第30話 宝石箱に託された想い
俺は絨毯の上にそのまま座り、箱を眺める。
「宝石箱みたいだな」
「うむ。凝っておるの」
じいさんと二人で、宝石箱を四方から細部まで確認する。
「これもか?」
「残念ながら、これも血が必要じゃの」
やっぱりか。
「どこにつければいい?」
宝石箱を見つめる。
重みはあるが、宝石箱としては普通な重さだろう。
木で作られた箱に金メッキ――、金がはめ込まれているのか?
植物の葉と花の模様が左右対称に彫刻されている。
「う~ん、これのどこに?」
「どれ」
じいさんは、箱を持っている俺の手に乗りじっと見つめる。
多分、見ているんだよな。
目がないから分からん。
「あ~、ここじゃの」
「どれ?」
じいさんは器用に光りを細くしてピンポイントで指してくれる。
「えっと、このくぼみ?」
「うむ……」
「え? 付けるんじゃなくて、まさか……ここに垂らすの?」
「うむ」
異世界は血以外に方法は考えないのか?
俺がお嫌そうな顔をしていたのだろう。
「少しで良いから、頑張るのじゃ」
応援されてしまった。
「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」
さすがに床に宝石箱を置くのは気が引けた。
「応接室にいこう」
隣の部屋に移動して、ローテーブルの上に宝石箱を置く。
風魔法で先程より少し深く指先を切り、くぼみに数滴血を落とした。
すると、そのくぼみが光る。
次に彫刻の花が淡く光り、その花を起点に光の線がつながり、空中に映像が浮かび上がる。
それは、よく知る花。
その花が咲き始め、満開となり散ってゆく。
俺は目を見開き、その映像に釘付けとなる。
「ほぉ~、これも美しい」
じいさんは見とれていた。
俺の心臓の鼓動が早鐘を打つ。
そこに男性が現れた。
威厳のある男性、艶のあるプラチナブロンドで鼻もすっと通り、薄い唇。
真っ直ぐこちらを見る透き通る紫の瞳をした、美しい男だった。
透き通った瞳には、揺らがない強さも見えるが、不安、憂い、寂しさの色が多く感じる。
「……父親か」
「うむ。レオの父じゃろう。色は異なるがよく似ておるの」
その男はおもむろに口を開き、静かに語りかけた。
「レオ、これを見ていると言うことは、そなたは私の元に居ないのだな。私はそなたの父親だ……愛する息子よ」
その一言の後、男性は目をきつく閉じ、苦渋の表情を浮かべる。
重い沈黙のあと、開いた目には決意の色が見えた。
「今から話す内容は、そなたには辛い話になるだろう。だが真実だ……我が名に誓う。我は――」
俺は息を殺して話を聞いた。
部屋の空気は張り詰め、嫌な緊張感が漂う。
映像が消えても、動くことも言葉を発することも出来なかった。
静寂が支配する。
「悠人、大丈夫かの?」
「……」
俺は映像が消えた空間を睨みつけ、じいさんの声が聞こえていなかった。
無意識に両手の拳を握りしめ、爪が食い込み血を流していた。
「悠人!」
目の前に閃光が走る。
「わ!!」
目が!!
痛い! チカチカする!
