第20話 嵐と秘密の後に、また波乱
ドアが吹っ飛び、壁も崩れる。
恐怖で子供たちが身を竦める。
室内に破片や瓦礫が飛び散り、視界が悪くなる。
気がつくとエドガーとリックが俺の前にきて、剣を構えていた。
「エドガー、リック」
「レオ、魔力を極限に抑えろ、セト、子供たちを隅に固まらせて、結界の範囲を狭くできるようにしてくれ」
「わ、分かりました」
セトの誘導で、子供たちは隅に一塊になる。
「皆、俺の後ろに。エドガー、リック、こっちは心配しないで」
「無理するなよ、すぐ片付ける!」
それだけ言うと、前にでるエドガー。
「リック!」
「ああ」
視界がクリアになる。
見えたのは大剣を構える、ガタイのいい男が仁王立ちしていた。
鋭い眼光で、エドガーとリックを見据える。
つまらなさそうな顔をする男。
「たった二人か」
そう言いつつも隙がない。
低く威嚇のある声に、子供たちは怯え震える。
その瞬間にエドガーの魔力が膨れ上がる。
驚いてエドガーを見る。
怒りの形相だ。
その様子を複雑な視線で見ている、リックが目に入った。
「この、くそ親父が! 何してくれる!」
怒鳴るとともに、男に斬りかかるエドガー。
「あ!?」
エドガーの剣を防ぎながら、怪訝な顔をする男。
「レオ、結界解いていい。皆も大丈夫だ、見た目怖いが味方だ」
「え?」
どういうこと?
子供たちも固まりながらも、キョトンとする。
俺はリックを見て、剣を交えている二人を見る。
そう言えばさっき、エドガー親父って言った?
リックに再度視線を移すと、苦笑いして頷いた。
俺は結界を解いて、力を抜いて座り込んだ。
「レオ!」
目ざとく見ていたのか、エドガーが男を押しやり、俺のところへ急ぎやってくる。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。それより、よいの? お父さん」
「っ!」
目を開いて固まるエドガー。
いやいや、叫んでいたよね。
「エドガー、お前が開口一番叫んでいた」
呆れた様子で教えるリック。
「え!? まじか? やっちゃったな」
「まぁ、気持ちは分かる」
うむ、エドガーのお父さん豪快だね。
そのお父さんは、驚きながら頭を掻いて、こちらを見ていた。
その様子が、エドガーとちょっと似ている。
「あ~、エドガー、すまん。公爵」
「親父!!」
いま、公爵って聞こえたね。
チラッとリックを見ると、困った顔を返された。
「あ~、すまん」
「説明するから、そこで待っていろ。口は閉じていろよ!」
お父さん、かたなしだね。
エドガーに睨まれ、しゅんとするガタイの良いお父さん。
俺に視線を移し、困った表情のエドガー。
「あ~、悪い。後で全部説明する。休んで待っていてくれるか」
「うん。エドガー、程々にね。お父さん、悪気があってしたことじゃないみたいだから」
「ダメだ。毎回だから」
真面目に返された。
「そ、そうなんだ」
「リック、レオを頼む。セト、お前らも怖がらせて悪かった」
エドガーは、皆に頭をさげた。
「びっくりしたけど、大丈夫です。誰も怪我してないし」
セトが答える。
「ありがとう」
そう言って、エドガーはお父さんのところへ行き、二人で部屋を出ていった。
大丈夫かな?
お父さん、めっちゃ怒られそう。
二人が出ていったのをじっと見ていると、リックが苦笑いしながら声を掛けてきた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。いつものことだから、とても良い方で俺もお世話になっている。ただ、猪突猛進だけは直らなくて、辺境伯なのに困ったものだ」
ん? んん?
今、重大な何か……。
「辺境伯!?」
「あ……」
目を逸らし、再度チラッと俺を見るリック。
「き、聞かなかった事に……」
「無理だよ」
ニッコリ笑う。
そんな俺を見て、天井を仰ぐリック。
「はぁ、やってしまった。俺としたことが」
「はは、これも辺境伯のおかげかな?」
「ハハ、そうかもな。悪い、俺も二人のところへ行ってくる」
「後のほうがいいと思うよ。それに、辺境伯が来るのは知っていたから、どうせすぐバレるし」
「え?」
「二人が戻ったら話すよ」
「わかった。レオ、少し横になったほうがいい、顔色が悪い」
「うん、そうだね。二人が戻るまで休もうかな」
「ああ、抱えるぞ?」
「ありがとう」
リックが俺をベッドに寝かせて、部屋に散らばった瓦礫を片付け始める。
エマがベッドに上ってきた。
「レオ、大丈夫?」
「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。エマ」
「えへへ」
笑って、俺の横にコロンと寝転ぶ。
可愛い。
「レオ、熱出てないか?」
そこに、セトが声を掛けてきた。
「多分、大丈夫だと思う」
「多分って」
呆れた顔された。
手を俺のおでこに乗せる。
首を傾げて、おでこを合わせる。
「大丈夫そうだな」
「ありがとう」
この世界は、おでこを合わせて熱を測るのが主流なのか?
