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元刑事、異世界で答えに辿り着く  作者: 月乃音


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第17話 心と感情は誰のものか?

母親、サラサの部屋に入る。


「これは……」


何もない。

いや、家具はある。

まるで、誰がいたか痕跡を消し去ったかのようだ。


「期待できそうにないな……」


これじゃ記憶どころじゃない。

それでも何かないかと、机、ベッド、ソファーを見るが、目ぼしいものはない。

後は空の本棚……と、唯一の絵画。

美しい女性の肖像画、サファイアのような青い大きな瞳がこちらを見ている。

そして、光沢のある波打つブロンドヘア。上半身だけだがプロポーションも良かったのだろう。

微笑みを浮かべているが、作り笑顔のようで温かみを感じなかった。


「これが、サラサ……母親か」


ダメだ、綺麗な人という感想しかない。

頭を振り、気を取り直して本棚を調べる。


「まぁ、見ての通りで何もないな。はぁ、ドラマや映画ならここで仕掛けがあったりするんだが……」


現実は甘くない。

何もない。


「ん?」


本棚の裏に何かある。

隙間になんとか腕が入る、子供で良かった。

額縁だ、結構重い。

絵画かと思ったが、違った。


「か、鏡か……」


絶句する。

驚いたな……痩せ細っているが、レオはものすごい美少年だった。

サファイアの瞳に、傷んではいるがブロンドヘア。

肖像画のサラサによく似ている。


「ハハハ……」


力なく笑う。

俺は絶対、この少年として生きてない。

本能的にそう思った。

あまりにも、自分と違い違和感しかない。


鏡をじっと見ていたら、鏡に模様が浮かび上がる。


「これは……、魔法陣か?」


知識から引っ張り出す。

鏡に手で触れると、光り出し眼の前にサラサが映し出された。


「!」


思わず後ずさる。

いきなりで驚いたが、よく見ると透けている。


「ホログラムみたいなものか……」


まじまじ見ていると、サラサが口を開いた。


「レオ、目の前にいるのかしら?―――」


受け答えができない、ただ語られる内容に唖然とし、最後の言葉に、感情を抑え込むために両手を強く握り、歯を食いしばった。

そんな俺に微笑みながら、サラサが消えていくのを、ただ見ることしかできなかった。


サラサが消え、ただの鏡を見続けてどれくらい経ったのだろう。

俺は笑いが止まらなくなる。


「ク、ククク。アハハ、アハハハ!」


涙目になるほど笑い、息をつく。


「はぁ……レオ、お前の母親は……大した女だな。」


レオ……、お前がこれを見て聞いたら、どうしただろうか。


「本当に……女は怖いな」


鏡を見て考える。

これは何度でも再生できるのだろうか?

もう一度手で触れてみるが、何も起こらない。


「う~ん。無理か?」


鏡を見つめて考える。

魔法陣が浮かんだのは、俺だからか?


「どうやって認識しているんだ……? 魔法陣を浮かばせる……あ、魔力か?」


試しに魔力を纏い鏡に触れると、光り出して魔法陣が浮かび上がりはじめた。

素早く手を離す。


「いけそうだな。回数制限あると困るからな。これ、持っていってもいいかな?」


さすがに、黙っては無理か。


「鏡のことは後にして、さて、確かめるか」


サラサが話していた隠し場所。

本棚の下から二段目、左端の奥の角に、風魔法で指先を少し切り血を数滴落とす。

すると、そこに装飾された綺麗な箱が現れる。

血に反応する収納魔法なのか?


