11.
水晶玉の中には、一人の少年の顔が映っていた。
小さな画面でも、すぐそれと分かる銀のサラサラな髪。白い肌。その瞳は固く閉じられていたが、しかしそれでも彼が実に愛らしい顔立ち持っていることは、一目瞭然な。
つまりはアリソンにとっては完全に初見で、なおかつこんな妙な場所で見るには余りに場違いともいえる……。
「え、この子が……?」
それゆえ一瞬、呆気に取られたような時間すら流れていったものの。
「ああ、そうさ。この子供が、元型のレムだ」
「レム――」
「つまりはこいつがいなければ、アウゴエイデスを動かすこと一切出来ない」
だが対照的にリロイは、あくまで平然とした様子でそんな重大なこと、語ってきたのだった。
「一切、動かせない?」
思わず曾孫に、オウム返しの問い発させたくらいの。
つまりは彼女にとって、それは余りに予想外の一言だったのであり。
「こんな男の子が? それにさっき、アウゴエイデスは私たちを運んでくれたよ」
「あれはレムが夢の中でやった動きだからな、それくらいのことはできる。だがしっかり操作するとなると、話は全く違ってくる。つまりはあいつがちゃんと覚醒してくれないと。……まあ、さっきも言った通り、そのレムは俺の自動人形なんだが」
「人形ってことは、まさかリロイが造ったの?」
従って他にも次々と勢いよく疑問が湧き出してきたのも、至極当然のこと。
すなわち完全に、いつしか謎だらけの迷宮に閉じ込められていたような。
「ウム、その通り。つまり、ティコとは兄弟に当たる――」
「!」
……もっとも、そうした数々の大いなるクエスチョンも結局曾祖父がさらなる情報出してくることによって、その途轍もない衝撃に綺麗さっぱり吹き飛ばされることと相成ったのだが。
「え、ティコ?! ていうことは、あの子って」
「ん? 言っていなかったか? こりゃすまない、あいつももちろん自動人形なんだ」
「えええ!」
とりわけ、何でもないことのようにリロイがまたもやとんでもない事実、いともあっさり告げてきたとすれば。
「あんな可愛いのに!」
――たまらずアリソンに最終的に奇妙な言葉、上げさせて。
一体この事実をどう捉えていいのか、まるで分からないとばかりに。
「おい、それは関係ないだろ」
対するリロイのあくまでも冷静な突っこみ、茫然としたまま受けつつも。
まあいずれにせよ、こうしてついにアリソン・クーデリウスは待ち望んでいた機械仕掛けの巨人、何よりその謎に包まれた中枢に関する秘密を一部とはいえ受け取ることとなった訳であり。……それが果たして、今の少女にとって良いことだったのかどうかはともかくとして。
「さあ、とにかくこれで最初の説明は終わりだ。後はアリソン、君が水晶玉に向かってこの子の名前を呼び、100年ぶりに目覚めさせるんだ!」
そう、とにもかくにも当然の如く目を白黒させるばかりのそんなアリソンのこと置いて、次いで狭い操縦席内に響き渡ったのは魔道士リロイのいかにもやる気満々、といった声音以外何物でもなかったのである――。
◇
怖気の走るような、剣呑な気配――。
ベヒーモスは瞬間、これまでにないほどの明らかな身の危険というやつ、しかと感じていた。
もちろんそれが発されてくるのは前方、建物の裏手の方からだ。つまりはあの、謎めいた白亜の巨人が聳え立っている。相変わらず、不気味とも取れるオーラに包まれた。
「グウウ……」
しかもそいつが、人間を自分の胸中に入れるなど先程から何やら色々と怪しい動作行っていた以上、それは一層のこと甚だしく。結局二頭は恐れ成して逃げ、唯一残ったこの一頭の巨獣のみが、警戒心満々と遠巻きにじっと見つめていた中。
――あいつは、今すぐにでも倒さなければならない。
すなわち<彼>が、即座にそう判断、下さざるを得なかったくらい。
むろん野性としての本能が、烈しく、逃れようもなく命じてくるまま。
ひたすら、猛然と。
いまだ相手の実力は、完全なる深い霧の中にあったとはいえ。
欠片一つ、探りようもなく。
……そして、それゆえだろう。
ブウウウウン……
ふいに眼前から、正体不明の不可思議な低い音が聞こえてくるや、
「ガウウ!」
もちろん、その巨大すぎる全身から隠しようのない程の闘気、どこまでも色濃く放散させながら――次の瞬間<彼>も当然の如く、余りに獰猛極まる声音で、それにすぐさま応じていたのだった。




