第21話 揺れる信頼
鬼の形相で、ロベルトは地を這う声で問う。
「なんです、この有様は……、あの馬鹿ですね。脳筋のグレンはどこです?」
部屋が波打つように静まる。
ロベルトは部屋を見渡し、目を見開き……その場から消え、息子セトを抱きしめていた。
瞬間移動!?
「セト!」
セトも驚きのあまり固まっていた。
「ああ、大きくなって。聞いてはいましたが、良かった健康そうですね。よく、顔を見せてください」
ロベルトはセトを離し、両手でそっとセトの顔を包み、優しい眼差しでセトを見る。
「……」
セトは無言で父を見つめ返す。
「長い間よく、ここまで皆を守りましたね。幼いお前に無理をさせました。よく頑張りましたね。とても立派で自慢の息子です」
「父、さん……」
セトはぐっと唇を噛み締め、押し寄せる感情を押さえていたが、目から涙がこぼれ落ちる。
その涙をロベルトがそっと指で拭う。
「父さん!」
セトは父に抱きつき声を押し殺して、ロベルトの腕の中で泣いた。
良かった。
ロベルトは自慢の息子と言った。
二人は、セトは大丈夫だ。
しかし、セトにはめちゃくちゃ甘いな。
表情、声からして違う。
部屋に突入してきたときとの温度差がすごい。
皆が二人の様子を生暖かい眼差しで見守る。
ともあれ、親子仲がいいのは良いことだ。
うんうん、と頷きながら眺めていると、ロベルトと目が合う。
ニッコリ笑うと、バツが悪そうに咳払いをしてセトを離す。
「レオ様、大変失礼を致しました」
「そのままで別にいいのに。久しぶりの再会でしょ? とりあえず別室で、少し二人で話してきたら?」
「いえ、全て片付けた後にゆっくり時間を取ります」
「そう? 二人がそれでいいならいいけど、セト、大丈夫? 話したいことない?」
「は、はい。大丈夫です」
我に返ったセトは羞恥心からか顔が赤くなる。
「なら、いいけど」
「レオ様、ガタイの良いだけの男はどちらに?」
「別室で傭兵の人とお話中だよ。ところで、ロベルト」
じっとロベルトの顔を見据える。
「俺に話すことない?」
「いえ、ございません」
へぇ……言いきるか。
親子の再会なのに、母親についてセトに聞く素振りもない。
俺には妻に今日のこと伝言すると言っていた。
分かっているのか?
黒い感情が湧き上がってくる。
何も言わないつもりか?
「それ、本気で言っているのか?」
俺だから良かったが、レオ少年のままだったら、ここまで上手くいくはずがない。
最悪、あの二人の計画に巻き込まれただろうに。
「レオ様?」
「ロベルト、俺を舐めているのか? 立場をわきまえろ。それとも、お前がお家騒動を起こすのか?」
俺はピンポイントでロベルトに魔力を叩きつける。
息を飲み、顔を蒼くするロベルト。
「っ……」
やはり俺の方が、魔力が高いようだ。
ロベルトを睨みつける。
別の意図があったのかも知れない、ロベルトのことだ、俺に変わったことで問題ないと思ったのかも知れない。
だが、やり過ぎだ。
更に魔力を上げると、ロベルトが膝をついた。
レオを大切にしていると、思っていたのに……。
「レオ! 何があった!?」
エドガーの呼びかけで、思考が途切れる。
俺の魔力を感じて、駆けつけて来たようだ。
俺とロベルトを見て、溜め息をついた。
「執事か……」
そう言って俺のところに来る。
俺をじっと見て、困った顔して頭を掻く。
その間、俺は魔力を緩めていない。
「あんたが、悪い」
ロベルトに言い放つ。
「レオは、大人の道具じゃない。ただでさえ苦しんできたのに、レオの信頼を裏切るのか?」
低い声でロベルトに問うエドガー。
「……」
苦い顔をして、苦しそうに俯くロベルト。
「父さん?」
「ここで話すか?……顛末の全てを、なぁ?」
「!」
目を見開き、顔を蒼くするロベルト。
思った以上にエドガーは怒っていた。
たぶん俺のため、だよな?
「エドガー、ありがとう」
エドガーに手を伸ばし、服を掴む。
その手を取り、しっかり手を繋ぐエドガー。
その温かさに、内に燻ぶっていた黒いものがスーと消えていく。
「ロベルト、この件も合わせて 別室でエドガーとリック、辺境伯と話そう」
そう言って魔力をおさめた。
「……承知致しました」
そう言って、俺に頭をさげるロベルト。
そんな様子を、心配そうに見ているセトが目に入る。
「驚かせてごめんね、セト。心配しなくて大丈夫だよ。お父さんは、お仕事でちょっと失敗しただけ。しっかり働いて返してもらうけどね」
「そ、そうですか。分かりました」
あれ? 怯えられている?