「これか……」


本棚から取り出そうとすると、ずっしりと重い。


「これ、本物の金なのか?」


艶は消され、品よく飾りが施されている。

中身を見ようと、ソファー前にあるローテーブルへ置いたところで足音が聞こえた。

俺は慌てて箱を収納するのと、ほぼ同時に扉が開きエドガーが急いで入ってきた。


「レオ!」


俺に駆け寄ってきて、俺を抱き上げる。


「何があった!?」


「ちょ、落ち着いて、どうしたの? 俺は何ともないよ?」


「は? レオ、石に魔力流しただろ?」


「え? ……?」


首を傾げ考える。


「魔力……? あ! あの時か? エドガーごめん。その本棚の後ろにあった鏡を引っ張り出した時、映った自分の姿に驚いて魔力流したかも」


もう一度、見られるか試した時に流した魔力だな。


「鏡? これか?」


本棚の横に立てかけて置いてある鏡を指す。


「そう、俺自分の姿も覚えてなくて、驚いて……、ごめんなさい」


溜め息をつきながら、俺の頭を撫でる。


「気にするな。何ともないならいいんだ。良かった」


優しい目をして笑うエドガー。

その優しい目を見て、嬉しいのに心がざわついた。


「心配してくれて、ありがとう」


発した言葉が若干震えていたが、俺は気づかなかった。

そんな俺を怪訝そうに見るエドガー。


「……どうした? 何かあったのか?」


「え? ううん。どうして?」


「いや……」


言いにくそうに困った顔をする。

そして、視線を横にずらした。

その視線を追うと、俺の右手がエドガーの服をギュッと握り、少し震えていた。


「……え?」


無意識だった。

手を離そうとするが、動かない。


「なんで……?」


左手で外そうとするが、左手も震えて上手く出来ない。


「……ど、うし、て?」


俺ではない、違う感情が体の中から溢れてくる。

気づくと、目から雫が落ちた。

次から次へと流れ落ちる。


「な……、違う」


手が震え思うように涙を拭えず、ただ首を振るしかできない。


「お、俺じゃ……」


「レオ、落ち着け」


エドガーは俺を優しく抱きしめ、背中を擦ってあやしながらソファーに座る。

俺は歯を食いしばり、泣き声を噛み殺す。


「レオ、我慢するな。泣きたいときは、思いっきり泣いたほうがいい」


俺は首を振り、エドガーの腕から逃れようとする。


違う!

これは俺の感情じゃない。

体の中にレオがいるとでも?

そんなはずはない。


「は、冗談だろ?」


体や脳に記憶が残っているのか?


「落ち着け、怪我がひどくなる」


俺の頬に両手を添えて、視線を合わせ、ゆっくり言い聞かせる。

そんなエドガーを見つめ返す。

その瞳は、真っ直ぐ俺に向けられていた。


「ふ、ふふ、あははは……」


力なく笑う俺に戸惑うエドガー。


「レオ……?」


「ごめん、なんでもないよ。ただ、会って1日も経ってないのに、そんなに心配してくれるんだね」


「そんなの、当たり前だろ」


即答するエドガーの言葉が胸に刺さる。

俺はこの時、自分の感情が…心がわからなくなっていた。

表情が抜け落ちたのだろう。

エドガーが、俺を一度強く抱きしめた。

そして、目を合わせて優しくゆっくり語りかける。


「些細なことでもいい、俺に教えてくれないか?」


真剣な声と真摯な瞳で、懇願するように見つめられる。

俺はぐっと唇を引き結び、ゆっくり息を吐いた。

サラサのことは言えない。


俺はゆっくり、エドガーを見ていた視線を部屋へ向ける。


「ねぇ……。俺の部屋や、この母親の部屋を見てどう思う? 俺は記憶がないからかも知れないけど、母親の部屋、俺の……子供部屋に見える? 俺には子供、親、ましてや親子の部屋に見えない。貴族って皆こうなの?」


虚を突かれたような顔をして、エドガーは部屋に視線を巡らした。


「片付けた、とは違うのか? レオの部屋は、確かに何もなかったな。だが、ダリルが使用人に言って、レオや母親につながるもの捨てさせたんじゃないのか?」


確かに、そうかも知れない。

だが…。


「貴族の子供部屋は片付けたら、シンプルだが…」


「そうなの? ベッドや机、意外と簡素なんだね。まぁ、伯爵としては、僕はおまけだっただろうから、こんなものなのか。まぁいいけど」


俺自身は、何も思わない。

目に見えるものを客観的に見て判断するだけだ。

そうだ。冷静に見て、些細なことでも見逃すな。


部屋を眺めている俺に、心配そうに声を掛けてくるエドガー。


「なぁ、レオ。何か思い出したのか?」


「ううん、残念ながら何も。自分の顔見て驚くぐらいだからね」


肩をすくめて見せる。


「心配かけてごめん。あまりにも殺風景だったから。どこの知識か感情かわからないけど、部屋に温かみがなくて、何もないのを見て、ここに俺がいたのかと……」


俺は意識的に声をすぼめた。


「……そうか」


そんな俺を辛そうな、悲壮感を帯びた目で一瞬見た。


「レオ、お前はちゃんとここにいる。俺が側にいてやる。些細なことでもいいから、気になったことは俺に言え。いいな?」


あんまり優しくしないで欲しい。

罪悪感でチクリと胸に刺さった。

俺自身の事は言えない、嘘を重ねるしかない。


「うん、わかった。ありがとう」


俺は、自分からエドガーに抱きついた。

そんな俺の行動に、ピクリとエドガーの体が反応した。

また、笑うかと思ったが、反応がない。

疑問に思って顔を上げると、目を塞がれる。


「見るな」


そう言って顔を逸らす。

顔は見えなかったけど、耳が赤いのがバッチリ見えている。


「ふ、ふふ、耳赤いよ? アハ、ハハハ」


「笑うな」


不貞腐れた顔をして文句を言いながら、俺の頭を乱暴に撫でる。


「ちょ、やめてよ。もう」


髪がぐしゃぐしゃになった俺を見て、今度はエドガーが笑い出す。


「アハハハ、今のお前のほうが、俺にはお前らしく見えていいぞ。その方がいい」


一瞬固まってしまう。

誤魔化すために、エドガーのヒゲを引っ張る。


「なら、本当のエドガーの素顔見せてよ」


「だから、痛いって、そのうちな」


二人でしばらく笑いじゃれ合った。

嘘のように気分が良くなり落ち着いた。







ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし少しでも楽しんでいただけましたら、

評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。


次回 3/28 (土) 20時更新します。

『第18話 彷徨う心は守られ、抗う力を掴む』も、よろしくお願いします。


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