第22話 揺れる信頼の行方
全員の視線がロベルトに集まる。
だが、ロベルトは下を向いたまま動かない。
「ロベルト、話せ」
グレン様が声をかける。
ロベルトがゆっくり顔を上げて、俺に視線を合わせる。
その目は真っ直ぐで、覚悟を決めた顔をしていた。
「レオ様、全て私の責任です。どのような処罰でもお受け致します。ですので、どうかセト、息子だけはお助けください」
ロベルト以外の大人たちが、呆れて無言で視線を交わした。
「……ロベルト、残念だよ。知らないわけないよね? 俺は貴族で、お前たちは平民だ。何故、俺が平民ごときを気にかけないといけないんだ?」
ロベルトは驚愕して、震え蒼白だ。
「とりあえず、お前は牢で、セトは俺が使用していた地下に移動させるか」
膝の上に置いていた拳を握りしめ、俯くロベルト。
「ああ、今を持ってロベルトは首だ。俺には権限がないと思うか? 問題ない。伯爵のバカ親子は共々失脚だ。自動的に俺が次期伯爵だ。平民の罪人ぐらいの采配は可能だろう。ですよね、グレン様?」
「あ、ああ。そうだな」
グレン様、挙動不審すぎる。
演技できないのか、貴族なのに……。
ん? あれ?
エドガーとリックも目が泳いでいる。
思わず三人をジト目で睨む。
リックはそれで気づいたようで、苦笑いされた。
が、この親子ダメダメじゃん。
「はぁ、エドガー、グレン様。臨機応変にできないんですか? 俺の演技が台無しじゃないですか」
「「え?」」
親子だね。
ロベルトは怪訝そうに顔を上げ、俺を伺う。
俺はロベルトもジト目で見る。
「くっ」
そのまま、視線を横にずらしリックを見ると、口を押さえ横を向き、肩を震わせていた。
「リック、堪えずに笑えばいいのに」
ムッとして頬を膨らますと、エドガーに指で突かれる。
「どういうこと?」
「俺が本気で話していたと思っているの?」
「え?いや、その、そんなことないぞ! 驚いただけだ」
「何を言う、エドガー。お前本気にして、オロオロしていたじゃないか。なかなか見られる姿じゃなく、面白かったぞ」
「親父だって、目を見開いてレオを凝視していたじゃないか!」
「そ、そんなことはない」
似たもの親子だね。
呆れて二人を見ていると、視線を感じた。
ロベルトだ。
「らしくない顔だね。ロベルト」
「レオ様……、これは……」
「言っとくけど、俺に嘘をつき、情報を渡さなかったことに怒っているし、腹も立てている。だが、俺はそこまで感情的な人間じゃない。あんたほど、愚かじゃないよ」
「「「……」」」
部屋が静まり返る。
何かな?
ニコリと笑ってやり過ごす。
「聞きたいのは、謝罪じゃない。ここまで、おバカさんだったなんてね」
「何を言って……」
「だって、そうでしょ。何も言わずして息子を助けるとでも? ねぇ、ロベルトなら子供を利用して、引き出せるだけ情報掴むんじゃない? 冷静になって考えたら?」
ぐっと、言葉を詰まらせるロベルト。
「まぁ、嫌味はこのぐらいでいいか」
「い、嫌味」
絶句するロベルト。
今日はいろんなロベルトが見られるな。
「ロベルトさ、本当に俺のことを信用してないよね。まぁ、記憶のない前の俺だと、問題外だろう。今の俺は、前と違いすぎて判断が追いつかず、言い出せないまま俺が別館に移動となった。だから、別館に行くときに、リックに頭を下げたんだろ? 俺の安全のために、違うか?」
「それは……」
「ロベルト、俺は子供だし、今回の件で俺に任せる判断ができないのは当然だから、あまり気にしていない。だが、ハワードにも話してないだろう? あいつは、お前を、お前の家族を心配していたんだ。全て知った上でね」
「そんなはずは……」
「本気で言っているのか? 人質の話をした時、自分に人質はいないと言いながら見せた表情、あんな表情をさせるな。友人なのだろ?」
はっとした表情をして、黙り込むロベルト。
「ハワードとちゃんと話せ、いいな」
「……承知しました」
一息つく。
「話がそれたな。ロベルトの最初の計画。伯爵親子が出発した後、外の勢力と協力して、まず本館。その混乱に乗じて、俺を救出して脱出。俺の安全が確保された後、傭兵を鎮圧、隔離。別隊が別館を制圧、人質の救出。その後、証拠を集めてって感じかな?」
