第46話 想いを知る
二人は会話もせず、馬の近くで待っていた。
重症だな。
「悪い、待たせた」
「いや」
「大丈夫だよ」
二人して、あからさまにホッとした顔を見せる。
溜め息をぐっと我慢する。
「市場へ寄っていいか、さすがに腹が減った」
俺はそう言い、ぎくしゃくしている二人を市場へ連れ出した。
馬たちは市場に入れないらしく、俺達の様子を伺っていたラウリーが声を掛けてきた。
街の門まで連れていき預ける事を買って出てくれた、助かった。
街を歩きながら、横目で様子を見る。
レオは市場に行けるのと、街が楽しいのだろう。
キョロキョロと好奇心旺盛に周りに目移りしているようだ。
エドガーは、そんなレオを優しい目で見ていた。
レオは言いつけを守りフードを被っていて、周りが見にくそうだ。
容姿が整いすぎているレオは目立つ。
しかも本人は無頓着すぎて、無防備なのが困る。
エドガーがヒゲを剃れば、視線が分散されるか?
いや、別の問題がでそうだな。
「エドガー、あれ美味しそう」
「あ~、確かに美味そうだな。食べたいか?」
「食べたいけど、すごく並んでいるね」
「どうした?」
エドガーが視線で混み合っている露店を指した。
「かなり人気みたいだな」
俺達三人の視線に気づいたのか、目の前の露店の主人が話しかけてきた。
「あんた達、この町に来たばかりか? あの店で売っている、クープが美味いんだ。生地がもちもちしていて、肉や野菜を包んで売っているぞ、運がいいと甘いのもある。並んで買っても損はしないぞ。しかも、あの店は不定休で、やっている時に来られるなんて、あんた達ついているよ!」
俺達は顔を見合わせる。
「俺、食べたいな」
「時間はあるし並ぶか」
俺が驚いて目を見開くと、黙っていろよと目で訴えられた。
こいつは、待つことが嫌いで並ぶことなんてしないのに。
人ってこうも変わるものかと、呆れながら感心した。
「あんたら、並ぶなら一人だよ。全員で行くと、すごい人数になるから、そうなっている」
「なるほど」
「早く行ったほうがいい、売り切れるぞ。デカい兄さんより、あんたの方が行ったほうがいい。怖がられるかも知れないからな」
「分かった。ありがとう」
「リック、レオを頼む。適当に買ってくるぞ」
「うん。甘いのも売っていたら買ってきて」
「ああ、わかった」
レオに優しく微笑みながら、俺にレオを渡す。
そして、素早く人混みを抜けていくエドガー
「兄ちゃん、早いな」
主人が感心してエドガーの移動を見ていた。
レオが主人の店の商品を覗き込む。
「これ、女性の髪留め?」
「お、坊主、好きな子でもいるのか?」
「違うよ、お世話になった人がいるから、見ていたの」
「そうか、そうか。これは妻の手作りで、他では売ってないぞ。自慢じゃないが、人気製品だ」
「手作りか、確かに珍しいな」
俺は一つ手に持って、眺めた。
レオも一緒になって眺めている。
可愛いやつだな。
「リック、ここで買ったやつ、モニカや子供達に届けてもらえる?」
「それは、構わないが。モニカってだれだ?」
「セイ、気の弱そうな男の子のお姉さんだよ。見送りの時、隣にいたメイドさん」
「ああ、あのメイドの娘か、知り合いなのか?」
「怪我の手当や、食事を用意してくれて、ロベルトを連れてきてくれたんだよ」
「そうか、何かあれば買って届けよう」
「本当?ありがとう。最後に挨拶できなかったから、気になっていたんだ。手紙も書きたいけど良い?」
「それなら、着いてから手配しよう」
「うん、ありがとう」
「どれがいいんだ?」
手に持ったのを戻しながら、レオに商品がよく見えるように、前かがみになる。
すると、主人が恐る恐る声をかけてきた。
「貴方様は、お貴族様でしたか? とんだ失礼を致しました。うちの店は貴族様に満足いただくものは置いておりません。お貴族様用でしたら、中央噴水の右奥に並ぶ店舗が良いかと」
手を揉みながら、下手に出てくる主人。
貴族に売ったはいいが、難癖を付ける貴族でもいるのだろう。
「おじさん、心配ないよ。プレゼントするのは平民のメイドの人と、子供達だから」
「しかし……」
冷や汗を掻きながら困った顔をする主人。
レオもその様子に、困った顔をして俺を見てきた。
「主人、これを」
俺は主人にだけ見えるように、騎士の徽章を見せる。
「こ、これは!」
俺は直ぐに唇の前に人差し指を立て、静かにとジェスチャーする。
主人は慌てて両手で口を押さえる。
そんな様子を見て、レオはクスクスと笑った。
「おじさん、リックとエドガーはね、俺を助けて保護してくれているの。だから、変な貴族じゃないから安心していいよ。だから、商品買ってもいい?」
レオはフードに手をかけ、主人にだけ見えるよう顔を見せる。
レオを見たとたん、息を飲む主人。
「こりゃ、また」
呆ける、主人。
俺が咳払いをすると、正気に戻ってレオに向き合う。
「はは、君に頼まれたら断れないな」
「ありがとう、おじさん。俺はレオだよ」
主人はチラッと俺を見る、頷き答える。
「そうか、レオって言うのか。好きなものを、ゆっくりと選んでくれ」
「うん」
見にくいだろうに、レオは文句も言わず俺に抱っこされたままだ。
降ろしてやりたいが、こちらを見ている視線で気になるのがあるから、降ろせない。
気にしつつも、俺もレオと一緒に商品を見る。
「俺は、これとこれ、それにあれも見せて」
レオはサクサクと決めていく。
子供たちの分は髪色で選んだようだ。
俺も一つ手に取る、エリーに似合いそうだ。
普段使いならいいかもな。
エリーは素朴なものを好む。
視線を感じて顔を上げると、レオがニコニコしながら見ていた。
「奥さんへのプレゼント?」
「あ、ああ」
「それなら、普段使いに良さそうだね。品もあるから、いいと思う」
何目線なんだ?
