第4話 すべて話してほしい
それから、俺はモニカの話を聞くに徹した。
冷静に話せるタイプかと思ったが、違った。
まぁ、まだ若いし女性だしな。
感情的になり話が脱線しそうになる度、モニカに飲み物や食べ物を勧め、内容をまとめ確認する。
この作業の繰り返しになった。
こんなに長く、女子の会話に付き合ったのは初めてだ。
本筋に話を戻すのに、精神がゴリゴリ削られた。
「……と、以上になります」
やり切ったという顔で話を終わらせる彼女、ちょっと憎らしい。
だが、話の内容からしたら、ものすごく可愛らしいことだ。
聞いたことを一つでも思い出すだけで、怒りが込み上げる。
「ありがとう。よく、よく分かったよ」
俺は握りしめた拳を震わせながら、なんとかモニカに感謝する。
自分でも目が座っているのが分かる。
「いえ、上手くお話できずに、お時間取らせました」
その証拠に、モニカが怯えて小声になっている。
「すまない。モニカに怒ってないよ」
話の途中で怒りを抑えられず、机に拳を叩きつけヒビを入れて怖がらせてしまった。
領民を持つ伯爵だと? 聞いて呆れる。
「ふざけるなよ……」
ボソリと呟いた声に、モニカが息を飲んだのに気づかなかった。
犯罪の巣窟だ。
この俺に、俺の眼の前でよくもやってくれたな。
死ぬほど後悔させてやる。
どうしてやろうかと思考を巡らしつつ、顔を上げると蒼白になったモニカがいた。
「どうした!?」
「だ、大丈夫です。そのレオ様の魔力が、魔力を……」
震えていて上手く言葉にできないようだ。
「魔力?」
目を閉じて深呼吸を繰り返すモニカ。
「レオ様の魔力に当てられたのです。魔力を抑えていただけますか?」
「俺の魔力? どうやって押さえれば?」
「怒りを沈めてください。今はレオ様の怒りの感情が、魔力を放出しています」
「わ、分かった、やってみる」
今度は俺が深呼吸を繰り返す。
怒りを沈める。
冷静になれ、冷静に。気を鎮めろ。
部屋に沈黙が落ちる。
静かに、まぶたを上げる。
「どうだ? 収まったか?」
ホッとした顔のモニカがそこに居た。
幾分、顔色が良くなっている。
「はい。もう大丈夫です」
「良かった」
ホッと息を吐く。
「怖がらせてしまって、申し訳ない」
俺は頭を下げた。
「レオ様!頭をお上げください!」
「だが……」
「私の話を聞いて、怒ってくださったのでしょう」
「当然だ!」
勢いよく頭を上げて言い切る。
「ありがとうございます。とても嬉しい……です」
涙ぐみ声を詰まらせるモニカ。
今度は俺がオロオロする番だ。
「嬉しい? どうして?」
涙を堪えて俺を見つめる。
「貴族であるレオ様が私の話を遮らず、最後まで聞いてくださいました。使用人である私たちの現状に憤り、怒ってくださった。無意識に魔力が膨れ上がるほどに……。それが、何より嬉しいのです。本当にありがとうございます」
「モニカ……」
言葉に詰まる。
同じ人間なのに、階級社会はここまで歪むのか?
掛ける言葉を悩んでいると、爆弾を落とされた。
「ライガード神様のおっしゃった通りです! レオ様は私たちを救ってくださる神童! ライガード神様が、加護をお与えになるはずです!」
「……は?」
なんて!? ちょっと待て! 何だって!?
「ライガード神様の愛し子」
モニカにうっとりと見つめられ、全身にゾワッと悪寒が走る。
思わずドスが効いた声で、聞き返していた。
「あ? なんて?」
「い、いえ。失礼致しました」
じっと見つめて、言い聞かせる。
「今言った、神童、加護のことや愛し……なんとかは、二度と発言するな。誰にも言うな。いいな」
ニッコリ笑って伝えれば、コクコクと頷くモニカ。
「確認だが、ライガード神は俺に加護をつけたと言ったのか?」
「はい」と頷く。
「どんな加護か、聞いているか?」
「いいえ」と首を振る。
「そうか……」
じいさん!本人に言えよ。
加護って何だよ!?
