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元刑事、異世界で真実に辿り着く  作者: 月乃音


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第43話 譲れない一線

今、俺は小部屋に監禁された。

ベッドと机のある、小綺麗な部屋だ。


チラッとドアを見る。

俺を連れてきた奴は、とっくに去っているようだ。


「甘いな」


貴族の子供だから、大人しいと思っているようだ。

俺はベッドに寝転がり、部屋に結界を張る。

エドガーに渡された石に、魔力を流す。


これで、俺の仕事は終わり。

何もする気はない。

手持ち無沙汰で石を眺める。


「……これ、魔石だよな?」


エドガーは石としか言ってない。

まぁいい。

ふて寝する。

朝市、楽しみにしていたのに。

エドガー、朝市終わる前に迎えに来てくれるかな。


「エドガー、大丈夫かな?」


朝のエドガーの様子を思い浮かべ心配になる。

窓から少し身を乗り出した俺を、結界まで破り引き寄せた。

抱きしめる腕は震えていた。


「何を、そんなに思い詰めているんだろう。俺の体のことは、エドガーには関係ないのに……」


考えても、理由を思いつかない。

ゴロンと寝返りを打ち、石を眺める。


「一緒に行きたかったな、……朝市」


石をポケットに入れる。

収納に入れると、場所が分からないらしい。

魔力途切れるからね。


「お腹すいたな~」


エドガーが俺を降ろす時、グレン様と目があった。

あの目は確信犯だ。

俺を攫わせて、この拠点を見つけるための。

俺、グレン様の前で本性出してないよな?


「俺が餌にされるとはね」


エドガーを信用しての行動か。

俺への態度から、保険が懸けられていると踏んだのか。


普通、地下に閉じ込められて、暴力を振るわれていた子供を餌にするか?

いくら、盤石な保険があるからと言っても、子どもの心の傷は広がるだろう。

味方だと思って、信じていた大人が餌にしたんだ、当然だ。


「腹立つな、でも動けば思うツボな気もする」


考えても、今の体の状態じゃ無理だ。


「魔法が最大限使えたらな~、グレン様を追い込めるのに」


子供を恐怖に追い込んで、魔力暴走を起こさせた。


「あ、これだと、エドガーにも飛び火するか。ダメだな」


何かないかな。


「それにしても、ここの連中お粗末だよな……」


どう見ても、ほぼ素人だ。

グレン様が、上手くリックとエドガーを俺から放した。

それに、俺が抵抗しなかったから成功した誘拐だ。


「逃げた少年がグルだと分かっていたら、捕まらずに阻止したな。良かったね、グレン様」


そう、あの時人混みから飛び出し、走り出した少年は俺達とすれ違う時に呟いた。

『俺のせいで、妹が』と、よく考えれば、妹と言わず名前を呼ぶよな。


「俺としたことが、だいぶ鈍っているよな。あんな単純なことに気づかないなんて」


ため息が出る。


「しかし、あんな子供まで犯罪に手を染めるのか、この世界は……」


あの少年と、その妹。

いたよ、元気に。

俺の顔を見た途端、俺を飼うと言い出した……。


「本気で引いた」


父親が幹部なようで、強請(ねだ)っていたが、即却下されていた。

ありがとうございます。

どうやら、俺は高く売れる商品になるようだ。


「おかげで、個室で良い部屋に入れてもらえたんだがな」


複雑だ。

気になるのは、他にも攫った子供がいると言うこと。


「まぁ、場所は分かったから、問題ないな」


売る前に馬鹿なことはしないだろう。


「でもな~。本当に幹部なのか? あの動き、どう見ても素人だろう。元の俺なら、一人で制圧できそうなんだが」


ん~。

異世界の犯罪者は、あの程度で十分ということだろうか?


「分からん」


ん~。お腹すいた。


「あ、収納にあるな。食べるか」


俺は、ベッドから起き上がり収納を確認する。


「ん~。朝だし軽めにしようかな。もしかしたら朝市、間に合うかもしれないしな」


サンドイッチとクッキー、紅茶セットを机に出した。




****************




部屋に行こうとしたら、一人の男が飛び込んできた。


「グレン様! エドガー様を止めてください!」


男から出た言葉に、憤り(いきどお)を感じた。

思わずグレン様を睨む。


「…どういう事ですか?」


俺の魔力を込めた怒りの声に、男は固まった。

グレン様は、片眉を上げて罰の悪そうに視線を逸らす。

エドガーと同じ仕草だ。


「グレン様?」


目の前に行き、逃げられないように問いかける。


「……」


無言の抵抗か、無駄なのに。


「何も言う気がないなら仕方ありません。ここからは、別行動させていただきます。レオを奪還し、エドガーと三人で公爵家へ向かいます」


それだけ言って背を向ける。


「待て、今行かれては困る。お前たちも大事な戦力なんだ」


「お断りします。ロベルト殿、公爵様はご存知なのですか?」


押し黙るグレン様。

それが答えだ。

これ以上、付き合う必要はない。


「失礼します」


「待て」


俺を取り囲むように、男が四人。

舐められたものだ。


「どういうおつもりですか?」


「言っただろう、お前たちも戦力だ」


思わず笑ってしまう。


「グレン様、あなたはエドガーの父親で、辺境伯であられる。だから、敬意をもって接していました。ですが、私たちの任務の邪魔をする権利はありません。私とエドガーの主は公爵様です。お忘れですか?」


