1.
まるで深淵のさらなる果てのような、全き暗闇の中。
<それ>は確かに、ある強い思いを感じ取っていた。
むろんいまだ一人深い眠りに入った状態のままだったが、何者かが、そんな自分を呼び覚まそうとするのを。
それも余りに懐かしい、そして聞き馴染のある声音で。
再動の日。
すなわちもう間もなく太陽の下、再び大地を自在に歩く日がやって来る、その声は確かにそう告げていたのだから。
何年、あるいは何十年前のことか、いずれにせよ遠い昔多くの敵を屠るため、<大陸>と呼ばれる世界を我が物顔で蹂躙していた、あの頃のように。
だが当然今となっては、遥か古の出来事とさえ思われる、記憶も朧げな。
と、同時に確実に自らが存在したという、その唯一の証しともなっている……。
(リロイ、様……?)
そう、そして何よりそこには、異様なまでの活力籠っていて。
途端、ほんの一瞬だがこちらが目覚めてしまうのかとすら思われたくらい。
魂揺さぶる、と言っても過言ではないような。
早く、覚醒しろ、と。
そうしてたちまち頭の中に去来していく、胸躍る戦いの思い出と、かつ主へどこまでも尽くそうとする忠誠の心。それはあたかも、今すぐにでも主君の元へ馳せ参じたいと、魂が大声で叫んでいるかのようであった。
リロイ・シュバルツシルト。
かつて自らを生み出した、何よりも叡智と策略に長けた、大いなる魔道士の元へと。
再び、その持てる力とならんがため。
……哀れ、前の戦では一敗地に塗れることとなったとはいえ。
今度こそはと、心に深く刻みこんで。
ただ切々と。
(ああ、早く……!)
何よりもその思い、余りに強過ぎ。
たまらず、哀切とも取れる声と化していたように。もちろん誰一人、耳にすることもないまま。
切なる祈りの如く。
完全なる、闇の中……。
(私の、力を――)
はたしてその気持ちとどめるものなど、むろん自らの裡には何もなかったが。
そして<それ>は刹那、そんな耐え難い衝動の赴くに任せ、しかと心の内で呟くと、
途端雷鳴のように、しかしあくまで密かに言葉は反響してゆき、
その念じる思いに、ひっそりと合わせて。
(あなたの元へ)
かつ最後に再び意識が遠のいていく寸前、彼の者ははっきりとある一人の男の笑み浮かべる姿、脳内へ一瞬だけ描いていたのであった――。