首を傾げ、エドガーを見る。
苦笑いされた。
「こんなこともある。レオ、とりあえず少し寝ろ。顔色が悪い」
頭を撫でられ、寝かされる。
「でも、話を」
「ああ、だが俺も、まだ話が途中なんだ。大人だけで先に話をしておく」
え? お説教まだ続いているの?
思わずリックを見ると、笑いを堪えていた。
いつものことのようだ。
「ちゃんと、全部教えてね」
「ああ、分かった。安心して休め」
「うん」
俺の返事を聞くと、ロベルトとリックを連れて部屋を出ていった。
「セト」
呼ぶと、ビクッとするセト。
「怖がらせてごめん」
「いや、父がすまない」
「ふふ、セトが謝ることないよ。それに、きっちり返してもらうから大丈夫」
「ああ、好きなだけ働かせてくれ」
力を抜き、笑いながら返してくれた。
良かった。
「部屋のドア壊れているけど、まだ安全か分からないから、部屋から出ないようにして欲しい」
「分かった」
「お願い。悪いけど、俺少し寝るよ」
「ああ、そのほうがいい。おやすみ」
「ん、おやすみ」
俺はエドガーが起こしに来るまで、ぐっすり眠りについた。
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エドガーが呼びに来て、大人たちの待つ部屋に入る。
リックは苦笑いで俺を迎えた。
ロベルトは下を向いていた。
辺境伯はロベルトを睨んでいたが、俺を見ると笑顔になった。
「そなたが、レオか。先程は驚かせて悪かったな! エドガーにめちゃくちゃ叱られたぞ!」
ガハハハと笑う。
豪快で憎めない人柄だな。
「親父、声がでかい」
「む、すまぬ」
エドガーは辺境伯の隣に腰掛ける。
向かいにリックとロベルト。
俺はエドガーの膝の上ね。
辺境伯の視線が痛い。
「あの、はじめまして。レオです」
抱っこされたままだが、頭をさげて名乗る。
「おお、良い子だ」
俺の頭を撫でようとして、エドガーに手を叩かれる。
「なんだ、エドガー。このぐらい、いいだろうが、ケチ臭い奴め」
「力加減できないだろうが、レオは怪我もしているし体も弱いんだ。さわるな」
「まったく、過保護すぎるだろう」
呆れ声で言う辺境伯。
俺に視線を合わせて、申し訳なさそうな顔をする。
やめてください。
「改めて、私はそのバカ息子の父親だ。名はグレンハルト・フォン・グランフェルだ。よろしくな」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します。グランフェル辺境伯様」
「はは、しっかりしている。だが、硬いな。俺のことはグレンでいいぞ」
「えっと、グレン辺境伯様?」
器用に片眉を上げる辺境伯。
「グレンだ」
「親父」
「待って、待って、グレン様でお願いします」
「ふむ、仕方ない。それで良い」
ほっと息を吐く。
エドガー、なんだかんだと言って、グレン様が来てから力抜けているの、気付いてないよね。
リックを見ると、含み笑いをして肩が震えていた。
なるほど、いつものことなのか。
「エドガー、どうなったの?」
父親と牽制し合っていたエドガーは、俺の問いかけで正気になる。
「ん?ああ、そうだな。ここでのことと、本館のこと、これからの事を話し合った」
「これからのこと? ハワードがいないのにいいの?」
「ハワードは問題ない。あいつは、この件について俺に託したからな。レオを心配していたぞ」
グレン様が答えてくれる。
「ハワードが、……そうですか」
心が暖かくなる。
そう言えば、別館の人質のことを話した時の、ハワード様子が変だった。
チラッとロベルトを見る。
そうか、そういうことか。
ハワードは気付いていたんだ。
感情が燻る。
ロベルトが話すのを、信じて待っていたんだろ。
ロベルトの家族を心配していたんだ。
だから、あんな複雑な目をしていたのか。
「レオ、レオ?」
「あ、ごめん。考え事していた」
「だろうな。それもいいことじゃない。魔力漏れているぞ」
「ぅえ? ご、ごめんなさい」
エドガーに髪をグシャグシャにされる。
「親父、リック。レオの魔力を落ち着かせるために、先にロベルトの問題から頼む」
「それが、いいだろうな」
「問題ない」
グレン様は楽しそうに、リックは苦笑い気味に返事をした。
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次回 4/11 (土) 20時更新します。