目を押さえる。
「む、すまぬ。光が強すぎたかの」
「っっ~~~」
俺は手で目を押さえて、ソファに突っ伏した。
ずっと立ったままで見ていたようだ。
「気持ちもわかるが、怒りで魔力が漏れておる。本館の者たちにバレてしまうのじゃ」
俺はソファに横になり、両腕を組んで目を覆い、仰向けになり深呼吸をする。
なんとか、やり場のない気持ちを押さえ込む。
「――すまない」
「よい。……歯がゆいの。ほれ、腕を解いて両手を出すのじゃ」
組んだ腕の力を抜き、拳を開いた。
両手のひらが温かい魔力に包まれる。
傷が治り、心も癒される。
「ありがとう」
「うむ」
じいさんは、それ以上何も言わず俺が落ち着くのを待ってくれた。
その間、光の玉が頭で跳ねていたが……。
俺は大人だから、何も言わずスルーした。
暇だったのかな。
微妙な空気の中、じいさんがわざとらしく咳払いをする。
「落ち着いたようじゃの」
俺は頷きながら起き上がり、左手で前髪をかき上げる。
宝石箱へ視線を落とし、じいさんを見る。
「言っていた手紙を確認しよう」
「うむ」
レオの父親が言っていたように、宝石箱の左右に両手を添える。
右手から魔力を宝石箱に流して、左手へ魔力を流して俺の体を通して右手へ。
これを魔力量一定で5回繰り返す。
面倒くさい。
「よし」
開けようとしたが開かない。
「あれ? 何かまだあったか?」
「む? 一度手を離したかの?」
「あ、離してない」
宝石箱から両手を離す。
すると、ジジッっと音がして自動で蓋がゆっくりと開く。
《 ♪…#♬♪…♭*♫♪#……#…♮♪♬…… 》
「――曲?……オルゴール、か」
「ほぉ、面白いの。自動で音が流れるのか」
曲なのだろうが、途切れ途切れでメロディーが分からないな。
「多分、本来なら曲が流れるものだと思います。俺の世界に同じような物があります。
作りは違いますが」
「曲が流れるのか、残念じゃ。聞いてみたかったのぉ」
かなり残念がっているな。
宝石箱の周りをふわふわと周回している。
じいさんだけど、和むな。
ありがたい。
「魔法で作られていますよね? 外傷はないのに故障とかするんですね」
「故障はありえぬ。あれほどの複雑な解除方法を組んでいて、そちらは問題なかった。外傷がないのは復元魔法がかかっておるしの」
「復元魔法……」
「そうじゃ。これを開けようとした……、壊そうとした者がおるのだろうな」
「なるほど、予想はつきますね。おそらく……」
「残念じゃが、そうだろうの」
二人して黙り込む。
「手紙を確認しますね」
宝石箱の中を確認する。
「手紙ありますね。ん?」
手紙を取り出すと、ペンダントが見えた。
ただ、ガラスを隔てており、取り出し口がない。
「どうやって取るんだ? 取手も隙間もない」
「なんじゃ?」
じいさんが覗いてくる。
「そのまま手を入れれば取れるぞ」
「え?」
そう言われて手を入れると、ガラスではなく水のような何かを通り抜ける。
なんの抵抗もなくペンダントを取ることが出来た。
「魔力の膜みたいなものか?」
「そうじゃ。最後の最後まで厳重だったのぉ」
「なんの抵抗もなかったぞ?」
「宝石箱を解除した魔力の持ち主だったからの。開けたもの以外が取り出そうとしても出来ぬの~」
「そこまで厳重にするのか……」
俺はチェーンを持ちペンダントの表を見る。
ロケットペンダントのような膨らみがある金で、植物の模様が彫られている。
裏を見ると文字が刻印されていた。
俺は目を見開き、息を飲む。
「どうしたのじゃ?」
俺の様子に気づき、じいさんもペンダントを見るために寄ってきた。
「普通のペンダントじゃの、表に模様があるだけだの」
「あ、ああ。そうだな」
じいさんに見えていない?
ペンダントから離れ、俺の肩に止まる。
俺は平静を装い、ペンダント部分には触らずに宝石箱に戻した。
「手紙、確認するか」
「そうじゃの」
厚みのある封筒を開ける。
「多いな……」
「うむ」
二人で読み進める。
内容は、母親との出会いから、レオが誕生するまでの二人のこと。
レオが生まれた後の自身と母親のこと。
そして自分自身が見聞きしたこと、思いと行動が詳細に書かれていた。
そして……贖罪だった。
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次回 5/13 (水) 20時更新します。