憮然として何も言わないグレン様。

時間をこれ以上無駄にしないでくれ。


「グレン様、あなたは正義で動いているのでしょう。ですが、それを我々に押し付けないで頂きたい。公爵様を通して抗議させていただきます」


苦虫を噛み潰したような顔をするグレン様。

この人は、聞いた通りの人のようだ。


正義感が強く民に人気がある。

だが、周りの状況を一切気にせず巻き込む。

被害を受けても、辺境伯の地位に居るため、公爵へ助力を求めてきた貴族も居たほどだ。

歩く災害ならぬ、『歩く天災』。

誰がつけたのか、的を射ている。


「待て、謝罪する。数日でいい」


謝罪する態度ではないな……。

エドガーが家を出た気持ちが、少し分かった気がした。


「お断りします。そんな時間は我々にはない。それに、レオは4年もの間、地下室に閉じ込められ暴力を受けていた。つい最近、その暴力で記憶をなくしました」


苦しそうに、俯くグレン様。

悪い人ではないんだがな。

俺はグレン様に少し近づき、グレン様にだけ聞こえるよう話す。


「なぜ、分からないのです。レオは、レオの身体は限界なんです」


勢いよく顔を上げ、俺を見てくる。

伯爵家で説明したはずだが……。

ストレートに言わないと伝わらないようだ。


グレン様の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「そういう事です。あなたの息子が必死に守っている大切な者を、あなたは餌にした。大方、エドガーが大切にしているから、万全な体制だと思ったのでしょうね」


両膝に置かれたグレン様の拳が、震えるほど強く握りしめられていた。


「――エドガーは、もう二度と家に帰らないかも知れませんね」


俺はそう言い残し、その場を離れる。

俺を追おうとした男たちを止め、一人を案内につけようとするグレン様に断りを入れた。


宿を出る時、様子を伺うと、うなだれるグレン様の姿が見えた。

その隣には、恐ろしい顔をしたエミールがいた。


思いっきり叱られるといい。

そう思いながら、俺は急ぎエドガーとレオのいる場所へと急いだ。



人だかりが見えた、急いで向かうと一触即発の場面だった。


「エドガー!」


声を張り上げる。

そこに居た者たちが一斉にこちらを向く。

それには気にせず、エドガーに聞こえるように声を上げる。


「話はつけた! 問題ないから、行け!」


その言葉を聞いたとたん、勢いよく駆け出すエドガー。

周りの者は、そのスピードについて行けず取り残される。


「動くな! 私はアルシオン公爵家の副団長、リック・エルドランだ」


俺は上着の内ポケットから、金縁の徽章を取り出し掲げた。

それは、アルシオン公爵家の紋章が刻まれた、副団長の証だ。


それを見た瞬間、全員が息を飲む。


「今回、辺境伯であるグレンハルト・フォン・グランフェルトは、我々の護衛対象である少年を、事件に巻き込み危険に晒した! これは重大な越権行為である」


ここまで、声を張り伝える。

再度、全員に視線をやり声を押さえ静かに告げる。


「この件については、アルシオン公爵へ報告する。罪状については沙汰を待つように。この時より、ここに居るものは私の指揮下に入ってもらう。このまま、ここで待機せよ」


俺の発言を聞き、辺境伯がこの地に送り込んでいた者たちは、顔色を蒼白に変え黙り込んだ。

気の毒だが、見過ごすわけにはいかない。

それに、脅しも必要だ。


俺は、全員をゆっくり見回す。

すると、代表らしい男が前に出てくる。


「お前が、ここの指揮官か」


「はい。ラウリーとお申します」


「ラウリー、詳細は不要だ。俺達は少年を保護したら、この件には一切かかわらない。保護した後は、今まで通り、ラウリーが指揮を取るように」


そう伝えると驚いたような目をする。

俺は何も説明せず、少し頼み事をして、エドガーが入っていった建物を見る。


「そろそろ終わるか?」


エドガーの魔力が少し落ち着いた気がした。


「え!?」


驚く声を上げたのは、ラウリーだった。


「ん? 要件は済んだのか?」


「は、部下に手配させています。問題ありません」


「そうか。少しここを頼む。様子を見てくる。俺が声を掛けるまで待機するように」


「はっ、承知しました」



いつも、お読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら嬉しです。


次回 6/20 (土) 20時~22時の間で更新します。

よろしくお願いします。

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