9.
「わあ、凄い!」
「うお、マジでアウゴエイデスが言うことを聞いた!」
「さすがはリロイ様の曾孫……」
それは、リロイの言うに任せアリソンが目の前の巨人の名を呼んだ、次の瞬間のことだった。
「!」
アウゴエイデスがそれに見事反応し、まさしく王女に仕える騎士の如く優雅に跪くや、少女へ向けて右手をゆっくり差し出してきたのだ。
「わ、わ……」
しかも一瞬逡巡示した後、それでも恐る恐るそれに乗ると、当然の如くアリソンたちを上の方へとゆっくり運び出して。
つまりはそれくらい、巨人の動作は機械仕掛けとは思えぬほど滑らかかつ、迫力あったものでもあり。
「よし、やはり君の言うことはちゃんと聞くか。さあアリソン、早速乗りこむぞ!」
「え、もう?!」
「当然だ、のんびりここで話している暇はない!」
それゆえすぐ隣に立つ曾祖父のいかにも急かしてくる言葉がなければ、少女がたちまち怖気づいていたのは確実とすら思われたのだった。
「私が、この巨人の――」
むろんどこか呆然とした呟き、零しつつ。
余りにも次元の違うものを前にして知らず覚えた、畏怖にも似た感情の吐露が如く。
……これまでの人生では、およそ経験したことのない。
「……」
従って次第に高度高まっていく中、アリソンは僅かな間、躊躇する素振り見せてしまったのだが。
「さあ、どうした。元気出していくぞ!」
「わあ!」
しかしリロイはそんなことには一向お構いなしにドンと肩を叩くや、まさしく早く乗りこめと曾孫娘へ強く促してきたのである。
「わ、分かったから!」
もちろん対して相手に、条件反射でほとんど無理矢理ともいえる決意の声、返させて。
そう、何と言っても今やこの紅眼の少女こそが他でもない万能の巨人の、新たなる乗り手だった以上。
曾祖父にして<黎明の巨人使い>、リロイ・シュバルツシルトに取って代わる……。
そして、そのただならぬ状況ゆえに、だろう。
「よし、ハッチが開いた。ではこれからコクピットに乗りこむぞ!」
「ここが……」
「どうした、何ぼうっとしている!」
巨人の創造主たる魔道士が声音なおのこと強くさせ、励ますように言うと、
さらには瞳の色、キラリとさせながら。
「うん――」
対してアリソンはついに決心固め、ゴクリと一つ唾、飲みこんだのだった――。
◇
そのベヒーモスは、大いに惑乱していた。
むろんリロイたちを先程まで猛然と追いかけていたうちの、一頭である。当然ながら、二頭の仲間もまだすぐ傍らにいる。
そう、すなわち後ほんの少し時間があれば、待望の獲物を狩ることはできたはずなのだ。何よりあいつら――七人の小さな侵入者――を朽ち果てた建物の中に追いこみ、もはや逃げること不可能としていた以上、余りにもあっさりと。
実に久々に見た、人間という奴ら。ここ最近では滅多に得られることのない、大ご馳走を。
「グググ……」
ゆえに僅か数十分前までは、当然の如く自らの勝利を固く確信出来ていたのだが。
どこまでも、自信満々に。
しかし――。
「グウウ……」
「ガウウ……」
仲間たちがいつしか威嚇とも怯えとも取れる呻き声発していたように。
「ガウ!」
彼らの眼前には、今や経験上見たことのない異様な存在が立ちはだかっていた。
それはまさしく、眩い閃光の後突然現れた雲を突くような大巨人――むろんこの獣たちにとって、巨人という概念は存在しなかっただろうが――で、あろうことか自分の方が見上げなければならないほどの背の高さ誇っている。しかも全身真っ白、加えて不思議とほっそりした印象与えたが、しかしそれでも明々と力強さが伝わってくる、と、まさしく見たことのない特徴がオンパレード。よって地上でも一、二を争う強さ誇るベヒーモスですら、しばし獲物前にして近づくのをたじろいでしまったのは当然だったといえよう。
そう、それくらい眼前のモノが放ってくる圧迫感は、余りにも衝撃的で。
一瞬、今日の食事たる人間たちのことをあっさり忘却してしまっていたほど。
獰猛なる彼らには、珍しく。
「!」
――すなわち、その類まれなる驚愕ゆえに。
その時突如としてその巨人がガクッと体勢を沈め、従って遠くからとはいえベヒーモスの眼にもその足元にごく小さな幾つかの人影いるのが認められなかったとすれば、
「ガウウウ!」
獣たちが再び元の野性の獰猛さ、取り戻すことはまずあり得なかったのだから。




