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3-1

 墓参りを終えてから、リリアは気持ちの整理がついたのもあって、周りを見る余裕が出てきていた。そのせいだろう、村を出てからの違和感に早々気付いたのは。

 「少数とは聞いていましたが、少数どころの話ではないのでは…?」

 その疑問に、今まで気にも留めていなかった山吹色の髪がにたりと笑った。

 「お、何だよ俺達だけじゃ不安だって?」

 「お前がそんなだからだろう、ジェラルド」

 「偏見だ、偏見!」

 騎士達に見送られているときには、この中から誰か一緒に来るのかと思っていた。だが、一向に追いかけてくることはなく、予定もないと今聞いたところだ。

 「あ、あの、それならどうして、首都に…」

 「悪いが、まだ言えん。道中、魔導と護身術を覚えてもらう」

 「はい?」

 「俺から魔導。あ、これは優先事項な。ついでにジーンから護身術だ」

 「い、いえ、理解できなかったのではなく、私がですか?」

 「他に誰かいるか」

 「はい、ジーン団長!誰もいません!」

 「ふざけるな、ジェラルド」

 自分達しか居ない為か、普段より気楽に話す二人にリリアは頬が引きつるのを感じた。先行きに不安しか覚えない。

 「寝るときは馬車を使えばいいさ。俺達交代で見張るから」

 「馬のジェラルドが積んでいたものと必要そうな物は載せた。あとで確認してくれ。基本的馬車は寝るだけだ。体力作りも兼ねているからな」

 「じゃなきゃ、転移魔導で一発なんだけどな!」

 「諸々事情があるだろうが。ああ、馬のジェラルドは、首都に送っておいた」

 「は、い?」

 「俺の魔力量なめるなよ?そこらの魔導師には負けねえよ?」

 「神童だからな」

 「あ、今バカにしたな?やるか?」

 「やってもいいが?」

 馬を引きながら挑発的に笑うユージーンと、リリアの隣で同じように笑うジェラルドと。話の流れが早いのもあるが、リリアが理解するのには時間が足りなかった。最近こんな事ばかりだと、ひっそりと息をついた。

 「これから長い付き合いだ。適当にあしらうことを覚えてくれ」

 「ジェリーと言ってやればいい」

 「馬と判別つかなくなるんでやめてくれ。本気でやめろ」

 「ジェリー…あ、馬のジェリーは今は…?」

 水浴びの最中に再開してから、たまにジェラルド同伴でブラシ掛けをしていたが、騒ぎを起こしてからはそんな暇もなく。

 「ルバート商会に預けてきた」

 「訳は話してないが、快く引き受けてくれたから安心していいさ」

 「あれは職権乱用だと思うがな」

 「まあ、俺に取り入っとけば当たりだろ?」

 「はぁ…」

 「無事ならいいんです。よかった…」

 騎士達が村の片付けに役立ててくれると思っていたが、まさか首都へ送られていたとは思わなかった。一緒に物騒な単語が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにする。

 「そうだ、リリア」

 「はい、神父様」

 「それ、禁止な」

 「は?」

 にっこり笑って、ジェラルドはリリアに人差し指を向けた。

 「目立つから」

 「え?」

 呆気にとられ何度か瞬きをしていると、今度は鼻で笑いながら、リリアの額を弾いた。

 「いった!?」

 「悪い悪い、ついな」

 「ジェラルド!」

 「だってよー、間抜けな顔過ぎて」

 「まぬ!?」

 少し赤くなった額を抑え、けらけら笑うジェラルドを睨んでもなんのその。気にする様子もなく、けらけらと笑っていた。それに、ユージーンは大きなため息をついて、彼女を手招きした。

 「リリア、神父と騎士団長が一緒だと面倒なんだ。首都に入れば、皆が顔を知っているから仕方ないが、道中は避けたい。だから、肩書きで俺達を呼んでくれるな」

 「分かりました…団長さ、ユージーン様」

 「様…」

 「な、なにか、失礼でも…?」

 不服そうに眉を寄せた、ユージーンを見て、リリアは思わずジェラルドを振り返った。助言を求めるつもりが、意地が悪そうな笑顔に呆然としてしまう。

 「ぷっ、へぇ、あのジーンさんが?」

 「ジェラルド…」

 「あ、あの…」

 「リリア、そこの小川で馬を休ませておいてくれないか」

 明らかにユージーンの機嫌が急降下したのを感じて、また振り返れば貼り付けたような笑顔が待っていた。

 「は、はいっ!」

 そこに拒否権などないと察して、リリアは何度も首を縦に振る。

 「行くぞ、ジェラルド」

 「うわぁお、せっきょくてきー」

 「い、いってらっしゃいませ…」

 襟首をむんずと掴んで、ジェラルドを引きずっていく様に頭を下げることしかできず、ため息をついた。だが、馬が鼻を鳴らす音に我に返り、急いで荷馬車から外し、小川へ誘導する。

 「さ、お前達はお休み。よく分からないけど、きっと長くなると思うわ」

 水を飲み始めた二頭に優しく声をかけると、ポーチから例の本を取り出した。

 「確か、魔除けのやつがあったと思うの」

 はらはらとページを捲って、視線を泳がす。目当てのものを見付けると、落ちていた枝を拾い、地面に迷いなく描いていく。

 「…できた」

 何気なしに描いた魔方陣を叩くと、砂が数ミリ飛び上がり、描いた痕跡ごと消えてしまった。

 「んー?違った?」

 腕を組んで首を傾げたリリアは、またページを捲って適当な魔方陣をさらさらと描く。

 「ん?うぅん?」

 何度試しても結果は同じだった。だが、村でさんざん作っていた魔除けのお守りはこうはならなかったと、また首を傾げた。

 「小さくしてみる?」

 それは名案だと、リリアは自分で力強く頷いた。

 「やめろ」

 肩が跳ねたのは、声が近かったからか、怒気が含まれていたからか。大きな手で枝は奪われ、小川を泳いだ。

 「何か変な気配がすると思ったんだ。さっさとジーン伸してきて正解」

 「のし…?」

 少しの切り傷を作って戻ってきたジェラルドは、横目で馬たちの様子を確認する。呆れたように深く息をついた。

 「この辺りだけ清浄な感じになってるから、野盗なんか通ったらぶっ倒れるぞ」

 「へ?」

 「あーやだやだ。これだから素人は」

 髪をがしがしとかくと、彼はリリアの本をさっと取り上げた。少し驚いていたが、抗議する様子は無く不思議そうに見上げている。

 「…あの、ユージーン様は?」

 「町に買い出し」

 「ここから、馬も出さずに?…ですか?」

 「いいんだよ、あいつ持久力バカだから。半日あればつく」

 「は…?」

 リリア達の村から隣町まで馬で三日はかかる。本人の体力以前の問題だろう。まだ村を出てそれほど進んだとはいえず、とても半日では着かない。

 「まあ、細かいこと気にするなよ。お前は俺とお勉強。ここの浄化も解除していくからな!」

 「浄化…」

 「いいから、ここで待ってろ!」

 相変わらずジェラルドの言葉は理解できなかったが、待ては分かったので、リリアは大人しく待つことにした。

無理に区切った感が否めなくてすいません。

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