第24話 ズサンな帳簿
エドガーに抱きついたが、反応がない。
あれ?
体を離そうとしたら、エドガーに体と頭を抑えられる。
そのまま、エドガーは立ち上がり、クルッと俺の方向をかえてソファーに座らせる。
「少し出てくる。すぐ戻る」
そう言って足早に部屋を出ていく。
ん?
俺を見ずに、出ていくエドガーを見送る。
トイレかな?
「ブッ、ガハハッハ!」
「ククク」
「お二人とも、そんなに笑っては、エドガーさんに失礼で……すよ。っ」
口に手を当て、肩を震わすロベルト。
いや、ロベルトも笑っているじゃん。
なんで?
首をかしげる。
「レオ、やり過ぎだ。クっ」
リックがお腹を抱えた。
「あ~、笑った笑った、エドガーのあんな顔を見るとはな。愉快愉快」
「あんな顔?」
「レオ様、どこまで計算されていたのですかな? 抱きついたのがトドメでしたな。っ、ゴホン」
トドメって、もしかして照れすぎて出ていったの!?
目を見開く俺に、またしても三人が笑う。
確かに、トドメで抱きついたけども、いらなかったのか。
エドガーさん、チョロすぎでは?
というか、俺のこと大好きすぎない?
大丈夫かな?
「気をつけます。でも、馬で行ける了承取れたし、結果よしでしょ」
「「「……」」」
三人ともエドガーを不憫に思った。
咳払いをするロベルト。
「エドガー様が戻られるまでに、お茶をご用意いたしましょう」
ロベルトがお茶の準備をしているうちに、エドガーも戻ってきた。
「こちら、レオ様に」
そう言って、エドガーの前にクッキーを乗せた皿を置くロベルト。
「ああ、ほら」
そう言って、クッキーを1枚摘んで、俺の口元に持ってくる。
ジト目で睨む。
「エドガー、お皿ごと取って」
そのまま、動こうとしないエドガー。
あーん、なんてできるか!
「リック、そっち行く」
両手をリックに伸ばす。
リックは困った顔をする。
「エドガー、やりすぎは嫌われるぞ」
「仕方ないな」
手に持ったクッキーを皿に戻し、皿ごと俺に渡す。
「次やったら、エドガーの膝には乗らないからね」
そう言って、クッキーを食べる。
「わ、悪かったよ」
焦るエドガー、それを見て笑うリック。
リックよく笑うようになったな、慣れたのかな。
ちょっと嬉しいな。
でも、気を引き締めないと。
時間がない、気になることもある。
まぁ、ここになかったから、本館にあるとは思えないけど。
「ロベルト、証拠は書類だよね?それ以外に何かあった?」
「薬、おそらく毒の類かと……」
「毒か、魔道具や魔導書、もしくは巻物みたいなのは?」
「いえ、そのような物はありませんでした」
「そうか、そちらには手を出していないか、まぁ、そんな頭もなさそうだしな」
「「「……」」」
三人が視線を交わしたのも、気づかず考え込む。
「ロベルト、昼食は証拠を確認しながら食べる。片手で食べられるものを用意して欲しい」
「子供たちと一緒に召し上がらないのですか?」
「家族水入らずで、過ごさせてやりたい。それに時間が惜しい」
「……承知致しました。ですが、くれぐれも、ご無理なさいませんように」
「ああ」
呪いについては何もないのか?
俺に使う分だけだったか……、ダリルの私室に何かあればいいが。
クッキーを食べながら考える。
手が空振った。
「ふ、おかわりするか?」
エドガーに笑われる。
チラッと、ロベルトを見る。
「ございますよ」
「お願い」
エドガーが空の皿をロベルトに渡して、変わりに追加の皿をもらう。
「ほら、飲み物は?」
「飲みたい」
「これ、冷ましてある」
「ありがとう」
周りが和んでいるが、気にしない。
俺ばっかり、食べてないか?
「エドガー、クッキーは?」
「くれるのか?」
「いや、俺のじゃないよ。はい」
1枚自分の分を取り、皿を渡そうとしたが、手に持っていたクッキーをエドガーに食べられる。
「ちょ?」
「ん?くれたんじゃないのか?」
「お皿を渡そうとしたの!」
顔が熱い。
この天然人たらしめ!
