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元刑事、異世界で真実に辿り着く  作者: 月乃音


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第44話 すれ違う想い

俺はエドガーを追って建物に入った。


「……」


——やり過ぎだ。


「どう暴れたら、こうなる……」


まぁいい。

後始末するのは、表の連中に丸投げすればいい。

転がっている連中を確認する。


「とうぶん起きないだろうが、念のため拘束しておくか」


俺は拘束魔法を使い、一箇所にまとめておく。

入口からこれとは、奥はどうなっているんだ。


溜め息をつきながら、奥に続く扉を開けた。




****************




サンドイッチを口にする。


「……」


なんか味気ない。

最近はエドガーとリック、三人で食べていたからな。

無言で咀嚼(そしゃく)する。


「クッキーは後で食べよう」


静かだな。

あの宿から、ここまでの距離はさほどない。

エドガーたちなら、もう来ていい頃なんだけど。


「遅いな、足止めされている?」


紅茶を飲みながら考える。


「ん~、俺を餌にした。じゃなくて、今だから俺を餌にできた、か。踏み込む前に準備するからな」


当たり前のことだった。

調べて下準備をして、万全な状態で踏み込む。

鉄則を忘れるなんて。


「あ~、ダメだ。刑事の俺、今から必要なんだよ。ちゃんと戻ってきてくれよ」


机に突っ伏せる。

子どもの身体、恐ろしい。


「引っ張りすぎだろう。精神年齢」


あれ?

まてよ、そうすると……。

サンドイッチに手を伸ばす。

食べながら考える。


「これは、最初から組み込まれていた? あり得るな、俺はおまけだろうが、二人は戦力になる」


あらら。

大丈夫かな?

