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墓参りを終えてから、リリアは気持ちの整理がついたのもあって、周りを見る余裕が出てきていた。そのせいだろう、村を出てからの違和感に早々気付いたのは。
「少数とは聞いていましたが、少数どころの話ではないのでは…?」
その疑問に、今まで気にも留めていなかった山吹色の髪がにたりと笑った。
「お、何だよ俺達だけじゃ不安だって?」
「お前がそんなだからだろう、ジェラルド」
「偏見だ、偏見!」
騎士達に見送られているときには、この中から誰か一緒に来るのかと思っていた。だが、一向に追いかけてくることはなく、予定もないと今聞いたところだ。
「あ、あの、それならどうして、首都に…」
「悪いが、まだ言えん。道中、魔導と護身術を覚えてもらう」
「はい?」
「俺から魔導。あ、これは優先事項な。ついでにジーンから護身術だ」
「い、いえ、理解できなかったのではなく、私がですか?」
「他に誰かいるか」
「はい、ジーン団長!誰もいません!」
「ふざけるな、ジェラルド」
自分達しか居ない為か、普段より気楽に話す二人にリリアは頬が引きつるのを感じた。先行きに不安しか覚えない。
「寝るときは馬車を使えばいいさ。俺達交代で見張るから」
「馬のジェラルドが積んでいたものと必要そうな物は載せた。あとで確認してくれ。基本的馬車は寝るだけだ。体力作りも兼ねているからな」
「じゃなきゃ、転移魔導で一発なんだけどな!」
「諸々事情があるだろうが。ああ、馬のジェラルドは、首都に送っておいた」
「は、い?」
「俺の魔力量なめるなよ?そこらの魔導師には負けねえよ?」
「神童だからな」
「あ、今バカにしたな?やるか?」
「やってもいいが?」
馬を引きながら挑発的に笑うユージーンと、リリアの隣で同じように笑うジェラルドと。話の流れが早いのもあるが、リリアが理解するのには時間が足りなかった。最近こんな事ばかりだと、ひっそりと息をついた。
「これから長い付き合いだ。適当にあしらうことを覚えてくれ」
「ジェリーと言ってやればいい」
「馬と判別つかなくなるんでやめてくれ。本気でやめろ」
「ジェリー…あ、馬のジェリーは今は…?」
水浴びの最中に再開してから、たまにジェラルド同伴でブラシ掛けをしていたが、騒ぎを起こしてからはそんな暇もなく。
「ルバート商会に預けてきた」
「訳は話してないが、快く引き受けてくれたから安心していいさ」
「あれは職権乱用だと思うがな」
「まあ、俺に取り入っとけば当たりだろ?」
「はぁ…」
「無事ならいいんです。よかった…」
騎士達が村の片付けに役立ててくれると思っていたが、まさか首都へ送られていたとは思わなかった。一緒に物騒な単語が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにする。
「そうだ、リリア」
「はい、神父様」
「それ、禁止な」
「は?」
にっこり笑って、ジェラルドはリリアに人差し指を向けた。
「目立つから」
「え?」
呆気にとられ何度か瞬きをしていると、今度は鼻で笑いながら、リリアの額を弾いた。
「いった!?」
「悪い悪い、ついな」
「ジェラルド!」
「だってよー、間抜けな顔過ぎて」
「まぬ!?」
少し赤くなった額を抑え、けらけら笑うジェラルドを睨んでもなんのその。気にする様子もなく、けらけらと笑っていた。それに、ユージーンは大きなため息をついて、彼女を手招きした。
「リリア、神父と騎士団長が一緒だと面倒なんだ。首都に入れば、皆が顔を知っているから仕方ないが、道中は避けたい。だから、肩書きで俺達を呼んでくれるな」
「分かりました…団長さ、ユージーン様」
「様…」
「な、なにか、失礼でも…?」
不服そうに眉を寄せた、ユージーンを見て、リリアは思わずジェラルドを振り返った。助言を求めるつもりが、意地が悪そうな笑顔に呆然としてしまう。
「ぷっ、へぇ、あのジーンさんが?」
「ジェラルド…」
「あ、あの…」
「リリア、そこの小川で馬を休ませておいてくれないか」
明らかにユージーンの機嫌が急降下したのを感じて、また振り返れば貼り付けたような笑顔が待っていた。
「は、はいっ!」
そこに拒否権などないと察して、リリアは何度も首を縦に振る。
「行くぞ、ジェラルド」
「うわぁお、せっきょくてきー」
「い、いってらっしゃいませ…」
襟首をむんずと掴んで、ジェラルドを引きずっていく様に頭を下げることしかできず、ため息をついた。だが、馬が鼻を鳴らす音に我に返り、急いで荷馬車から外し、小川へ誘導する。
「さ、お前達はお休み。よく分からないけど、きっと長くなると思うわ」
水を飲み始めた二頭に優しく声をかけると、ポーチから例の本を取り出した。
「確か、魔除けのやつがあったと思うの」
はらはらとページを捲って、視線を泳がす。目当てのものを見付けると、落ちていた枝を拾い、地面に迷いなく描いていく。
「…できた」
何気なしに描いた魔方陣を叩くと、砂が数ミリ飛び上がり、描いた痕跡ごと消えてしまった。
「んー?違った?」
腕を組んで首を傾げたリリアは、またページを捲って適当な魔方陣をさらさらと描く。
「ん?うぅん?」
何度試しても結果は同じだった。だが、村でさんざん作っていた魔除けのお守りはこうはならなかったと、また首を傾げた。
「小さくしてみる?」
それは名案だと、リリアは自分で力強く頷いた。
「やめろ」
肩が跳ねたのは、声が近かったからか、怒気が含まれていたからか。大きな手で枝は奪われ、小川を泳いだ。
「何か変な気配がすると思ったんだ。さっさとジーン伸してきて正解」
「のし…?」
少しの切り傷を作って戻ってきたジェラルドは、横目で馬たちの様子を確認する。呆れたように深く息をついた。
「この辺りだけ清浄な感じになってるから、野盗なんか通ったらぶっ倒れるぞ」
「へ?」
「あーやだやだ。これだから素人は」
髪をがしがしとかくと、彼はリリアの本をさっと取り上げた。少し驚いていたが、抗議する様子は無く不思議そうに見上げている。
「…あの、ユージーン様は?」
「町に買い出し」
「ここから、馬も出さずに?…ですか?」
「いいんだよ、あいつ持久力バカだから。半日あればつく」
「は…?」
リリア達の村から隣町まで馬で三日はかかる。本人の体力以前の問題だろう。まだ村を出てそれほど進んだとはいえず、とても半日では着かない。
「まあ、細かいこと気にするなよ。お前は俺とお勉強。ここの浄化も解除していくからな!」
「浄化…」
「いいから、ここで待ってろ!」
相変わらずジェラルドの言葉は理解できなかったが、待ては分かったので、リリアは大人しく待つことにした。
無理に区切った感が否めなくてすいません。




