第33話 それぞれの運命
俺とリックは、ユーイルをロベルトにお願いして、書庫の隠し部屋を確認に来ていた。
「エドガー、問題ないか?」
「ああ、魔力に変化ない。レオが全部収納してくれたからな」
「そうだな。書類等も残ってないようだ」
机を確認していたリックが顔を上げる。
「なぁ、レオが影響を受けなかったのは、体に入っている呪いのせいだよな?」
リックの眉間に皺が寄る。
視線を下げて、辛そうにする。
「そうだ。ここにあった呪いよりも、かなり強い呪いを受けているからだろう」
「……そうか」
積まれた木箱がなくなり、殺風景で何もない部屋を一瞥する。
かなりの量があった。
「――あんな呪い、人が作れるのか?」
「普通ならありえない。だが……無理やり作らせた可能性はある」
言ったリックは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
胸糞悪い話だ。
作らされた者の命はない。
「レオが収納してくれた書類に、糸口があればいいが」
「あると思うか?」
リックが器用に片眉を上げて聞いてくる。
ガシガシと頭を掻くエドガー。
「ないな。やつが伯爵なんかに、自分に繋がる物を渡すわけがない」
「ああ。だが、この隠し部屋から回収できたのは大きい」
「そうだな。ただ、思っていた以上に規模が大きい。計画の時期が、得た情報と違う可能性が出てきた。早いかも知れない、厄介だな」
「でも、収穫はあった」
静かに言いきるリック。
リックの表情見て、思わず嘆息する。
「……ユーイルか」
黙って頷くリック。
いつもの優しい瞳が、冷徹な色を帯びている。
「おい、本性出ているぞ。ユーイルはロベルトに任せるんだろ?」
「朝まで時間がある」
「……壊すなよ」
「人聞きが悪いぞ。俺は子供には優しい、知っているだろ?」
あれを優しいと言うのかは疑問だが、子供は一人も壊れてないな。
子供は……。
「知っているが、念のためだ。はぁ、遅くなった、レオの所に戻ろう」
「ああ」
「リック、魔力戻せよ」
「問題ない」
俺とリックは隠し部屋を閉じ書斎を出て、レオが待つ応接室に向かった。
部屋に入るとソファーでレオが寝ていた。
「ぐっすり寝ているな」
「疲れたんだろう。バレなくてよかったな、リック」
「もう戻っている」
ムッとして答える。
「レオの前でも、そのぐらい感情出せばいいのに」
「無理だ。感情をコントロールしないと、冷徹さも押さえが効かなくなる」
「ハハ、お前の本性が冷徹と知った時の、レオの顔を見てみたな」
「安心しろ、見ることはない」
「そうかよ」
肩をすぼめて見せる。
レオに近づき顔を除いて、頭を優しく撫でる。
起きる気配がない。
「熟睡しているな。だが、明日からは強行軍だからな、ベッドで寝かせたほうがいいだろう。俺達の部屋へ行こう」
「その前に、レオの状態を見よう。この後、俺はユーイルの所へ行く。エドガーはレオの側に居て、異変があったら呼べ」
「わかった」
俺は、リックに場所を譲る。
リックは、レオを自身の魔力で覆う。
しばらくして、目を見開き魔力を止めた。
「……レオの魔力はすごいな」
「どうした?」
「レオで良かったと言うか、なんというか……。お前には言わなかったが、普通なら今夜まで生きているとは思っていなかった」
「!! どういう事だ!?」
「レオが行っている方法は、呪いに結界を張り――体に影響が出ないようにしている。これは、結界を張っていると同時に、呪いに抗うために魔力を吸われ続けているんだ」
「――魔力を吸われ続ける? 馬鹿な!? そんな事したら!!」
思わずリックに掴みかかる。
「落ち着け。 そうだ、本来ならとっくに死んでもおかしくない。レオの魔力量が異常なんだ」
俺に掴まれたまま、ゆっくり答える。
「魔力量……」
俺はリックから手を離し、レオへ視線を移す。
「ああ、俺達より遥かに多い。想像できないぐらいにな」
