7.
忽然と、そう余りにも突然、それは荒野のただ中に出現していた。
「え、ウソ……」
「こ、こんな所に現れるとは――」
すなわち得体の知れない轟音がやっと収まった後、一同が慌てて廃修道院の外へ状況確認しに飛び出るや、そこ、建物の背後の開けた空き地にはまこと堂々たる一体の巨人――甲冑を纏った騎士を思わせる形姿――が立っていたのだ。
「ま、眩しい!」
しかも知らずアリソンが手を眼の上にかざしながら言ったように、昼間の太陽の下眩いばかりの光輝、辺りへ惜しみなく放散させながら。まさしく実に燦然と。
つまりはそれくらい、その巨人の全身は陽光反射するくらい純白な装甲に隙間なく覆われており。
「うわあ、真っ白……」
「相変わらず、綺麗だな」
はたしてアリソンのみならず既に見たことがあるはずのガルフでさえ、知らずそんな圧倒されたが如き感想、洩らしていたのだから。
「魔術でここに隠してあったわけか……」
「それも完璧に。さすがはリロイ様だな」
「……信じられない」
――もちろん加えてそこに、ファムとロランのいかにも感心した呟きと、コールの夢でも見ているような声が重なっていたのは言うまでもなく。
そのまさに圧倒的な威容、仰ぎ見ながら。
初めてにせよ久々にせよ、いずれにしてもその大いなる衝撃、まともに全身で受け止めつつ。
「こんなのが、動くの?」
そしてその強烈過ぎる圧迫感ゆえだろう、ここまで必死になってこの巨人求めてきたアリソンの口からはかえって俄然、戸惑うような言葉さえ零れ出していたのだが、
「――いや、違う」
「!」
「アリソン、こいつは君が動かすんだ」
しかしリロイはそれを決して聞き逃さず、刹那そんな曾孫の気持ちを正すように静かな声音でそう告げてきたのだった。
「え、私が……」
「そうだ。何より、君が自分でそう言ったじゃないか」
むろん対して少女が目を丸くしても、魔道士は一向に構うことなく、
そこには唯一の肉親に対する、紛れもない愛情と厳しさが同居しており。
今まで一度も、見せたことのない。
「ソーサリスたちは、自らの手で必ず倒す、と」
そうしてその表情には、今やはっきりと決然たる色まで映っていて――。
◇
アウゴエイデス。
かつては最強を謳われた、史上初めてこの世界に現れた機械仕掛けの巨人。
主人の命には絶対に従い、しかしそれ以外の者には決して心許すことのない。
何よりその圧倒的な力は、この魔女たちの支配する世界でもいまだ伝説として人々の間で盛んに交わされ続けている。
そんな頼もしいと同時に、恐ろしくもあるリロイ・シュバルツシルトの愛機。
――そしてそれはまさしく、地上最強の兵器と言っても決しておかしくない姿をしていた。
まず特筆すべきはその巨大さだが、体長はリロイによればおよそ15エメル、これはほぼ一流都市の大聖堂にも比すべき高さであろう。しかもそんな大巨人が分厚い装甲纏い、大地の上にしかと二本足で立っているのだ。それだけでも、十分驚愕に価する眺めであったといえた。
「……カッコいい」
そして何より、アリソンが思わず呟いていたような、そのまこと洗練されたフォルム。まさしく甲冑を纏ったエレガントかつ聖なる騎士がそのまま巨大化したような姿をしていて、特に頭部、丸いヘルメット――その額の部分には緑の四角い石らしきものが嵌められている――を被ったようなそこの印象が実に凛々しい。その全身も滑らかな、素材分からぬ白い金属で覆われており。しかしそれはまた伝説に言われる武骨な感じとはやや異なり、どこか女性的な風も漂わせていたと言うべきであった。つまりはどことなく、艶やかな。また加えてそれは全体にも適用できる印象だったのであり、すなわち長い手足含め全身はその持っているであろう力に比べ、不思議と細い感すらあったのだ。
「しかしこれが、本当に帝国を滅亡寸前まで追い詰めたのか……?」
はたしてコールが、我知らず茫然と口にしていたが如く。
「ハハ、どうした、信じられないか? だがこいつは本当に、アルバス人にとって死神をも超えた存在だったんだぜ」
「そうそう。コールにも見せてやりたかったよ。アウゴエイデスのあの時の勇姿を」
そう、いくらリロイとファムが口を揃えて、そんな説明してきたとしても。
その白色で均整の取れたスタイル持った立ち姿、見てしまえば。
「想像もつかないな……」
訝しげに、再びそうした言葉、洩らしつつ。
……まあ、いずれにせよそんな疑問顔も今のところは完全な想定通りと、魔道士は結局それだけで青年への解説あっさり終わらせていたのであり。
「さて、では感動の再会及び初対面は終了だ。これからは、まさに君の出番だぞ、アリソン」
「え?」
今はもっと大事なことがあるとばかりに、次の瞬間リロイの眼差しは再度曾孫の方へと向き、
そこで小さく一つ、頷きつつも。
「さっきからアウゴエイデスへ心話で何度も呼び掛けていたんだが、やはり全く俺では反応がない。もちろん魔女たちの呪いのため。……だからそう、君が実際アウゴエイデスに乗って、操るしかないんだ」
――そして最後に実に重大極まること、だがいかにも軽い感じでのたまってきたのである。




