2.
そこは、得も言われぬ美しい花園だった。
アクエリア宮、テマ・イクティオンが真の中心。その中にある、広大な中庭の一角だ。むろん今は時候良く春真っ盛り、ヒヤシンスにアネモネ、クロッカスと花々は色鮮やかに至る所咲き誇り、その立てる香りもまこと酔うくらいかぐわしい。
「あ、メイゼル、その花環とても綺麗!」
「フフ、駄目よマリベル、これは私のものなんだから。あなたも欲しかったら、自分で造ってみなさい」
「ちぇ、ケチ! 譲ってくれてもいいじゃない!」
そう、従ってそこで一心不乱に花集めをしていた麗しい二人の少女も、その時要らぬ邪魔が入らなければそのまま休みなく昼下がりの遊戯にうつつを抜かしていたのは確実なはずで。
「――マリベル、メイゼル。楽しんでいるようね」
「!」
「あ!」
……すなわち、彼女たちにとっては決して聞き逃してはならない、その印象深い声が突然背後から聞こえてこなければ。
そしてむろんその途端、二人――ポニーテールに悪戯っぽいつぶらな瞳、蠱惑的な面など、容姿も服装も、見分けがつかないほどうり二つ――がガバッと立ち上がり、さらに慌てて声の方へ振り返っていたのはあえて言うまでもなく、
「パルメノン様!」
はたしてそこには予想通り、紛れもない主君にしてまた唯一の師匠でもある、偉大なる青の魔女が静かに笑み浮かべ立っていたのである。
「な、何か御用ですか?」
「お呼び頂けたら、私たちの方からすぐ参りましたのに」
「あら、でもただでさえお前たちの大切な時間を邪魔してしまうというのに、それは悪いわ。それに、これはなかなか急ぎで大切な用だから」
しかも口ぶりの割にどことなく、急いた感漂わせている相手。ゆえにすかさず二人のうち緑の髪色した方――メイゼルが如才なく訊ねていたのは、至極当然のことなのだった。
「大切な用事、といいますと?」
もちろん隣にいる赤髪のマリベルにも、同様物問いたげな顔、示させながら。
「……それは他でもない、カシオナとドビナを使った仕事よ」
「え、あれを使うのですか?!」
「そう、私が与えた、二体の巨人を。お前たちにしか操作出来ない」
だが、その答えとしてパルメノンが与えた命は、途端その二人をして余りにも大きく驚愕させている。つまりはそれくらい、その二つを使うということはかなりの緊急事態を表していたのだ。
「では、敵は……?」
たまらずメイゼルに、そう重々しい問い、発させていたほど。
「フフ、もちろんお前たちの予想通り、その相手はただ者ではないわ。いえ、下手したらお前たちでも命を落とす危険性があるくらい。つまりはそれほどまでに、強大な力を持った男なのだから」
「! 男……では相手は人間。なのにそれほどまでに強いだなんて」
「まさか、カシオナとドビナを使うということは、巨人を……?」
何よりパルメノンのその表情が、余りに謎めいていた以上。それははたして怒り、不安、焦り。そのいずれであったか。
「その通り。まだそれは成し遂げられたわけではないが、しかし奴は近いうちに必ず巨人を復活させるはずよ」
いずれにせよ、その心内では烈しい炎が今や燃え盛っているのは疑いなく。
あくまで冷ややかに、だがメラメラと。
「だから本当なら復活前に仕留めておきたかったのだけど、アルゴが失敗してしまってね。相手に手痛くやられ、すごすごとイクサスまで戻って来た……。それゆえ次は奥の手たる、お前たちの出番というわけ。私の第一の弟子である」
「で、でも、ソーサリス様たち以外に、巨人を使える者だなんて……まさか!」
そしてその言葉は、マリベルをしても途端、何かをハッと思い起こさせたようで。
「あの男、なのですか……?」
特にその、大きく見開かれた赤い瞳を見れば明らかだったように。
信じられない話を聴いてしまった、とばかりの。
およそあってはならない……。
「そんな、まさか――」
それゆえだろう、二人の少女は刹那双子らしく顔も声も揃って驚きと畏れの感情、思いきり露わとしたのだが。
「フ、そのまさかよ。そう、お前たちが倒さなければならないのは」
だが対するパルメノンはそれには一切構わず、いやむしろ自らの闘志剥き出しとするように声音俄然力強いものとするや、
まるで、これから起こるであろう事態楽しんででもいるのか。
「他でもない、あのリロイ・シュバルツシルトなのだから」
――ついに燦然たる太陽の下、言ってはならない不吉な名前、弟子たちへ向かい躊躇なく口にしていたのだった。