グレン様。


「エドガーはもちろんだけど、リックも相当怒るんじゃないかな?」


リックは怒らせないほうがいいタイプな気がするけどな。


「ん?」


なんか振動が。


「あ!遮音までしていた!」


俺は慌てて遮音魔法を解除すると、同時にエドガーが結界を破り部屋に入ってきた。


「レオ!!」


飛び込んできたエドガーは、俺を見た瞬間に怒りの形相から、安堵した表情に変わった。

そして、俺の手元のサンドイッチから机のティーセットに視線が動く。


その場に、崩れ落ちるエドガー。


「エドガー!?」


俺は食べかけのサンドイッチを皿に置いて、エドガーに駆け寄る。


「どうしたの? どこか怪我でもしているの?」


膝をついているエドガーの身体に、怪我がないか確認する。

すると、一度大きな溜め息を吐くエドガー。


「大丈夫だ、怪我はしてない。——レオ、心配した」


そう言って、安堵しながら少し困ったような顔で、そっと俺の頬に手を伸ばし撫でるエドガー。

その手は震えている。

本能で “まずい” と思った。

俺はそのままエドガーの懐に飛び込み抱きついた。


「俺は怪我してない。大丈夫だから」


エドガーの顔を覗き込む。

視線が合うと目を逸らされる。

ズッキっと胸が痛む。

そんな俺の頭を、エドガーの手がぎこちなく撫でる。


「怪我がなくて良かった」


良かったというエドガーの目は、後悔を色濃く映していた。

撫でていた手は、俺を抱き上げることもせず離れかけ、咄嗟に掴む。

驚いた顔をするエドガー。

俺も何を言っていいか分からず、黙り込む。


「……」


「……レオ?」


黙ったままの俺を訝しみ(いぶか)、俺の顔をみて手を俺に伸ばした。


「あ! 私も助けて!! ここの人たちに捕まっていたの!」


少女の声が割り込み、エドガーの手が完全に俺から離れ、声のした方に体を向けた。

エドガーが立ち上がり後ろを向いたことで、少女の顔が見えた。


少女がエドガーに駆け寄り、抱きつこうとした手を俺は払い除けていた。


《バシッ!》


「きゃ!」


少女は驚いて悲鳴を上げて、尻もちを着いた。


「エドガーに触るな!」


「な、なにするのよ!?」


少女は文句を言いながら、こちらを見て目を見開く。


「あ、あんた。何でこんな所にいるのよ! 地下に入れられているはずじゃ」


「——地下?」


少女の言葉に、地の這う低い声が返される。

それに、ビックっと体を震わせ、目を泳がせる少女。


「人質、や、子供、そう! 私達は地下に入れられたの」


なんとか誤魔化そうとする少女。


「なぜ、君だけここに? 他の子供は?」


声そのままで、少女に問いかけるエドガー。


「そ、それは……」


しどろもどろになる少女。


「見苦しいな。幹部の子供のくせに、自分だけ逃げるのか? 俺を飼うとか言ったこと忘れたか?」


「——飼う、だと?」


低い声に魔力が加わり、俺でさえゾワッとする。

少女はガクガク震え、腰を抜かして涙を流していたが、恐怖で声が出せないようだ。

さすがに、これは止めないとまずいと思い振り返る。


「エド、——エドガー!!」


震えて握りしめる拳から血が流れているのを見て、魔力のことなど忘れてエドガーの手を掴み、回復魔法をかける。


「レオ。レオ、もう大丈夫だ」


エドガーが止めるが、俺には聞こえてなかった。

俺の手に大きな手が重ねられ、そっと手を捕まれる。


「レオ、もう大丈夫だ」


俺はその声に顔を上げて、エドガーを見る。


「本当に?」


「ああ」


エドガーが笑った。

キュと口を結ぶ。

目がにじみそうになるのを耐えて、両手をエドガーに伸ばす。


「……」


いつもなら、すぐ抱えてくれるのに、迷っているのがわかった。

ぐっと唇を噛んで、手を降ろそうとしたら、横から抱えられる。

驚いて見ると、リックだった。


「リック」


「ああ、大丈夫か? レオ」


「うん」


エドガーを見ると、こちらを向いていたのに、また視線を逸らされる。

俺はリックの服を、無意識にぎゅっと握った。

リックはそれに気づき、俺の頭を優しくなでた。


「大丈夫だ」


リックはいつもと変わらない。

良かった。


「レオ、少しこのままいいか? 確認しないと」


そう言うリックの視線は、床にしゃがみこんだ少女を見ていた。


「ああ、その子は俺を攫った組織の幹部の娘。後、宿を走って出ていった少年の妹だよ」


「その妹が、どうしてこんな状態に?」


まだ震えて、涙を流している少女。

もうエドガーの魔力は収まっているが、よほど怖かったのだろう。


「あ~、その子が俺の顔を見たとたん。俺を飼うと言った事をエドガーに教えたんだ」


「なるほど」


納得してエドガーを見たリックは、困った顔をして頷いた。


「不器用な奴だな」


ボソッとリックが呟いて、周りを確認するリック。

部屋を見て、俺を見た。


「レオは、ここに監禁されていたのか?」


「うん、この顔は高く売れるからって、この部屋に連れてこられた」


リックの体が一瞬固くなる。


「エドガー」


「分かっている」


そんな二人のやり取りに首を傾げる。


「なんでもない。待遇は良かったみたいだな」


リックは机の上を見て言った。


「あ、あの食事は俺が出したやつ」


「は?」


「だって、朝市行けなくて、お腹すいたから」


「そ、そうか。怖くはなかったのか?」


「……まったく」


「はは、レオが怖くなかったならいい」


「うん。リック、あれ片付けるよ」


「ああ、そうか。いや、ここで待っているか? 人質を探さないと」


「一緒に行くよ。俺、人質が居るとこ分かるし」


「連れて行かれたのか!?」


俺の言葉に即反応したのはエドガーだ。


「う、ううん。魔法で探っただけだよ」


「そ、そうか」


あからさまに安堵するエドガー。

そんなに心配してくれるのに、なんで視線が合うと目を逸らすの。

溜め息が上から聞こえた。


「どうしたの?」


「ん? なんでもない。ほら、しまって。人質の所に案内してくれるか?」


「うん」


「これは、食べればいい」


リックは、食べかけのサンドイッチが乗った皿を取ってくれる。

俺は首を振る。


「いいのか? 俺がもらっても?」


「え? いいけど、食べかけだよ?」


「捨てるの、もったいないだろ」


そう言って、残りを一口で食べた。


「紅茶飲む? コップ出すよ?」


「そのコップでいい」


俺が使っていたコップを指して、自分でポットから注いで飲んだ。


「美味かった、ありがとう。しまっていいぞ」


「うん」


俺は机に出していた物をしまい、部屋を出る。

リックは少女を見て、エドガーを見る。

嫌な予感がして無意識にリックの服を掴んだ。


「エドガー、レオを頼む」


「あ、ああ」


ぎこちなく返事をして、俺をリックから受け取り、そっと抱えた。

なんだろう、なんか無性にイライラしてきた俺は、エドガーのヒゲを思いっきり引っ張った。


「ちょ、痛いって、レオ? イタタ、ちょ、力、強いって」


ちょっと、スッキリした。

なにも言わず、エドガーにくっついて顔を隠した。



いつも読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら嬉しいです。


次回 7/1 (水) 20時~22時に更新します。

よろしくお願いします。

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