荒ぶる内心は隠して、話を進める。
「話がそれた。モニカから聞いた話を簡単にまとめる。
1,俺は伯爵の息子ではなく。伯爵が連れてきた女性の連れ子で詳細は分からない。
2,俺の母が亡き後、魔力が伯爵の息子ダリルより多いことが分かり、暴力が始まる。この事は伯爵も知っていて容認している
3,今働いている使用人達は、全員人質を取られ伯爵に逆らえない。それは騎士も同じ。
4,この屋敷で幅を効かせているのは、伯爵が連れてきた傭兵達。人数はリーダー含め全員で7人。
5,人質は別館で隔離され、そこに見張りが2人。よって、この屋敷には傭兵5人。
6,モニカは弟が人質にされている。
7,人質の子供達は一部屋だが、大人は個別に隔離されている。
8,この屋敷から別館へ行く道に野犬がいる。この野犬は傭兵の持っている笛で管理されている
これで合っているか?」
「はい。大丈夫です」
「それで、執事だったか? 俺の傷の手当を毎回しているロベルト、信用できるのか?」
「はい。間違いなく。レオ様もロベルト様には、懐いておられました」
「……そうか。早く思い出せるといいが」
懐いてって、複雑だが……。
モニカの目に、そう映っていたのなら、心を許していたのかも知れないな。
「ロベルトは、俺の母親が来たときからいたのか?」
「はい、そう伺っています」
「モニカは?」
「いえ、私はお会いしておりません。こちらに来て、後少しで3年になります。私の後に雇われた者はおりません」
「そうか……」
俺が悩んでいると、おずおずとモニカが話しかけてくる。
「あの、レオ様。その、ロベルト様も啓示を受けておられます」
「は?」
モニカだけじゃないのか?
「お伝え忘れておりました、申し訳ありません」
確かに、一人とは言ってなかったな。
複数なら教えておいてくれ。
眉間をもんで、落ち着かせる。
「うん、気にしなくていいよ。他にもいるか知っている?」
判断不要で味方と分かるなら大歓迎だ。
「いいえ、私は存じておりません」
「そうか。とりあえず、ロベルトに会うと伝えてくれ」
「承知致しました。では、私はそろそろ戻ります」
席を立とうとするモニカ。
「モニカ、座って」
首を傾げ、でも言われた通り座り直す。
「ダメだよ」
「えっ?」
「モニカ、全部伝えてと言ったよね?」
「はい。全てお話したと思いますが……」
首をかしげ、思案顔になるモニカ。
「本当に? モニカのことも?」
「え、ええ。はい」
本当に素直な子だ。目が泳いでいるよ。
「嘘だね。扉の前で男が言っていた、3ヶ月後のことを聞いてないよ?」
ニッコリ笑う。
「ひぇ!」
変な悲鳴を上げる。
失礼だな、優しく聞いているのに。
「どうしたの?」
黙って待っていると、目を彷徨わせて、オロオロとしだす。
「そ、それは……」
口ごもる、言いにくいか。
「言えない? それとも言いづらいかな?」
目を見開き、下を向くモニカ。
「……申し訳ありません」
「ロベルトは知っている? 知っているならロベルトから聞くよ、それならいいね?」
「……はい」
「ありがとう。責めているわけじゃないよ。言いづらいこと聞いてごめんね。それと、安心していいよ。その3ヶ月後は来ないから、ね?」
モニカは、顔を上げて目を見開いて俺を見る。
安心させるように、頷く。
大きい目に見る見る涙がたまり、こぼれ落ちる。
「あ、ありがとう……ございます」
そう言って、声を押し殺して泣き出す。
……困った、泣き止まない。
こんな時、どうすればいいんだ?
悩んだ結果。
俺は椅子から立ち上がり、モニカの頭を撫でた。
すると余計に泣き出した……。
好きなだけ泣かせることにした。
頭を撫でながら、思案する。
話を聞く限り、ロベルトは古参だ。
これは、期待できる。
かなりの情報を持っているだろう。
最初にする事は、人質の安全確保からだな。
野犬か、数匹と言っていたが、正確な数が知りたい。
「レ、レオ様。その、申し訳ありません。ありがとうございます」
お、泣き止んだようだ。
顔が赤い。
メイドのときは澄ました顔をしているが、年相応で可愛らしい一面もあるな。
「いいよ。大丈夫か?」
「はい。で、では、片付けてロベルト様にお伝えします」
「ああ、頼む。ロベルトに、できるだけ早く来るように伝えてくれ。俺はこの後でも構わないから」
「しかし、それではレオ様がお休みになれません」
「目を覚ましたのは遅かったし、途中でも寝ているから大丈夫だよ。それに、こういう事は動き出した時がチャンスだ。早いほうがいい」
俺の顔をみて、渋々頷く。
「承知しました」
そこからモニカの行動は早かった。
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