第3話 思い出した名前
気づくと夜桜を眺めていた、綺麗だな。
「冷えるな。神崎、寒くないのか?」
聞き覚えの声に振り向く。
屋上に居た男に声をかけ、横に並び桜を見て話をしている。
あれは、白井警部と……俺!?
俺だよな、どうなっている?
俺はここに……、自分を見ると透けていた。
状況を飲み込めずにいると、スマホの着信音が響いた。
意識が二人に向く。
「待て!神崎!」
走り出した俺に、待ったをかける警部。
俺は声を無視して屋上から出ていった。
……知っている、俺はこの場面知っている。
この後、俺は……。
場面が切り替わる。
「そいつです!」
声が響く。
そこには横断歩道へ急ぎ、男と少年の間に入る俺がいた。
間に入ってはダメだ!避けろ!!
次の瞬間、スローモーションのように倒れる俺を見る。
あ、あぁ……。俺は、ここで……。
ズキリと頭が痛み、酷い頭痛に耐えられず意識が途絶える。
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なんだか暖かく心地がいい、意識が浮上する。
「目覚めたか、大丈夫かの?神崎悠人、本当に申し訳なかった。あの者に記憶が封印されていたのを、解除した。徐々に記憶は戻るからの」
なんか、じいさんの声が聞こえる。
記憶……。
俺は、あぁそうだ。俺は神崎悠人。
刑事で、あの日あの場所で刺されて……。
「うむ、悠人の人生に加え、こちらの世界まで……。見つけるのが遅くなってすまなかった」
……誰だ?
「うん?私は神じゃよ。そうそう記憶の封印を解いたからの。能力も解放されて、使えるようになっておる。使い方も自然と分かるはずじゃ、」
「ちょと、待て待て」
思わず口を挟む。
俺を置いて話を進めるな。
頭がついていかない。
「起きたか。良かった」
「ん? あぁ」
目を開けると、薄暗いあの部屋だった。
夢じゃないのか……。
しかし、こちらが現実だと言い切るには、曖昧すぎる。
確かなのは、今は俺が少年としてここに居ることだ。
頭を整理していると、すぅ~と、目の前に光の玉がやってくる。
「うわ!」
思わず、飛び起きて壁際に身を寄せる。
ひ、人魂!?
「む、驚かせたかの、すまない」
光の玉が弱々しく光、揺れる。
「さっきから勝手に話していた、じいさ……いや神様なのか?」
「そうじゃ」
光が先程より明るくなった。
「は、はじめまして」
「いや、会っておるぞ。あぁ、思い出さなくても良い。多くを一度に、思い出そうとすると体に負担がかかる。焦らずとも良い」
「わかっ、分かりました」
「ほほ、普通に話して良いぞ」
「そうか、助かる」
「順応早いの~。まぁ良い。む、もう時間がないようじゃ、その前に怪我を治しておこうかの、傷が見るに耐えん」
「まった、傷はこのままでいい。体内、内傷だけ治して欲しい。傷は証拠になるからな。後できたら筋肉つけられないか? この体、貧弱すぎる」
「ほぉ、傷を証拠に。面白い、あい分かった。筋肉は無理だの、魔法を使うと良いの。
色々考えておるようだ、好きにするが良い。だが、子供では出来ることが限られる。そこでじゃ!そなたの味方になる者に啓示をしておいたぞ。神の啓示じゃ、心強いであろう」
光の玉が膨らみ、クルクル回る。
うん、胸を張っているのが想像つく。
「ありがとうございます」
「うむ。また様子見に来るからの。落ち着いたら、この世界を楽しんでくれると嬉しい。ではの」
そう言い残して、光の玉は消えた。
部屋は一瞬で暗くなり静かになった。
「俺は、神崎悠人……。刑事で……」
走馬灯のように見た最後を思い返す。
細かいところは、まだ思い出せない。
「……犯人は逮捕できただろうか?」
自分の最後をダイジェスト版で見るとはね。
「本当に、あれで最後なのか……」
無意識にもれた言葉に、悔しさ、怒りに悲しみが渦巻く。
涙腺が緩み、顔を上げる。
「柄じゃねぇな」
過去は変えられない、感傷に浸っても無意味だ。
暗い天井を睨みつけ、感情を押さえつける。
「よし、問題ない。じいさん魔法使えって言ったな」
筋肉は無理らしい残念だ。
ここの件が片付いたら、地道に鍛えよう。
問題は魔法だ。
「どうしたら使える?」
自然と分かると言っていたが……、まったく分からん。
どうしたものかと悩んでいると、遠くから足音がした。
静かに毛布を被り横になり、足音に集中する。
あぁ、モニカか。昼間より足取りが慎重になっているようだ。
体から力が抜ける。
小さなノック音がした。
短く返事をすると、静かに鍵が開けられモニカが入ってくる。
「お待たせ致しました」
「大丈夫だ。そっちこそ問題ないか?」
「はい、問題ありません。まず、お話の前に、お食事の準備致しますね」
そう言いながら、何もないところから机や椅子を出す。
「は?」
ご丁寧にテーブルクロスまで掛ける。
そこに、これでもかと食事が用意された。
「お坊ちゃま、お召し上がりください」
やり切ったという笑顔で言われた。
反応できず固まっている俺を見て首をかしげる。
「記憶が戻られたと伺ったのですが……」
は?……誰からだよ!
