第45話 ぎこちない二人
リックが少女を、俺が居た部屋に運び入れ鍵をかける。
「リック、少年が助けに来るかも知れないよ」
「それは大丈夫だ。見つけて拘束してある」
リック、仕事早いな。
「そうなんだ。人質の部屋はあっちだよ」
俺はエドガーを見ないようにして、リックと会話をした。
なんか気まずい。
「ここに通路があるんだけど」
壁を指して周りを見る。
リックが壁や床を調べる。
「この辺には仕掛けはないな」
「レオ、これ、魔力を感じる」
エドガーが俺に見せたのは、窓の枠に付いている装飾品の一部だ。
他の窓にも同じような物が付いている。
「本当だ、これだけ魔力を感じる」
エドガーを見て頷く。
触れようと手を伸ばすと離された。
「エドガー」
文句の声を上げる。
「レオ、魔力を帯びているものに、むやみに触ったらダメだ」
「え? そうなの?」
「……」
「……」
無言で俺を見る二人。
そしてお互い無言で顔を合わせ、溜め息を付いた。
「二人して、なに?」
むっとしながら問いかける。
「頼むよ、レオ」
弱々しい声で、俺をぎゅっと抱きしめるエドガー。
え?
そこまで心配することなの?
「……レオ」
俺が分かってない顔をしていたのだろう、呆れた声でリックに名前を呼ばれた。
「えっと?」
思わず首を傾げる。
「レオが抱えている物も、魔力だろ?」
「あ……」
そうだった。
どうも、呪いに魔力がすぐ結びつかない。
仕方ないだろう、日本では魔力がなくても呪いがあったんだ!
心で叫ぶ。
「ごめん。呪いと魔力がすぐ結びつかなくて、ごめんなさい」
二人がジト目で見てくるから、ちゃんと謝罪した。
「あまり心配掛けるな」
意味ありげな目で見てくるリック。
「うん、気をつける」
そう言いながらも、抱きしめるエドガーの手の震えが気になって、上の空で返事をしていた。
「まったく、どうして……」
そのせいで、リックの独り言は俺の耳に届かなかった。
「エドガー、離れていろ。俺が確認する」
「ああ、頼む」
エドガーの手の震えが止まったから、俺も意識が装飾品に向く。
リックが魔力を纏わせたら、後ろの壁が開いた。
「「「……」」」
気まずい空気が流れる。
「これは簡単な仕掛けだっただけだ。レオ、魔力を帯びたものは、調べてからだ。いいな?」
「うん。わかった」
リックに念を押された。
俺って、そんなに信用ないかな?
俺が釈然としないでいると、ぽんぽんと優しく体を慰めるように叩かれた。
見上げると、エドガーが困ったような優しい顔をしていた。
「二人は、ここで待っているか?」
「いや、一緒に行こう。何があるか分からないからな」
「そうだな、頼む」
「俺も確認したい」
魔力で探ったから大丈夫だけど、どのぐらい正確に探れるかも確認したい。
「わかった。じゃ、俺が先に行くから、エドガー後ろを頼む」
そう声を掛けて、入口に入り階段をおりていくリック。
大人一人が通れる幅の狭い階段だ。
「ああ」
返事をしてリックの後に続くエドガー。
そうそう、行動は二人が基本だ。
うんうんと頷くと、上から笑いが聞こえた。
「ふっ」
俺が見ると真顔に戻るエドガー。
ヒゲに手を伸ばすも止められた。
「レオは、手加減ないからダメ」
「へぇ~、手加減ありで、ヒゲを引っ張られてことがあるんだ」
「え!? いや、そんな、ことは……」
オロオロとしながら、声が尻すぼみになるエドガー。
そこまで動揺しなくても、今度は俺が笑う番だった。
「ふふ」
「お前な~」
エドガーに頬を引っ張られる。
「いひゃい」
リックから冷静な声で突っ込まれる。
「お前ら、じゃれるなら上で待っていろ」
「「じゃれてない!」」
「そうかよ、ほら着いたぞ」
呆れ声で視線を向けたリック。
そちらを見ると、人質の子供たちと視線がバッチリ合う。
「え、えっと、助けに来たよ」
俺が言うと、何とも言えない顔で子供たちは顔を見合わせる。
「そこから出してやる」
エドガーは、投げやりに宣言する。
「あ~、すまない。この二人は気にしなくていい。俺はアルシオン公爵家の副団長、リック・エルドランだ」
リックは言いつつ金縁の徽章を、子供達に見えるようにかがんだ。
子供達はそれを見て、リックをもう一度見る。
子供達の反応に、リックはゆっくり頷いた。
子供達は全身の力を抜き、ホッとしたり、笑顔を見せたり、泣き出す子もいた。
皆を連れて移動しようとしたが、体調の悪い子や、怯えて動けない子もいた。
