第31話 冒険を夢見た少年
レオへ宛てた父親からの手紙。
それは、とても切実で切ない想いが綴られていた。
レオはとても大切で愛しい、何物にも代えられない宝物であることが伝わってきた。
「「……」」
暗い部屋の中、じいさんが灯した小さな明かりが照らす、握りしめる手紙がやけに重く感じた。
二人して黙り込み、微動だにしなかった。
俺は息を吸うことを忘れていたかのように、深く息を吸い込みゆっくり吐き出した。
「……何と言えばいいのか――父親はとてもレオを愛していた。母親はレオが生まれたとき、とても喜び愛していたようだね」
「うむ。そのようだの」
「だが、その後体調を崩した。父は仕事とレオに時間を割き、母親――サラサを結果的に孤独にしてしまった。使用人が面倒を見ていたようだが、会いに行く回数が減り、時間もあまり取れなくなったか……」
「かなり後悔しておるの」
「まぁ、な。当時は息子と一緒に会いに行くと嫌がり、二人の時間が欲しいと縋られ……ありえないと思った、か。俺も同じ立場だったら、思っただろうな」
「そうか……だが、儂からすると何故気づいてやれなかったのか、と思ってしまう。幼少から家族に疎まれ孤独だったが、明るく優しい娘だったと書いてあった。その娘が、自分の子供をないがしろにしてまで、淋しい、一緒にいてと……縋ったのにの」
「それは、あるかも知れないが、――母親になんだ。愛されたから生まれた子供だ。子供を蔑ろにし、憎んで世話をしなかった。その結果、父親は危険と判断してサラサだけ別館に移して、行動を制限したんだろう」
「うむ。父親のように子供も同じように愛せぬのかの?」
じいさんの光が弱くなり、しょんぼりしているようだ。
「どうだろうな……、俺の生まれた国では母は強し、とか言われるが。人それぞれだろうな。サラサも健康であったなら違ったかも知れない。今更どう言っても変えられないがな」
「そうじゃの」
「厳しいが、俺はやっぱり許せない……育児放棄までならまだいい。どうして、『子供が夫の愛情を独り占めしている。その子は呪われている。呪いが消えて、あなたが前みたいに私を愛し、何よりも私を優先できるようになったら戻ります』なんて――正気じゃないだろう」
「……正気ではなかったのだろうて、もう病んでいたのじゃ。そう思い込むことで、自分は間違ってない、呪いが原因で夫は自分を愛せなくなったと――そうやって孤独の中、壊れていく心を繋ぎ止めたのだろうの」
「……」
どこで歯車が狂ったのか、誰も罪はなかったはずなのに。
幸せな家族になれた可能性もあったはず。
「今更だな」
「受け止めるしかあるまいのぉ」
「ああ、そうだな」
「さて、レオにどう伝えたものかの」
重い空気を切り替えるかのように、じいさんは俺の肩から手先までコロコロと転がるように移動して、手紙に乗った。
俺が考えても、どうにもならないからな。
「そうだな……。俺が思うに、レオは薄々感じていたんじゃないかと思う」
「何故そう思う?」
「勘だ。レオは大人しかったと、ロベルト、ハワード、ナタリーに懐いていた」
「ふむ」
「あと、大事にしていた本」
「本?」
「ああ、少年が一人で冒険に出る話だ。何度も繰り返し読んでいたようだ。地下に閉じ込められるまでは、一人で冒険に出ようと思っていたんじゃないかって、――夢見ていたんだと、読み込まれた本の存在がそう言っている気がする」
「……冒険か、そうか」
ゆっくりと噛みしめるように、じいさんは呟いた。
寂しそうな、やるせないような思いが伝わってくる。
「だから、包み隠さず手紙の通り伝えて良いんじゃないか?」
「そうじゃの、そうしよう。悠人、ありがとうのぉ」
「お礼を言われる程じゃないよ。あと、気になることと言うか、物があるんだ」
「気になる物?なんじゃ?」
「サラサ、母親の部屋の本棚に隠されていた宝箱がある」
「何が入っていたのじゃ?」
「タイミング悪くて中身は確認できていない」
収納から宝箱を取り出す。
先程の宝箱よりずっしりと重い。
「これは、また……金ピカじゃの」
金ピカって、艶ないけど。
「全部、金で出来ていると思う。かなり重いから」
「ほぅ。先程のより豪華じゃの」
「ああ。これは、どうしたら開く?」
「ふむ」
ふよふよと飛んで、金の宝箱に乗る。
じいさんの光で、金が光る。
神々しい宝箱に見える。
「喜ぶのじゃ、蓋に手を乗せて魔力を流すだけで開くぞ」
ピカピカと光りながら報告するじいさん。
俺が血が嫌いだからね~。
めっちゃ嬉しそうだ。
宝箱の上で飛び跳ねている。
「ふふ、ありがたいね。じゃ、開けるよ」
そう言うと、俺の肩へ移動するじいさん。
落ち着いたのを確認して、宝箱に右手を乗せ魔力を流す。
すると、すぐカッチっと音がして、ゆっくりと蓋が開いた。
「……何もないのか? 開くだけか?」
すごく残念そうな声で言い、宝箱の近くへ飛んで行く。
止まって待って、焦れて宝箱の周りを落ち着きなくウロウロする光の玉。
「何も仕掛けないみたいだね」
「がっかりなのじゃ」
「まぁまぁ、何が入っているかな?」
中をじいさんと一緒に見る。
「ペンダントだね。こっちは宝石が付いている。また、ガラスが隔てているみたいだ。これも魔力の膜かな?」
そのまま、手を入れようとしたら、すごい光に遮られる。
また!?
「待つのじゃ!!」
「う~、目が痛い。どうしたの?」
両手で目を覆う。
暗がりの中での強烈な光は、目に毒だ。
「少し待て、調べる」
宝箱の近くで止まり、じっとする光の玉。
微動だにしない。
「悠人、そなたは部屋から出て扉を締めて、最大の結界を自分に張るのじゃ」
「え? どうしたの?」
「そなたが受けた呪いより強いようじゃ」
「な!?」
「これは、このままにはしておけぬ。儂か呪いを解除する」
「わ、わかった」
「じゃ、部屋出るよ」
「うむ。む? 待て、そなたを先に本館へ転送しよう。その方が安全じゃ」
「分かった。ありがとう。この建物に結界張る?」
「ふむ。そうじゃの、この部屋に念のため結界を張ってくれるかの」
「分かった」
俺は部屋に結界を張り、先に本館の応接室に転送してもらう。
「解除したら、来るからの」
「はーい。気をつけてね」
「ほほ、心配してくれるのか。嬉しいの~。では行ってくるの」
光の玉が一瞬で消え、応接室が真っ暗になる。
俺は光を出し、ソファーで横になった。
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次回 5/16 (土) 20時更新です。
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