8.
「あれ?」
狭苦しいコクピットの中、マリベルは突如鳴ったアラーム音に刹那反応を示していた。
それは自らのすぐ手前、斜めになった台に取り付けられた水晶玉が何かを映し出したという証しだ。むろん音としてはさほど切迫感のない、つまりは通常の通信用として。
「何だろ?」
ゆえに少女は訝しげな面一瞬示しつつも、大してハッとした風もなくすぐさま視線をそちら、やや下の方へ向けている。特に今は自慢の愛機を久々に大草原の中調整のため全力疾走させていた大事な時、同時に機体のバランス失わないようにしながらだったのは言うまでもなかった。
「あ、パルメノン様!」
「マリベル、メイゼル。調整ご苦労ね」
「はい!」
とはいえ、次の瞬間水晶玉に映った人物の顔は、マリベルをしてたちまち分かりやすく緊張させることとなる。しかもその師匠たる魔女は自分のみならず相棒へも共に呼び掛けていたようで、これはなかなか重要な知らせが来たのかな、とも思われたのだ。
「あなたたちに、話があるわ」
何より、こちらへ語り掛けてくるパルメノンのそのアクアマリンの瞳に、得も言われぬもの凄い力が宿っていたのを見てしまえば。――それも、どこまでも憎しみで満ちた。
「はい、何でしょう?」
それゆえ赤毛の娘はすかさず、操縦席の上だったとはいえ改めてその姿勢ビシッと正していたものの。
「それは他でもない、お前たちの倒すべきアウゴエイデスがついに復活を遂げたということよ」
「!」
――しかし、ソーサリスはそんな弟子の予想を遥かに上回る程の途轍もなく衝撃的なこと、重々しく告げてきたのだった。
「そんな、こんなに早くですか?!」
マリベルにすぐ、そう問わせていたくらいに。
「そうよ。リロイ・シュバルツシルト、やはりさすがというべきかしらね。……本当、憎たらしい奴」
そして、その驚きは双子の片割れたるメイゼル――緑髪と緑眼が特徴的な魔女――にも時を同じくして完全に伝わったのだろう。すなわち少女は刹那、彼女も目を大きく見開いたことを間違いなく心の中で確信していたのだから。
「アウゴエイデス……万能の巨人」
恐らく、ゆえにパルメノンの言に対しそうして零された呟きも、全く同じ内容だったはずで。
つまりは、ここに来て俄然湧き上がって来た、恐怖心というやつに彩られた……。
「フフ、どうしたの、二人とも。怖気づいたのかしら?」
「あ、いえ……」
「まあ、さすがに相手は伝説の巨人だからね。気持ちは分かるわ」
特にパルメノンがまるでそれに同調するかのような言葉、掛けてきたこともあり。
そう、彼女としても、あの巨人の脅威は充分過ぎるほど知っていた以上。
『万能』と呼ばれても何らおかしくない、余りに圧倒的な力のことは。
「私だって、あの偉容を思い出したら」
……たとえかつて自分たち五人の手で、無力化に見事成功していたのだとしても。
「帝国軍を一瞬で壊滅させた」
「……」
むろん100年経った今でも、その姿が記憶から消え去るなど、まずあり得ない。
「――でも、何も心配することはないわ」
だが、それゆえにということなのか。次の瞬間には、ふいに水晶玉の中のパルメノンの面差しがきっと鋭いものになっていた。言うなれば、まさに闘志沸き立つといった感じだ。すなわちはたしてそれ見たマリベルに――むろんメイゼルも同じだったであろうが――思わず驚きの顔、示させていたくらい。
要するにそこにあったのは、余りにもはっきりとした決意の色そのものというやつだったのであり。
常勝の魔女にこそ、まこと相応しいほどの。
特に勝ち気さでは一頭地を抜く彼女にとって。
何より、これは栄光もぎ取る千載一遇の好機と言わんばかり――。
「今のアウゴエイデスには、昔日の力はないはずなんだから」
「パルメノン様……」
「そう、その五つの装備を、私たちが剥ぎ取ってしまった以上」
特にそのいかにも自信に満ちた声を聞けば、心の内が明らかだったように。
瞳の光、爛々と。
「だから、分かったわね?」
そして僅か一拍の間とはいえ、その妖しさ、迫力に双子の魔女が知らず揃って気圧されてしまっていると、
無言のうちに。
操縦桿やモニターに囲まれた、コクピットの中。
「! は、はいっ」
「これから魔力追って突き止めたあいつらの居場所を教えるから、必ずアウゴエイデスと、そして――」
対して青の魔女は益々その声音、低く重くして、
「リロイ・シュバルツシルトを、始末するのよ」
――最後に最上級の怨念籠めて、実に恐るべき命、ついに下してきたのだった。