「……」
「無言は、肯定と取るよ。この計画を立てたとき、ロベルトの見立てでは俺の命は長くないと判断したから、別の場所で少しでも子供らしく暮らせるように配慮してくれたんだろう。だが、現状は記憶をなくし別人のようになった。色々おまけ付きでね」
無言で頷く、ロベルト。
「しかも、人質の救出、証拠の件、最後に公爵へ直訴を言い出した。ロベルトは計画の変更を余儀なくされた。悪くはないが、気がかりなことがあった」
「さようです」
「俺が記憶を無くす前、妻のナタリーに心を許していたこと、だね?」
「はい」
「だから、ナタリーに救出の計画は伝えなかった。俺がどうなるか、判断ができなかったからだね? 心外だな、ありえないでしょ。今の俺の性格考えてよ、気持ち悪いだけじゃん」
「一応、私の妻なのですが……」
「餌にしといて、どの口が言う」
「……」
「まぁ、元の計画でもナタリーには伝える予定はなかったんだろうけど、作戦を伝えたなんて嘘言わないで欲しかったな。それより、俺に執着している前情報を教えて欲しかったよ、切実に。本当に切実に」
エドガーとリックが笑いを堪えている。
「も、申し訳ございません」
「本当だよ。それに! 本来であれば、今話したことを、ロベルトの口から聞きたかったの! わかってる!? 何が処罰だよ? 俺がそこまで人でなしに思えたわけ? 本当に腹が立つ!」
「そ、そんなことは」
ロベルトを思いっきり睨んでやる。
困り果てた顔をしてロベルトは立ち上がり、腰を折り謝罪した。
「レオ様、誠に申し訳ございません。私の判断が誤っておりました。どうか、お許し願います」
「いいよ」
「はい? よろしいのですか?」
俺があっけなく許したからか、声が少し裏返ってる。
「ふふ。怒っていたけど、別に首にするほどでもないしね。ロベルトには、これから目一杯働いてもらわないとだし。それに、ロベルトの情けない顔が色々見られたから、許してあげるよ」
唖然として、一言小声でつぶやくロベルト。
「……お人が悪い」
「ん? 何かな? 聞こえているよ」
「失礼致しました」
「今回は大目に見るよ、セトのお父さんだからね」
「ありがとうございます」
「それで、いいんだよね? お家騒動はないよね?」
「もちろんです。セトは、私の自慢の息子ですから」
「よし、この話はこれでおしまい。えっと、皆さんお待たせしました」
グレン様、リック、エドガーに頭をさげる。
俺の頭に手を乗せて、瞳を覗いてくるエドガー。
「もう、大丈夫か?」
「うん。大丈夫、ありがとう」
優しく笑って、軽く俺の頭をポンポンするエドガー。
「さて、レオも落ち着いたことだし、本題に入ろう。まず、別館のことはレオも知っているから省く、本館について報告と、再度確認しよう」
全員が頷く。
「説明は、親父? ロベルト? どちらがする?」
グレン様がロベルトに視線を向ける。
「では、私からご説明致します」
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ロベルトの説明を聞いて唖然とした。
本来、今日のお昼に出発予定だった伯爵親子だったが、いつも朝起きれないダリルが早起きして、出発をせがんだらしい。
忙しい朝にと使用人の皆はお怒りだったが、その数時間後、初めてダリルに感謝した。
何故か。
グレン様の乱入だった。
今日の夕方に到着予定だったはずのグレン様。
部下を置き去りにして、単身大幅に早くご到着の上、挨拶もなく乱入。
これに慌てたのは敵だけでなく、味方も同様。
傭兵はあっという間に片付いたが、グレン様を知らない味方も応戦してしまい、怪我人多数。
ロベルトが参戦し終結。
グレン様の通った後は、ドア破壊、物も散乱。
傭兵鎮圧より、片付けに時間が取られたらしい。
何しちゃっているの、グレン様。
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次回 4/15 (水) 20時更新します。




