22.
とうとう本来の魔性剥き出しにしてきた、白髪の魔道士。それは何より、彼の灰色の瞳の禍々しき光見れば、余りに明らかだった。
「容赦など、もちろんせんぞ」
「シャー!」
さらに言えば、彼の周囲では狂暴そうなリザードマンたちも一斉に真の戦闘モードへ入ったようで。その手にした剣、曇り空の下妖しく輝かせながら。
「! リロイ、どうしよう。あいつら襲いかかってくるよ!」
「それもかなり大勢だ。数的には相当不利だな」
「わあ、逃げましょうよ! あんなの、敵うわけない!」
――もちろんそれ見た途端、アリソン、コール、ティコの三人がはっきりと警戒かつ怯えの様相、露わとしていたのは言うまでもない。すなわちそれくらい、迫り来るトカゲ戦士たちの威容には凄まじきものがあったのだ。まるで無敵を誇る軍団のような。
「ああ、こりゃ間違いなく手こずりそうだな……」
従ってリーダーたるリロイの方も、今はさほどの良策が浮かばないのか連中見つめ厄介そうにそんな呟き、零すのみ。もちろん彼は彼で、最終的には何とか敵を倒す技、絞り出すつもりだったのだろうが。
その奇想天外とさえ表現すべき、鋭敏極まる脳細胞によって。
幾度となく、こうした絶対的危機、乗り切ってきたように。
「正面からやり合うのは、確かに不利、か」
そう、さらには相手の持つ戦力、冷静沈着に見極めながら。
一人の魔道士が率いる、15、6体はいるリザードマンの軍団を。
――少しの油断もなく。
「待てよ」
だが、いずれにせよそうしてじりじりと敵方がこちらとの間合い詰め始めてきた、そんな非常事態真っ只中の時だった。
「え?」
「ガルフさん?」
ふいに緊張で身体強張らせていたアリソンたちへ、ガルフが声を掛けてきたのだ。
「どうした、急に?」
しかも思わずリロイが怪訝な表情となったくらい、実に落ち着いた風漂わせて。……まるで場違いとばかりに。
それゆえ魔道士は、いやそれは他の三人(アリソン、コール、ティコ)もだったが、様子確かめようとそちらつと振り返ったものの。
「相手は10体以上、それに魔道士付き。なかなか手強そうだな」
「ム? そうだな……」
「リロイ、どうするつもりだ?」
しかし人狼はやはりその言葉の内容の割に、大して緊迫した風もなくのたまってくる。そう、むしろ心持ち、その口許に笑みまで零しながら。
「どうするつもり? いや、そりゃ戦う以外……」
「まあ、あんたの力なら、あいつらくらいあっさり片づけられるだろうな。うん、本気を出すまでもなく」
「そんな簡単に言うなって。それなりに相手はやり手のはずだぞ」
むろんその様相に、リロイはますます不可思議そうな表情、浮かばせたのだが。
「こっちは連戦続きってこともあるし」
……それもどこか疲れ気味に。すなわち、夢魔の館からようやく抜け出せたばかりである以上。
「やっぱりそうか。まあ、それにそっちの三人もかなり疲労はあるだろうし」
「? お前、さっきから何が言いたいんだ?」
「だから」
とはいえそれには全く構うことなく、さらに先を続けていくガルフ。もちろんリロイのみならず、傍にいた三人含めその結論がまるでいまだ分からないのは、言うまでもないことなのだった。
「ここは一つ、任せてくれよ」
特に次いで相手がやけに意味深な一言、告げてきたとなれば。
「任せる? お前に?」
「あの大軍を?」
当然の如く、リロイ&アリソンに何とも訝しげな声、上げさせて。もちろんいまだその真意が全く掴めないこともあり。
同時に接近してくる危険の気配、その身にひしひしと感じつつも。
そうして一瞬、場には呆気に取られたような空気感さえ、流れたのだが。
「いや、違う。やるのはもちろん」
しかし次の刹那、ガルフはさらににっと魁偉な笑み浮かべるや、右手の親指で自らの背後示し、
「俺たち三人だ」
そのどこか疲れた表情現わしたファムとロラン、二人の同僚従え、颯爽とそう告げてきたのである。
「え、あなたたち三人で?」
「ああ、何せ久々に勢揃いしたんだ。ここはひと暴れしてやろうじゃないか」
「……元気、ですね」
まさしく、俺たちを忘れるな、とばかりに。
ここへ来て意気軒高、そのものの勢いで。
「はあ、やっぱり僕らの仕事か……」
「私は目覚めたばかりなんだが」
ただしそんな彼の同志たる両者は、いかにも面倒そうに、かつ溜息混じりに零していたのだが。
「うるせえ、あんなリザードマン如き、寝起きでも簡単にやっちまえるだろ!」
ガルフの烈しい叱咤、いかにもうるさそうに耳へとしつつ。
「まったく人使いの荒い」
「僕も同意見」
しまいにはお互い肩を竦めて。
アリソンはじめ他の皆が、思わず目をパチクリさせてしまった中。
いよいよ暗さ増してきた、気の滅入るような曇天の下。
……他には、何ら生き物の影一つもなく。
「何だよ、もっとやる気出せよ! こんな折角の大舞台に」
「大舞台? 冗談でしょ?」
「お前がただの喧嘩好きなだけだろう?」
「! おいロラン、今何て――」
「ムハハ、どうした、そこで何をしている! 早くも怖気づいたか!」
そう、そしてそんな言い合いをしている連中へ向かってそれ遮るように迫り来るアルゴが嘲笑、高らかに響き渡らせた、――まさにその時、
「と、とにかくあいつら如き俺たちで今は充分なんだ! さあ、さっさと行くぞ!」
「はいはい、分かったよ。……ふう」
「今回は仕方あるまい」
途端発されたガルフの荒々しいまでの大号令によって、食屍鬼と吸血鬼二人は渋々と、しかしそれでもリロイの家臣としてはそれなりに相応しく、一つ頷き返すこととなったのだった――。




