2-18
村を見下ろす牧場跡には、不格好な十字架が建てられている。その前で祈りを捧げているリリアを、ユージーンはじっと見守っていた。
彼女達は首都へ向かうため、今日村を発つ。とはいっても、騎士団全員が引き上げるわけではなく、大半は村に残ることになっている。
「安心するといい。メロは優秀だ」
「はい。ありがとうございます」
振り返ったリリアは、副官を信頼するユージーンの言葉に深く頭を下げた。
「戻るか」
「はい」
言葉少なに村へと向かう。先日の諍いから、口を利く機会はなく、彼が今朝テントを訪れたことにリリアは驚いた。墓参りは済ませたか、と一言だけだったが、その言葉が嬉しかった。
「俺とジェラルドは孤児なんだ。兄弟のように育った」
草が繁ってきた道を難なく進み、時折リリアに手を貸しながらユージーンは静かに口を開く。それを遮る理由もなく、リリアは黙って聞いていた。
「だから、あの夜にジェラルドを殺しかけたお前が許せなかった」
ああ、とリリアは腑に落ちた。ジェラルドに突き飛ばされてからの記憶がないが、きっとその時、ユージーンは恐ろしかったに違いない。
「リリア?」
急に足を止めたリリアにすぐ気がつき振り返れば、深々と頭を下げていた。
「本当に、申し訳ありませんでした」
「お前が謝ることはない。頭を上げろ」
「上げられません。酷いことをしました」
「村を助けられなかったのは事実だ。俺を責めてお釣りが来るぐらいだろう」
頭をあげようとしない彼女を雑に撫でると、ユージーンは困ったように笑みを浮かべた。
「お前の気持ちを考えても察するに余りあると思っていたのに、ジェラルド一人失いそうになったくらいで大人げなかった」
「そんなことない!…あ、すいません…」
威勢よく顔をあげて否定したリリアは、彼の驚いた顔に肩を竦める。迷っているのか視線を少し泳がせると、深呼吸して、真っ直ぐユージーンを見上げた。
「貴方は何も間違っていません。家族を殺しかけた人間に慈悲など与える余裕はありませんし、与えることもないです。それは、人数の問題でも関係性の問題でもないんです。だって、大切な人の代わりは誰もいないんですから」
「…ああ、そうだな。ありがとう」
一呼吸おいて言葉を飲み込むと、彼は目を細めて穏やかに笑って見せた。
「団長様は、首都では人気がありそうですね」
木漏れ日から差す光に深緑の髪を透かし、鳶色の瞳が綺麗だと素直に思い、自然と言葉に出てしまった。それまでユージーンの見目など、気にも止めなかったが、少しだけ後悔してしまう。
「…は?」
「いえ、なんでも」
豆鉄砲をくらったかのようなユージーンに、自分でも間抜けなことを言ったと、笑って誤魔化した。そして、久しぶりにスカートの裾を少し持ち上げた。
「神父様がお待ちでしょうし、急ぎましょうか」
「あ、おいっ!」
段々恥ずかしさも込み上げてきて、戸惑うユージーンの声も無視して走り出す。手を貸してもらわずとも、この道はよく知った道だ。もう、自分で歩かなければ。清々する程の空の下で、気持ち良く走っていった。
「なんなんだ…」
残されたユージーンは困惑気味に頭をかくと、もう見えなくなりそうなリリアにため息をつく。
「甘く見てもらっては困る」
競い会うつもりはなかったが、彼は無意識に得意気な笑みを浮かべていた。そして、うんと背伸びをすると狙いを定めた。




