第38話 宿でのひととき
自分たちが泊まる部屋に入る。
リックが荷物の整理をしていた。
「遅かったな。仲直りは出来たようだな」
「まぁな、助かった」
照れ隠しなのか、ぶっきらぼうに答えるエドガー。
唖然とするリック。
「何だよ。その顔は! 人がせっかく礼を言っているのに」
「いや――。ふっ、どういたしまして」
「ふん」
肩を震わせて笑いを堪えているが、優しい表情をしていた。
そんなリックを見て文句を言えず、そっぽを向くエドガー。
なんかいいな、こういう二人。
「ふふふ」
「なに、ニヤニヤしているんだよ」
「ふえ?」
頬をムニムニされる。
ニヤニヤしていたらしい。
「ったく」
照れているようだ。
むず痒いな。
そうだ。
「エドガー、下ろして。これ取って、暑い」
起きたら外套をスッポリ被せられ、グルグル巻にされていた。
「ああ」
サッと取ってくる。
「ふぅ。大人用だから巻かれていたのか」
「暑かったか、悪いな。町に入るのに、どうしても必要だったが子供用がなくてな」
リックが謝ってきた。
「別にいいよ」
「レオ、外套もってないか? ロベルトなら、荷物に入れていると思うんだが」
「そうなの? 確認してみる」
リックに言われて、収納に入れた荷物を確認する。
「あ、入っている」
「出して羽織ってくれ」
「え? 今も?」
リックに返事して、エドガーにも視線を送る。
「あ~、いるな」
「ああ、必要だ」
「なんで?」
首を傾げる。
「そんな顔を見せて歩いたら、数分で攫われるぞ」
「え!?」
「そうだな」
うんうん、と頷くリック。
「レオは、自分の容姿に無頓着だよな」
「そうだな」
呆れ声で相槌を打つリック。
二人に言われ、両手で頬をムニムニしたら笑われる。
「ハハ、ほら外套出して」
「うん」
言われた通り、外套を出して羽織る。
「あ、熱くない」
羽織った姿を見て、リックがやって来て外套を触る。
「良い物くれたな。温度調整付きだ」
「は~、ロベルトも甘いな。まぁ、良かったじゃないか」
「だな、それなら着ていても苦じゃないだろう。部屋を出るときは必ず着るように」
「あ、フードも被れよ」
エドガーがフードを被せてきた。
「ああ、これなら大丈夫だな」
「ああ、問題ない」
二人して納得顔だ。
面倒だな。
「いらぬ問題を起こすから、面倒でも守ってくれ。出来ないなら、明日の朝市は無しになるぞ」
「え? やだ」
「なら我慢してくれ、いいな? 俺もレオと朝市行くの楽しみだから」
そう言ってエドガーは、頭を撫でてくる。
「わかった」
「お、夕食の準備が出来たみたいだ。親父の部屋へ行こう」
「うん」
返事をして外套を脱ごうとしたら、止められる。
「レオ、例え隣の部屋へ行くだけだとしても着ていくんだ」
リックにつかさず止められる。
「そうだな。どこに目があるか分からないから、用心が必要だ」
そんなにか?
確かに、レオは美少年だからな……仕方ない。
神妙に頷く。
「いい子だ」
抱き上げて、おでこにキスするエドガー。
「ちょ!」
「なんだ、今更照れるのか?」
「慣れないし、隣に行くだけなんだから、歩くよ」
「俺が抱っこしたいの。嫌なのか?」
うっ、その言い方はずるいだろ。
「嫌じゃないけど……」
「ほら、行くぞ。グレン様が待っている」
呆れながら声を掛けて部屋を出るリックに続いて部屋を出た。
グレン様の部屋に入ると、女将さんが料理を並べていた。
「おや、いいタイミングだね。さあ、ごちそうだよ」
自慢の料理なんだろう、いい笑顔で勧めてくれる。
「待っていたぞ。さあ、食べよう」
グレン様が手招きする。
大きめのテーブルに椅子が3つ……。
「エドガー、下ろして」
「椅子ないぞ?」
「いいから」
強気で言うと、しぶしぶ下ろしてくれた。
「まったく、俺は自分で食べるよ」
言いながら、収納から椅子を出す。
ロベルトが用意した俺専用の椅子だ。
高さ調整してくれる優れ物です。
「しっかりしているね。気に入った。あんたたちも、あんまり構いすぎると嫌われるよ」
俺を椅子に乗せようとしていた、エドガーの手が途中で止まる。
「ところで、私に紹介は出来ないのかい?」
外套のフードを被ったままの俺と皆を見比べる女将さん。
「ああ、すまん。エミールなら問題ない。レオ、外套脱いでいいぞ」
グレン様から許可が出たので、外套を脱いで収納する。
「はじめまして、エミールさん。レオといいます。よろしくお願いします」
「おや、まぁ。これは……。はぁ~、なるほど、隠すはずだ」
まじまじと俺を見るエミールさん。
近い、エミールさんはスタイルよく美人だ。
ドギマギして視線を逸らす。
「はは、可愛いね~、照れているのかい。ほら」
ひょいと俺を抱えて、椅子に座らせてくれる。
「レオ、この宿の中でも外套は着ておくれ、残念だけど良い客だけじゃないからね。見た感じは、いい人たちだけどね」
肩をすくめて見せる。
「さぁ、冷める前に食べておくれ。グレン様、食べ終わる頃に、いつもの酒と摘みをもってくるよ。レオにはデザートをもって来ようかね」
「ああ、頼む。それと、明日の朝、昼食も頼んでいいか」
「もちろん。あと、お願いがあるんだが」
「なんだ?」
「ガイにも、レオを紹介してくれないかね?」
ガイ?
