第15話 知らなかった真実
微妙な空気の部屋の中で、エドガーがリックやナタリーに指示を出し動かす。
「レオ、気持ちも分かるが、怒りを納めろ。子供たち、怖がっているぞ」
俺の頭に手を乗せ、最後の一言を小声で伝えてきた。
「あ……」
周りを見渡すと女の子は心配そうに、男の子は遠巻きに見ていた。
そんな中、ラナが胸の前で両手を握りながら近づいて来た。
「あ、あの。レ、レオくん、背中怪我して血が出ているので、治療をしてください」
「なに?」
エドガーは慌てて俺の背中を見る。
「お前、何やっているんだ」
怒りより、呆れが多い声が届く。
「いや……」
「レオくんは、私とエマを庇って怪我をしたの。ごめんなさい」
頭を下げるラナ。
そこにエマもやって来て頭を下げる。
「ごめんなしゃい」
「い、いや怒っているわけじゃない。そうか、庇って」
チラッと俺をみてニヤッと笑う。
俺は顔を逸らす。
「二人は怪我してないのか?」
「はい。大丈夫です。でも、レオくんが……」
「ラナ、俺は大丈夫だから心配ないよ」
「すぐ手当するから、安心しな」
「はい」
嬉しそうにラナは笑顔を見せる。
ニヤニヤ笑いながら、エドガーは俺に視線を寄越す。
「レオ、濡れた体をまず拭こう。服脱げるか?」
「ああ」
服を脱ごうとして、思いとどまる。
「女の子は、見ないほうが良いよ」
「どうして? 恥ずかしいの?」
双子の女の子、ルミが怪訝そう聞いてきた。
「いや、そうじゃないけど……」
「なら、気にしなくて良い、私達は見慣れている」
そう言って男の子たちを見た。
「う~ん」
俺が悩んでいると。
「レオ、見せたほうがいい」
エドガーが真剣な声で言った。
「この子達も、知るべきだと俺は思う」
気は進まないが、エドガーの言っていることも分かる。
「分かった」
俺は上着を脱ぎ、上半身を晒した。
子供たちが、全員息を飲んだ。
まぁ、そうなるよね。
骨が浮き出ていて、打撲、切り傷に手当の布が巻かれている。
視線が突き刺さる。
ラナは目を逸らし、見せないようにエマを抱きしめた。
まず上半身を拭き、エドガーにズボンを一人で脱げないと伝える。
「ああ、片足立ちできないのか」
エドガーは、絨毯の上に毛布を敷き、俺を抱き上げた。
「セト、悪いがレオのズボンを脱がしてくれ」
俺は思わずエドガーを見た。
エドガー、一人で出来るよな?
「あ、ああ」
セトは俺のズボンを脱がし、驚きに目を見開く。
「な、んで……」
セトがポツリとこぼす。
「こいつは、ダリルにずっと暴力を受けていた。地下室でな」
一瞬で部屋に静寂が訪れる。
誰も何も言わない。
俺の体を見たら、嘘ではないことが明白だからだ。
エドガーは俺の足を拭き、毛布の上に俺を寝かせる。
「セト、傷を見るのは平気か?」
「え? は、はい」
「手当を手伝ってくれ」
「エドガー」
俺は非難の声を出す。
「僕は大丈夫だから、手当手伝います」
セトは俺がエドガーを止めたことに気づいたが、手伝いを買って出た。
「ああ、頼む」
先程の背中の怪我はたいしたことはなかった。
今朝の怪我で一番酷かった、足の布を解くエドガー。
「っ……」
痛みに思わず声が漏れる。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫、気にしないで」
水に濡れたからか寒く、少し体が震えた。
するとセトが近くにあった毛布を掛けてくれる。
「ありがとう」
「あ、あぁ」
布が解かれ、傷が露わになる。
「化膿はしてないようだ。薬を塗るぞ」
「うん」
セトは傷を見て、ぐっと唇を噛みしめ、拳を握りしめていた。
「セト、ここを抑えてくれるか」
薬を塗り終え、布をあて巻いていく。
「レオ、締め付け問題ないか?」
「ん、大丈夫」
足にある他の手当も終わりズボンを履く。
上半身は、ほぼ布に覆われている。
それを解いていく。
「エドガー、流石に上半身を皆に見せるのは、やめたほうが良いと思う」
「傷がダメな奴は後ろ向いていろ」
「エドガー……」
溜め息をつく。
「怒ってくれるのは嬉しいけど、皆は知らなかったんだよ」
「そうだな。だが、レオが何をされていたか、本当の意味で知る必要があると思う。服を着ていても痩せているのは、見れば分かったはずだ。それなのに、あんな態度を……」
「子供なんだから、頭で分かっても、気持ちが追いつかないよ。大人だってそういう事あるでしょ?」
ぐっ、と喉を鳴らすエドガー。
「ごめん。ちょっと正論を言い過ぎたよ」
「かまわない。お前が、レオが怒らないからだ。達観したような、まるで自分の事じゃないように、外から見ているようにすら感じる」
一瞬、体が強張る。