「俺は、1枚でいい、残りはレオが食べろ」
そう言って、頭を撫でるエドガー。
くっ、強く出られない俺も、エドガーに弱いよな……。
「そう言えば、公爵様はどこにいるの?」
「王都だ」
「ここから、馬で何日かかるの?」
「ここからなら、1日半ぐらいだ」
「それは、親父だけだ。あと、親父の馬と普通の馬を一緒にするな」
「む」
「馬も違うの?」
「親父の馬は、軍馬と魔馬とかけ合わせだからな。速さ持久力、全てが違うんだ」
頭の中の情報を引っ張り出す。
魔馬、魔馬……。
「大き過ぎない?」
「ん? 知っているのか?」
「本で読んだだけだけど、普通の馬の2倍から3倍って書いってあったよ」
「ああ、長く生きている魔馬は3倍になると言われているな。だが、稀だ。親父の馬は交配させているからな大きさは1.5倍ぐらいだ。でも体躯がしっかりしている」
「そうなんだ」
「親父、王都に行くときの先頭はリックだからな。親父は殿だ」
「それが、良いですな」
ロベルトが同意し、リックも頷く。
すると、ロベルトが立ち上がる。
「迎えが来たようですね。グレン様、お二方もよろしくお願いします。では、まいりましょう、レオ様」
「うん、行こう」
****************
全員が本館に移動し、人質たちは全員無事に家族と会えたようだ。
ロベルトは最初、証拠確認に付き合うと言っていたのを、セトと一緒に居るように追いやった。
グレン様はハワードと一緒に騎士たちの訓練とのこと。
休憩しなくていいのかな……、騎士たち頑張って。
俺とエドガー、リック三人は押収された証拠の確認作業に入る。
証拠類は応接室に運ばれていた、結構な量である。
始めは昼食を片手に会話しながら作業をしていたが、今は黙々と書類とにらめっこしている。
エドガーが、たまらず長い溜め息をついた。
「ロベルトが、まとめてくれていて助かったな」
「ああ」
こめかみを揉みながら、リックも疲弊した声で答える。
ロベルト、この書類の仕訳大変だっただろうな。
「本当だね。ここまで乱雑なんて、貴族の仕事って……」
「待て、違うぞ。俺だって、こんな乱雑なのは始めてみた。領地持ちでこれとは……」
「ああ、ありえんな」
なるほど、捨て駒にもってこいか。
考える頭がなく、餌を与えれば尻尾を振る。
金に権力……異世界でも同じか。
借用書が半分、その利子は法外なものばかりだ。
賭博で借金が膨らみ、返済の代わりに悪事に手を染めた典型的。
しかも、その報酬に目がくらみ、自ら率先したと思われる。
あとは毒か。
これは、使った形跡はない。
一時的に保管のため預かったか、捨て駒の処分用に持たされたか、いいように使われているな。
それにしても、おかしい。
「数字があわない」
俺がポツリとこぼした声に、エドガーとリックが視線を交わしたのを気づかなかった。
「「……」」
書類を何枚も並べて唸っているのを、二人がまじまじ見ているのに気づいた。
「見る? どうしても収支が合わないんだ」
「レオ、計算できるのか?」
「このぐらいの計算ならできるよ」
「このぐらい」
「そ、そうか」
遠い目をする二人。
あれ? これ普通じゃないのかな?
でも、必要だから、スルーしておこう。
「二人も見てくれる? 故意に抜かれているかもしれない」
二人は顔を見合わせ真剣な表情をして、書類を受け取る。
俺は、それ以外の書類の束を引き寄せ確認作業に入った。
どのぐらい時間が経っただろか、三人がソファーにもたれ掛かって、溜め息を付いた。
「やっと終わった」
「……ああ」
「疲れた、こんなに書類を見る羽目になるとはな」
「まったくだ」
「二人とも、書類仕事は向いてなさそうだね」
俺が笑いながら言う。
「レオは何ともないのか?」
「疲れているけど、二人ほどじゃないかな」
捜査で裏付け資料は色々あるからな。
「計算はあったけど、不明分だった金額の使用用途がなぞだね」
「ああ、この記号か暗号部分が何か分からないな」
「そうだな。項目、品名だろうが、使われている文字数が少ないから解読も厳しい」
「そうだね。個々にある書類からの推測は厳しいから、再度、探してみよう」
「それが良さそうだ」
「時間ないから、別行動にしよう」
「だがな」
エドガーが渋る。
「大丈夫、伯爵の部屋、寝室、執務室、書斎なら部屋続きでしょ?」
「何かあったら、すぐに言えよ」
「無理はダメだ」
二人に念を押される。
過保護だ。
「うん。分かった。じゃ、もうひと踏ん張りしようか」
「だな」
「ああ」
それぞれ担当部屋を決め、移動し証拠探しを再開した。
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次回 4/22 (水) 20時更新します。