「水飲むか?」
「もらっていい?」
「ああ、待っていろ」
セトは、よく気がついてくれる。
子供たちのことも、さり気なくちゃんと見ているのがよく分かる。
「エマ、レオは体調が悪いの。ベッドからおりて、休ませてあげて」
ラナがやって来て、エマにベッドから降りるように言う。
「エマも寝るの」
「エマ、ダメよ」
そう言いながら、エマを抱きかかえようとする。
「や~」
嫌がって、ラナの手を振り払う。
「オラ、言うことを聞け」
そこにテリーがきて、エマを抱き上げた。
「エマ、こっちで私たちと遊ぼう」
エリーが、うさぎのぬいぐるみを見せてエマを呼ぶ。
ぬいぐるみ、あるんだ。
「レオ、起き上がれるか?」
そこに、水を持ってセトがきた。
「エマ、エリーたちと遊んでおいで。ラナ、頼む」
「レオ、迷惑かけてごめんなさい」
「気にしてないよ」
エマは、ラナとテリーに連れられて、しぶしぶ離れていった。
「すまない。後で言い聞かせておく」
そう言いながら、俺の背に手を当てて、起き上がるのを手伝ってくれる。
「ありがとう。別に気にしなくていいよ」
セトは緩く首をふる。
「いや、レオは良くても、貴族と平民の違いを今から教えておかないと、家族全員の命に関わってくるから」
「……そうか、俺が軽率だったよ。ちゃんと教えてあげて、俺も気をつけるよ」
「ああ、頼む。エマ以外はレオだけ別と理解しているけど、エマはまだ幼いから」
「そうだな」
確かに階級社会は、子供とか関係なく厳しい。
現実を突きつけられる。
「コップ、持てるか?」
コップに水を入れて渡してくれる。
「うん、大丈夫」
水を受け取り、一口飲む。
「ゆっくり飲んで、お茶があればよかったんだけど」
チラッと残骸に目をやるセト。
うん、床に散らばっているね。
「水で十分だよ」
「レオ、昨日はすまなかった」
「ん? セトは何もしてないでしょ?」
「いや、俺もテリーと同じでレオに反感を持っていて、止めもせず見ていただけだから」
「知らなかったんだから、そんなの普通だよ」
「それでも、俺はレオが細くて体が小さいのは、すぐ気づいた。でも、見て見ぬふりをした」
「セトは良い奴だな」
「な、何を?」
動揺するセトが可愛く見える。
「はは、セトも動揺するんだ。子供らしくていいな」
「な!?」
赤面するセト。
「ねえ、セトはまだ子供なんだよ。そんなに早く大人になる必要はないよ」
目を見開き固まるセト。
「我慢しなくていい、甘えていいんだ。笑って泣いて、怒って楽しんでいい。ちゃんと感情を出していいんだよ」
ぐっと唇を噛んで、耐えるセトの手を取る。
今の俺より大きい手だが、まだまだ子供の手で小さい。
「まだ、この手に抱えるのは早いよ。それは大人のすることだ」
「レオ様……」
あ、何かスイッチ押したかな?
「大人でさえ、出来ないんだ。引き合いに出して悪いけど、セトの母親とかね?」
あ、スンと無表情になっちゃった。
「ごめん、母親を悪く言って」
「いえ、まったく問題ありません。母親とは思ってないので」
「そ、そう。ロベルト、お父さんとは会えない状況が続いているけど、会えたら思いっきり甘えてみなよ」
「ち、父にですか?」
あ、考え込んじゃった。
「仲悪いの?」
「いえ、仕事が忙しく、あまり接点がなかったので……」
ロベルト、何をやっているの。
でも、この状況を知っているだろうし、問題ないだろ。
問題なくしよう、うん。
「きっと、大丈夫だと思うよ。心配しているんじゃないかな?」
「そ、そうでしょうか?」
「うん」
「少し考えます」
やっぱり考えちゃうのか。
「うん、無理に甘えてもだしね。セトの思うようにするといいよ」
俺からロベルトに言うか、と考えていたら、また嵐がやって来た。
鬼の形相で現れたのは、話題にしていたロベルトだった。
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次回 4/8 (水) 20時更新します。