「レオ?」
訝しげな視線を寄越すエドガー。
「仕方ないよ、覚えてないんだ。今の俺からしたら、今朝の暴力が始めてだった。だから今までのことは、他人のことのように思えてしまう」
「それは……」
辛そうな顔をする。
「そんな顔をしないでよ」
エドガーの手を握る。
「こればかりは、どうにも出来ない」
本当に他人事なのは秘密だ。
話しているうちに布が取られた。
セトの拳が更に握られ血が流れたのに気づき、そっと手を乗せる。
「セト、力抜いて。傷は残っているけど、特に問題ないから」
「どうして傷が残っている? それに、何でこんなにも痩せている? 食事はちゃんと食べていたんだろ?」
最後はすがるような、目と声で聞いてくる。
俺は目を逸らす。
「その、俺は覚えてないけど。食事は朝と夜の2食で、クズ野菜の冷めたスープ、硬いパンか、カビが生えたパンを出されていたらしい。あ、カビのパンは食べてないよ」
絶句して、俯いてしまうセト。
「セト、気にしてくれるのは嬉しい。でも、この問題は大人でさえ、どうにも出来なかった事だ。だから自分を攻めないで欲しい」
「傷は?」
全部知りたいのか……。
「消すのをダリルが許さなかっただけだよ」
今では感謝すらしている、動かぬ証拠をただでくれたからな。
「それだけの理由で……」
「お子様だから、力を誇示したいだけだよ。伯爵家の力を自分の力と間違えているけどね」
室内が静まり返る。
何か、変なこと言ったか?
思わず首をかしげる。
「お前な……、そういうとこだぞ」
「え? 何が?」
ジト目で睨まれ、溜め息をつくエドガー。
「ほら、背中をこっちに向けろ、打撲と……この傷跡酷いな」
「あ~、たまに背中に違和感あるからね」
淡々と手当をして、お腹を見る。
こちらは切り傷、深い傷もある。
「これは今日のか」
「そう、風魔法でね」
軽く会話をするが、エドガーの目には怒りが浮かんでいた。
部屋の空気も微妙だ。
布を巻き終えて上着を着る。
「どこか違和感あるか?」
「お腹が少し気持ち悪い?」
お腹を擦りながらエドガーに視線を向ける。
俺のおでこに手のひらを当てる。
「熱も上がっているな。レオ、いったん部屋を変える。俺達の近くのがいいだろう。それで、いいな?」
「うん、お願い」
意図が伝わったようだ。
さあ、別館の内部を見よう。
できれば大人の人質の状況と、ナタリーについて調べたい。
そのナタリーは何か言いたそうにしている。
「ナタリー、大人たちの食事は終わったのか?」
「いえ、まだです」
「ここの掃除は終わったな。すぐに食事の用意をして終わったら、自分の部屋に戻れ。明日は、俺達が呼ぶまで部屋からは出るな」
「ですが、レオ様のお世話が」
「必要ない。今後一切、俺に構うな」
「そ、そんな」
「ま、そう言う事だ。お前達、何か不足な物とかあるか」
子供たちに向かって聞く。
子供たちはお互い顔をみて、首を振る。
「そうか、何かあったらベルを鳴らせ。俺かリックが来る」
「分かりました」
代表でセトが答える。
「あの、レオ様は明日戻りますか?」
「ん? あぁ、体の調子にもよるが、お前たちと一緒に朝食を食べてもらうつもりだ」
俺も頷き答える。
「あと、レオ様ですが、まだ夕食を食べていません。夕食の時間に眠っていらしたので」
「そうなのか? 分かった。じゃ、移動しよう」
エドガーは俺を抱きかかえる。
「皆、騒がせてごめんね。それと、気にしちゃダメだよ。あと、セト。様はいらない。呼び捨てでいいし、敬語もなしだよ。じゃ明日ね。おやすみ」
「あ、あぁ。分かった。おやすみ、レオ」
俺は皆に手を振る。寂しそうにしているエマに気づいた。
「エマ、おやすみ。明日一緒に、朝ご飯を食べようね」
「うん。一緒に食べる。レオ、おやすみ」
笑顔で手を振ってくれた。
隣にいた、ラナも手を振ってくれる。
「ラナ、おやすみ」
「ぁ、レオ、おやすみ」
恥ずかしそうに返してくれた。
部屋を出て離れたのを見計らい会話をする。
「視線に気づいてくれて、ありがとう」
「どういたしまして、で、どうした?」
「大人の人質の様子を知りたい。見るだけで良いんだけど」
「お前、熱あるだろう?」
「熱冷まし飲む。それに、今しか時間がない。後、母親と俺が使っていた部屋も見たいんだ」
じっとエドガーを見つめる。
「はぁ、わかった、わかった。とりあえず食事と薬が先だ。その後な」
「ありがとう」
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次回 3/21(土) 20時更新☆
『第16話 お粗末な真相と、記憶への道』も、よろしくお願いします。