「レオ、お前はいったい……」
「この魔力量を持っているのが幸いした。だが、永遠じゃない。いつか魔力は尽きる。レオの寿命は今の状態から見ると、短くて一週間……長くても半月。魔力が持てば、それ以上だが予想がつかない」
「魔石を常に、持たせれば良いんじゃないか?」
ゆっくりと首を振るリック。
「魔力の補填が追いつかない。1日に使う魔石の量が膨大だ。魔石と一緒に一生部屋に閉じ込めるか?その前に、その量の魔石を用意出来ない」
俺は力なくレオの横に膝をつき、あどけない寝顔を覗き込む。
目の前にある、この小さな命が消えかかっている。
俺はレオの小さな手を取る。
「ダメだ!」
リックに腕を捕まれ、レオから離される。
「今、他の魔力を流したらバランスが崩れて、結界が維持できなくなる」
――血の気が引いた。
良かれと思い、自分の魔力を渡そうとした。
それが……、レオを殺す行為だったなんて。
呆然とレオを眺めていると、優しく肩に手が触れる。
「エドガー、レオは自分の寿命に気づいていると思う」
俺は目を見開き、リックを見る。
「前に、本人も言っていたよな」
あぁ……確かに言っていた。
呪いで時間がない、と。
俺は力なく頷く。
「そんな中で、公爵へ会いに行こうとしている。証拠を集めて。今、レオの事情を一番知っているのは、俺達だけだ。側に居てレオがやりたいことが、やれるように手を貸してやろう。な?」
「……そうだな。すまん、取り乱した」
「気にするな。とりあえず、レオの状態は落ち着いている。俺はユーイルの所へ行ってくる。レオを頼むな」
「分かった」
「先に行くよ。エドガーもレオと一緒に休むといい」
そう言ってリックは部屋を出ていった。
残された俺はレオの頬にそっと触れる。
……温かい。
この温もりが消えることが想像できない。
「ずっと、一緒だ。……最後まで、俺は諦めないからな」
****************
なんか、重いし暑い。
俺は寝苦しくて目を開ける。
「エドガーか」
エドガーに抱き込まれていた。
重いのはエドガーの腕。
抜け出そうと試みたが、びくとも動かない。
ペチペチとエドガーの腕を叩く。
「う~ん」
「エドガー、起きて。重いよ」
「ん~? あぁ、レオか」
そう言って、もっと俺を抱き込んだ。
「ちょ! 暑いって!」
エドガーと攻防をしていると、呆れた声が聞こえた。
「お前ら、朝から仲いいな。ほら起きろ、朝食持ってきたぞ」
リックは朝食をテーブルに置き、エドガーから抜け出せない、俺を救い出してくれた。
「ありがとう」
「ああ。エドガー、起きろ。辺境伯は、もう起きて準備しているぞ。早くしないと朝飯抜きになるぞ」
それを聞いて、エドガーは飛び起きた。
「朝早いんだよ親父は、まったく」
文句を言いながら、準備を始めるエドガー。
俺も慌てて、用意されていた服装に着替える。
「準備できたか?」
「うん、服を着替えるだけだからね。荷物は全部収納に入っているから」
俺ら二人の準備を待っていた、リックと朝食を手早く済ませる。
「行こう。俺ら待ちだから」
リックがサラッと気になることを言う。
「え? そうなの?」
「ああ、ロベルトに先に言わないように言われた。レオが慌てて、朝食抜く可能性があるからと」
「ハハ、さすがだな。レオ、王都に着くまで、ゆっくりできる食事は夕食だけだ。もしかしたら夜も野営する可能性もあるからな。ロベルトの優しさだ」
「分かっているよ」
でも、釈然としないんだけど。
ありがたいけどね。
「行くか」
そう言ってエドガーは俺を抱き上げ、部屋を出る。
移動中、見納めになる屋敷を眺めた。
特に何の感情もわかなかった。
俺が起こす行動で、この屋敷の環境が良くなることを願った。
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次回 5/23 (土) 20時更新します。