「私に、ライガード神様より啓示があったのです!」
俺の心を読んだのか?
というか、目をキラキラさせて、手を組むなよ。
「ライガード?」
じいさん?
「レオお坊ちゃま!ライガード神様を呼び捨てなど、不敬ですよ」
ずいっと寄って言い聞かせてくる。
「す、すまない」
後ろに仰け反りながら言う。
モニカはハッとして、誤魔化すように咳払いをする。
「い、いえ。失礼致しました。坊ちゃま」
「モニカ、その坊ちゃまと呼ぶのは止めろ。名前でいい」
「承知致しました。レオ様」
様もいらないが、まぁいいか。ここは身分制度ありの世界のようだしな。
面倒くせぇ。
「ああ、それでだ。啓示をどう受けたかわからないが、俺は徐々に思い出すと言われている。それに、急に思い出そうとすると、体に負担がかかるそうだ」
「さようですか、申し訳ありません」
じいさんが言い忘れたか、俺の記憶が戻ると言われ、舞い上がり聞いてなかったか。
モニカは……、後者だな。
「気にするな。せっかく用意してもらって悪いが、今の俺は水分しか取れないぞ」
「いえ、それは大丈夫です。ライガード神様が、坊ちゃ……レオ様のお体を治す時に、召し上がれるようにされたとの事です。体力が付くような食事を用意するようにと、ご指示を頂きました」
聞いてねぇぞ!食えるなら教えていけよ、じいさん。大事なことだぞ!
「初耳だ。そうか、食べられるなら、モニカも一緒に食べよう」
「いえ、食事は済ませておりますので」
「そうか。なら飲み物と軽いものだけでも摘んでくれ、一人の食事は味気ないからな」
モニカは、ハッとした顔をして、何とも言えない表情をする。
「では、お言葉に甘えてご一緒させて頂きます」
優しい笑みを見せた。
「ああ、食べながら話そう」
そう言ったのだが、どうやら想像以上に腹が減っていた様だ。
食べ始めたら止まらず、視線に気づいたのは食べ物がなくなってからだ。
唖然と俺を見ていたモニカと視線が合う。
「す、すまない」
「ふふ。大丈夫ですよ。驚きましたが、召し上がれて良かったです。まだ、出せますよ。」
優しく微笑み、慈しみの目線を向けてくる。
止めろ!恥ずかしい。赤面しているのが分かる。
少年になっているからなのか?
そうだ、きっとそうに違いない。
「いや、もう大丈夫だ。何か飲み物はあるか?」
「はい。お茶をお入れしますね」
「ありがとう」
時間が過ぎたが、お茶を飲みながら話すことになった。
お茶は紅茶だった。一口飲んで息をつく。
「先程から物を出し入れしているのは、やはり魔法なのか? 魔法に関して、まだ記憶が戻ってなくて。そもそも俺は魔法を使えるのか? 使っていたか知っているか?」
「レオ様は魔力をお持ちですが、その教育を受けておらず……」
モニカは言いにくそうに言葉を濁す。
なるほど、この環境ならあり得るか。
「そうか、気にしなくていい。モニカの知っている俺のこと教えてくれるか? それに、この家のこと、モニカ自身のこと、またモニカと同じ状況に居る者達のことを詳しく」
モニカは息を飲み、神妙に頷く。
「分かりました。私が知る限り全てお伝えいたします」
「ああ、頼む」
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