レオの手元を見ると、全部決まったようで、なかなかのセンスだった。
意外だ。
「今、意外だとか思ったでしょ」
「い、いや、そんなことはない」
「はは、騎士様もレオには弱いな。商品を包むから、こっちの裏に椅子がある。あんたデカくて場所取るから、こっちで休んでくれ。もう一人の騎士が来るまで休むといい」
「いいのか?」
「かまわん、さっきの詫びでもある」
なるほど、貴族で一括りにしたことへの詫びか。
なかなか律儀な男だな。
「受け取ろう。助かる」
俺はレオと一緒に主人の露店裏に置いてある椅子に座る。
「レオ、疲れてないか?」
「うん、大丈夫だよ。——」
何か考える素振りをして、ソワソワするレオ。
「どうした?」
「うん、その、知っていたら教えて欲しいんだけど、エドガーの様子がおかしい理由知っている?」
驚愕だ、あの聡いレオがまったく気付いてないとは……。
「理由に気付いてなかったのか?」
「う、うん。え? そんなに分かりやすい理由なの?」
頭を抱えた俺は悪くないと思いたい。
そこから、レオにエドガーが何に悩んで、気にしているかを説明した。
聞き終わったレオは、唖然として固まった。
「は? なにそれ?」
少し経つと顔を真赤にして驚くレオ。
照れているのか、怒っているのか、——判断がつかない。
「まったくエドガーのせいじゃないよね?」
早口で言い募る。
「確かに、頭では理解している。俺だって後悔しているんだ」
「リック……。そんなことは」
「ああ、レオの言いたいことも分かる。だが、感情は違うだろ? もし、レオの大切な人が、レオの立場で、レオがエドガーの立場だったら、どうだ?」
「そ、それは……」
俯き考え込むレオ。
少し待っていると、顔を上げるレオ。
その瞳には確固たる意思が見受けられる。
「やっぱり、おかしい。後悔したなら、この先を精一杯守ればいい。エドガーは、それをちゃんとしてくれている。それなのに過去を後悔したら、全てを受け入れて前に進んでいる俺に失礼だよ。うん、そうだよ。そう思うでしょ? リック、おじさん」
たまたま裏の様子を見に来た主人は巻き込まれた。
「お? おう。何か分からんが、拗れているなら後悔しないように、ちゃんと話せ、それが一番だぞ」
レオの気迫に押されながら、言いきる主人。
正論を言いきったレオは主人の言葉を聞き頷く。
「うん。そうだね。俺が言ったのは正論だけど、エドガーの気持ちをちゃんと聞くよ」
「ああ、それがいい」
主人は笑って、レオの頭を撫でた。
その様子をみて、一歩前進したと安堵していたら悲鳴が上がった。
悲鳴が上がった方を見ると、例の店舗が発生源だった。
しかも、女性店主を庇って、立ち回りをしているのはエドガーだった。
「勘弁してくれ」
そう言うと、ポンポンと腕を叩かれる。
レオだ。
「行ってきて」
「だが……」
レオを一人にする訳にはいかない。
「俺、おじさんとここに居るから、大丈夫」
言いながら俺に頷くレオ。
主人に目をやると、頷かれた。
「今じゃ、この店舗の主人だが、これでも元冒険者で、Aランクだ。しっかり守ろう」
「Aランク!?」
「俺のことは後でいいから、早く行ったほうがいいぞ」
露店に視線を送る主人。
エドガーの心配はないが収拾が必要か、どうせあいつは徽章を持っていないだろうからな。
仕方ない。
「すまない、レオを頼む。レオ、無茶はするなよ」
「うん」
レオの返事を聞き立ち上がる。
「旦那、俺らもいるから安心して行ってきなよ」
「そうそう、俺らも一緒に守ってやる。さっきから、あんたらを見ていた奴らは眠らせといたぜ」
男が二人、気付いたら近くに来ていた。
俺が気づかないとは、思わず剣に手をかける。
「騎士様、こいつらは俺の後輩で現役の冒険者だ。そこそこ、有名だぞ」
「そこそこって、ひでーな。アルバートさん」
「アルバート?」
俺が名前を呼ぶと、主人は嫌そうに早く行けと片手を振る。
「収拾しづらくなるぞ、終わったら紹介する」
「あ、ああ。レオを頼む」
「大丈夫だ、心配性だな」
「リック気を付けてね。俺なら大丈夫だから」
一番不安な返事をもらいつつ、エドガーのいる所へ走って向かった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
レオ、気付いてないなんて……。
楽しんでいただけたなら嬉しいです。
次回 7/8 (水) 20時~22時に更新します。
よろしくお願いします。




