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休息無き戦い

「大丈夫、士郎。」

「うん、体中痛いや。」

「体中の筋肉が断裂しているそうよ。」

「それより、他のみんなは、戦いは?」

「その問いには、私が答えよう。」

不意に、白く、衛生的などこにでもありそうな病室のドアから、男が入ってきた。

男は180センチ後半の長身で、長く伸ばした金髪とたくわえた顎鬚がまるで雄々しいライオンのような印象を与える、更に、紺色の通常のエリアが支給している軍服の上に長い金色のコートを羽織り、それがまた、さらにライオンのようなイメージを増幅していた。

「失礼、私はセイファ=レオ=ミカエリ、だ。第一番小隊の隊長を務めている。」

セイファは起き上がって敬礼をしようとする士郎を手で制した。

「一番小隊、というと、イグナさんが所属している?」

渋々、といった感じで士郎はそのままの姿勢で申し訳無さそうに質問した。

「ほう、イグナを知っているのか、すると。」

なるほどそうか、とセイファは含みのある笑顔を発した。

そんなセイファの態度にユリアと士郎は頭に?マークをつけながら見つめあった。

「いや、すまない、イグナのやつが、最近面白い一般兵士を見つけたと騒いでいてね。

やはり君の事かと、今確信したところだ。

ヨルムンガンドを倒したのは、ほぼ君一人の力だと聞いている。」

「いえいえ、そんな、僕は最後の方にチョロッと手を出しただけ、むしろ皆さんの尽力があったから。」

セイファはあたふたとする士郎を少し怪訝な顔でじっと見つめていたが。やがて思いついたように手をポンッとついた。

「なるほど、これが日本人の謙遜という奴か、サラが喋っていたな、日本人は手柄を褒められたときには回りのおかげにしたがる、それが日本人の美学と言う奴だとね。」

だが、とセイファは士郎を真っ直ぐに見据えて言い放った。

「自分の手柄を他人のおかげにするのもいいが、あまりにそれが度を過ぎると嫌味になってしまう。

今回は嫌味にしか聞こえないぞ、神谷士郎君。」

「いえ、そんなつもりでは。」

口ごもってしまった士郎をみて、セイファはふっと口元を緩めた。

「いや、こちらこそいいすぎたね。・・・、本題に入ろう。

まず、今回の戦いで、死傷者16名その内、死者は15名、負傷者は君一人だ。

第十番小隊は今回の戦闘で半数以上が亡くなったことになる。」

「そう、ですか。」

士郎は受け止め切れない現実を必死で消化するように眼を閉じた。

「だが、同時にヨルムンガンドを葬ったという事実もある。

実際、改造兵のいない小隊が未確認生命体を倒した例は数少ない。それも、独力でだ。」

眼をつぶった士郎を励まそうとしているのか、それともただ単に状況を簡単に整理しているのか、セイファはそのどちらとも言えるような表情で言葉を紡いだ。

「それで、本題というのはだね。」

セイファは笑顔を崩さないまま、続けた。

「第一番小隊に君を引き抜きたいと思うんだが、どうかね?」

士郎はキョトンとした。第一番小隊は、改造兵だけで構成される特殊戦闘部隊だ。

そんな部隊に自分が入るなど、冗談にしては馬鹿馬鹿しすぎるではないか。

しかし、目の前の男、セイファの目は笑っていなかった。

士郎はユリアの顔を見た。ユリアもまた、信じられないと言う様な顔をしていた。

「すぐに決めてくれなくていい、体のこともあるし、決心が付いたら、ここに連絡を。」

と言って、セイファは小さなメモをコートのポケットから出して、ベッドの傍の花瓶がおいてある棚の上に置いた。

「それと。」と、セイファはユリアの方へ体を向けた。

ユリアはギクッと体を震わせた。

「ここは、軍用の施設で、部外者は入れないはずなんだが、君はIDを持っているのかい?」

セイファは少し怖い顔で問い詰めた。士郎が通っているジムや、シュミレーションルームに入るにはIDカードが必要なのだ。

ユリアが答えられないのを見ると、さらにセイファは質問を続けた。

「どこから入ったんだ?」

「ええとお、あっちからです。」

ユリアは恐る恐る、窓を指差した。

「ここは三階だぞ!よじ登ってきたのか?」

「はい・・・。」

セイファは「まったく。」といった感じで、ため息をつくと。

「・・・、付いてきなさい、もう今夜は遅い、送っていってあげよう。」

「・・・、分かりました。」

ユリアは渋々、といった感じでセイファの言葉に従った。

二人の姿が病室から消えると、士郎は外に眼をやった。確かにもう外は暗くなっていた。

ずっとねていたためか、時間の感覚がおかしくなっていたのだ。

ちなみに、士郎は三日三晩眠り続けて今に至る。

「君、 名前はなんと言う?」

セイファは病院の廊下を行く途中、少女に尋ねた。

「ええと、如月ユリアです。」

「如月?如月といったか?」

ユリアが答えると、セイファは訝しげな顔で確認をとった。

「はい、そうですけど、なにか?」

「いや、なんでもんないんだ。」

セイファはユリアの問いに曖昧な返事をするとそのまま歩いて、廊下の真ん中にあるエスカレーターに行き、パネルのボタンを押した。

今の時代になっても、エレベーターはほとんど変らない、もっとも安全装置などの設備は昔の比ではないが。

セイファはユリアを促し、エレベーターへ入らせる。そして、自らもその中へ入り、ボタンを押す。

もちろん一階のボタンだ。

ユリアは隣に立ったセイファをよく観察した。みあげるほど高い身長、頼りがいを感じる筋肉質な体。

自分よりもずっと年上の男性。

(お父さんがいたらこんな感じなのかな?)