「俺が人を呼んでくる。エドガーとレオは、ここに残って待っていてくれ」
そう言って、階段を駆け登っていったリック。
俺とエドガー、役に立ってない気がする。
「エドガー、降ろして。話し聞いてみる」
「あ、ああ。牢に触れるなよ」
「う、うん。大丈夫」
危なかった。
魔力を見てなかった。
「レオ、ちゃんと確認する癖をつけろよ」
バレてた。
「うん。ごめんなさい」
「怒ってない。気を付けてくれればいい」
そう言って俺の頭を撫でた。
撫でた手が離れるのを、寂しく思った。
****************
俺は階段を駆け上がりながら、二人の様子を伺った。
まだぎこちない二人。
「まったく、世話が焼ける」
レオより、エドガーが重症だ。
グレン様は、最悪のタイミングでエドガーの心をさらに追い詰めた。
エドガーが、ずっと後悔していたのは気付いていたが、ここまでだったとはな。
俺は各場所を確認しながら、建物を出る。
「ラウリー」
呼ぶと、すぐ駆けつけてくる。
「制圧は完了した。人質の子供達も発見、最優先で、子供達を安全な場所へ移動するように。犯人は拘束してある」
ラウリーに報告して人数を集め、対応に当たらせる。
どうやら、ラウリーは指揮が向いていないようだった。
仕方なく、ここは俺が指揮を取ることにした。
「エルドラン様、子供達の救出が完了し、犯人たちの拘束も無事終了しました。これより、犯人たちを移送します」
「ご苦労だった。子供達は、まず体調の確認をして、必要な処置を取るように。最後に、私達が連れている少年レオについて、箝口令を引く。一切情報を漏らさないように」
「は!」
ラウリーの肩に手を置き、低く告げる。
「もし、情報がもれた場合、全体責任となり辺境伯にも責が行くことを忘れないように」
ゴクリと喉を鳴らすラウリー。
「しょ、承知しました」
肩から手を外し、真剣な目でラウリーを見る。
「これは、少年レオの命に関わることだ。頼んだ」
ラウリーは目を見開き、真剣な表情で答えた。
「必ず厳守させます。ご安心を」
俺は力を抜き、ラウリーの肩を軽く叩きながら歩き出す。
「二人が戻ってきたようだ。少し待て」
頷くラウリーを横目に、エドガーとレオの元に移動する。
遠目から見ても、ぎこちなさが分かる。
苦笑いしか出ない。
「二人とも悪かったな」
「問題ない」
「大丈夫だよ。リックこそ、お疲れ様」
「ああ、子供達から何か聞けたか?」
「うん。聞いたこと、伝えといたよ。えっと」
「ジョディだ」
「そうだった。ジョディって人に伝えといた」
「分かった。ありがとな」
「うん」
嬉しそうに笑うレオ。
これは、かなり話を聞けたな。
子供から話を聞くのは骨が折れるから、助かる。
「エドガー、あちらに馬を用意してある。そこで、二人で待っていてくれ」
「宿に戻るのか?」
硬い声で聞いてくるエドガー。
「戻らない。荷物も馬に括らせてある。それに、グレン様も了解済みだ」
エドガーは肩の力を抜いた。
そんなエドガーを心配そうに見ているレオ。
この二人を早くどうにかしないとな。
「すぐ戻る」
俺はラウリーに伝えに行くと、ちょうど、そこにジョディがいた。
レオが伝えた話は詳細で、かなり役に立つようだ。
子供達から確認も取れたようだ。
確認を済ませ、出立の挨拶をする。
「俺達は、このまま出立する。後のことは任せる」
「は、承知しました。あの、エルドラン様」
チラッとエドガーの方を伺いながら、遠慮がちに声を掛けてくるラウリー。
「どうした?」
「その、エドガー様に謝罪をと、この度はご迷惑をおかけしました。また、お力添え感謝いたします」
そう言って、深々と頭を下げるラウリー。
それに習いジョディも頭を下げる。
「わかった。お前たちの謝意は受け取る。だが、気にするな。ラウリー達は命令に従ったまでだ。だが、罪が軽くなることはない。それは忘れないように」
「もちろんです。謹んでお受けします」
「ああ、ではな」
「はい。お気をつけて」
頷き、その場を後にして、エドガーとレオが待つ場所に向かった。
さて、一番の問題が残っている。
朝市は終わったが、中央には市場が開いているだろう。
そこに行って、なんとか……できるだろうか。
いつも、お読みいただきありがとうございます。
ぎこちない二人を心配しているリック。
次回、元に戻るはず。楽しみにお待ちください。
次回 7/4 (土) 20時~22時の間に更新します。




