第36話 暴走と炎の竜巻
グレン様の馬を先頭に、走るスピードが上がる。
あっという間に伯爵家の屋敷が、木々に隠れ見えなくなった。
屋敷の周辺は整えられ見渡せたが、一本道ですぐ森に入った。
「……!」
ちょ、真っ直ぐじゃない道なのに、スピードが上がるってどういうことだよ!?
別に高いところも、馬も怖くないし、スピードも問題ない。
――が! それは大人の体の場合だ~!
「っ!」
エドガーにしがみつく。
いくら強化魔法を使っても、揺れとスピードに体が軽すぎて浮いて、振り落とされそうで怖い!
や、エドガーは信じているけど、信じていても、それとこれとは違う。
「~~エ、エドガー! スピード落として!!」
「ん? なんだ、怖いのか? まだまだ序の口だぞ。大丈夫だ、すぐに慣れる! ほら、前を見て、気持ちいいだろ! ハハハ!」
何が“ハハハ”だ!
こいつ、あれだ。
スピード狂だ!
馬でもあるのかよ~。
誰か、助けて!
「親父、流石だな、負けてられない」
「ちょっ」
リックに助けを求めたくても、馬の蹄の音で声が届かないだろう。
片手でも離せればいいが、無理。
俺の気持ちと関係なく、スピードは更に上がる。
「無理」
俺は限界を迎えて小声で呟き、魔法を最大限に放った。
ゴォォォ―――
辺境伯グレンの行く先に、巨大な炎の竜巻が突如現れ道を塞ぐ。
馬は驚き前足を高く上げ嘶く。
グレン様は馬術で馬を誘導し、方向を変えるも行く手には炎の竜巻がいくつも現れる。
馬は炎に怯え逃げようとするも、炎の竜巻に囲まれる。
恐怖に馬たちはすくみ、体を硬直させる。
グレン様、エドガー、リックは自分の馬をなんとか落ち着かせる。
全員炎からなるべく距離を取るため、中央に身を寄せる。
「何が起こった?」
グレン様が問うも、凄まじい火力で渦巻く炎を見つめ、エドガーリックも言葉が出ない。
「リック」
俺は近くに来たリックを静かに呼ぶ。
俺を見たリックは、ぎょっとして顔を引きつらせる。
炎に気を取られていたエドガーの腕から、風魔法を使いリックの馬上に移動する。
「レオ?」
エドガーが呼ぶも無視する。
「リック」
俺はリックを呼んで、目を合わせ顎で方向を指す。
「……」
無言で見つめてくるリックとしばらく見つめ合うも、リックが折れた。
ため息を付き、馬に指示をするも、ピクリとも動かない。
俺は怯えている馬に魔力を流しながら、ゆっくり数回撫でる。
誰に従えばいいかを教えるために……。
馬が落ち着いたところで、優しく馬をぽんぽんと叩く。
すると、馬がゆっくり歩き、グレン様とエドガーの前に出る。
グレン様は怪訝そうな顔をし、エドガーは俺を見て息を飲み、顔を蒼くした。
「グレン様、エドガー」
二人の名を呼びニッコリ笑って、俺は右手の平を上に向け、そこに周りの竜巻の炎を収束させた。
そして二人の馬に俺の魔力を纏わせる。
すると、二頭の馬はブルルと鳴き、俺を見て頭を下げゆっくりと近づき鼻先を近づける。
俺はその鼻先を優しくなでた。
「馬は俺の指示に従います。リック先頭を任せても?」
「あ、ああ。……レオ、魔力の使いすぎだ。休んだほうがいい」
「ホントだよ。余分な魔力を使う羽目になった」
そう言って、グレン様とエドガーに冷めた視線を送る。
その視線を受け固まる二人。
「「……」」
「リック、俺はお昼いらない。夕食の時間まで眠る」
「その方がいい。その……」
チラッとエドガーを見るリック。
俺は淡々とリックに伝える。
「王都までリックの馬に乗せて、後の二人は絶対に嫌。俺が寝ていてもリックでお願い」
「わ、分かった」
神妙に頷くリックをみて、やっと力を抜く。
「お願い」
「ああ、ゆっくり休め」
その言葉を聞いて俺は意識を手放した。
****************
聞こえるのは、風が木の葉を揺らす音に小鳥の鳴き声、そしてリックの腕の中で眠るレオの寝息。
そんな空間でピクリとも動かない大人三人と馬3頭。
「自業自得ですよ」