「ああ、かまわん。後で連れてこい」
「ありがとう、そうさせてもらうよ。では、ごゆっくり」
嬉しそうに部屋を出て行くエミールさん。
「ガイって?」
「ああ、エミールの旦那だ。この料理を作っている」
「そうなんだ。美味しそうだね。グレン様、何がオススメですか?」
「どれも、美味いぞ。だが、そうだな。野菜スープと、この肉の唐揚げが絶品だぞ」
そう言って、小皿に取ってくれる、グレン様。
「ありがとう」
ニコニコと笑いながら、俺が食べるのを待つグレン様。
そんなに見られると食べづらい。
「いただきます」
まず、野菜スープを口にする。
野菜がしっかり煮込まれ味がしみていて美味い。
入っている肉も大きいがホロホロと崩れて柔らかい。
「美味しい~、しっかり煮込まれて、味がしみていて美味しいね」
「そうだろ」
嬉しそうに頷くグレン様。
「本当に、ここの野菜スープは変わらず美味いよな」
「ああ、優しい味だ。秘伝のレシピなのが惜しい」
エドガーもリックも、このスープが大好きのようだ。
「昔からあるんだ」
「ああ、先代から変わらずあるんだ。レオ、その唐揚げ、このレーモをかけると、あっさりして美味いぞ」
「そうなの? じゃ、かけて」
お願いすると、俺の分の唐揚げにレーモを掛けてくれる。
レモンだよな。
形も香りも同じだ。
「俺はシンプルに塩が好きだな」
リックは塩をふりかけて食べている。
「俺はマーヨだな」
そう言って見覚えのあるマーヨを、これでもかと掛けるグレン様。
マヨネーズだな。
あんなに掛けたら、マヨネーズの味しかしないんじゃ。
それぞれの好みを聞きながら、唐揚げ頬張る。
「ん~、美味しい」
「良かった。たくさんある。ゆっくり食べるといい」
グレン様は優しい笑顔で言ってくれる。
それから、美味しい食事に舌鼓をうち時間が過ぎていった。
ちょうど、ほとんどのお皿が空になった頃、ノックの音が響いた。
「いいタイミングだな」
グレン様が嬉しそうにした。
リックが席を立ちドアを開ける。
すると、エミールと一緒に大きなガッチリした男性が入ってきた。
俺が椅子から下りようとすると、気づいたエドガーが手伝ってくれる。
「エミールさん、その人がご主人?」
俺が二人に近づくと驚いた顔をする。
「どうしたの?」
思わず首を傾げる。
「ガイ、主人が怖くないのかい?」
きょとん、としてガイさんを見上げる。
「大きいなとは思うけど、全然怖くないよ? ガイさん、はじめまして、レオです。お料理、どれも美味しかったです!」
「そ、そうか。良かった」
驚きながらも、ぎこちない笑顔で答えるガイさん。
あ~、確かに普通の子供は怖がるかも……。
緊張してか、笑顔が引きつりこわばっている。
「うん。だからデザートも楽しみにしていたんだ」
そんな俺に嬉しそうな顔して、自然な笑顔となる。
めっちゃ優しそうじゃん。
その様子を見ていた皆も驚いた顔をしていた。
この笑顔、レアのようだ。
「ほら」
ひょいと、ガイさんに抱えられ椅子に座らされる。
夫婦して同じ行動に笑う。
出されたパンケーキを美味しそうに食べる俺を見て、満足した二人は夕食の食器を片付けて部屋を出ていった。
忙しいようだ。
俺はデザートを食べながら、明日以降の予定をグレン様から聞いていた。
お腹が膨れて、うとうとしていた。
『悠人、話をしたいのじゃ』
「ふぁ!」
「どうした!?」
エドガーが慌てて、近くに来る。
「ご、ごめん。うとうとして、机に顔面打ち付けるところだっただけ」
「ハハ、なんだ。脅かすな」
「お腹膨れて、眠くなっちゃった」
「そうか、もう寝るか」
「うん、ちょっと寝る。エドガー話が終わったら、一度起こして」
「別に寝てていいぞ?」
「お風呂はいりたい」
「風呂か。先に入るか?」
「ううん、今は眠いからいい。後で一緒に入る」
「一緒に……。分かった、話が終わったら起こそうな」
「うん」
はは、エドガーは御しやすいな。
そう思いながら両手をエドガーに向かい上げる。
嬉しそうに俺を抱き上げる。
「親父、リック。レオを部屋に寝かせて来る」
「ああ、分かった。レオ、おやすみ」
「おやすみ、レオ」
俺は二人に手を振りながら言う。
「おやすみなさい」
エドガーは、自分の外套を俺に被せ部屋を出た。
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