第29話 蓮の花に託されたもの
別館へどう移動するのかと思っていたら、光の玉がふよふよと寄ってきた。
「では、ちょっと失礼するぞ」
そう言って、俺の肩に……くっついたのか?
ちょっと光が肩に埋もれているような……。
気にしないでおこう。
「どこから出ればいい?」
「ん? このまま行くぞ」
その声とともに体が光に包まれる。
光が眩しく腕で目を隠す。
光が収まり目を開けると、別館の前に立っていた。
「うぇ!?」
「ホホ、転移したのじゃよ」
先に言ってくれよ。
「部屋に直接は無理だったのですか?」
「――どの部屋かしらないもん、儂」
もん、って。
拗ねちゃったか。
光の玉がしおれているように見える。
悪いことしたな。
でも挽回は難しいな、ここはスルーしよう。
「そうでしたね。すみません。では、早速部屋に行きましょう。時間もないですし」
「むぅ」
すねているのか、俺の頭の上で跳ねる光の玉。
神様ですよね?
じいさんだよね?
重みも、痛みもないからいいけど。
「あ、開いていない」
別館の入口は施錠されていた。
そりゃそうか。
「解除でいけるか……?」
ドアを手で触れながら言ったら、ガチャっと音がした。
「あ、開いた。魔法便利だけど、防犯大丈夫か? 入り放題じゃないか」
「そなた……、常識は学んでおるかの? 普通、他人の魔法の解除はそう簡単には出来ぬ。施錠に使う魔法は個々で異なり複雑じゃ。それに魔力の質も関係してくる。……どう解除しておるのやら」
「ん?」
また最後が聞き取れなかった。
「なんでもないぞ」
お年寄りの独り言か。
「そなた、失礼なことを考えておらんか?」
「気のせいだと思うよ。でも、解除難しいんだね、特に何も意識してないんだけどな。まぁ、開いたからいいか。じゃ早速部屋にいこう」
そう言って俺は階段を上がり、肖像画のある部屋を目指した。
3階に上がり、壁にもたれ休む。
「本当に貧弱だな、ハァ」
3階に上がっただけで息を切らす体力、勘弁してくれ。
「大丈夫かの?」
「あぁ、問題ない。行こう」
再び歩き出し、目的の部屋に着く。
結構距離があった。
エドガーにずっと抱えられていたからな。
「ここだ」
ドアを開け中に入り、サラサ――レオの母親の部屋に入る。
「これだよ」
「ほぉ。ふむ、レオに似ておるの」
「まぁな」
サラサの肖像画を眺める。
ん?
「そう言えば、なんで肖像画を自分の部屋に飾っているんだ?」
ナルシストなのか?
「ふむ、そうじゃの。普通は飾らないの」
「だよな……。それだけ重要な物を隠しているのか?」
肖像画に近づく、やはり届かない。
収納から椅子を出して、額縁に慎重に手を添える。
「重い」
強化魔法を使う。
子供の体は不便だ。
「う~ん。じいさん、レオから裏以外に何か聞いてないか?」
「聞いておらんの、話によると母親が裏に隠すのを見ただけのようじゃ」
「そうか」
見た感じは何もない。
また、魔力が関係しているか?
魔力を流してみる。
「変化がないな、魔力じゃないのか?」
「見当たらぬか?」
「ああ」
「ふむ」
じいさんは、そう答えると、ふよふよと肖像画のところへ寄っていく。
光の玉が肖像画の周りを彷徨っているのは、案外癒されるものだな。
じっと見ていると、ピタッと止まった。
「レオ、こっちじゃ。ここの額縁の裏、角にそなたの血を少し付けてみよ」
「血か……」
そう言えば、あの箱も血だったな。
魔法はいいけど、魔力以外は血しかないのか?
