第12話 密偵に向かない二人
静寂の中、黙り込む二人を見つめる。
二人とも視線を合わせない。
「ふっ、っ……、いた……」
二人の反応に笑いそうになり、お腹に痛みを感じる。
「大丈夫か?」
エドガーが心配そうに俺のそばに寄り、頭に手を置き撫でながら顔色を伺う。
そして全身に癒やしをかけてくれる。
優しい人だな。
「ありがとうございます」
ニコリと笑い返すと、バツが悪そうな顔をする。
リックは心配そうに見ていた。
「お二人は密偵、向いてないのでは?」
ギシリと二人が固まる。
「ふっ、本当に正直ですね」
「お前なぁ……」
エドガーが頭を掻きながら、溜め息をつく。
「お二人は、子供に嘘がつけない体質、と言うことにしておきます。ただ、一つ教えてください」
俺はエドガー、リックにそれぞれに一度しっかりと視線を合わせる。
「あなたたちは……俺の、俺達の敵ですか」
息を飲む二人、そしてお互い視線を交わす。
「味方じゃなくてもいい。敵になるかどうかです」
声を一段低くして尋ねる。
エドガーがリックを見て頷いた。
「敵じゃない」
リックも頷く。
「ありがとうございます」
じっと見つめてくるエドガー。
「あ~、レオ様?」
「レオでいいよ」
呼びにくそうに言うエドガーに、苦笑い気味に返す。
「ハハ、助かる。レオ、何かあるのか? いや、動くのか?」
おっと、今度はこっちが聞かれる側か。
ニッコリ笑う。
「「……」」
黙り込む二人。
さて、どうしたものか。
この二人は、公爵家……、いや派閥の家か……。
じっと見過ぎたのか、居心地悪そうにするエドガー。
「あぁ、すみません。エドガーさんが格好良いので、見惚れていました」
「嘘つけ」
ガシッと頭を掴まれる。
力は入ってなく、痛くはない。
「それで?」
「明日のお昼までに、ここを離れるか、抵抗しないでくださいね」
にこやかに伝える。
眉間に皺を寄せるエドガー。
俺の頭から手を離し、自分の額に手をやり天井を仰ぐ。
「なるほどな」
「ああ、仲間だろう」
「だろうな」
二人の短い会話に首をかしげる。
俺にチラッと視線を寄こして、説明するエドガー。
「別館の周りに、昨日の夜からネズミがいてね~。そっちの、お仲間っぽいね」
ニッコリ、笑い返しておく。
気づいていたか。まぁ、そうだろうな。
「それで、レオはそんな身体で何しに来た?」
今まで黙っていたリックが口を開いた。
言い逃れは許さない、と視線が訴えている。
「ん~。子供達の現状を知るため」
怪訝そうな顔をする。
「お前がする必要はないだろう?」
「そうかな? これ以上は秘密だよ。お互い様でしょ」
不機嫌そうな顔で黙り込むリック。
「そんな事より、ここにいていいの? えっと、ナタリーさんだっけ? 知らせなくて大丈夫?」
「あ、ヤバい。リック、着替えと体を拭く物も、一緒に用意してもらってくれ」
リックは俺に視線を寄越すが溜め息をつき、エドガーに頷き部屋を出ていく。
「すぐ来るよ。レオの容体が悪化して、急遽俺が癒やしをかける処置をしたことにするからね」
「わかっ、た……」
返事をしつつ、血の気が引く。
そうだ、痛みが酷く聞き流していた、癒やしの魔法!
「俺の傷跡、消えたのか!?」
エドガーの服を掴み問いかける。
「ど、どうした?」
俺の剣幕に驚き、上体を後ろに引く。
「なぁ! どうなんだ?」
「お、落ち着け、傷跡は消えていない。痛みを和らげただけだ」
「良かった……」
ホッと息をついた。
「傷を、消したくないのか……?」
服を掴んでいた俺の拳を、大きな手で覆い聞いてくる。
ピクッと手が震えてしまう。
「レオ?」
俺の目を覗き込む。
頷きながら答える。
「消したくない。絶対に」
伝えておいたほうが良いと思った。
「何のために、って聞いていいか?」
俺はエドガーを見る。
興味本位で聞いているのではなく、真剣に聞いていることが伺えた。
「この傷は、大事な証拠だから」
目を見開くエドガー。
「証拠……って、君は、君達は……」
言葉を続けようとした時、ノックの音が響く。
入室の許可を出すと、メイド服の女性とリックが入ってくる。
女性は俺を見て、驚愕の表情に変わる。
「レオお坊ちゃま……」
悲痛な声色で名を呼ばれる。
「あ、えっと……」
情報はあるが記憶がないので、どう声を掛けるか迷っていると、エドガーが声を掛けた。
「ナタリーさん、先に伝えることがある」
そう言って、記憶をなくしたこと、今朝、ダリルから暴力を受けたことを伝えた。
聞き終えて、体をワナワナと震わせるナタリー。
「あの、悪ガキが……」
ボソッと声が落ちる。
「「「……」」」
シーンと静まる室内。
「あら、オホホ。何か聞こえまして?」
3人同時に首を振る。
「エドガーさん、レオお坊ちゃまに処置ありがとうございます。お着替えの前に、傷の状態を見るのでお手伝い頂けますでしょうか」
「ああ、分かった」
「レオお坊ちゃま、メイドのナタリーと申します。今から傷の状態を確認いたします。お体を触りますので、痛かったらおっしゃってください」
「うん、分かった。ナタリー、ロベルトから聞いているよ。覚えていなくてごめん。それと、お坊ちゃまではなく名前で呼んでくれる」
さっきから、お坊ちゃんと言われるたびに、エドガーが笑い堪えているからね。
ジト目でエドガーを見る。
素知らぬ顔をするエドガー。
「承知しました。では、失礼しますね」
「ナタリー、これリックがロベルトから預かっている」
エドガーが、籠を渡す。
「手当用の薬と布ですね。ポーションが入っていませんね。こちらでご用意いたします」
その言葉に、俺の表情が強張る。
ロベルトから伝わってないのか?
