第26話 封印と呪いの箱
書斎に入り、エドガーは俺を下ろす。
「レオ、俺とリックで確認するから、少し待っていてくれ」
「わかった」
俺には見せたくないようだ。
木箱を1つ1つ確認していく二人。
「ダメだな」
「ああ」
「やっぱり開かない?」
頷く二人。
「俺がやってみる。いいよね?」
「仕方ないな……。すまない、頼む」
複雑な顔をするエドガー。
「不甲斐ない」
リックがポツリと言う。
「気にしないで、俺も確認したいから」
俺は木箱の1つを確認する。
思った通り、封印魔法が施されていた。
これ、結構複雑だな。
「開けられるか?」
「あ、うん。ちょっと複雑な封印魔法がかかっていて。もうちょっと待って」
慎重に解除していく。
ロベルトが持ってきた本魔法書、全部読めていてよかった。
パズルのようだ。
ふわっと封印の魔力が霧散した。
蓋を開ける。
「おい!」
エドガーが慌てる。
中を見ると、赤黒い石が入っている。
大小様々な大きさで統一感はない。
「石だね。何の石だろう? 分かる?」
中身を確認した途端、顔色を変えて箱を閉じるエドガー。
リックは口を手で押さえ蒼白だ。
「二人とも大丈夫?」
「……ああ」
なんとか声を絞り出し答えるエドガーと、頷くリック。
二人とも額に汗をかいている。
「二人とも、書斎にいったん戻ろう」
二人が無言で頷く。
書斎に出て、ライトで明かりを増やす。
二人は壁にもたれ息を吐く。
収納からポットとカップを出す。
「二人とも行儀が悪いけど座って、これ飲んで」
素直に床に座りカップを受け取る二人。
注意深く観察すると、二人の魔力が揺らいでいた。
俺は隠し部屋の入口に結界をはり、二人の魔力が落ち着くように魔力にそっと干渉をした。
二人が落ち着くのを待ち、声をかける。
「落ち着いた?」
「ああ、ありがとう」
「は~、助かったよ。ありがとう」
そう言って、ちょいちょいと俺を手招きするエドガー。
仕方ないな。
側によると膝の上に座らされ抱きしめられる。
「は~、癒される」
ぐりぐりされるのを甘んじて受け入れる。
ヒゲが痛い。
リックを見る、エドガーよりも落ち着いている。
「リックは大丈夫?」
「ああ、俺はエドガーより耐性あるからな」
どうやら、俺の憶測はあっているようだ。
「あの石は呪いに関係するんだね?」
無言で視線を交わす二人。
じっと待つも口を開かない。
言いづらいか……、暗号一覧にあったのは臓器の名前。
医学は発展してないようだが、臓器の名前は同じだった。
どのように保管しているのかと思ったが……。
二人の反応からして、あの石がそうなのだろう。
「俺の考えを言うよ。あの石は呪いに使われる物。材料が一覧にあった臓器。違う?」
息を飲む二人。
「どうして……」
エドガーが絞り出すように呟く。
信じられないという表情をする二人。
「俺の記憶がないことを知ったロベルトに、あの本棚中段にある魔法関連の本と、ここにない上級魔法の本を読まされた。ちなみに、内容は全部覚えている。たぶん、知識は二人と同じぐらい持っているってことだよ」
「「……」」
絶句する二人。
「ハハハ、レオには敵わないな」
「本当に、驚かされてばかりだ」
「だがな、レオ。知識を持っていることと、実際に見る事では違う。レオは12歳で、まだ子供なんだ。守られて当然なんだ。俺は……、俺にレオを守らせてくれないか?」
そう言って、優しい目で真っ直ぐ俺を見つめる。
ぐっと喉が詰まり、油断すると涙が出そうだ。
目頭に力をいれ我慢する。
「……エドガー、ありがとう。でも、ごめん。ここの、伯爵家の問題は俺がやらなくてはならない問題だから」
ぐっと眉間に皺が寄り、辛そうにするエドガー。
「今は待って欲しい」
「今は?」
「ここの問題が終わったら、俺を守ってくれる?」
きょとんとして瞬きをして、破顔する。
「ああ、もちろんだ」
エドガーの笑顔は凶器だな、ヒゲがあって良かった。
そんな事を考えていたら、額に軽くキスされ、ふわっと抱きしめられる。
「でも、レオ。ここでも、できる限り守らせて欲しい。守らせてくれるな?」
なんとか頷いた。
顔が真っ赤なのが分かる。
この人たらしめ!