ちょっと、げんなりしつつ場所を移動する。
「ここか」
風魔法で指先を軽く切り、角に触れる。
すると、ふわっと風が吹き、光が舞って肖像画から離れ浮かぶ。
やがて光が収束して、花の蕾が現れた。
「蕾?」
「レオ、あの蕾に魔力を」
じいさんに言われ、魔力を送る。
すると、蕾が七色に光、その後春の日差しのように温かい光へと変わる。
そして、花びらが1枚ずつ光を帯びて開いていく。
「蓮の花……」
幻想的な光景に目を奪われながら、目の前に現れた花の名前をポツリと呟く。
「美しいのぉ」
じいさんも見惚れていた。
最後の花びらが開ききると、花の周りに光の波紋が広がる。
ぼーっと二人で見ていると、花の中央にある花托が七色の光を帯びた。
すると、花托が箱に変わっていた。
じっと見つめてみたが、それ以上の変化はなかった。
椅子に乗っていても、届かないんだが……。
「風魔法を使うと良いぞ」
どうしようかと悩んでいると、じいさんが助言をくれた。
「なるほど」
俺は椅子から降りて風魔法を使い、傷つけないように、優しい風で箱をそっと包み込み持ち上げ自分へ引き寄せる。
すると、蓮の花はキラキラと光の粒子となり消えていった。
「しかし、凝っておったのぉ。なかなか美しく見ごたえのある魔法であった」
「ええ、とても美しかったです。レオの母親でしょうか?」
「いや、違うようじゃ。悠人、肖像画の下に落ちておる物を拾ってくれるかの」
「え?」
見てみると絨毯の上に、指輪が落ちていた。
「指輪?」
「うむ。手のひらに乗せて見せてくれるかの?」
言われた通り手のひらに指輪を乗せ、じいさんに見せる。
光の玉が俺の手のひらに止まり、じっと指輪を見ているようだ。
その様子を見ていると、ふるっと光の玉が一度震える。
「悠人、この指輪をこのまま収納してくれるか」
有無を言わせない、いつもと違う声色に素直に応じる。
この指輪に何かあるんだな。
「その指輪は、父親からレオへの贈り物じゃ」
「え? 父親からの贈り物……?」
なぜ、父親からの贈り物をここに隠した?
嫌な憶測が頭に浮かぶ。
「ん? 子供に指輪?」
「む? そうか、悠人の世界では子供には贈らぬか。この世界では、5歳になると神殿で魔力の解放を行う。指輪に子供が得た属性に応じた、魔石を使用することが多い。稀に魔力が大きい場合、子供には負担なため魔力を抑える魔道具となる」
「……それなら、この指輪が父親からなら、レオは大切にされていたのでは?」
「そのとおりじゃ」
「なぜ、ここに……」
両親が離婚したのか?
夫婦のことは他人には分からないからな。
「指輪をはめたほうが、レオが喜ぶんじゃないか?」
「そうなんじゃがの、あの指輪は一度はめると、持ち主を認識し外れなくなる。そして位置追跡魔法が付与されておる。厄介なのはレオが危険に陥った場合、転移魔法が発動するようじゃ」
「うぇ!?」
「かなり過保護な父親のようじゃの」
「それは、はめられないな。レオには悪いが封印しておこう」
「うむ。仕方あるまい」
しかし、そんな魔法付与ができるとなると……。
「なぁ、じいさん。レオの父親の正体知っているのか? この指輪かなり高価な物だろ? これが買えるとなると、それなりの貴族になるんじゃ?」
「うむ。儂もそう思う。レオの父親について調べておるのだが、辿り着けぬのじゃ、邪魔をされているような、何かに阻まれているような感じでの……。神なのに不甲斐ない」
「そうか……。レオなら許してくれるだろう。時間もないしな」
「ああ。もう話して許しを貰っておる」
やるせない思いで、心が締め付けられる。
俺は頭を振り、切り替える。
「箱を開けよう」
「そうじゃの」
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次回 5/9 (土) 20時更新します。
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