第32話 二人の魂
俺はソファーに寝転がり、暗い部屋に浮かぶライトの光をぼーっと眺めていた。
脳裏には、別館での出来事が、否応なしに浮かんでくる。
レオの家族のこと、父親の想い、母サラサの過去からの心の変化。
心を病み、レオへの憎しみのあまり、自身の肖像画に指輪を隠し、宝箱まで用意した。
そして、本棚にあった宝箱には、呪いのペンダントが入っていた。
「本物より見つけやすく誘導してあった――本棚の裏に鏡、レオの魔力で浮かぶ母親のホログラムからのメッセージ……」
母サラサが仕組んだんだろうな。
「呪いのペンダント……サラサが用意したのか?――誰かがサラサに渡した?」
何のために?
俺の呪いよりも、強い呪い。
「サラサは呪いと知っていたのか?……いや、触れるだけで呪いにかかる。中身を知らずに受け取った可能性もあるな……」
ダメだ、思考が定まらない、不可解だ。
疑問が次々と浮かぶ。
「もし、もしも、呪いと知っていたのなら、どれだけレオを憎んでいたのか……」
違うと信じたい。
自分とよく似た、愛してやまない男との子供なんだ、一線は越えてくれるなよ。
「綺麗な魔法が思い浮かぶだけなら、良かったのにな……」
魔法の光で咲いた蓮の花を思い浮かべる。
見惚れる美しさだが、すぐ手紙の内容に頭が切り替わる。
「父親の側に居られたなら……」
もし、を考えても仕方ないが、思わずにはいられない、あったかも知れない幸せな時間。
やるせない、苦い思いがこみ上げる。
「じいさん、遅いな……」
じいさんが居なかったら、怒りに飲まれていたかもな。
魔力暴走しなくてよかった。
「礼をしたほうがよいか?」
「何がじゃ?」
ポンと光の玉が現れる。
「おわ!脅かすなよ」
「すまん、すまん。どうかしたのか?」
たっく。
俺は体を起こし座る。
「なんでもないよ。それより、遅かったね。呪い解除大変だったの?」
「解除はすぐ終わったがの、レオの魂が揺らいだから様子を見に行っておったのじゃ」
「レオは大丈夫なのか?」
「まだ不安定だが、大丈夫だ。明日の挨拶のことだけ伝えてきた。まだ、長くは話せないからの」
「そうか、ナタリーのことは?」
「残念がっておったが、問題ない」
「そうか、良かった」
「「……」」
二人して黙ってしまい、部屋に重たい沈黙が降りる。
「悠人、あまり考え込まないことじゃ。お主は優しく正義感が強いから、背負い込みすぎるのが心配じゃ。過ぎたことは、残念じゃが変えることは出来ぬ。この先の事を頼みたい」
思わず苦笑する。
「お見通しか、まいったな」
「そなたには、負担しかないがの」
「そうか? 俺がやりたいように、やっているだけだ」
「そなた……、呪いで寿命があと少しなのを忘れたのか? 明日、レオの挨拶もじゃし」
「いや、忘れてないけど。そもそも、一度死んでいるし、10日は困るけど。それより、挨拶がどうして負担なんだ?」
「前にも話したが、魂と体は唯一無二の関係、他者を受け入れることはないと、話したであろう?」
「ああ、覚えている。でも、俺とレオの魂を入れ替えるだけだろう?」
「それは出来ぬ」
「え?」
「悠人、そなたの魂だから、レオの体は持っておるのじゃ。そなたの魂と魔力がなくなった瞬間、跡形もなく消える。呪いがなくともな……」
「!! どういうことだ? 呪いがなくても?」
「そうじゃ。本来であれば、レオの魂が離れたとき、体も役目を終えたはずじゃ。だが、そこに悠人の魂が、何らかの要因で入った。これは儂の仮説だが、異なる世界の魂、この世界に来て得ただろう膨大な魔力を持った魂が入った。そのおかげでレオの体は生きていると思われる」
「魔力と、世界が違う魂だから、か」
「うむ。呪いを受けても生きておるからの。それしか説明が出来ぬのじゃ」
「そうか。なら、どうするんだ? 入れ替えできないんだろう? ……まさか、俺が入ったままの状態でレオを受け入れるのか?」
「そうじゃ。だから、そなたの負担が大きいのじゃ。レオには負担を掛けられぬ。魂が消えてしまうからの」
「魂が消えるほどの負担……?」
それほどなのか?