そんな俺達を見て、声を押し殺し笑って、呟いた言葉は俺の耳に届かなかった。
「クク、俺は何を見せられているのやら、面白いからいいけどな」
リックの生暖かい視線に気づいて、更に体温が上がった。
「エ、エドガー、それで他の木箱だけど俺が確認してくるから、二人はここで待っていて欲しい。二人は、あの魔力にあてられるんだよね?」
「ああ、だが……」
難しい顔をする二人。
「今更でしょ。今は俺が守るよ。ね?」
二人は顔を見合わせ、笑った。
「まさか同じ言葉を返されるとは、レオには敵わないな」
「ああ、まったくだ」
「ふふ、じゃ行って来るよ」
「レオ、箱の角に暗号が書いてあった。それも、確認してくれるか」
「分かった」
頷き、隠し部屋に入る。
あの一瞬でエドガーは気づいたのか。
俺は気づけなかった。
気を引き締めよう。
「暗い。ああ、そうか。ライト」
ライトを書斎に置いてきたんだった。
再度2つ出して照らす。
先程開けた木箱を見ると、エドガーの言った通り暗号が書かれていた。
「他の箱は……、書いてあるな。開けて中も確認していくか」
見た目が石ではあるが、やはり気持ちの良いものではない。
俺は、幸か不幸かもう呪われているので、魔力にあてられることはないが……。
「一度解除したからか、さっきよりはスムーズに開けられるな」
部屋にある木箱を全て開け確認した。
石以外にも、粉末に液体もあった。
両方とも麻薬と毒、用途に合わせて使い分けるのか。
こちらは二人に見せるため、少し別に収納する。
「この部屋に入るのは厳しいだろうから、書類も収納しよう」
白紙の紙、羊皮紙があったので使わせてもらおう。
木箱の種類と個数をメモする。
机の引き出しを確認していくと、不自然なところがあった。
「二重底か」
仕掛けを探す。
「これか」
隠されていたのは、黒塗りの箱。
何も記載なく、継ぎ目のない箱だった。
木箱より強い封印魔法が施されているのが分かる。
「厳重だな。だが、問題ない」
魔力で箱を覆うと封印魔法が浮かび上がる。
複数の魔法陣と、呪文が浮かび上がる。
「これ、封印魔法だけじゃないな。結界か」
かなり強固な結界魔法だ。
「ここまで厳重とはね、いったい何が入っているのか」
結界魔法も重ねがけか、後少し……。
解除した途端、暗黒に取り込まれる。
「ぐぅ……」
一気に冷や汗が出る。
この感じは体内にある呪いと同じだ!
とっさに鼻と口を両手で塞ぐ。
息苦しい。
「っ」
全身から力が抜け崩れ落ちる。
体が痙攣しているのが分かる。
助けを呼びたくても、声が出ない。
「ダメだ」
助けは呼べない。
呪われるだけだ。
なら、それなら、俺が……。
「俺を呪え!」
口と鼻を塞いでいた両手を外し、息を吸おうとしたら、眩い光に包まれる。
「お主は何をしておるのじゃ!」
体がスッと嘘のように軽くなり、息ができる。
「聞いておるのか!」
「へ?」
キョロキョロ周りを見るも、眩しくて見えない。
「ここじゃ」
「その声は、じいさん? あ、神様?」
「ホホ、じいさんで良いぞ。どこを見ておる、こっちじゃ」
「いや、眩しすぎて位置が分からない」
「む、すまんすまん」
光が収まり、俺の目の前に浮かんでいる光の玉が見えた。
瞬きを数回繰り返す。
「大丈夫かの?」
「はい。助けて頂きありがとうございます」
「よいよい。しかし、そなたも無茶をする。あの呪いを全部受けようとするとはの」
「あの呪いは受けたら解除できずに死に至ります。俺はもう呪われているので問題はないかと」
「だとしてもじゃ、あれほど……」
ん?
光の玉がピタッと止まり、黙ってしまった。
しばらく待つも動かない。
声をかけようとしたら、光の玉が一回り大きくなり顔にぶつかる。
「わ!」
「呪われているとは、どういうことじゃ!!」
あ、気付いてなかったのか。
顔をグイグイ押す光の玉。
「えっと、ちょ、離れてください!」
「む、すまない」
「腹に呪いのかかった、黒い球体を埋め込まれました」
俺は起き上がり、腹を擦る。
光の玉がイガグリのように刺々しくなり、俺の腹の前でとまる。
「これと同じ物じゃな」
黒い箱が光に包まれ浮いていて、中身が見えた。
そこには、ダリルに見せられた、あの黒い球体と同じ者が10個入っていた。
「……そうです」
怒りが込み上げて来る。
無言で見つめていると、箱が閉じられる。
「これは儂が預かろう」
「ダメです! それは証拠です。伯爵家がこの呪いに関わっていたと、示す確固たる物証です。俺の物です」
素早く箱を持ち両腕で抱え込む。
「そなた、学習せんか。まぁ、今は儂の結界で包んでいるので害はないがの」
「あ、すみません」
「仕方あるまい」
そう言うと、箱に光の帯がかかる。
「これで収納しなさい。その箱のことと、別途そなたに伝えたいことがある。が、外の二人が心配しておる。先に顔を見せてやり安心させよ」
「あ、すみません。ど、どうしよう」
「案ずるな、ここで起きたことは見えておらんし、聞こえておらん。だから余計に心配しておる。儂が結界を張ったので入れんしの」
「な、なるほど。ありがとうございます?」
「なぜ、疑問形なのじゃ? まぁ、よい。この後、すぐ一人になれるか? 早急に伝えたいことがある」
「分かりました」
「うむ」
返事をして、じいさんは消えた。
俺は光の帯で封印された黒い箱と、机の資料を収納した。
隠し部屋が空になったことを確認して、入口で右往左往する二人の元へ向かった。
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次回 4/29 (水) 20時更新します。




