副隊長のエドガー・フォン・グランフェルトだ」
「は?」
「あ?」
「……」
「良かったな。五体満足でいられて」
蒼白になる二人。
「あの二人が、——白銀の大剣と疾風の剣」
目を輝かせるルーク。
「ルーク、絶対にダメだ。いいな」
「わ、分かっています」
「レオを保護したのはアルシオン公爵家だ。手出しはできん。いいな」
三人は頷き答えた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今回は笑って楽しんでもらえてたら嬉しいです。
次回 7/11 (土) 20時~22時更新予定です。
よろしくお願いします。