俺は呆れ声で二人に放つ。
「レオは子供ですよ。年齢は12歳ですが体は小さく軽い。あんな走り方したら、怖いに決まっているだろう」
「だが、男の子は皆喜ぶだろう?」
「グレン様、それは辺境で元気に走り回っている子供たちでは?」
ぐっと喉を鳴らし、押し黙るグレン様。
「教えてくれれば、スピード落としたのに」
エドガーが見苦しく言い訳をする。
「レオがスピード落として、と――お願いしてなかったか?」
うっ、と口ごもるエドガー。
「まったく。レオは、4年も地下室に居た。おそらく伯爵家に来てから、家の敷地の外には出してもらえていないはず。せっかく、初めての外だったのに……可哀想にな」
俺はレオの顔にかかる髪を、優しくなでながら整える。
チラッと二人の表情を盗み見ると、焦燥にかられていた。
「それに、あんな魔法を咄嗟に使うほど、恐怖を感じていたんだと思う。エドガー気づかなかったのか?」
バツが悪そうな顔をして、視線を逸らすエドガー。
「お前も解放されて、久しぶりの馬に乗れて楽しかったんだと思う。だが、本当に守りたいなら、何よりも優先しろ。自分の常識で考えずに、よく見るんだ。お前になら出来るはずだ」
ぐっと眉間にシワを寄せ、手綱を握る手が更に強く握り込まれた。
「グレン様も、考えなさすぎです。いいですか二人とも、しっかりと反省してください。王都まで俺が先頭で走ります。いいですね?」
大の大人の、男二人が項垂れながら頷く。
「ああ、でも今夜の宿までは、先頭をグレン様、殿をエドガーに任せます。魔物の処理お願いしますね」
嬉しそうに笑う二人に、真顔で冷たい視線を送る。
「許されたわけではないですよ? レオを俺が乗せているからと言って、無茶なスピードはダメですからね? グレン様、分かりましたか?」
コクコク頷くグレン様。
レオを抱える俺を、羨ましそうに見るエドガー。
「エドガーは反省しろ。レオではなく、自分の感情を優先させた報いだ」
がっくり肩を落とすエドガー。
昔から、この友人は馬に乗ると性格が変わる。
馬に乗るのが久しぶりで、俺も失念していた。
ちょっと可哀想に思うが、良い薬になっただろう。
「さぁ、出発しましょう」
口数が少なくなった二人は頷き、ゆっくりとグレン様を先頭に走り出した。
俺はレオをしっかりと抱きかかえ、揺れないようにする。
顔色が悪い、よほど怖かったのだろう。
後先考えず、あんな大魔法をいくつも行使して、寿命を削ると知っているだろうに。
「すまない、レオ」
俺が気付いてやれていたら――魔力を使わせずに済んだのに。
ちょっと、エドガーに任せすぎたな。
あまりにもエドガーが独占欲を爆発させるから、遠慮していたが……これからは俺も気にかけよう。
「俺も、お前が大切だ」
不謹慎だが、馬に乗るときはレオを独占できる事に嬉しく思った。
俺も相当、レオを気に入っているな。
エドガーのことを強く言えないな。
思わず笑みがこぼれる
「まったく……。レオは目が離せないな」
自分がどれほど優しい表情で、優しい声で囁いたか、リックは気づかなかった。
途中、馬を休めながら昼食を取りつつ、ずっと走り続けた。
俺はレオが安心して寝むれるように、風魔法で保護して風が当たらないように移動した。
おかげで、レオを気にすることなく移動したことで、かなりの距離を稼ぐことが出来た。
本来二日目に泊まる予定の町に着いた。
「まさか、この町まで来られるとはな。レオはどうだ?」
「ぐっすり眠っていますよ」
「そうか、良かった」
グレン様は安堵の表情を見せる。
「二人はゆっくり来てくれ、俺が先に宿に行ってくる」
エドガーはそう言って、馬をグレン様に預け町の奥に消えていった。
俺とグレン様は馬に水をやり、ゆっくりと宿に向かった。
いつも、読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は6/3(水)20時更新です。
よろしくお願いします☆