「あ~、ナタリー悪いが薬での手当は良いが、ポーションで傷を消すのはダメだ。知られたら暴力がひどくなるぞ? それに、悪いが別館の者にポーションを使うのは禁止されている」
言いにくそうに伝えるエドガー。
「そうでしたね。申し訳ありません」
苦虫を噛み潰したような顔でそれに答え、俺の服を手早く脱がして行く手が途中で止まる。
ナタリーの顔が蒼白になり、両手で口を抑えた。
その様子に気づいた二人も近づき、俺の体の傷を見て固まる。
「こんなに傷跡が……」
ポツリと呟いたエドガーは複雑な顔をしていた。
リックは驚きに目を見開き、次の瞬間には怒りの形相を見せていた。
そんなにか?
「大丈夫だよ? 痛みがあるのは、今日風魔法で切られた箇所だけだから。後は治っているから痛くないよ」
そう言うと、ナタリーは泣き崩れ、エドガーは痛ましげに俺を見た。
リックは拳を握りしめるも、怒りを抑えきれず、魔力がじわりと外に滲み出し、エドガーに叱られていた。
あれ? 俺とロベルトの感覚がおかしいのか?
これ、どうすればいいの?
困ってエドガーに視線を送る。
「あ~、ナタリーさん、俺が代わろう。あんたは落ち着くまで、そこで見ていてくれ」
頭を掻きながら、しょうがねぇな~って感じで、ナタリーさんと場所を変わる。
俺の体に巻かれている布を、そっと外し始める。
「あの、ナタリーさんとリックさんは、見ないほうがいいかも……」
ポソッと伝えると、エドガーの手が止まり、部屋が静けさに包まれた。
「二人とも、あんまり怪我人に気を使わせるなよ」
エドガーはそう言って、手を動かし始める。
足、お腹、背中と布を解き、エドガーの息を飲む音が聞こえた。
エドガーに視線を向けると頭を撫でられる。
「そんな顔をするな。レオが悪いわけじゃない。暴力を振るわれているのは聞いて知っていた。だが、これは……。止めることが、助けられなかった俺自身が許せないだけだよ」
俺は首をかしげる。
「それこそ、エドガーさんが悪いわけじゃないよね? 気にする必要ないよ。3人が俺の近くに居なくて良かったよ。居たら俺を庇って大事になりそうだからね」
そう言って笑うと、ぐっと眉間に力が入り、俺の髪をぐちゃぐちゃに掻き回す。
「わ!」
「それもそうだな」
複雑そうな顔で笑うエドガーさん、こっちを見ないリック、泣き笑いのナタリー。
「化膿はしていない。手早く処置をしよう」
そこからは、ナタリーさんが代わり、素早く終わらせる。
起き上がり、着替えも終わらせる。
あれ、さっきより動きやすい。
ロベルトよりナタリーさんの方が、処置が上手い。
「ありがとう」
お礼を言うと、ひょいとエドガーが俺を抱きかかえ、おでこを大きな手が覆う。
なんか、エドガーに抱っこされるの、慣れたな。
ちょっと、恥ずかしいけど。
「熱があるな。ナタリー、先に子供部屋に行って、子供達に説明をしてくれ。リック見張りを頼む」
二人は頷き、足早に部屋を出る。
エドガーは俺を抱えたまま、ソファーに座る。
「レオ、お前の呪いは今はリックの魔法で抑えているが、長くは持たない。夜中に俺とリックで部屋に行く。それまでは我慢してくれ」
「ありがとう。でも黒いモヤは見られない?」
「……黒いモヤが見えるのか?」
「え? うん」
「そうか、心配ない。その黒いモヤが見えるのは、本館、別館でもレオだけだ」
「そうなの?」
「ああ、よほど魔力の識別能力が高くないと、可視化して見られない。レオは識別能力が高いようだ。さっきのも見えたんだろ?」
「うん。エドガーさんは見えないの?」
「ああ、俺は呪いを察知することは出来ても、識別して見ることは出来ない。だから他の誰かに気づかれることはないから、安心しろ。それと、目的があって来たようだが、あまり無理はするな。いいな」
気遣うような心配するような眼差しに戸惑う。
頷いて答えるのがやっとだった。
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次回 3/11(水) 20時更新します。
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