魂と体は唯一無二の関係だからか。
俺は、どうやってレオの体に?
「うむ。だが、安心して良いぞ。今回は儂がおるからの!」
ペカーとじいさんの光が強く輝く。
「ちょ! 明るい明るい! 気づかれちゃうよ!」
「むむむ。仕方ないのぉ」
明るさが戻る。
良かった。
「なら、負担ないじゃん。脅かすなよ」
「あるに決まっておる! 体が消えぬように、レオの魂が消えぬように対応はするがの」
「待て! 俺の負担への対応はどうした!?」
「うむ。対応はするぞ。しかし、呪いもあるからのぉ」
「うん?」
どういうことかな?
俺には自分で耐えろと、言われているような気がする。
目が座っても仕方ないよな?
「ん? それで?」
「も、もちろん、そなたの負担も最大限減らすのじゃ!」
「本当か?」
風魔法で、じいさんの光の玉を俺の目の前に移動させる。
「ほ、本当じゃ!」
じーと光の玉を見つめる。
すると、ぱっと消える。
「は? じいさん!?」
「ちゃんと、おるぞ。明日の練習じゃ」
「練習?」
「明日の挨拶のとき、儂はそなたの側に居る必要がある。今のように姿を現しても良いんじゃが、魔力の強い者が何人かおるからの。念のため姿を消す」
「なるほど」
「悠人、レオの魂を受け入れるとき、そなたの意思が一番鍵となる」
「意思?」
「そうじゃ。レオの魂を一切拒むことなく、受け入れる意思じゃ」
「わかった。意思だな、他に何か注意することは?」
「――分からぬ」
「ちょっと!」
「しょうがないであろう。儂も初めてするんだもん」
ここで、可愛く言われてもなぁ……。
俺は大きく溜め息を吐く。
「わかったよ。レオのためだからな。男に二言はない」
「頼もしいの~。大丈夫じゃ、ちょっと圧迫感を感じるぐらいだろうて」
胡乱の目をして声がする方を見る。
「――初めてなんだろ? どうして分かるんだ?」
「ぅ、うむ。そうじゃ! ほれ、呪いを解除した宝箱じゃ」
ソファーの上に金色の宝箱が現れる。
だが、宝箱は光の帯で包まれていた。
「そのな……解除と言っても、呪いを最低限まで弱めただけじゃ。この呪いは、誰かの命と共に消える呪いじゃからの。これも、証拠として必要なのであろう?」
「そう、だったな。ああ、証拠として必要だ、ありがとう」
俺は宝箱を手に取り、じっと見つめる。
命と共にしか消えない呪いか。
「悠人、もう遅い。明日の出発に備えて休んだほうが良い。別館での出来事は精神的に、かなり負担になっておる」
「……そうだな。そうするよ」
なんか、上手く誤魔化された気もするが、確かに疲れているな。
宝箱を収納にしまい、ソファーに寝転んだ。
「ここで寝るのかの?」
「ああ、エドガーとリックが来ることになっている。寝ていたら部屋に運んでくれるよ」
「そうか。ちゃんと寝るようにの」
心配してくれているようだ。
「ああ。じゃ、明日はよろしく頼む。レオにもよろしく伝えて」
「うむ。伝えよう。ゆっくり休むがよいの」
ふわっと優しい光が体を包んで、じいさんの気配が消えた。
力が抜けた感じがしたと同時に、眠気に襲われる。
「思った以上に気を張っていたか。明日、レオに会えるな……」
そう思いつつ、意識を手放し深い眠りについた。
いつもありがとうございます。
楽しんでいただけましたら、
評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。
次回 5/20 (水) 20時更新です。
よろしくお願いいたします。