ユリアは心の底で考えていた。育ての親である神父は父というよりは、先生としての役割の方が大きかったようにユリアは思う。さっきのセイファの態度、ユリアの侵入を咎める態度は、ユリアが思い描き憧れた父親像に酷似したものがあったのだ。まるで、それは子供のイタズラを咎めようとする父のようで。

でも、とユリアはこうも思った。

(隊長って職について、その面倒見のよさは自然に出来たもの、私だけに向けられた面倒見のよさではないんだろうな。)と、

「?、どうかしたのかい。」

考え事をしていたユリアに不意にセイファが声を掛けた。

「あ、いえいえ、何でも無いんです。」

ユリアはブンブンと腕を振って、誤魔化した。その顔は少し紅潮していた。

「そうか、ならいいんだが。」

そういってもなお訝しげな表情を崩さないセイファから顔を背けながらユリアは続けた。

「本当に何でも無いですから。」

そうこうしているうちに、エレベーターは一回につき、それを報せるアナウンスが鳴った。

二人は病院のエントランスに出た。一面ガラス張りのつくりで、受付が左の方にある。

比較的スタンダードな病院施設だと言えよう。

しかし、入り口の所にある駅の改札のような機械があることが違った。厳密に言えば駅の改札よりも、物々しい、侵入を防ぐための可動式の板のようなものが三枚ほど縦に並んでいるのだ。

これにより、一般人の侵入は不可能になっており、これを開くためには軍のIDが必要だ。

セイファはそのままつかつかと歩いていき、銀色のカードを取り出すと。改札のような装置の認証パネルにかざした。

「?」

しかし、何故かIDカードをかざしても改札のような装置が開かない。

セイファはもう一度カードを読込ませようとする、やはり、開かない。

と、ここでセイファとユリアは異変に気付いた。

改札のような装置に電源が入っていないのだ。

だが、それだけではなかった。病院を見回すと、全体の電子機器が上手く作動していない。

パソコンを操作していたナースが急に消えた画面をあっけに取られて見ていたり。

携帯をいじっていた若者が急に動かなくなったのを見て、憤慨している。

しかし、そんなことよりまず、病院の照明が予備電源に切り替わり、薄暗くなっている事にほとんどの人は気付いた。

「まさか。」

セイファはここで何かに気付いたようだった。

「どういうことなんですか?」

ユリアはそんな態度を見せたセイファを見、たずねた。

「ここにいなさい。」

そう言ってセイファはユリアを押しとどめるように手を離すと、動きを完全に停止した改札のような装置にもう一度近づくと、

右手を振りかざし、改札の侵入を防ぐ板に拳を振り下ろした。

改札はもろくも、セイファの手によって打ち砕かれた。

はっと息を呑むユリア、何事かと近づいてくる病院関係者を黙らせるように、セイファは後ろを向くと、

「あとで、弁償はする、今は行かせてくれ。」

そう叫ぶと、セイファは薄暗くなった外に飛び出していった。


その頃、士郎もまた異変を感じ取っていた。

電子機器が動かない、電灯が予備電源に切り替わっている。

しかし、士郎は動けなかった。体に無理な運動を行使し、体中の筋肉が断裂したのだと医者は言っていた。

しかし、今起こっている現象は未確認生命体が近寄っている場合と酷似していた。

未確認生命体が放出する謎の粒子、それが電子機器を狂わせ、使い物にならなくする。

これによって、化学兵器のほとんどは封じられてしまっている。

そのために、改造兵士という生態兵器が必要だったのだ。

「くっ、行かなきゃ。」

士郎は体を無理に動かしてとベッドから起き上がろうとした。

激痛が走る。ベッドから転げ落ちてしまった。ナース達は突然の電子機器の不調であたふたとしており、士郎に気付かない。

士郎はそんな中、悪い予感をひしひしと感じていた。

「い、行かなきゃ。」

激痛走る体を起き上がらせようと全身に力を入れた。


―僕は、またあの感覚を感じていた。無理に動かそうとした体が激痛を感じさせ。

それが、僕に擬似的な死の感覚を感じさせていたのかもしれない。

僕は分かっていた。死を体が悟ったとき、あの不可解な力が発揮できることを。

痛みは次第に引いていき、またあの奇妙な陶酔感に僕は浸っていた。


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