第27話 レオからの頼み
隠し部屋入口の結界を解除して、書斎へ出た途端にエドガーに抱えられる。
「レオ! 何回も呼んだのに返事がないから心配しただろう。何かあったのか?」
「何もないよ。解除魔法が複雑だから、集中したくて遮音もしていたんだ。伝えなくてごめん」
「そうか、それならいい。心配した……」
息を吐きながら、俺を強く抱きしめる。
リックがやって来て、俺の頭を撫でる。
「あまり心配させるな」
困った顔して微笑んだ。
「うん。ごめんなさい」
「何だ、リックには素直だな」
ムスッとするエドガー。
「「……」」
俺とリックは顔を見合わせる。
「プッ」
「クッ」
二人して思わず吹いてしまう。
エドガーを見ると、不服そうな顔をしてこちらを見ていた。
「何だよ」
「ふふ、エドガー、まるでヤキモチだよ?」
「だな。まさか、こんなお前を見られるとは思わなかった。特定の相手も作らず、女に興味がないお前が、彼女ではなく、レオに……ヤキモチって、アハハハ、ハハハ」
お腹を抱えて笑うリック。
「お前なぁ……」
「ハハハ、悪い、無理。クク」
笑うのを我慢しようとしているのか、声を堪えて肩を震わせている。
リックって、笑い上戸なのか?
チラッとエドガーを見ると、頷いた。
そうか、そうなんだ。
それから、しばらくリックが落ち着くのを待った。
わざとらしい咳払いをするリック。
「すまない」
「もう大丈夫?」
ジト目でリックを見る。
なんか緊張感が続かないよな、いいけど。
「悪かった。それで、どうだった?」
無理やり話をすり替えたな。
時間がないから乗っかろう。
エドガーは慣れているのか、気にしていないようだ。
「暗号と一致していた。種類と箱の個数は書いておいたよ」
収納からメモを取り出して渡す。
二人はそれを見て苦い顔をする。
そうだろうな。
数が多い、捨て駒の伯爵家にだ。
この数を回収できなくても問題ないということ。
それは、これ以上の数が秘密裏に取引されている事を示している。
黒い球体は、暗号もなかった……。
神のじいさんに相談だな。
二人には悪いけど黙っておこう。
「結構な量だな」
「ああ」
エドガーとリックは俺のメモを見て難しい顔をして話している。
俺と同じ考えのようだ。
「箱以外にあった書類も収納してきたよ」
「書類を確認しよう」
「ああ、そうだな」
「その前に俺達も再度、隠し部屋を確認しておくか」
「そうだな」
「エドガー、リック。俺ちょっと疲れちゃったから、応接室に戻っていい?」
「大丈夫か?」
エドガーが俺の顔色を伺う。
「うん。封印解除に疲れたんだと思う」
「無理をさせたな、すまない」
申し訳なさそうに、俺の頬を撫でるエドガー。
「少し横になったほうが良いかもな」
「俺達も応接室にいこう」
「ああ、ユーイルを移したほうがいいな」
頷く二人。
結局三人で応接室へ戻り、俺をソファーに寝かせた。
「ユーイルの件をロベルトに話してくる。その後、隠し部屋を俺達で確認してくるから、ゆっくり休め。何かあったら、あの石に魔力を流せよ」
「うん。わかった」
「じゃ、いってくる」
そう言って、頭を優しくなでて、おでこにキスを落とす。
リックはユーイルを抱え、二人で部屋を出ていった。
二人の足音が聞こえなくなるのを確認して、俺は呼びかけた。
「じいさん、いる?」
「おるぞ」
声が聞こえると同時にすぐ目の前にポンッと光の玉が現れた。
「お待たせしました」
「よいよい。さて、何から話そうかの」
ふよふよとする光の玉。
何か考えているようだ。
すると、スイーっと俺の周りを周回する。
「ふむ。上手く呪いを押さえておるの。そなたしか出来まい」
「そうなのか?」
「ああ、呪いを抑えるには膨大な魔力が必要じゃ。そなた、悠人はその魔力を継続的に使用しておる。普通ならすぐ死んでしまう」
久しぶりに自分の名前を呼ばれたが、そんなこと吹き飛ぶ情報があった。
「死ぬ?」
「そうじゃ、悠人の魔力は膨大だが、無限ではない。魔力は消費しても回復するが、消費より回復は時間がかかる。この意味わかるじゃろ?」
「――ああ、そのうち回復が間に合わず、死に至る。そうだな?」
「さよう。しかも、レオンの体は元々限界だった。儂が一度回復させたが、定着する前にその呪いを受けたことで、元より状態が悪くなっておる」
「だろうな」
予測はしていたが、事実だとさすがに堪えるな。
まぁ、覚悟はしていた。
一度は死んでいるしな。
ゆっくりと息を吐く。
「気付いておったか」
「まあな、そのぐらい分かる」
「レオの体は、もって10日じゃ――」
「それは困る!なんとか」
「待つのじゃ、話はまだ終わっておらぬ。悠人、そなたに頼みがある」
「頼み?」
この状態で?
思わず声が低くなる。
「そうじゃ。その頼みは、そなたの体の持ち主、レオからの頼みじゃ」
「!? レオ? 彼はどこに?」
俺は思わず勢いよくソファーから立ち上がる。
「落ち着くのじゃ、今は儂の神域の中で休んでおる」
「神域?」
「そうじゃ、レオの魂は消えかかっておった。レオの魂を見つけたのは儂の眷属じゃ。少しでも遅かったら手遅れだった」
「じいさん、なら俺は……」
「うむ、そなたはレオとして生まれておらぬ」
「だろうな」
「む? 気付いておったのか?」
「気づいたと言うか、推測だ。どう頑張っても記憶が戻らない。自分の顔や、母親の肖像画を見ても他人としか思えなかったからな」
「そうじゃったか」
「なんで、俺はレオの体に?」
「原因は確認中じゃが、レオが死んで、何らか要因でそなたの魂が入ったのだろうが……」
「なんだ?」
「普通ではありえんのじゃ。魂と体は唯一無二の関係、他者を受け入れるなどありえぬ」
「けれど、俺が入っている……ね」
「そうじゃ」
「まぁ、いい。それで、レオからの頼みってなんだ?」
「良いのか?」
「分からないことを考えても無駄だ。それに、体を借り受けているんだ。その主からの頼みは断れないだろ?」
「助かる」




