6.
――その刹那、青の魔女は鋭敏に何かを感じ取り、それまで閉じていたアクアマリンの瞳を大きく見開いた。
「……これは!」
むろんそこはアクエリア宮、泉の中に聳える丈高い玉座の上である。
遥か下、よく磨かれた床の上にはラームはじめ廷臣たちが焦眉の問題であるリロイ・シュバルツシルトの件について次なる命下るのを待ち構えていたが、むろんそんな彼らが突然の主君の変化に気づかぬはずはない。何より、魔女の表情には今やただならぬ色――恐怖と驚愕が入り混じった――がありありと映っていたのだ。よって瞬間側近ならずとも、何かを感じたはずなのは当然というものなのであった。
「如何いたしました、パルメノン様?」
そう、僅かの間を置いてラームがおずおずと尋ねてきたのを見れば、明らかだったように。
「力の波動――それも凄まじい量。これはまさしく」
「?」
「おのれ、リロイめ……」
対する魔女が、一人重々しく仇敵の名呟くのみだったとしても。
その瞳に、ここではないどこかにある何かを、はっきりと映し出して。
「……」
それゆえ側近たちはそんな主君仰ぎ見て、しばしもっと明確な答えを待つべく、沈黙のままじっとせざるを得なかったのだが。一体どんな非常事態が巻き起こったのか、と。何よりも、このソーサリスをここまで思い詰めさせる。
間違いなく、地上最強の力が一つ、それを持った――。
「ついにやったわね」
「!」
「あれを、目覚めさせるなんて」
何よりはたしてパルメノンが、次いで怒りにも似た声、発した以上。
「パルメノン様、あれ、とは?」
たまらず普段は冷静なラームをして、慌てて質問させていた程に。
特に、その反応がただごとでない異変を感じさせた上は。
むろんそれによって、ようやくパルメノンの視線、こちらへと向けさせつつ。
「そんなこと、わざわざ問うまでもないわ! これはリロイに関する問題なのだから!」
「! まさか、では……」
「そうよ、答えはたったの一つ!」
ただしそうしてやっと得ること出来た回答にすぐ、ある一つの事実を察してしまった彼は、刹那愕然とせざるを得なかったものの。
「あの、伝説の……」
たちまち最強の悪夢でも見ているように、一人呆然と呟き洩らしながら。
神秘と幻想の巨大極まるベールに、いまだ厚く包まれた。
「おい、どういうことだ?」
「まさか、あの巨人が?!」
「嘘だろ、今になって?」
――かくてその衝撃はすかさず波及し、周囲の高級臣下たちにも、ラーム同様遅ればせながらその『あれ』が何なのか、次第に分かり始めたようなのだから。
すなわち君主たるパルメノンが、一体何を言おうとしているのかが……。
「そんな!」
従って場のざわめきは途端、無視できないほど実に大きなものとなり。
魔女の告げた『あれ』の放つ脅威が、それくらい巨大なものであることを証し立てるように。
この安全に満ちた都でさえ、すぐ非情にも火の海にすること可能と思われたが如く。
もちろん冗談でも、何でもなく……。
「静まりなさい!」
――だが、そのもはや混乱とも呼べる大いなる喧騒ゆえに、だろう。刹那魔女が玉座から立ち上がり、そしてきっと号令一下下の方睨みつけるや、
途端、ひらりとその青く美しい衣の裾が優雅に翻り。
「!」
ラーム筆頭に廷臣たちは彼女に対する絶大なる信頼にせよ、あるいは畏怖にせよかえってたちまちその口、ハッとしたように慌てて閉ざし、
「たとえあの男がアウゴエイデスを復活させたとしても、何も恐れるには足りない! 私には、霊水のアルーシャがあるのだから!」
「おお!」
「パルメノン様……!」
……いずれにせよ、次にはパルメノンのそんな実に威圧感で満ちた言葉、揃ってその耳にすることとなったのだった。
「古の魔道士など、恐れる必要はない!」
「そうだ、我々には、あの巨人が!」
「目にもの見せてくれる!」
何よりも、その強く刺々しい声音には傍目でも分かる怨念めいた響きが、しかと籠められていたゆえ。
「敵対者には、死を!」
すなわちそれは、厳罰を与える審判者とでも言うべきだったか。
とにかく、憎しみ以外の感情などもはや一かけらもない。
「そう、我らの邪魔をする者には!」
しかも刹那、それはひたすら鋭利な、恐るべき刃とさえなって広大な部屋の中を駆け巡っていき――。




